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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十一章:夏休み、あー夏休み、夏休み
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1067:誰が覚えた生活魔法

マツさんのゲル

https://ncode.syosetu.com/n7294kn/

こちらもよろしくお願いします。

 今日も気持ちいい朝。部屋から出るといつもの熱気に包まれるが、寝ている間さえ気持ちよければヨシとしておく。贅沢を言い始めるとキリがない。家の中にダンジョンが有れば便利なのになどと言い出す俺の未来が目に見えている。


 そもそも家の中にダンジョンが出来たらその時点でこの長く住む実家ともお別れ。どこか適度に近い場所に新居を建築してそこに住むことになるだろう。金はあるから多少の贅沢や広さなんかも融通が利く。ダンジョン庁から見舞金という名の立退料も出されることだろう。


 庭にダンジョンをこっそり作ってもらって俺と芽生さんだけで利用するという手もあるが、結局ドロップ品の運搬で足が付くので結果は同じか。ダーククロウしか出ないダンジョンとかなら足の付く心配はないが、そんなためだけにダンジョンを作ってもらうのも気が引ける。そもそもそれを引き合いに出して喜ぶダンジョンマスターが居るだろうか?


 あれから四日。五十九層の地図を作り終わり、一通り地図を作り終わっていい感じになった地図をもとに順路を確認し、ひとしきりグルグルと回った。ちゃんと茂君にも朝晩通い、ここ四日ともに一億ほどを稼いで帰ってくることに成功している。ついでに指輪も合計四つ手に入れた。


 白雷の使い方にも慣れた。一度撃ちっぱなしを試してみたが、連続使用の場合は十数回で限界が来た。やはり威力の分以上に消耗は大きいらしい。これも連発してはドライフルーツを噛んでを繰り返して丹念に鍛えては確実に自分の血肉としてなじませていこう。


 今日も予定は五十九層、昼食は馬肉カツサンドだ。朝食の後に手軽に揚げてサンドして、ちょっと多めに作って保管庫に突っ込む。夕食の分を作らなくていい分、夏休みは朝のタスクが一つ少ない。毎日通えるから夕食まで粘らなくても良いという考えからだ。


 それに、夕食まで俺が作っていては芽生さんが俺の体型になってしまう可能性だってある。食生活の同一化は体格の同一化に近づく。太るかどうかは生活習慣と血筋と言われるが、血筋に入る部分として普段食べているもの、つまり食生活が同じであるというのも入るらしい、ということを何処かで聞いた覚えがある。


 間違っていたらその時は認識を改めるが、少なくとも二ヶ月近く共に昼食を食べる時間が訪れるわけで、芽生さんは芽生さんなりの柔らかさとしなやかさがあり、それを俺の食生活で止めてしまうことはちょっとどうも申し訳ないと思う部分もある。


 普段何食べてるかは解らないが、文句を付けないだけで実はサラダだけの生活のほうが体に合っているとかそういう可能性だってある。夕食は別のほうが彼女なりの体調管理もしやすいだろう。


 柄、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日はミルコにおやつをあげる日だ。五十六層に到着次第お供え物をしていこう。それまではいつも通り茂君に通って羽根集めだ。そろそろ一回分ぐらいは溜まるかな。溜まったら一日休みのタイミングを見計らって納品だな。この夏も忙しい日々になりそうだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョンに着くと、着替え終わって万全な態勢の芽生さんが休憩室で涼んでいた。手を振って到着を知らせる。


「おはようございます。今日も頑張りましょう」

「今日もいつも通りいくか。変わらない日が一日ぐらいあってもいい」


 入ダン手続きをしてリヤカーを引こうとリヤカー置き場に向かいダンジョンに入ろうとすると、ちょうど結衣さん達がリヤカーを返しに来ていた。


「おはよう安村さん、今から? 」

「そう。そっちは戻りみたいだね。匂いから察するに」


 若干甘い匂いをさせている結衣さん達に順番にウォッシュをかける。かけるこっちも手慣れたもの、受けるあっちも手慣れたもの。お互いに了承済みであっての行為なのでいやらしい意味や匂いがスーツにうつると困るからとかそういうことではない。


「うーん、【生活魔法】頑張って覚えたのにまだ使い心地に差があるってことは、イメージ力が足りないってことかしらね」

「お、おめでとう。髪の毛の根元から綺麗にするイメージを持ってかけるとより効果的になるよ。後は練習あるのみかな。近づかないと気づかないぐらいには匂いは抑えられてるからもうちょっと頑張れば行けると思う」


 誰が覚えたんだろう。その内解るだろうからまあいいか。しかし、結衣さんのあちこちを丹念にウォッシュする……となるとちょっとだけジェラシーを覚えるな。だが俺より付き合いの長いパーティーでもあるし、ある程度の接触は……いやでもまあそうだな。深くは詮索しないことにしよう。結衣さん自身が覚えたという可能性もあるし。そこを念入りに聞きだすのはかえって疑いの目をかけられかねない。


「なるほど、イメージの差ね……忠告有り難く頂戴しておくわ。使っていく間にどんどん便利になっていくらしいし、何処まで使いこなせるようになるかは解らないけどこれで五十層近辺に潜ってても問題はほとんどなくなったってところね。後は五十五層を突破できるかどうかってとこかしら。あのモンスターの多さはどうにかならないの? 」


 五十五層までは潜った経験はあるらしい。つまりあの広大な赤砂の砂漠を二階層分無事に渡りきるだけの力はあるってことか。


「実力で突破するしかないね。数が多いのとドロップが重いのが問題点かな。後はとにかく広いから根気良く階段を探すか、地図を見せるからそれに沿って歩いていくぐらいしかないと思う。見る? 」

「洋一さんまだですかー? ……と、結衣さんだ、おはようございます」


 先にエレベーター前で待っていた芽生さんが戻ってくる。ちょっと話し込み過ぎたかな?


「おはよう芽生ちゃん。ちょっと五十五層の攻略法を聞いてたところ。もうちょっとだけ貸しておいて」

「もうちょっとだけですよー」


 そう言いつつこっちへ来ている。まあどうせエレベーターに乗る時は一緒だ。先へ行っていても何の解決にもならないし、最近はエレベーター前で混むことも少なくなった。うろうろしていて問題があるわけではないし、他の人も先に行けるだろうからここで立ち話を多少していても暑いだけ、ということだ。


「ちょっと待っててね……これ、五十五層の地図。参考にしたかったらスマホで撮影して印刷するなりしていって。一応この順路で何往復かしてる実績はあるし、他にもうろついたところは埋めてあるから参考になると思う」


 階段と階段の間を直進で何時間戦闘込みで歩けばたどり着くかや、そうじゃない場合の中間の目印なんかも書きこまれているので到着した当初よりも地図の精度は上がっているはずだ。本格的に正確な地図が欲しければ高橋さん達の持っているそれが該当するだろう。


「……よし、参考にさせてもらうわ。これで五十六層に拠点が立てられるようになるわね」

「こっちも今五十六層をメインにうろうろしてるから出会う回数は増えるかもね」

「お、じゃあようやく追いつけた感じ? 今年の目標達成ってこと? 」


 そう言えば結衣さん達は今年中にこっちに追いつくことを目標にしていたな。そういう意味ではまだ六十三層に到着していないし、そしてこっちが六十四層で足踏みしている分追いつく機会はまだ充分あると言えるな。


「それは残念ながら。でももうちょっとではあるかもね」

「後七階層頑張ってください」


 芽生さんがハッキリその次に居ると言ってしまう。


「でもあと七階層ってはっきり解った分近づいた気がするわ。また明日から頑張らないとね。それじゃ私たちはいったん帰るわ。そっちも気を付けてご安全に」


 結衣さん達は帰って行った。


「さて、気を取り直してこっちはこっちの探索をしよう。ちょっと話し込み過ぎたかな? その分茂君は急いで回収しよう」

「お昼ご飯は何ですか? 」

「今日は馬肉カツサンドだ。時間を短くしたいならちょっとずつ食べながら五十七層をうろついて消化しながら動くことも難しくないから食事時間の時短は出来るぞ」


 サンドイッチ片手に優雅に戦闘をこなしつつ歩くというのはまださすがにやったことは無いし、戦闘中に落として悲しいことになる場合が含まれているが、少なくとも腰を落ち着けてゆっくりしないと食べられない部類のものではない。


「今日はお手軽ですね。昨日のごった炒めは色々品目が多くてなかなか楽しめましたが」

「毎回豪華にするとご飯を食べに来たように感じてしまうし、毎回凝ると大変だからローテーションは守ってるが、そろそろ新しい別の何かを考えるのもいいかもしれないな」


 七層に着いて茂君、急いで帰ってきてすぐさま五十六層へ向かう。その間にエレベーターの中で料理の本を色々並べて良さそうな料理を物色。出来るだけ一品で満足できて、それでいて手間が出来るだけかからない。そんな内容の料理がないかを探す。


 ローテーションレシピを入れ替える一助になれば俺も助かるし芽生さんも飽きずに食べ続けられる。定期的に総入れ替え、というわけにはいかないが、例えばごった煮とカレーはまとめて一種類ということにしてその分二種類新しいレシピを放り込む等を考えてもいい。


「このあたりの他人丼とかどうですかね。親子だと肉が鶏肉に固定されてしまいますが、他人ならどこの肉を使用しても問題なく味わえます。一考の余地があるのでは」


 他人丼か。有りだな。レシピに直接入れるではないが、メモ帳にメモっておいて早速明日あたりに作ってみるのも悪くないだろう。それに他人丼に関わらず丼ものを一品というのは悪くない。時々照り焼き丼を作ってはいるが、それはそれとして別に一品常にリストに入れておくというのは良い発想だ。やはり相談はするに限るな。自分では気づかない角度で物事を見ることが出来る。


 丼ものか。牛丼、豚丼と各種肉を味付けして乗せていけばそれだけでレパートリーが増やせるし、いくつかの葉物野菜と中華だしを加えれば中華丼にも変化させられる。くそぅ、この展開の広さにどうして気づかなかったかな。やはり丼ものはレシピとして一品入れておくことにするか。メモメモ。


「そういえば結衣さん達、どこかで【生活魔法】を買ったか拾ったかしたらしい。これで出会うたびに俺がウォッシュしなくてもある程度匂いの害は出なくなったってことだな」

「五十層から五十二層抜けるにはないと不便ですからね。【生活魔法】の有無は大事です。色んな匂いも消せますし、家の掃除にも使えますし、ゴミ掃除もできるんでしたっけ? 」

「ダンジョンの中なら何でもゴミは掃除どころか消せる。空きペットボトルを半分ぐらいまでは消滅させられたので、多重化してダンジョン内で使えば簡単な食事の汚れぐらいはここで消してしまって家での掃除はより楽になるな。ただ、労力に見合ってるかどうかはまた別の話だが」


 その後も何品か料理に関する情報提供を受け、思いつく限りはメモに書き留めて付箋を貼り付けておいた。帰ったらまとめて早速新しいものから作っていくことにしよう。


 五十六層に着くと机と椅子を出し、いつものコーラとお菓子をお供えして手を二拍。しばらくした後、お菓子とコーラは消えていった。反応が遅かったということは何かしらの作業をしていてこちらを見ていなかった、という可能性が高い。おそらく、俺が手を二拍するという行動に対してアラームか何かを設定しておいて、それがあったらこっちを見る、みたいな行動パターンを取っているかもしれないな。


 時間はかかったが無事に受け取りが出来て、受け取るまで時間がかかるという点についてはちゃんと仕事をしているんだろうということは解った。何かに夢中になっていなければこっちを見ているだろうし、こっちを見ていたらさっきみたいに時間はかからずすぐに引き取りに来るのが今までのミルコの行動から察せられる行動なので、何かに一生懸命取り組んでいることに違いはないだろうと予測は立てておく。


 それだけでも次の階層への期待感が高まろうというもの。精々いい構成のマップを作ってくれていると信じて待とう。いまいちだったら……まぁその時は突貫工事だったし仕方がないよな、で済ませることとするか。


 リヤカーをその場に放置して机と椅子を回収し、六日連続で挑む五十七層。時間タイミングもほぼ同じなので、おそらく昼食をとる時間も同じである。そしておそらく帰りの時間も同じ。今日も元気にまじめな探索活動を始めるとしよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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