1066:石像と決め技
マツさんのゲル
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小西ダンジョン五十九層。今一番熱い、稼げるエリアだ。六十一層から六十四層にかけて新しいポーションの値段がつかない今、鎧の破片が査定にかけられない現状においてもまだ金を稼ぐことに集中するならばここが一番美味しい場所となる。
ボスがいなければ六十層がその場所になる予定だったのだろうが、ボスを出現させる場所とリソースを割いた結果五十九層が一番おいしいということになっているのだろうと推測している。実際のところはミルコに聞けば一発だろうが、ミルコは今ダンジョンづくりという大事な作業に従事している。そういえば、三十層はともかく四十五層はボスが湧いている割に他へのリソースはそれほど割かれているというイメージは無かったな。
ボスが居るかどうかとモンスターの少なさは関係ないのかな? と思いつつも、ボス部屋という解りやすい配置をさせるためにもある程度簡素な作りになっているのは何処のダンジョンも同じのようで、十五層に関してだけ言えば何処のダンジョンも似たような作りの、通路も簡素でモンスター密度もそれほど高くないということは解っている。
そして五十九層に下りたったその場は安全。だが少し動き出すとすぐにモンスターの密度の濃さが解る。【索敵】を全力で効かせてモンスターの配置を探ってみると……確かに道沿いにモンスターが配置されていて、モンスターの数と密度で行く先が行き止まりなのか通り道なのかある程度判別できるようになった。
多重化させてより広い範囲かより詳細な情報が入手できるようになった芽生さんには、地図も簡単に作れるようになっているかもしれないな。とりあえず芽生さんに先導を任せて、こっちは少しだけ楽をさせてもらおう。と、思っていたら早速石像とのご対面だ。
「さて、【雷魔法】四重化で石像の魔法耐性が抜けるかどうか、試してみるか」
「頑張れー、私は他のを相手にしてます」
芽生さんに一緒にいたガーゴイルの処理を任せ、拳を振り上げ殴りかかってくる石像に全力雷撃の更に全力雷撃をイメージした究極の一撃的なイメージの雷撃をぶちあてる。いつもの紫の雷光が更に凝縮され、紫を越えて白へ。白く束ねられた雷撃が石像へ一瞬で届く。石像はその白い雷光を肩口から胸にかけて受け、その部分が一瞬で赤熱してはじけ飛ぶ。
急所である胸元を砕かれた石像はそのまま黒い粒子に還っていく。俺命名、白雷としておこう。いつまでも全力雷撃とか全力じゃない雷撃とか、出力を調節しながら打つのも有りだが、今できる最高品質の雷撃を石像にお届けできた。しばらくこれ以上の威力の雷撃を打つことはないだろうし、白雷は白雷でスキルが強くなるにつれこっちも威力は上がっていくだろうがその時はその時でごまかしていく。
漸く俺にもちゃんとした固定化威力の決め技が出来たってところか。白雷、これからよろしくな。
芽生さんはこっちの白雷の威力に少し体の動きを止めたものの、石像を一発で砕いたのを見ると安心してガーゴイルをボコボコにし続け、戦闘一旦終了。
「なんか今までとは出力が違いましたね。四重化のおかげですか」
ドロップ品を俺に渡しながら芽生さんがさっきの白雷についての感想を言う。
「あぁ、なんかいい感じの技をようやくものにした気がする」
「これで五十九層も安心して高速で回れそうですね。よりお金を稼ぎやすくなります」
石像に手間取らなくなったおかげで数秒ずつだが戦闘時間が短くなっていく。一回の戦闘につきほんの数秒だが、千回同じ戦闘を繰り返すならそれは二時間分から三時間ぐらいの効力を持つ。五十九層で三時間戦えば一億の収入を見込むことが出来る。貴重な時間なので大切に使っていこう。
後はこの白雷の燃費だな。それほど繰り返しで使えるものなのか、それとも消耗が激しいものなのか。今のところ自覚できるほど消耗はしていないが、ここぞというときだけに使える技ではなく日常的に使えるようになっておくことが大事だろう。帰る前に打ちっぱなしを久しぶりにやってどのくらいの回数、時間で打ち続けることが出来るのか確かめておかないとな。
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石像との殴り合いの時間を短縮できたことにより、今まで巡ってなかった五十九層の地図も徐々に埋まり始めている。全部を巡りとおすことは地図の広さと残り時間から言ってちょっと難しいだろうが、今日一日で回り切る目標を立てている訳ではないのでちょっとずつ埋めていこう。
今日の目的である北西側の地図は無事に埋めきることが出来た。特徴としては、六十層直通路よりも石像が多く感じられた、というあたりか。必ずセットで出てくる六十層とは違うが、二回に一回程度は石像が混じるような形で中々に美味しかった。
指輪も無事に一つ物理耐性のほうを手に入れることが出来たので今日の稼ぎは充分なものになったと言える。
「さて、そろそろ戻り始めるか。六時に五十六層に帰ろうと思ったらモンスター密度的に考えて帰り際ってところだぞ」
「む、もうそんなに時間が経ちましたか。予定通りに進めるのも探索の内ですしまた明日来られますからね。今日のところは帰りましょう。マップ踏破率百%目指して明日もここに来ましょう」
明日も五十九層ということになった。明日は北東側、階段とは真逆の方向になるがそっちを目指して歩いていくことにしよう。
階段まで、五十八層、五十七層と順番につつがなく戦闘を終えてドロップを拾い石像が出たら白雷で焼き壊しながら無事に五十六層へ帰ってきて五時四十分。ジャストタイムで帰ってきたという感じがする。明日もこのペースを維持して行こう。
エレベーターまで歩いた後七層をポチ。エレベーターが動いている間に今日の成果物を仕分けて、終わったら地図を広げて明日の予定を今の内に調べておく。
「明日はこっちへ。今日よりも飛び地の空白地帯が多いからあっち行ったりこっち行ったりで忙しいわりに収入が見込めない可能性はあるが、地図さえ完成してしまえば儲かる濃密モンスタールートや、いい感じの時間で回って帰って来れる巡回ルートを作ることもできる。その中でより早くより確実にモンスターを倒せるようになればさらに儲かる」
「夢のような話ですねえ。では、三日間かけて五十九層の地図を完成させてしまいましょう。儲けに走るのはその後でも悪くないはずです」
芽生さんがよだれを垂らしそうな勢いで話に食いついてくる。やはりある程度の金は人を正直にさせるな。
「というわけで少なくとも三日は今日と同じ行程で行こうと思う。三日もあれば埋めきることができる広さであるのは確認済みだし、地図が出来上がったら後は好きなだけ五十九層で迷い放題だ。それに芽生さんの【索敵】のおかげでモンスターの居る道筋沿いと地図を見比べて今どのあたりにいるかが解るようになるしな」
「その辺は任せてください。もう朝晩の通勤中でも頭が痛くならなくなりましたよ」
ほう、多重化するとそこまで負荷がかかっても大丈夫になるのか。そう聞くと索敵も多重化させたくなってきたな。
「で、だ。目標が一つ無くなった分、こっちでも目標を何か追加しようと思う。具体的には五十九層でスキルオーブを何か拾っておきたい。貰ってはいるものの拾っている方は最近御無沙汰でもあるし、どういう傾向のスキルオーブが落ちるか、という点でも気になる部分だし」
「スキルオーブですか。確かに真新しさを感じるという点でもこの辺りでどんなスキルオーブが落ちるかは気になる所ですね」
芽生さんが想像しているスキルオーブはどんなものなんだろう。ボムバルサミナみたいに特殊なスキルオーブドロップが出る可能性は……あるんだろうか。どっちかというともっと基本的、基礎的というかパッシブ的な……そう、スケルトンやゴーレムみたいに耐性系のスキルオーブが落ちそうな予感はする。
ミルコもダンジョンづくりに勤しんでいるだろうから、こっちの都合のいいスキルオーブをドロップさせるような作用を働きかけている暇はないだろう。
相談と地図のまとめをしているうちに七層へ着いたので、芽生さんにドロップ品を積んだリヤカーを見張ってもらっているうちにダッシュで茂君。帰ってきてすぐ一層。地上に戻って退ダン手続きをするとそのまま査定カウンター。
そこそこ並んでいたが十五分ほど待って自分の番が来る。
「いつも通り分けていただいてありがとうございます」
「そのほうがお互い早く済みますしね。是非スパッとやっちゃってください」
「解りました。少々お待ちください」
五分ほどで結果が返ってくる。今日のお賃金、一億千百六十三万六千円。無事に一億は越えることが出来た。現状で一億稼げるのがこっちのギリギリのラインということか。これで鎧の破片と指輪の査定が始まったら更に金額は上がることになるが、指輪を査定に出すことはしばらくは無さそうなのでしっかり溜めこんで戦力の底上げに使っていこう。
着替えが終わった芽生さんにレシートを渡すと、軽く小躍りをしている。茂君で消費している一時間を別としてもこれだけ稼げたのだから充分満足する範囲なのだろう。
「夏休み初日としてはまぁ悪くない収入だったろう? 」
「そうですね、これを基準とするのはちょっと難しいかもしれないので、この桁数が毎回手に入るといいなあぐらいの気持ちで行きましょう」
「初日から飛ばすと息切れを起こすかもしれないからな。何事もほどほどに、だ」
「無理をしない、無茶をしない、程よい所で稼いで帰る、ですよね」
「基本は忘れてないらしいな。その調子でとりあえず後三日、五十九層の地図作りに専念するとしよう。その後はどうするかな。とりあえず地図が完成したあたりでモンスターリポップの様子を確認して、出来るだけ密度が高くぐるっと回っていい感じのルートを探し出してそれで収入を確認する感じで行こうかな」
地図が完成したらそれで終わりではない。地図がちゃんと機能しているかどうかを確認することも必要だ。その為の一日。合計五日で五十九層一巡りが終わることになる。
後四日はとりあえずやることがあるとして時間が稼げるな。その後は……また何か考えるか。それで五日で終わらずしばらく気に入ってもらえるなら俺もミルコも一安心という所だ。
「さて、せっかくいい感じで探索が終わったことだしそのまま帰るか。明日ぐらいはミルコのおやつを見繕ってやらないとな。ちゃんと頑張れよって見舞いのつもりでも夕食ついでに買い出しに行くとするか」
「ちゃんと差し入れはしてあげるべきですからね。経費で落ちなくて残念な所ではありますが」
バスに乗り帰り道。ミルコへの差し入れが経費になるかならないかで少し話し込む。
「経費なあ。多分ダンジョン庁に掛け合えばお菓子の分ぐらいは経費として払ってくれるみたいな話はしてたけど、そんなに負担になってないからな。例えば毎回特大マスクメロンを要求されても収入に響くようなわけでもないし。だからいっその事個人消費の形にしておいたほうが色々と面倒が少なくて済むし、ミルコが楽しみにしてるのを楽しんでいる部分もある。まあよほどのものでも要求されない限りはダンジョン庁にお願いすることはないと思うよ」
「じゃああくまで個人的な趣味の一環としての支出という所でしょうね。私は一円も出してませんから口も出さないことにします」
実際の所、一億稼いでおいてお菓子代千数百円を気にするかと言われると、今の俺にとっては細かく気にするような支出ではない。むしろこの支出で稼がせてもらっているような分もあるからやっぱり経費と言えば経費なんだろうが、いざ何でお菓子が経費なんですか? と問われた際に返答は機密情報上できないのでやはり経費として落とすことは難しいだろうな。
さて、帰ったら夕食何を食べようかな。たまには牛丼とかシンプルに食べたいな。帰ったら買い出しも込みにして出かけて、店で牛丼を食べることにしよう。スーパーの牛丼ではなく、牛丼チェーン店の牛丼だ。どっちも美味しいが、気分的にチェーン店のほうで食べたい。店で食べるという行為を身体が欲しがっている。
何より、店で食べれば後片付けをする必要が無いのも利点だ。ゴミも出ないし洗い物も必要がない。全て料金の中に含んでくれている。そういうコストを考えれば多少値段が高騰していても充分ペイされている。
今日は牛丼曜日だ。しっかり食べて満足して、明日に備えていこう。
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