1065:で、どっちへ行こうかね
マツさんのゲル
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新規……ではないですがこちらも投稿し始めました。良ければこちらもどうぞ。
「さて、エレベーターに乗ったところで、今日はどっちへ行こうね。五十五層か、五十九層か」
「今日のところは指輪の個数を稼ぎに行きませんか。一個出れば御の字ぐらいで」
今日は五十九層か。ここは気分で決めて良いところだからな。気が散ったら五十五層ということにしてもいい。そこを自由に動き回っていいのも今の自分たちの良いところだ。どっちにしろ金が稼げるのだし、まだ四重化した【雷魔法】の神髄を見ることが出来ていない。五十九層でどのくらい暴れまわれるかが楽しみだな。
とはいえまずは六十三層。高橋さん達に見られる前にノートの書き込みを消せるかどうか。先にノートを破り捨てられたらセーフ、たどり着いていたらアウトってところだ。
いや、高橋さん達のことだからノートを破った形跡を目ざとく見つけて情報の行き違いや隠し事があるかもしれない、と判断する可能性だってある。ここはもし間に合うのならノートごと取り換えて新しいノートに落ち着いて到着を記す、という形にしておくのが良いだろうな。
うんうんと考えている間に芽生さんは軽く睡眠をとっている。エレベーターの揺れが心地よかったらしい。そのまま到着するまで寝かせておこう。到着したらエレベーターを開けっぱなしにしておいてもらう必要があるからな。
その間に俺がやることは……クロスワードぐらいだな。落ち着いて一つずつこなしていくか。焦ってもエレベーターは早く到着しないし収入が増えるわけでもない。
たっぷり四十分待った後にようやく六十三層へ到着。芽生さんを起こす。
「まだ魔結晶残ってるからそのまま乗っていてくれれば帰り分の魔結晶が節約できる。ちょっとノートの様子見てくるまでエレベーター開けて待ってて」
「わかった。いってらっしゃい」
エレベーターの脇にあるノートを見る。書き込みは……されてない。間に合ったかな? 新しいノートを用意するとそこに最初の文章を同じ文体で書き直すと、ノートを入れ替えて証拠の隠滅はヨシ。
念のため六十三層を見渡して、自分たち以外のテントが無いことを確認。これで、高橋さん達はまだ到着してないという証明にもなったな。
高橋さん達ならこちらへの何らかの形跡は残していくはず。それが無いということはまだ到着してないと考えるほうが大事だろう。念のため五十六層のノートも見返して情報を仕入れておくべきだろうな。
エレベーターへ急いで戻り、五十六層のボタンを押して上へ上がる。
「どうだった? 」
「一応フロアも見てきたけどまだだったと思う。何の形跡も残さず六十三層にたどり着いて帰るってことはしないだろうからな。ノートも確認してきたけど、この通り何も書いてなかった。証拠隠滅は出来たと思う」
すり替えてきたノートを見せる。とりあえず文字を書いた部分を破り、その下も破る。指の腹で微細な筆圧を確認し、上から鉛筆でシャッとなぞってみて文字が浮かんでこないことを確認する。その上で更にもう一枚破る。これで大丈夫だろう。
五十六層に着くとノートを確認。最近高橋さん達が書きこんだ形跡はない。しばらくダンジョンに寄り付かないならそういうログを残しておくはずなので、今日も何処かを探索しているのであろうことは解る。これで情報遮断はセーフかな。
そのまま歩いて五十七層の階段までたどり着き、五十七層に入ったところで破り捨てたノートのページを生活魔法で燃やす。完全に燃え尽きたのを確認して、これで証拠隠滅は完全に完了だ。
「残りかすはその内湧いてくるであろうスライムに処理を任せよう。これで証拠は完全に無くなったと言える」
「そういうときだけ生活魔法の便利さが目につきますね。本来なら自宅まで持ち帰って燃やすほうが安全だとは思いますが」
「そう言われるとそうだな。保管庫の中に永久封印しておくという手段もあったが、手軽に証拠隠滅するにはここまでやれば充分だと思う」
もう読めなくなった文字と焦げたカスだけが残るダンジョンの床を見ながら、この残りかすだけでも保管庫に入れておいてゴミと一緒に出す方が確実か? とも考える。
「うーん……よし、芽生さんの意見を採用しよう。これは後で家でゴミに出す」
燃えカスに対して範囲収納。燃えカスと考えていたのでそのまま燃えカスと数グラムの重さが表示された内容物をみて、もう読み取れる情報は無いんだなということを確認する。
「どうやら保管庫内部でも書いてあった情報については読み取れないらしい。昔七層で使われてた連絡用の紙皿を放り込んだ時は紙皿に書いてある文字まで保管庫の情報として取得されていたけど、ただの燃えカスとしか表示されない。これならゴミの日に出しても問題ないだけの代物に出来たと言える。今度こそ証拠は無くなったな……ん?ゴミ?」
ふと思いついて、燃えカスを再び取り出すと、燃えカスに対してウォッシュを試みる。ウォッシュにより燃えカスは黒い粒子に変換されて消えていった。これでヨシ、だな。
「これで完全に消せたと言える。黒い粒子になってしまっては復元はもはや不可能だろう」
「ウォッシュにそういう能力を持たせることは予想外でした」
さあ、気を取り直して五十七層を巡る。時刻は午前十一時ちょっと。このまま階段に近い回廊部分まで戦闘しながら進んで回廊部分で食事休憩、そしてそのまま五十九層になだれ込むという時間配分で丁度良さそうである。
柄を片手に五十七層を目的の、階段に一番近い回廊部分の場所まで進む。ガーゴイルもリビングアーマーも柄から出る雷切でスパスパと斬れるようになった。四重化した分密度がより濃く、出力も大きくなったらしい。ここまで来ると気持ちよさすら覚える。
芽生さんのほうも槍に纏わせる魔法矢の密度が上がったらしく、こちらも中々の切れ味を発揮している。ガーゴイルに突き刺した槍がそのまますっぽりと貫かれていくほどの切れ味……切れ味で良いのかなこの場合。突き具合? まぁどちらでもいいか。威力が向上していることに間違いはないだろう。
そのままスパスパと出てくるモンスターを処理している間に目標の回廊部分にたどり着いた。時間的にはもうお昼にしてもいい時間なので、ここで昼食にする。
カレーとご飯をよそい、一皿に振りかけたところで早速頂きます。……うむ、今日もいい味出している。一日目から食べる二日目のカレーの味わい深いことよ。具材も良い感じに溶け込んでいて、固体と言えるものは肉とジャガイモぐらいになってしまっているが、それ以外の野菜の旨味や何やらがきっちりカレーの中にしみ渡っている。今日も成功だ。
「むむむ……これは私の知らない間に何か足されてますね。多分チーズは入ってますね」
「お、気づいたか。他にも隠し味を本当に隠しきれる程度に入れてあるから当てたら何かご褒美をあげよう」
「ご褒美ですか。何が良いですかねえ……それはそうとして今日も美味しいですね」
「カレーを不味く作るのは才能が必要だからな。さて当てられるかどうか楽しみだ」
芽生さんは色々と悩みながら味わっている。ちゃんと味わっているということは美味しく出来ているということなので今日の味付けに問題はなかったということが伝わる。
「コーヒーでも入れましたか? 」
「ラスト一声」
「次で最後ですか……」
中々に苦戦している様子。だが永遠に言い出すとキリがないので次で最後ということにした。もう一度味わうためにお代わりをして食べ過ぎてもいけないからな。ほどほどで済むようにしないと。
「コーヒーじゃないならココアで! 」
「お、正解。ご褒美は何が良い? 」
「そうですね……何か小さい貸し一つということで」
後で大きくなって帰って来そうでもあるが、今できる精一杯のご褒美が思い浮かばなかったらしい。まあ相手は芽生さんだ、無茶な要求はしてこないだろうし安心して借りておこう。
食休みにアイスコーヒーを飲みつつ、ついでだから五十九層の全体地図も作ってしまおうという話を始める。確かに、効率的にモンスターが湧く地点があるならそこを通るほうが収入になる。そのモンスターの濃淡を確かめるためにも、今後しばらく通うことになることを考えてもそのほうが良いという話になった。
とりあえず午前中の収入として、ヒールポーションのランク5が既に一本出ているため無手で帰るということは無くなった。後はどのくらい五十九層で粘れるかがカギだな。
「この北西の辺りはまだ通ったことが無いのでモンスターの湧き具合を確認するためにも一度行ってみましょう」
「今解ってる地図からすると若干遠回りになるかもしれないが、帰り道を確認するためにも一度行ってみることは必要だな。さあ今日はいくら稼いで帰れるか楽しみだ」
「目標は指輪一個、サブ目標として一人一億ってのが狙い目ですが、そのへんはどうですかね? 」
一億か。時間的に考えてギリギリ行けるかどうかってところだな。
「ポーションが余分に一個出れば可能ってところじゃないかな。結局ここも収入はポーション頼みなんだよな。出来るだけ高くとは祈っているものの、鎧の破片がいくらになるかが気になる」
「ダンジョニウム合金でできているという噂のですか」
「どのぐらいダンジョニウム……このダンジョニウムってのも安直だよな。もっとかっこいい名前を付ければよかったのに」
「仮決定でダンジョニウムらしいですから、きっとあちこちの神話や創作物からそれらしい名前が取られて、その名前で本決まりになるんじゃないですかね。まだ完全解明されてる金属というわけでもないんですし」
それもそうだな。ミスリルとかヒヒイロカネとかアダマンタイトとかオリハルコンとか、候補はパッと思いつくだけでもこれだけ出てくるんだ、もっと気の利いた気取った名前がついてくれることを願おう。
「何にせよその決定に関与する可能性は低いことだし、大人しくダンジョンという鉱山で働く鉱夫になって精々品物を広める役に徹するとしますかね……そろそろ行ける? 」
「そろそろ行けます。できるだけ早めに行動できるように控えめにはしてたので」
よいしょっと腰を持ち上げると腰をトントンして、後ろに反って軽くストレッチ。後片付けを済ませるといつもの装備を持ち直して、自分も準備を終えたらさて出かけるか五十九層。
そのまま回廊から通路に突入し、しばらく進んだところで階段にたどり着く。次は五十八層、五十八層、先ほどまでよりモンスター密度が濃くなりますので、探索者の皆様はご注意ください。と脳内アナウンスを流して階段を下りる。
階段を下りたらそこは小部屋で固定湧きのガーゴイルが三匹、面倒くさいのでまとめて全力雷撃で吹き飛ばし、後に残るは魔結晶のみ。シンプルに勝てたが、全力雷撃の底はまだ知れていない。なんだか全力雷撃の更に上の段階が打てそうな気がする。石像に向けて撃ってみて、威力が勝るかそれとも石像の魔法耐性が勝るか、勝負を挑みたいところだが、石像は五十九層からの登場なので今はまだ出てこない。
「さて、どっちが最短だったかな……と。こっちか」
「大分こなれてきましたね。もうこの階層ぐらいなら一人でもなんとかなるんじゃないですか? 」
言われてみてちょっと考えるが、流石に手数が足りないだろうという結論に達した。
「まだ無理かな。五十七層ならなんとかなるかもしれないけど」
「私も色々試したいですからね。せっかく覚えたスキルオーブ、十全に活かせるようにリハビリしながら行きましょう」
次に出てきたリビングアーマーを芽生さんが複数同時発射の魔法矢で粉々にしていく。こっちも火力が随分上がったようだ。やはり【魔法矢】は他の属性魔法よりも一段階威力が高いのかな。だとすると【魔法矢】が三段階になったらこっちの火力を上回る可能性があるのか。それはそれで見てみたいが、しばらく先になりそうだな。【魔法矢】を落としそうなモンスターに心当たりがない。
どのモンスターも耐性ばかり落としそうな見た目をしている。ワニは……ワニは何落とすんだろう? 亀は【水魔法】か【魔法耐性】を落としそうな匂いをさせているが、ワニのほうはサッパリ思い浮かばない。
そう言えばここにいる連中もまだスキルオーブを落としてくれてはいない。夏休みの間に狙ってみるのもいいだろうな。五十三層から五十五層にかけてもそうだが、まだ未着手の情報が多すぎる。それらをまとめて提出というわけではないが情報提供が出来るようにするのもまた楽しそうだ。
五十九層の階段に向けて五十八層を歩きとおす。時間にして三十分ほど。やはりスキルオーブを多重化して火力を上げた分モンスターに相対する時間が減り、その分歩く時間が増えて短時間で階段までたどり着けるようになった。予定より十分ほど早く階段にたどり着いた。その分五十九層で動ける時間が増えることにもなり、それが収入に直結する。さあ、ここからは稼ぐぞ。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。