1064:夏休みの抱負
今日から新章です、よろしくお願いします
マツさんのゲル
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新規……ではないですがこちらも投稿し始めました。良ければこちらもどうぞ。
朝から外は暑い中起きる。 夕方から翌日の朝にかけて気温がセ氏二十五度を超えている状態を熱帯夜と呼ぶのだが、ここのところは毎日熱帯夜だ。本格的に涼しくなってくるまでずっと続くのは間違いないだろう。
そんな暑い中でエアコンを切ることは命にかかわるので冷房は付けっぱなしで寝ている訳だが、今日は隣に熱源が一つ寝ているのでエアコンの音も若干いつもより騒々しい。とりあえずちゃんと眠れてはいるので問題ないだろう。その内、暑苦しいと言い出す可能性はあるが、そこまでまだ倦怠期というわけでもない。さて、まだ寝てる芽生さんは置いといて朝食の準備を始めよう。
芽生さんの夏休みが始まった。大学生の夏休みは長い。特に今年卒業なので既に卒業に必要な単位は取り終えており、後は時間を過ごして卒論さえ出してしまえばそれでもうやることはほとんどないらしい。
その卒論もダンジョン関連の話を織り込んであるおかげでほぼ出来上がっているので、よほどのダンジョン事情の変化がない限りは問題ないんじゃないか、という話らしい。具体的には価格改定でどのような変化が起こったか等だ。
とりあえず今回の価格改定でそういう現象に遭遇することは無かったらしいので、このまま順調に卒業できそうだというのが芽生さんの見解の模様。後は卒論の発表会まで練り上げていくことぐらいしかやることは無いらしい。
朝食が出来上がったので保管庫にしまい込んで芽生さんを起こす。ゆっさゆっさと肩をゆする。時間差で胸が揺れる。今日も地震の震源地はここか。
しばらくするとむくっと起き上がり、目を軽くこすった後伸び。
「おはようございます。今日も良く眠れました」
「おはよう。ご飯できてるよ」
「顔洗ってきたら食べます」
身支度には十分ぐらいかかるかな。その間にコーヒーを淹れて朝食にもう一品追加しておく。後は……そういえば最近冷凍コロッケとか買わなくなったな。一つ摘まんだりキャベツに添えたりとおやつ系コロッケはつぶしがきくのでこんどスーパーに行った時にでも仕入れておくか。
しばらくして芽生さんが身支度を終えたところで朝食。揃っていただきます。
「朝食のレパートリーは極端に少ないですよね、洋一さん」
「体調管理の一環だからな。毎朝同じものを食べることで同じ時間間隔でトイレが来る。ダンジョン前に一通り済ませておけばダンジョンの中で催す可能性は低くなる。ダンジョンに入る前から探索は始まっているのだよ」
優雅に追いマーガリンしながら解説をする。丘盛りのキャベツ、目玉焼き、トースト二枚にマーガリンか気が向いたときにジャムを塗ったり残り物のダンジョン飯を温めて挟んだり。時々例外処理は入るものの、基本的にこの一年半ほどは全く同じ食事である。ダンジョンの中でも変わらずに宿泊時に同じ食事をとっているあたり、俺はなんだかんだでこだわりが強い人なのかもしれない。
「そこまで体調管理に気を使っているんですね。てっきりカロリーが取れれば何でもいいのかと思っていましたよ」
モリモリとキャベツを消費しながら芽生さんが俺の演説を聞いている。そしてキャベツに追いマヨネーズ。キャベツにマヨで若干の脂質をプラス。そう言えばマヨネーズもお高級な奴はあるな。今度見かけたら買って味やメーカー、製品の違いを確かめてみよう。
「まあそれはさておき、今日の活動だが、とりあえず現状一番儲かる層である所の五十九層か五十五層へ行こうと思う。スムーズに密度の濃いモンスターを倒していくなら五十五層、慣らし運転した後昼食を取って、午後から真剣な態度で戦うなら五十九層。どっちを選んでもそれぞれ美味しさはある。特に五十九層は指輪の回収が見込めるからよりたくさん集めておくことに越したことは無い。スキルオーブドロップに頼ることなく戦力強化に努められる点で見ても、モンスターの発生量が多い点、ドロップ品がまだ査定に出せない所を脇に置いといても美味しいエリアであることは間違いない。ヒールポーションも一杯落ちるし美味しさでは随一だと思う。さてどっちにするかね」
正直、現状だとこの二択だと思う。後は毎日ジョギング速度で茂君に通う、という分だけ一日一時間分ほどの稼げない時間が発生することになるが、そこはまあ俺の趣味でもあり、お互い布団にはお世話になっているところでもある。毎日少しずつ通ってちゃんと羽根を集めていこう。
「いつも通り九時に潜るとして、茂君倒しに走ってもらうとして、十時。そこからエレベーターで下りて十時半ぐらい。そこからだと、いつもの調子で潜るとして丸一日五十五層で過ごす。五十九層の場合は五十七層の回廊部分で昼食取って、それから五十九層って流れですね」
「五十九層ならレアドロップである所の指輪を一日一個を目標に集めていく形になるだろうな。毎日一個指輪を集める、うん。解りやすくていいな。五十九層を目指す時はこっちを目標にしていくのが一番だな」
指輪一個。拾えたら帰ってもいいし、時間が余ってればギリギリまで粘ってもいい。別に一日二個出しても問題はない。だが指輪が一個出るまで粘り切るというのも中々悪くない。下手な金額指針や時間で区切るよりも解りやすいし、これは良い判断だな。ポーションを何個拾えるかよりも更に解りやすいし、どうしても出なかったら次回への意欲へと転換することが出来る。
「五十五層だと……えーとどっかに時間ごとにまとめたページがあったはず。あったあった。戦闘時間から考えてインゴット百個が目安か。それだけ集まれば充分に稼いだと言えるだろう。金額としてはどっちも悪くない算段になると思う」
「インゴットと指輪、今のところだとどっちを優先するべきですかね? 」
「つい最近千二百個ほど納品したばかりだからな。急いでインゴットの続きを集めて来てくれと言われない限りは大丈夫だとは思うし、そういう話が来たら通してくれ、とこの間報告ついでに申告してきたところでもあるしな」
コーヒーをグイッと飲み干すと朝食を終えて流し台で軽く水洗いしてからウォッシュ。汚れものが黒い粒子になって消え去り、使う前と同じような綺麗さになった。後は水を切れば充分だろう。これで洗剤代も少しだけ浮かすことが出来るようになった。しつこい油汚れはまだ難しいだろうが、これで保管庫に仕舞う際も簡単には掃除を済ませられるようになったのは気分がいい。
芽生さんも少し遅れて食べ終えて、流し台まで食器を持ってきたので水洗いしてウォッシュ。目玉焼きの潰れた後の黄色いシミも綺麗に黒い粒子に変わった。このぐらいの汚れなら問題ないようだ。
「段々便利になってきましたね、生活魔法だけで家一軒掃除し終えられるんじゃないですか? 」
「多重化を重ねたら、家の外からウォッシュかけるだけで丸ごと綺麗にできるようになりそうだ。そうなるかどうかはまだ解らないが、その為にミルコへの貸しを一つ消費するのはちょっともったいないので止めておいたんだ」
朝食を終えて昼食の準備。今日は夕食は作らずに行く。昼食用の昨日冷蔵庫で寝かせておいたカレーを再加熱して翌日のカレーに変化させる。鍋の底の張り付いた部分を一通り空気とかき混ぜて焦げ付きを防止ししながら炊飯器でご飯を炊く。
カレー皿と食器がきちんと保管庫に入っているのを確認する。カレー皿とスプーンさえあればとりあえず飯を食えない事態は免れるからな。一通りの食器がきちんとしまわれていることを確認して、後は炊飯器とカレーという状態にしておく。ミルコの菓子は……今日は無い日でいいか。
カレーがグツグツと煮えはじめ、カレーをかき混ぜる。鍋の縁に触れている部分からジワジワと音をあげながら水分が蒸発していき、より濃いカレーが出来上がっていくのを感じる。隠し味に一つまみのチーズと耳かき一杯分ぐらいの純ココアパウダーを仕込む。これをするだけで味に深みが出る。ほんの少しだけでいいというのがポイントだ。芽生さんが気づくかどうかは解らないが当てたらご褒美を何かあげることにしよう。
カレーをしっかり煮込んでアツアツの状態で保管庫に放り込み、炊飯の終わった炊飯器をそのまま保管庫に放り込む。これで昼食の準備はヨシ。後は保温ポットにアイスコーヒーを入れれば準備は完了だ。
「今日は夕飯無いからなー」
「じゃあ帰り道に何か見繕って帰ることにします」
話の流れ的に今日はちゃんと帰るらしい。休みだからとだらだらと男のところに入り浸ってただれた生活を……という流れにはならないようだ。ちょっと安心、そしてちょっと残念ではある。息子が。
「さて……着替えてくるから出る準備しといて」
「わっかりましたー」
いつも通り自室でスーツに着替える。外は暑いとはいえ涼しめに作ったスーツ、それなりの性能を維持してくれると信じて今日も外へ出る。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ナシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。確認を終えて部屋を出ると芽生さんも準備万端。さあ夏休み、思う存分休みを堪能することにしよう。休みなのに働きに出るという矛盾を抱えながら。
◇◆◇◆◇◆◇
電車とバスでいつもの小西ダンジョン。今日はミルコのお供えは無しなので保管庫には自分たち用のちょっとしたものしか入っていない。それすらも略奪に来るという事はさすがに無いだろうが、こっそり食べていたら後でブーイングが飛んでくるんだろうな。
芽生さんが着替えに行っている間に外の熱気を打ち払う意味でも、ウォータークーラーの冷えた水を飲む。キンッキンに冷えた水を飲むことで口から喉、食道から胃にかけて冷えた感触が体を駆け巡り、体をリフレッシュさせる。朝一番に職場に来て飲む冷たい水もまた格別に美味い。ここまでほぼ弱冷房状態で通勤してきたため、太陽からそれなりの熱線を浴びてきている。一度ここらで熱を抜いておくのも必要な所作だろう。
ついでにトイレも済ませて完璧な状態でダンジョン入りを待つ。今日からは進捗を何も気にする必要がない時期をひたすら過ごすことになる。他人任せだが、ダンジョンを作成できるのがダンジョンマスターしかいない以上、全ての進捗はミルコ頼りになる。
その為にミルコには奮起してもらわねばならない。その為にお菓子の供給を増やして甘やかせるのか、それとも出来上がるまでお菓子を絞り気味にするのか。どちらのほうがよりミルコのやる気が上がるのか、という点については一考の余地がある。
そもそもミルコは頑張っている方なのだ。六十四層までダンジョンを作り切っているという話は他のダンジョンでは公式に耳にしたことは無いし、ミルコよりも頑張っているダンジョンマスターが何処かに存在するということだけは解っているものの、何処のダンジョンの話なのかは解らない。
それに加えて頑固なダンジョンマスターだという話を新年あたりに聞いた覚えがあるので、きっとエレベーターが作成できないダンジョンである可能性は高いので、しばらくこの六十四層という記録は塗り替えられないんだろうなあと考えている。
芽生さんが着替えて戻ってきた。早速ダンジョンに潜ろう。入ダン手続きをしてリヤカーを引いて、まずは七層茂君。芽生さんとの約束通り、他の探索者が居ないことを良い事にダッシュで六層の真ん中まで行って茂君を刈り取って帰ってくる。勿論戻りもダッシュだ。
道中のワイルドボアは追いつかれることはないがある程度固まったところで雷撃でバシュっと倒してエレベーターの細かい燃料として取っておいてある。ダーククロウとワイルドボア、合わせてちょうど一層と七層を行き来するぐらいの燃料にはなる。普段が緑や青の魔結晶で査定をかけている分、そこに黒の魔結晶が混じると査定が面倒くさいだろうと考えてあえて保管庫に放り込んだままにしてある。細かい移動はこういった端数の魔結晶を使っていくことでごまかしていこう。
七層に戻り、雑誌を読んでぼんやりしている芽生さんにお待たせをすると、再びエレベーターで深層へ潜る。本来なら五十六層へ行くところだが、今日は六十三層へ寄り道をする。
「六十三層寄ってから行くね。もし高橋さん達が来てたら注意喚起、来てなかったらノートに書きこんだ分の最下層の情報を消しておく必要があるから」
「そういえばそんな話をしてましたね。表向きはまだまだ底はある、ということにするんでしたか」
「そんな感じ。というわけでちょっと寄り道になるし魔結晶も無駄遣いになるが、一旦底まで潜ろう」
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。