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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十章:順風満帆の終わり
1062/1207

1062:割りますか、割りませんか

ダンジョンで潮干狩りを

Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。

 ギルマスは少し考えるそぶりを見せる。しばらくするとコーヒーカップをカリカリとこすり始めた。これは真面目に考え事をしている時の癖だ。ダンジョン踏破の際の自分の立場、働いている職員のこと、今ダンジョンに通ってきている探索者のこと、俺達のこと。


 具体的には小西ダンジョンが抱えている【保管庫】持ちの探索者である俺という存在、ダンジョンマスターとの友好。これらをひとまとめに考えて今このダンジョンを踏破リストの中に組み込んで良いものかどうかということについて考えているのだろう。


「これを真中長官に伝えるかどうか、というあたりから始めなければいけませんね。伝えたとして、他のダンジョンのギルマスにそれを知らせる必要があるかどうか、その辺もかかってくると思います。機密の多い小西ダンジョンですからうかつに踏破してしまってそれを公にするのは多少憚られるところがあると思います。そういうわけなので、早めにお知らせしておこうかと思ったんですよ」


 しばらくカリカリすることを止めないギルマス。多分目一杯考えている最中なのだろう。しばらくして指が止まる。


「なるほど、たしかにこれは予想はしていたが思ったよりも早くに出てきてしまった問題、ということになるね。少なくとも真中長官の耳には入れておかなければいけない問題だろう。そして安村さんの【保管庫】のことは真中長官預かりの機密になっている。ぶっちゃけて言えば、安村さんを小西ダンジョンから解き放って他のダンジョンに潜ってもらっても構わないようにするには真中長官の一言が必要になるだろうね。これは確かに続きは明日、と気軽に言える話題でもなくなってしまったな。早速一報を入れておくべき話だ」


 そういうと、パソコンの前の電話を取りおそらくダンジョン庁へ電話。真中長官へのアポを取り始めた。


 しばらくの定例挨拶と用件について伝えた後、真中長官が出たらしく、電話の前で腰を曲げながら挨拶している。そして用件を伝えた後、パソコンの前に座り、ビデオチャットの準備を始めた。


「安村さん、出てくれるかな」

「わかりました」


 パソコンの前では真中長官がいつものスーツ姿で座り込んでいる。価格改定も一息つき今は比較的仕事量が少ない時期なのか、髪型もきっちり決まっている。忙しい時は髪型もボロボロなのでそのあたりを観察することでダンジョン庁本庁の忙しさを垣間見ることが出来る。


「坂野ギルマスの時間もあるだろうし、手短に用件を済まそう。最下層まで下りたんだね? 」

「はい、何ならレインで動画送りますけど確かにダンジョンコアルームであったことを確認しましたし、ミルコにも確認して最下層であることを証明してもらいました」


 ミルコにも確認をした、と伝えたことで真中長官は最下層に着いたんだなという把握をしたようだ。


「ミルコ君の様子はどうだったかね? 元気そうだったかね? 」

「残念そうでしたね。ついに追いつかれてしまったと。そのまま破壊されるんじゃないかとちょっと不安気でしたよ」

「それは君が散々餌付けしているからじゃないかね。ダンジョンが無くなったらもうお菓子は食べられないと」

「それはあるかもしれませんね。とりあえず踏破するならするでちゃんと言いに来るから、それまでは続きを作ってくれるとありがたい、とは伝えてありますが実際の所どうするかはダンジョン庁次第ってところですね」


 真中長官が頭を掻く。これは真中長官もちょっと予想外、と思っていたのだろうか。


「現状維持で、というのが一番なんだが、そうなるとミルコ君には引き続きダンジョンを深く作ってもらう作業に従事してもらう必要が出て来るね。なので安村さんがそう伝えてくれたことはそのまま引き継いでもらっていい。そして坂野ギルマス、本件は極秘扱いとする。小西ダンジョンも踏破目前となると、他のギルドマスターからダンジョン踏破の例として扱われる可能性がある。小西ダンジョンには近くに清州ダンジョンという大きいダンジョンが有るから小さいダンジョンなら踏破してそこのダンジョンでメインに活躍していた探索者に花を持たせるためにも踏破の候補に入れておくべき……という意見を出させないためにね」

「解りました。引き続き小西ダンジョンは探索中という事で。安村さん、この事を知っているのは? 」


 ギルマスの声がマイク越しに入っているおかげで両方のほうを見ずに済むのは気楽な所か。


「今のところは我々だけですが、六十三層の交換ノートには書いてしまいましたので、もし高橋さん達が追いついてきた場合知る所になるでしょう。ですが黙っていても時間の問題でしょうからここは言いくるめて抱き込む方向でいかがでしょう? 」

「そのほうが確実だろうな。悪いけど、彼らが来たらギルマスのところへ出頭するように連絡をしておいてくれ。そこで話が完結すれば話はそこで終わりになる」

「次に六十三層に着いたときにノートの記述は消して……ページを破り取っておくことにします」

「その後ろのページも破っておいてくれ。筆圧で形跡が残っているとまずい」

「解りました。それ以外でこちらでやっておく作業は何がありますかね」


 真中長官はしばらく考えこむ。坂野ギルマスも何故か考え込む。俺は……とりあえず考えるふりをしておくか。


 三人しばらく黙った後、二分ほどして真中長官が口を開いた。


「とりあえず、ダンジョンコアが六十五層にあることはここだけの内緒ということにしておいてくれ。ギルドマスター会議にも議題に上げないこととする。現状最深層は六十三層。報告するならそこで終わりってことにしておこう」

「それが無難でしょうなあ。とりあえず、ここまでお疲れ様」


 ギルマスから労われる。


「俺達としましては、芽生さんが夏休みに入った矢先にこれですからしばらく探索活動どうしましょうね? って相談に入る所ですね。何かこれと言ってダンジョン庁から取ってきて欲しい素材のリクエストか何かがあればそれに従事することになると思いますが」

「そうだねえ。しいて言うなら一番深いって事になってる五十六層近辺のドロップ品を集めて帰ってくるのが一番じゃないかな。それ以上深くには潜ってませんよアピールにもなるし……後は前に提出してもらった指輪と鎧の破片みたいなもの、解析というか鑑定がやっと終わったよ。指輪はそれぞれ物理耐性、魔法耐性を一定量……スキル一つ分ほどではないけど得られることが解った。文月君の報告にあった通り、リッチの装備していた指輪と同じだけの効果があると推定される。誰でも付け外しが出来る耐性系装備として人気が出そうだね。要人警護にも応用できる非常に重要な品物になるのは間違いないね」


 どうやら有用性が証明されたらしい。いくらになるかだけが気になるが、どっちにしろ今のところ手元にある指輪を手放す選択肢はまだ無い。


「鎧の破片については何か情報は無いですかね? あっちもそれなりの数が溜まりつつあるんですが」

「あれはね……えっと、あったあった。融解させて不純物を取り出すことで、例のダンジョニウムインゴットを生成することが出来たみたいだ。大きさと量からしてそれほどの価値があるかどうかは解らないが、既に合金として作られていて加工にも耐えるのでそのまま流用することも、精錬してインゴット化させてから他の用途に使用することもできるみたいだね。おそらく、指輪と同じタイミングでこれも新しいドロップ品としてリストに載せる予定だ。金額はインゴットほどの金額にはならないが、それなりにはなることを保証しておくよ」


 いましばらく待て、ということか。まあ夏休みが終わるぐらいまでに決まってくれればいいが、それまではしっかり保管庫に溜めこんでおこう。


「二人ともここまでお疲れ様。後は時間が解決してくれるのを待って、また新しい階層が出来たらそこに挑んでもらいたい。それまでは……いや、今までもか。自由に潜って探索してくれればそれでいい。魔素を持ち出すのもダンジョンに対する貢献活動になるし、その間にこっちで進められる案件は進めておく。期待して待っててくれると嬉しいね」

「とりあえず帰ったら作戦会議ですかね。その後は……まあ適当に潜りますよ。ちょうどパワーアップして帰ってきたところですし、自分の今の力に身体を慣れさせていかないといけませんから」

「まだ強くなるのかね。どれだけ強くなったのか知りたくもあるが、探索者同士で戦わせるわけにもいかないし、何かこう、競い合うような催しでもあればいいのかもしれないね。そうすれば横のつながりもできることになるし探索者同士の交流という意味でも何かしら価値のあるものが提供できればいいんだけど」


 探索者交流会か……何処かのダンジョンを貸し切ってタイムアタックして帰ってくる、みたいなイベントが開ければそれは面白いかもしれないな。かといってこういうイベントを考えるのはどっちかというと苦手な方になる。何かないかな……と芽生さんのほうに目線をやると、顔の前で手を振って勘弁してくれというジェスチャー。


「じゃ、報告はこのぐらいで。あまり長々と話を進めるのもアレなので」

「解った。話をまとめると、小西ダンジョンの件は最下層まで潜ったことも含めて現状機密、六十三層に書いてしまった情報については近いうちに消去処分する、D部隊にはできるだけ早めにその点を言い含めておく。ダンジョンは踏破せずにこのまま進んでいくフリをし続ける。こんなところかな」

「そんな所でしょうね。また何か不都合や疑問点が出たらギルマス経由でお伝えしますよ」

「あ、最下層の撮影の様子、レインでよろしくね。一応見てみたいから」

「解りました。すぐ送ります」


 通信が切れた。報告のほうは無事済んだ、というところだろうか。しかし、完全にやってることは宮仕えだな、これは。俺もダンジョン庁に入れてくれって言うべきなのかな。でも入ることで自由に動けなくなるのは困るからな。今のままでのんびりやっていく方が性に合っているかもしれん。下手なことは口に出さないでおこう。


「さて、じゃあ我々もこれからの探索方針を決定する会議を家で夕食を食べながらやるので、失礼します。帰り際なのに長々とすいませんね」


 ギルマスにお礼とねぎらいをかけておく。その一言があると無いとでは印象が充分違うだろうからな。


「いや、緊急事態だし仕方ないさ。完全に帰り始めてから緊急で戻ってくれと言われるよりはマシだったと思っておくよ。じゃあ今度こそ帰ろうかな。もう無いよね? 伝えておくことって」

「そうですね、あるとすれば一つだけ。ダンジョンマスターへの貸しは一つ残してあるので使い所があればそれで使っても構わないってことぐらいですか。ついでに言えば、一度全ダンジョンの進捗を見比べてみて自分たちがどのぐらいの位置にいるのかを知りたい、というところではありますがそれはまたおいおいということで」


 他のダンジョンで六十三層よりも深くに潜ってました、なんてことになればまた話は変わってくるからな。毎月定例報告で進捗確認はしているだろうし、そのあたりはおそらく長官含めダンジョン庁全体で把握して、お互い競い合っているところだと思われるので小西ダンジョンが独走状態なのは多分合ってると思う。


 もし他のダンジョンに追い抜かれているような状況ならばギルマスからなにかしら発破をかけられていることだろう。


「よし、では帰ろう。二人はバスだったね。時間は大丈夫かい」


 バスの時刻表は一階にあるので下りないと確認できない。スマホで撮影しておいてダンジョンの中でも確認できるようにしておくべきだな。今日そうしよう。


 三人で一階に下りてバスのダイヤを確認、ついでに撮影して持ち歩けるようにしておく。今まで何で考えなかったんだろうか。言われないと気付かない細かい身近な事というのは意外と多いもんだな。


「一階にダイヤを貼ってくれてあるおかげでしばらく涼んでから帰れるので楽ですね」


 ダイヤを確認すると二十分後。時間に追われている訳ではないので時間を潰してからバスに乗るとするか。


「二人はもう少し涼んでから、という辺りかな。じゃあお先に」


 ギルマスは帰っていった。バス待ちの間暇なので……結局またクロスワードを取り出して二人でマス目を埋めていった。地上だと解らない単語や単語として意味を持つものなのかどうか、ネットで調べられるのは便利なものだ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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