1061:四重化
ダンジョンで潮干狩りを
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六十四層に戻った。芽生さんは【魔法矢】と【索敵】を多重化し、俺は【雷魔法】を四重にまで重ねることになった。正直ここまで多重化してる探索者が居るかどうかは解らない。が、多重化自体はやっている探索者もそこそこ居る。
探せば、金に物を言わせて同じスキルを買い漁ってひたすら多重化させてる探索者も探せば居るのかもしれないが、それよりも鍛え上げ続けてどこまでのことが出来るようになったのか、という点について戦力評価をしなければならないだろう。
そんなわけで帰り道はスキル打ち放題のお祭りである。まずワニ。これは全力雷撃二発で消し飛ばせるようになった。それも、全力雷撃をある程度の範囲攻撃として打てるようになった。四重化するとグループ攻撃も可能になった、というところか。これなら十層で襲われても一人で迎撃しきるだけの手数は手に入れたな。今更十層に潜ることは無いだろうけど、一気に相手に出来る手数が純粋に増えたのは嬉しい。
そして芽生さんのほうだが、先端を魔法矢で包みこみ鋭さをより増すことが出来た槍でスパスパと切断することが出来ている。もうワニの上に飛び乗ってから槍を刺し、体の内部で魔法矢を炸裂させる、という手順を踏まなくてよくなったらしい。
スキルのことを考えると、【魔法矢】が二重でそれだけの威力を出せるというのは、【魔法矢】スキルが他の属性スキルに比べて一段階出力の高い魔法であるという証拠なのだろうか。それとも芽生さんが培ってきた努力の結果なのかはまだ判断できる状態ではない。
そして亀だが、全力雷撃で甲羅を割ることが出来た。どうやら全力雷撃一発の出力が亀の魔法耐性を上回ったらしい。割れた甲羅の中身からは勢いよく黒い粒子が噴き出していく。そのままじっと待っていつになったら力尽きるのかを測ることもできたが、そうせず、二発目の全力雷撃できっちり仕留めてドロップ品を拾っていく方向になった。
「楽になりましたね」
「これだけ楽だと気持ち良いな……と、またポーション出たな。まだ金にはならないけどお金になると信じて保管庫に溜めておこう。とりあえず予備の分として二本まで、いつも通り蓄えておくね」
二本とはいえ最高で一億の価値があるポーションだ、使い所がそうそう出てくるとは思えないが、それでも何らかの緊急用に持っておくことに越したことは無いだろう。
「今日は予想より早く帰りますし、お金にはなら無さそうですか」
「ま、仕方ないな。まさか最深部にたどり着くとは思わなかったわけだし。おかげで、小西ダンジョンにもちゃんと最深層があって、他のダンジョンと同じようにダンジョンコアがある、ということは確認できた。それだけでも利益はある。もしダンジョンが無限に続くような形だったらそれはそれで問題だったろうよ。ここのダンジョンは一体どこにつながっているんだろうってね」
「終わりなき戦いは疲れますからね。ちゃんと終わりはあるし、ここで終わりにしないということは言質を取ってきたことですから少なくとも今年いっぱいぐらいはゆっくり探索しててもいいってことでしょうね」
そう言えばどのくらいの期間で出来るか、ってのを聞かなかったな。
「前に、今ダンジョンの奥作ってるってミルコに言われた時、アレいつだっけ? 」
「ええと……少なくとも去年三十五層に到着したあたりの話だったことは覚えてますが、一年は経ってないと記憶してます。その頃に何層まで出来上がってたのかは解りませんが、少なくともどのダンジョンでも三十八層まで出来上がってたことを考えると、その時点でもある程度は作ってあったということになるんですかね」
「ふーむ……最短工期で製作してくれたとして、一年で二十七層か。だとすると一ヶ月に二層、三ヶ月ぐらい待てば四層は作ってもらえると考えてもいいのかな」
ということはダンジョンづくりに専念してもらっても年に十二層が更新ペースということになる。どこまで楽しませてくれるかは解らないが、もうしばらくは色々と暇つぶしと金稼ぎに時間を割いても良いって事だな。
「さて、地上に戻ったら家で再会議だな。目標が一つ消し飛んでしまったのだから新しい目標を立てるか、それとも今の目標である金稼ぎのためにどこの階層を回るのか考え直さないといけない」
「そうですねえ。下層に向かうことを考えずにお金稼ぎとなるとやはり五十九層か五十五層をメインにしていく感じですかね。結衣さん達も追いついてくるでしょうし、一緒にグルグル回ることも考えながらの夏休みになりそうです、またピクニックに行きましょう。みんなで囲んで食べる鍋は多分美味しいですから」
よそ事を考えながら体の向きや戦闘はワニや亀に向いている。明らかにパワーアップの跡が見て取れる、と言ったところだな。戦闘しながら今後の予定を最下層で話し合いながら進むことが出来るのはやはりスキルオーブの力によるところが大きい。ここは一つ次出来る階層のためにパワーアップをしておきたいところだな。
そう話している間に芽生さんの【身体強化】がまた一つ上がったらしく、肩をグリグリ回しながらもう一段階スピードの上がった動きに頼もしさを感じる。
「これなら五十五層もソロで回ることもできるかもしれんな。一人であの密度を戦い抜くのは結構スタミナが消費されるかもしれないが稼ぎとしてはこの上ないものになるだろう。インゴットも社会の役に立つしな」
「荷物の心配をしなくていいのが一番の所じゃないんですかねえ。インゴットなんだかんだで重いですし、数もそれなりに出ますし」
「それはそう。何にせよ、しばらくは暇つぶしの心配しなくて良さそうだな。むしろ長いエレベーターの移動中に何するかが問題になりそうではある」
流石にクロスワードも少し食傷気味になってきた。新しい小説やラノベがあったらそっちの人気作を探して読みふけるのも悪くないだろう。
「あぁ、帰り道が解ってるってこんなに楽なんだな。モンスターも楽に倒せるようになったし、その内ここでも全力ダッシュで巡れるようになるかと思うと楽しみでならない」
「そのうちやりそうなのが怖い所ですが、その前に一撃で倒せるようになるのが先じゃないんですかねえ。そういう意味では五十五層あたりから順番に試していくのが大事だと思いますよ」
たしかにそうである。走り回るには一撃で葬り去れることが大事。四層でも、カニうまでもそうしてきた。五十層あたりなら今ならダッシュ大会どころか、五十二層で早歩きしながら近寄ってくるシャドウシリーズを一発対処できるかもしれないな、夏休みが明けた頃にやろう。
◇◆◇◆◇◆◇
殲滅速度が上がったのもあり、亀を一々ひっくり返さなくてよくなったのが一番大きいが、階段間の移動は一時間まで短縮された。ポーションももう一本落ち、予備としてのキュアポーションのランク5と目されるポーションの予備分は埋まった。
ここから先、六十四層でドロップされる品はすべて換金用としていつでも査定に出せるということになる。目に見えない儲けで覆われているが、こっちとしては目に見える儲けのほうが大事である。
そして、午前午後合わせて五時間ほどの作業で得た、唯一換金できる青魔結晶はそれほどの金額にならない。普段の五分の一程度の収入にしかならないだろう。でも、換金できない分としてのドロップ品はキッチリ集めているのでそっちが査定開始された時の収入に期待することにしよう。
六十三層へ戻るとまずノートに「六十五層 最深層」とだけ記入しておく。これで高橋さん達には伝わるだろう。彼らが到着してもむやみにダンジョンコアを破壊したりはしないはずだし、六十四層にじっくり立ち向かう時間が増えるはずだ。
リヤカーに青魔結晶だけを載せて七層へのボタンをぽちり。ただでさえ収入が少ないんだから今日の分の茂君ぐらいは回収して帰りたいものだ。ただ、いつもと時間が違うので茂ってない可能性を考慮に入れておかなければならない。誰かが取りに来てたら十五分ほどランニングして終わり、という話になる。
「さて、なんと報告したものかな。六十四層までは確認しました、と報告すべきか、それとも六十五層が最下層でした、と言うべきか」
「素直に六十五層がダンジョンコアでした、でいいんじゃないですかねえ。その後を作っていくことはミルコ君との約束をしてきたので今後拡張される予定ではあります、と。それでいいと思いますよ」
「変にこねくり回さずに素直に言うか。でもギルマスがどう考えるかは大事だよな。最下層に着いちゃったってことはダンジョン踏破の可能性のあるダンジョンとして認められるってことだろう? 自分の職場が無くなってしまうかも、という感情に襲われることになる。おそらく異動なり昇進なりの措置は取られるんだろうけど、今までどおりが今まで通りじゃなくなってしまう恐怖感というものはあるだろうね」
芽生さんが、なるほど、なるほど、と言っている。
「芽生さんも微妙に他人事じゃないんだぞ。内定出て自分がダンジョンで働く段階になってダンジョンが無くなったので地方に飛ばされるって可能性もあるんだから」
「それは困りますね……洋一さん、もし他のダンジョンに転勤になったらついて来てくれますか? 」
「普通は男女逆で言うセリフなんだけどな。その場合は結衣さん達もセットになるのか、それともそうはならないのか。親御さんからはそうなったらいっそのこと籍も入れてしまえと言われそうだ」
「じゃあ、そうならないためにミルコ君には頑張ってもらうしかないですね」
芽生さんが早く次作れーと念力を送り始めた。それでダンジョンが出来てくれるなら世の中のダンジョンはもっと深く出来ていると思う。
しかし、転勤についていくということはこの長年住み慣れた家ともお別れになるということか。四十一……もうすぐ四十二だな。齢四十二にして初めて実家を出ていくということになる。家の管理とかもしなくちゃいけないし色々と大変なことになりそうだな。
色々と言い合っている間に七層に到着。前回の通り芽生さんには適当な雑誌を渡しておいて、その間にダッシュで茂君に向かう。今日は中途半端な時間にもかかわらず茂君は茂ってくれていたので刈り取り、回収、そしてダッシュで戻る。現在時刻は午後四時。まだギルマス居るかな。早出勤の早上がりだったりしないだろうか。今日に限ってはいてくれないと困る段階ではある。
急いで戻ってきて、再度エレベーターで一層へ。到着すると退ダン手続き、そして査定。査定する品目が一品目しかなく量もそれほど多くないので査定はすぐに終わった。
今日のお賃金千六百四十一万六千円。正直言って少ないが、実際にはさらにポーション分とドロップ品の未査定があるのでもう五千万ぐらい多めに稼いできた、と考えればほぼ当日分だとは言えよう。
支払いカウンターで振り込みを済ませた後、急ぎでギルマスの所在を聞く。
「ギルマス居ます? 割と緊急で話があるんですが」
「今、後ろで帰る所ですね」
「はい? 安村さん何か用事? 」
振り向くと、もう退社モードのギルマスを発見。芽生さんに目配せすると、芽生さんがギルマスの背中を押して二階へ連れていく。
「ありがとう、じっくり話し合いしてくるよ」
「お疲れ様です」
二階へ行きギルマスルームに戻り、ギルマスをソファーに座らせてコーヒーを淹れている芽生さん。急ぎの話し合いの準備は出来ているらしい。
「それで? 帰り際の私をわざわざ巻き戻りさせてまで報告したいことって何? 」
ギルマスはもうちょっとで帰れたのにとゴキゲン斜めだ。まあ俺でもそうなるとは思う。
「では手短にお話します。最下層まで行って帰ってきました」
「最下層! ……つまり、ダンジョンコアを見つけたというわけかい? 」
「証拠になるブツはこちらに」
芽生さんがダンジョンコアにタッチしている様子を撮影してあるのでこれは証拠としては充分に大きいものだろう。
「なるほど、たしかに報告にもあったし、実際の世の中に流れているダンジョンコアルームと同じもののようだ。何層にあったのかね? 」
「六十五層がこの配置でした。つまり今のところは六十四層が最終階層ということになります」
ギルマスがコーヒーを一口飲む。俺もコーヒーを保管庫から取り出し、マグカップに注いで飲む。
「今のところ、ということはミルコ君に話は付けてきたということかい? 」
「ダンジョン庁としては迂闊にダンジョンを壊さないようにしているので、今の内に深く作っておけばまだ攻略されなくて済むから話を付けてくる間に続きを作ると良いよ、と助言はしてきました。ただ、ダンジョン庁として小西ダンジョンを率先して踏破させるだけの理由があるならその限りではないんですがね。問題は、ここからです。ギルマスとして、小西ダンジョン、踏破させて消滅させたいですか? 」
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