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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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106/1220

106:そのころ三勢食品では 2

 

 side:三勢食品


 三勢食品工場内は活気に満ち溢れていた。


 ある従業員は自分の作っている商品についてモンスターの餌にされていると知らずに、自分達の努力が認められているんだとやる気に満ち溢れている者。


 需要急増の理由を知っていてあえて話さない者。


 おおよそ現状を把握して、覚悟を決めている者。これはライン担当である伊東が該当していた。


 とにかく、全社挙げての二十四時間製造ラインフル活動という開業以来初めての出来事である。こんな中規模企業では到底賄いきれない大量発注が来るという事態に喜ぶものも悲しむものもそれぞれいたが、現状を受け入れての就業状態である。


 工場長である藤原も、給料が高い自分がラインに入ることで商品の生産単価がわずかながら上昇することを承知の上で作業に従事していた。


 ちょくちょく注文と発注の件でラインを抜けることがあるので、伊東との交代しながらの勤務ではあるが、副工場長と工場長が必ずどちらかが会社にいることで二十四時間営業を可能にしていた。


 原料の注文書と製品の新規路線開拓要望が山積みになっている自分のデスクの上で藤原は休憩を取りながら考え事をしていた。


「ダンジョンギルド側から連絡来ねーな。電話つながらないからあきらめたか? 」


 藤原は伊東からの聞き取りの結果、人間向けの食品として開発しているものの、実際は最も弱いモンスターに餌として供給されている事と、その効能、範囲についてざっとだが理解を示していた。


 人間向け食品をモンスターに餌付け、という行為がある意味では信じられない事だが、最も信じられないことは自社の商品でないとその効果が発揮されないという点がさらに事態をややこしくしていた。


 納得がいかない点も多々あったが、伊東の「ダンジョンなんてまだそんなもんしかわかってないらしいんス。だから、現象をまず納得して、その上でどうするかを考えるほうが諦めがつくッス」という言葉をそのまま飲み込むことにした。


 三勢食品にはカロリーバーの製造ラインが六ラインある。それぞれのラインでどの味を生産するかは日によってバラバラであり、決まったラインは無かった。動かさない日もある。だが、このライン上で何かが発生し、その結果としてスライムのドロップアイテムが確定で二個出る、という現象について納得するほかなかった。


 藤原の責任と権限で出来ることは、他の風味のカロリーバーの生産を停止し、バニラ風味のカロリーバーだけを製造する事に終始させることで膨大な注文票を片付けることだけであった。


 今からラインを増やす案も当然あったが、それなりな金額がかかる事と、この降って湧いたバブル景気がいつまで続くか解らないのに、ラインを増設してし終わった頃に終息していてはただライン増設分の費用を出した結果だけが残る、それを危惧していた。


 二十グラム以上でドロップ確定が為されるなら、二十一グラムサイズの小分けパッケージを販売してはどうか? という声も上がったが、それを作る場合新規ラインの増設とほぼ同じ結果になるため、この騒ぎで利益を上げた後で作っても問題なかろうという事で棚上げにされた。


 既に市場にはバニラ風味のカロリーバーは残っていないだろう。藤原は在庫ゼロをベースにして物を考え、まず既にお付き合いのある企業への供給を止めないことと、同時に製造供給できるのをバニラ風味に限定することを伝えておくことを営業に対して厳命した。


 そして原料発注量を一気に二十倍に引き上げた。これは一日八時間しか動かしてこなかったラインを二十四時間動かし、三交代で全ラインを動かすことを前提にした発注量だった。


 原料の提供元からは入力の間違いではないかという連絡が来たが、間違いではなく暫くこの量が続くが提供可能かどうか問い合わせを返すことにも成功していた。


 せっかくの稼ぎ時だ、稼げるときに稼ぐのは商人の要である。それを理解した上で最大限思いつく、即日効果がある範囲で出した結論がこの体制だった。


 営業には、これ以上注文を取ってきたところで、生産量は一定量以上増やせない事も伝えた。


 営業は営業で会議を開き、各自が聞き取ってきた注文願い、つまりまだ確定していない需要のすり合わせを行い、これは当社では無理ぽ。と結論を早期に出していた。


 そして社長の了解を取ったうえで会社の電話線を抜き、付き合いのある各種店舗には営業のスマホに直接連絡を取ってほしい旨を全取引先に伝えた。


 普段事務作業しかしてない人たちもライン作業に駆り出されている有様である。この上で電話応対など誰がしてやるものか。この騒ぎだ、電話線抜いてたってどうせバレないだろうという社長の気の利いた皮肉と理解もあって、今のところ順調に製造作業は続行されている。


 また、外国人労働者たちも残業時間が増えると分かった瞬間諸手を上げて喜び、月百時間を超えない範囲でギリギリの残業作業により、彼らの担当する場所だけ二交代で作業を続けられていた。彼らは残業代が増えれば増えるほど実家に送金する金額が増えることになるので大喜びだった。


 工程が絶対に間に合わないと解った瞬間にこの体制を作り上げるだけの雑務と応対をした工場長の手腕が褒められる場面でもあった。


 社長は社長で「この場で俺のできる事なんて掃除と雑務ぐらいしかないんだから好きにやらせてもらう」と言いつつ、夜食を自ら買いに走ったり差し入れしたりと好き放題ライン作業の助けをしている。


 三勢食品は社員間の仲が比較的良好であったことから生まれた奇跡とも言える連携であった。


 営業は一通りのお断りと連絡をすべて終えると、配送業者に頼んでその間にかかる時間よりも自分たちで運んだほうが早いと、納期とクレームのツインターボエンジンで出来ているプロボックスを操り、鈴鹿サーキットの延長線と言われる東名阪高速道および名古屋高速をオービスに引っかからないギリギリの速度でかっ飛ばしていた。


 現状新規で取引を決めた企業は三社。その中には鬼ころし清州店も含まれていた。これを選択したのは営業部長ではなく藤原だ。どうせどこに流しても爆弾になるなら、中枢部に近いところに投げ込んでしまえという藤原の意趣返しを営業が反映させた結果である。


 藤原は今の騒ぎがいつまで続くか解らないが、商品が売れなくてイライラしていた開業当時の様子を振り返ってあの当時よりはよっぽどマシだという気持ちを胸にしていた。


 たとえ忙しすぎて体にガタが来てもそれはそれでいいだろう。最近血圧が怪しいが景気がいい事は良い事だ。新しい取引先を後何社まで確保できるかを考えていた。


 今のところ、会社は回っている。藤原はいろんなものに感謝していた。そして、この騒ぎを起こした首謀者が居たら一発殴った後酒を振る舞いたいとも思っていた。


「さて、カロリーバーに限定するなら何とかなったぞ。他の製品ラインで同じことが起こったらどうするか……無理だな」


 三勢食品ではカロリーバー以外にカロリーゼリーも製造していた。もしよくわからない理由で別の商品が何らかのトリガーになっていた場合、もう手の施しようはないだろうと理解していた。


「こちらから連絡するか。いずれ連絡が来て呼び出されるなら早いほうがいい」


 藤原は自分のスマホからダンジョン庁に連絡をすることに決めた。それは奇しくも、ギルドの課長級会議が終わったすぐ後の事だった。


作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] プロボックスいい車ですよね
[一言] 月百時間以内の残業と書かれていますが、1か月の最大は100時間ですが、2か月~6か月の平均80時間以内という規定もあるので、100時間残業の次の月は60時間しか残業できなくなります。 数ヶ月…
[一言] 今まで8時間しか動かしてないのを24時間に変えたら近いうち壊れそうで怖いな そのあたりも計算しないと痛い目に遭いそう
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