1057:向かうぜ六十四層
ダンジョンで潮干狩りを
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今日も涼しい。新しいエアコンありがとう。ダーククロウもスノーオウルもありがとう。快適な睡眠と快適な寝起き。スッキリした頭によく動く身体。やっぱり、探索者始める前よりちょっと若返ってるな。もしかしたら昨日の昼食と夕食に食べたワイバーンカツの成分が体を巡っていてそれのおかげかもしれないが、なんだか色々と楽だ。
ワイバーン肉に若返りの効果があるのかどうかというのはさすがに論文では発表されていないだろうが、何処かの食品メーカーが成分を分析してそういう効果があるのではないか? ぐらいまでは研究が進んでいそうではある。ということはワイバーン肉の需要が減ることは無いだろうからしばらくワイバーン肉の相場は高止まりしそう、という予測が立つわけだ。
そんな贅沢な肉が昨日のおかげで十個ほどさらに在庫が増えた。これから毎日ワイバーン肉を喰おうぜ! と言い出しても一ヶ月以上持つし、その間にまたワイバーンを狩ることもできるが、気軽に狩りに行けるかどうかはまた別の話。B+探索者が増えだしたら三十三層から三十六層の高山マップは基本一本道なため、探索者で混雑するとモンスターが湧きにくい構造になっている。
おそらくワイバーンは探索者の目が有ろうが無かろうが空中にリスポーンするはずなので問題なく湧くだろうということは予想しているが、人が増えてみないことには実際のところは解らない。もし混雑する場合はワイバーン肉も含めて希少素材であることは間違いないだろうし今後も取引量は増えるとしても、根本的な需要を満たすほどの量は取れないであろうことが予測される。
ま、なるようにしかならないし、今後の探索者の流れを見て考えることしかできないからな。それにワイバーン素材を取りに行くのはその奥であるスノーオウルに用事がある時だけだ。しばらくの在庫は昨日手に入れたし、しばらくはお預けだな。
朝食を取った後、昨日残したメモを確認して何を作るかを思い出す。今日の昼飯は回鍋肉。夕食はタンドリーボア肉。どっちも使う野菜はキャベツだな。キャベツの消費量が激しいが、キャベツはビタミンCも豊富に含まれているし、そのまま食べても焼いて食べても美味しい万能野菜だ。冷蔵庫にしっかり放り込んであるので毎回使うであろう分だけ保管庫には入れるようにしている。
炊飯器に米を……五合セット。どれだけ食べるか解らないが多めに炊いておいて、余ったら冷凍保存するなりして自分で消費しよう。炊飯開始を押したら今日のお料理の始まりだ。
まず昼食用の回鍋肉を作る前に、エンペラの袋を二つ開けてエンペラを四分割。一つは刺身用としてそのまま、一つは酢味噌和えに、そしてもう一つは醤油バターで味付け。そして残りは全部回鍋肉に混ぜ込んでしまう。
早速手軽にエンペラレシピを三品作ってしまう事に。エンペラを細かく刻んで酢味噌とあえてまず一品。同じ切り方で刺身としてもう一品。そしてフライパンに醤油とバターを乗せてバターが溶けたところにエンペラを混ぜ込んでざっと炒める。醤油の焦げた香りがしてきたあたりでフライパンから下ろして終わりだ。これで昼食のつまみが三品。簡単だがそれぞれ美味しいのでヨシ。
回鍋肉はいつもの我が家仕立てで甜面醤ではなく東海地方特有の調味料である何にでもかけれる甘い味噌だ。……と、そういえば肉を何にするか決めてなかったな。ボア肉では夕食と被ってしまうのでウルフ肉で行くか。
ピーマンとキャベツと長ネギを適度な大きさに切って、ニンニクを包丁で潰した後刻む。調味料である酒と砂糖と甘味噌と醤油と片栗粉をあらかじめ混ぜ合わせておく。砂糖は甘味噌を使う分少し控えめ。豆板醤は辛味が出るので水分が欲しくなるかもしれないダンジョン飯では無しにしておく。
ニンニクを油でいためて香りが出たあたりでウルフ肉を焼いてある程度焼き目が付いたところで材料を合わせてサッと炒めて、最後に混ぜ合わせた調味料を振りかけてさらに炒めてよく絡めれば出来上がりだ。昼食準備、これでヨシ。
全て盛り付けて保管庫に入れると続いて夕食のタンドリーボア肉に取り掛かる。付け合わせの野菜はキャベツの千切りと人参の千切り。人参はピーラーで適当にしりしり風にしたやつを細長く切れば割と手軽にできる。彩り的には紫キャベツ辺りを使った方が良かっただろうが、今日のところはこれで勘弁してもらおう。それにごまだれを振りかけてサラダの出来上がり。
タンドリーボア肉は一口大にした後タンドリー風シーズニングに絡めて袋に入れてざっくりと振ったら、保管庫百倍で数秒寝かせてそのまま焼く。多分これが一番今日簡単な料理だと思います。
炊飯器が炊飯を終えるのを待って、保管庫に炊飯器を収納。食器が一通りそろっているのを確認して、飯の準備終わりだ。今日もしっかり趣味を満喫したぞ、と。
調理で汗をかいたのでまだ時間があるし軽くシャワーでも浴びよう。冷水で良い。冷水と言っても水道管が温められているので本当に冷たい水が出てくるわけでもなく、温い水が流れ出てくるが、しばらくすると冷えた水が出始めた。出だしが温く後が冷たいのは心臓にも優しいのでうれしい。
さっぱりした後体に乾燥をかけて水分をざっと取り、そのままスーツに着替える。まだ冷房が利いている屋内だから良いが、外に一歩出たら早速汗をかくことになるんだろうな。覚悟を決めて出る……と、その前に。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さ、改めて覚悟を決めて出る。夏の暑さの一番のこらえ時だ。ここを過ぎれば涼しくなると信じて今日も小西ダンジョンまで行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
芽生さんは一本前のバスで到着したらしく先に着替えて待っているとのこと。今日もスムーズに探索に出かけられそうだな。急かしてもバスは早くならないのでのんびり行こう。
到着して休憩室に行くと、やはり芽生さんはここで涼んでいた。スーツも脱ぎブラウス姿でおそらくキンキンに冷えているであろう水を飲んでゆっくりしている。
「お待たせ、おはよう」
「さぁ、今日も頑張っていきましょう。六十四層を今日中に探索し終わって次の段階へ行くんです。夏休み中にどこまで潜るかは解りませんが出来るだけお金を溜めておきたいところですね」
早速行動を開始した芽生さんについていき、早速の入ダン手続き。リヤカーを引いてまずは七層へ。前に言った通り、夏休み中でも茂君をダッシュでやることで布団用の羽根を確保させてもらうという約束通りに茂君を回収させてもらう。朝晩でそれぞれ一時間のロスだが、ロスを限りなく小さくするために何らかの手段を講じたいところではある。
戻ってきて今度は六十三層へのボタンをポチ。その間に芽生さんには雑誌を読みながらリヤカーの番人をしてもらう、というのが流れだ。
「さあ、洋一さんの小銭稼ぎが終わったところで私たちの大銭稼ぎに行きましょう。ダンジョンの探索はそのついでということで一つ」
「やっぱり金に戻ってくるわけか。まあ芽生さんらしくてそれでいいかもな。でも深く潜るって事は夏休み中の収入は少ないことになるぞ? なんせ金に出来ない物品が多く残ることになる」
「それもそうですね。その時はアレです、洋一さんが言ってるみたいに市場に需要のある商品を流し続けるのがポイントじゃないんですかね」
メモを軽く見返し、各階層の美味しさランキングを眺めていく。
「純粋な現金という意味では五十八層か五十九層が一番おいしいな。ドロップ品をすべて引き取ってもらえてなおかつ稼げるという部分では五十五層が美味しい。インゴットは社会的需要もあるから俺の自己満足にも対応できる。六十四層は……ポーションの価格次第ってとこかな。エンペラはそれほど高い料理にはならなさそうだし、ワニの革と亀の甲羅がいくらになるかだが、インゴットより高くなる可能性はちょっと厳しいかもしれないな」
「だとすると後は鎧の破片の価格が定まってないけどまだ五十九層が一番おいしい可能性が高いって事になりますか」
「指輪も決まってないが、指輪はとりあえずため込んでおこうかなと思ってる。流石に貴重過ぎるし自分たちの防御力を落としてまで稼がなきゃいけない理由はないからな。どこかのタイミングで流出させるように求められたらその時に答えるぐらいのつもりで、ドロップ率もできるだけ公表しないようにしておこう」
せっかく付け外しで便利な防御システムを用意してくれてあるんだから、それに乗っかりつつ、耐性スキルが出た場合は多重化させて覚える、という形にしていきたいのが本音である。
「たしかに、指輪は何個あっても困らないのはリッチが証明してくれましたしね。結局あれ何個着けてたんですか」
「数えておけばよかったが、とにかくいっぱいだ。ガンテツ曰く一つで三分の一スキル分と考えても、十個以上は着けてたからな。三重化以上の硬さになってたんじゃないかな。もっとかもしれない。初回で倒せたのはひとえに運の良さだな。指輪の機能について聞いてなかったら手詰まりで退却してたと思う」
もう一回戦えと言われたら手順と攻め方は心得ていることだし、もう少しばかり楽に倒せるようにはなってるはずだ。ただ、面倒であるのは間違いない。
「まあ、高橋さん達もリッチを倒したらしいし、一ヶ月は湧かないとしてその間は倒すかどうかを考える必要は無いし、その間に指輪を拾い集めて次に戦う機会があればこっちもフル装備で立ち向かう、という方向性で行こうと思う」
「まずは目の前の六十四層に取り掛かってから、ですか」
「そういうことになる。六十五層が面白いマップだったらいいんだけどな。精々期待して潜ることにしよう」
七層から六十三層までの八階層分、四十分を暇つぶしと何処をどう巡るかで相談し時間を費やした後無事に到着する。そろそろ高速エレベーターみたいなものがあってもいい気がする。料金は倍でも良いので五倍ぐらい早く到着する奴。
贅沢を言っている自覚があるが、この四十分の時間つぶしは結構骨だ。普通のカップルならその間にイチャイチャして居れば時間はあっという間に過ぎ去るだろうが、ダンジョンマスターの観衆の中でイチャイチャできるほど俺は図太くないので結局クロスワードや雑誌の見せあいで時間を潰すことになった。
六十三層に下りてリヤカーを設置すると、予定していた場所にテントをそのまま出してエアマットも広げる。
「エアマットこっちだっけ? それともこっちだっけ? 」
「右手のほうですね。とりあえず敷いてみて、寝転がりの気持ちよさを体感しておきましょう」
テントの中に二つ繋ぎのエアマットと芽生さん用のエアマットが準備され、広めのテントが充分に使い倒されている。
「うん、やっぱりこっちのほうが良いですね。包まれてる感が強いです。そっちは広そうで良いですね」
「ダンジョンで腕を広げて眠れるってのは悪くない。厚みもちゃんとあるし、良い感じだな。邪魔だと感じたら半分外して収納すればいいし、これは良い買い物をしたかも」
テントの具合を確認したところで早速六十四層へ向かう。
「二時間ほどまず迷うか。片道一時間迷って帰ってきて食事、その後本腰入れて探索、ということでいいかな」
「それで行きましょう。まずは肩慣らしからです」
早速六十四層へ下りて、目の前に流れる水路を確認、同時に湧いている亀二匹を目視して早速戦闘開始。両方に雷撃して首を引っ込めてる間に片方をひっくり返して腹を雷切で焼く。亀二匹なら手軽にできるワンコンボテクニックだ。
もう一匹は芽生さんが対応して首の出ていた穴に槍を思いっきり突き刺すと槍の先端から魔法矢が飛び出て、腹を貫通して出てきている。どっちもほぼ同じタイミングで亀を倒せた。
「さすがに二匹相手は慣れたな。俺もひっくり返さなくても戦えそうではあるが、微妙に腰を曲げないと雷切が上手く刺さってくれないのがネックだな。もっと体に優しい戦い方を身につけないと」
「四重化させてみて亀の反応を見る、というのも手ですよ。どのぐらい亀が魔法耐性を持っているか解りませんが、それを上回る火力が出せれば普通に倒せるようになるかもしれません」
ドロップ品を拾って、水路の流れる方向を確認。今回は下流へ行く。こっちも長々と続いてたらどうしようという不安はあるが、午前中は慣らし運転なのでまあ大丈夫だろう。大人しく水路に沿って進むことにしよう。
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