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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十章:順風満帆の終わり

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1056:帰り道の相談

ダンジョンで潮干狩りを

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 三十五層にたどり着いて一息休憩。予定より早い帰還だがこれも効率重視で一日通すための通過儀礼みたいなものである。しばらく三十八層に寄り付く必要は無いな。もしかしたら今年いっぱいスノーオウルを狩りに来ることは無くなるかもしれない、という程度には保管庫に溜まってくれている。


「たまにはいいですね、浅い階層で狩りをするのも」


 芽生さんは忘れているのかもしれないが、今日手に入れた十キログラムほどのスノーオウルの羽根の収入は全て俺の懐に入ることになっている。なので手伝い賃としてはそう高いものにはなっていないのが実情である。


 まあ何はともあれ無事にそれぞれソロで三十八層までは潜り込んで活動が出来るという証明にはなったはず。今後俺が休みだけど芽生さんが暇だという時には潜り込んで遊んで帰ることにもつながるし、自立したダン活……ダンジョン活動が出来るようになれば少しは成長したことにもなるんじゃないかな、などと勝手に思っている。


 リヤカーに荷物を整理して積むと七層へ。帰りの茂君もきっちり回収していかないとな。


「毎回行き帰りリヤカーどうしてるんです? 置きっぱなしにするのはさすがにちょっと治安が良いとは言えあまりお行儀良くないとは思うんですが」

「一応こういうものを用意して、これにリヤカーを詰め込んで一時的に置いてます、みたいなサインにはしてある」


 エレベーターでギリギリの大きさに入るテントを空中に掲げてこれの中に詰め込んでいるんだよ、というサインをしておく。


「それもそれであれなんですが、保管庫にリヤカーを入れておく、という手もあるとは思うんですが」

「そうなると、七層から一層に移動する際に同行する探索者が出た場合にリヤカーはどうしてるのか言い訳が付かないし陰からこっそり出すこともできなくなるので、途中でリヤカーを保管庫に仕舞うのはかえってリスクが高いと考えて出しっぱなしにしてある」

「なるほど、たしかにその可能性はありますからね。帰りの時間に出くわす探索者も居るかもしれませんしそう考えると納得の着地点ではあります」


 うんうん、なるほどと頷いている芽生さん。


「今日は芽生さんが見ててくれるから安心して茂君の刈り取りに行けるな」

「じゃあゆっくり雑誌でも読んで待つとしますかね。何か出しといてください」


 前後左右確認して誰もいないことを確認すると適当に雑誌を出して芽生さんに渡しておく。その間にダッシュで茂君に行こう。


 走れば往復三十分で取って帰って来れることが解った以上、他に探索者が居なければダッシュでワイルドボアを引き連れながら中継ポイントの木までたどり着き、そこでワイルドボアが到着するのを待ちながら順番に狩っていく。


 茂君も同様で、茂君が騒ぎ出さないポイントまで来て、ワイルドボアを待って狩る。そして狩り終わったら茂君の刈り取りを終わらせて、保管庫に収納して終わりだ。今後はこの手順で行こう。


 さっさと走って帰って芽生さんのところまで戻る。帰り時間が早すぎてまだリポップしていないこの第六層の後半戦をダッシュで戻ることで軽い運動にもなるし何より時間効率がいい。思考が茂君にほぼ持っていかれるので考え事をしながらやる作業ではなくなってしまうのだが、ほんの三十分ぐらいなら大丈夫だろう。


 戻ってきてスーツをバタバタさせて、その後一回脱いでウォッシュ。その後シャツからスーツまで一旦乾燥させて汗っぽさをぬぐう。


「いい汗かいてきた感じがそそりますね。一仕事してきた男の風情が出てます」

「実際一仕事してきたからな。というわけでただいま。誰か通りかかったりした? 」


 念のため普段見てない視点での話を振ってみる。普段どのくらいこのリヤカーの状態を見られているのか、気にはなっている。


「そうですね、二パーティーほど見かけましたね。こっちをチラ見した後そのまま中央のほうへ向かったので多分小休止用のテントを七層に置いてるパーティーなんだと思いますよ」


 一応誰かが見ている可能性はかなりある、とみていいんだろうな。毎回同じパーティーとも限らないし、やはり目隠しテントの効果はそれなりにあるんだということが解った。


「じゃあ一層へ向かっておちんぎんの時間にしようか」

「そうですね、今日のところはとっとと帰りましょう。明日はどうしますか」


 エレベーターで一層に向かいながら明日の予定を組み上げていく。


「明日は六十四層の攻略だな。地図を全部作り切ってそれから六十五層という形にしたい。六十四層は稼ぎ場所としても悪くない所になりそうだし、エンペラ美味しいからな。定期的に摂取して食事のサブメニューとして何かしら一品毎回加えてもいいぐらいには気に入った。明日も一品だそうかなと思うがリクエストがあるなら寝るまでによろしく」

「では今の内に、酢味噌和えで一品お願いします。多分ご飯のお供にちょうどいいですね」


 酢味噌和えか、いいな。コリコリとして非常に美味しそうだ。確か家には辛子酢味噌のチューブの奴があったはずだ。それを使って試しに一品。でもエンペラを丸ごと酢味噌でだけ、というのも芸がない、もう一、二品何か作ってみるか。まずは刺身で一品と、後作ったばかりだが醤油バターも非常に食が進んだ。エンペラはそれで行こう。


 サブの食事が決まったところでメモを取り、明日のメイン食材は……回鍋肉か。作って余ったエンペラを回鍋肉に混ぜ込んでミソ炒めと誤魔化しつつ焼くのも有りだな。


「よし、明日の昼食は決まった。夕食はどうするかな」

「順番的には何が来るんですか? 」


 ローテーションメモ袋を取り出し、一枚とってみる。タンドリー何か肉だ。明日は手軽に作れる二品で乗り切れるらしい。


「タンドリー肉か。リクエストがあれば聞くけど」

「そうですね。余ってる肉なら何でもいいですが、ボア肉あたりでどうでしょう。取れたてのがあるはずです」


 取れたてのをピンポイントで指定して出すことは出来ないが、タンドリーボア肉とキャベツ、それからトマトも生のまま切って使ってしまおう。人参もピーラーで剥いた後細切りにして、インドカレー屋で食前に出てくるサラダのような物を一品添える。大体コース料理が浮かんできたぞ。


 メモ帳に明日のレシピを書き終えると、ちょうど一層に着いた。リヤカーを引いて退ダン手続き。


「お疲れ様でした。今日はいかがでしたか」

「一人で巡る地域を二人で巡ってきたので、手が多い分一杯手に入れてきたかと」

「それは何よりです」


 そのまま芽生さんは先に着替えに行ったので、一人で査定カウンターの列に並ぶ。帰りに差し掛かる探索者が多いのか、しばらく待つことになりそうだな。


 カウンターが二個に増えたとはいえ人が多ければそれだけ待つ時間も長くなる。より深く、より種類多くドロップ品を持って帰ってくればその分だけ時間もかかる。流石に新人も四カ月もすれば大体の者は慣れてきたようで四月当初に比べれば手際も良くなっている。


 芽生さんが着替え終わってもまだ順番は来なかったが、合計三十分ほど待ったところでようやく自分の番になる。六層で走って得た時間のアドバンテージがまるっと無くなってしまったが、後ろに並んでいる探索者のことを考えると走らなければもっと待っていたかもしれない。走って良かったと考えるべきなんだろうな。


 いつも通りに仕分けられた荷物を渡し、順番に査定にかけて行ってもらう。荷物を全て渡し終えたところで芽生さんにしばらく居てもらって、その間にリヤカーを返しに行く。リヤカーを元の位置に戻し終え、戻ったらもう査定は終わっていた。芽生さんからレシートを渡される。


 今日のおちんぎん、三千二百三十六万九千円。一人で巡ってもここまでの収入にはならないから、やはり芽生さんが居てくれたおかげでそれなりの稼ぎになったと言えるだろう。


「やっぱり二人で潜った分多めになったな。三十八層だけ潜った記録にしてもかなりのペースで稼げた。やはりまだまだこの階層でも美味しさは維持できるな」

「スノーオウルの羽根はまた別売りなんでしょう? 精々頑張って我々の睡眠の質をよくするために頑張ってください」

「それは布団の山本にかけるべき言葉だな。後、足りないのはスノーオウルじゃなくてダーククロウだからな。まああっちも協力してくれる探索者が居るみたいだし、俺の腕に全てかかってるというほどでもないみたいだから安心はしている」


 チームIHIはあれ以来顔を見ないけど元気でやっているのだろうか。早々に飽きてダーククロウから卒業してしまっている可能性もある。そうなっていた場合また俺の両肩に布団の山本の売り上げが左右されてしまうことになるので今度納品しに行くときに確認だけは取っておこうか。


 支払いカウンターで支払いを済ませると、バスまで少し時間があるからとの事で芽生さんについて行ってコンビニに立ち寄り。特に今日は買うものはないが、一日頑張った自分へのご褒美に何かしら買ってあげてもいい気がしてきたので、たんぱく質マシマシのサラダチキンを一つ買って帰ることにする。


 昼食と夕食と油脂分が多めの食事なのでここであっさりしたものを一つ加えておいてもいいだろう。後はキンキンに冷えたビタミン飲料を一本。最近ビタミンCが足りないような気がしてきていたのでちょうどいい。お肌にもいいはず。


 芽生さんは夕食に何品か品物を買い込んでいるご様子。後雑誌も買っていたので雑誌はその内俺の保管庫に来るような気がする。


 それぞれ個別で会計を済ませると、コンビニを出て早速雑誌を押し付けられた。


「じゃあこれ入れておいてください」

「わかった」


 バッグに入れたふりをして保管庫に収納。だんだん誤魔化しにも慣れてきた。よほど体積のあるような物でなければこの一連の流れるような動作で希少スキルを無駄遣いしているとは誰も思うまい。


 バス停で少し待ち、生活魔法で送風し若干涼しくなった風を浴びながら過ごしているとバスが来たので乗って帰る。


「明日こそは奥へ行けますかね? 」

「どうだろうな。七割ぐらいは巡ったつもりではあるけど、とりあえず……っと、この続きからだな。どうする、上流側へもう一度行ってその隙間を狙っていくか、それとも下流に行って水路を中心とした地図を完成させるか、ざっくり二通りある。下流が何処まで来ているのかも気になるからな。もしかしたらコの字を描くように流れている可能性もある訳で、そうなると探索しなければいけない範囲は随分狭まってくれるが、上流と同じだけの長さがあったと仮定するとこれまた広い範囲を彷徨う事になるぞ」


 明日は新しいマップを用意して下流側だけの地図を作ろう。運が悪くなければ昼に一旦階段までは戻れるからそこで昼食にして、午後からゆっくりと階段探しとしゃれこめるはずだ。


「新しい階層にしても六十四層は今まで以上に広くて巡りがいが……あると言えば有りますね。エンペラの美味しさを知ってしまった以上もう食事に一品付いてないと満足できなくなるかもしれません」

「あ、しまったな。せっかくなら中華屋の爺さんへの土産に二、三個置いてくるべきだったか。そうすれば美味しい中華になって戻ってくるかもしれないのに」


 エンペラもフカヒレもアワビも似たような物なのだから、爺さんに任せればきっと美味しい料理になって返ってきていただろう。もったいないことをしたかな。


「それもまた悩ましいですね。明日持っていきましょう。明日の夕食はもう決まった事ですし、明日の帰りにでも渡しに行って、後日美味しいのをご馳走してもらうという事で」

「そうするしかなさそうだな。楽しみは後にとっておくことにしよう。というわけで明日は階段探しがメイン、二番目が地図の完成、三番目が六十五層の探検、その三本立てで行こう」

「そうですね、六十四層の地図が出来上がらないことには最短時間で階段まで戻る道筋も見つけられそうにないですし文句なしです」


 駅について別れ自宅へ。さぁ、夕食は豪勢にワイバーンカツの食べ残しを平らげることにしよう。ご飯も少し残っているからそれで充分腹は膨れるし、もし足りなかったら買い足したサラダチキンがある。もし食い切れないなら明日に残せばいいし、明日の昼食と夕食のレシピも決まってる。


 今日は一通りいい探索が出来たな。夏休み初日としては中々悪くない成果を得られたと思うし、これから始まるひたすら潜る時期への試運転としては悪くなかったと思う。


 明日の準備のメモを取り外して各部署に貼り付けておく。これでド忘れしていつもと違う行動をし始めるということは無いはず。さっさと寝るとしよう、明日も頑張るぞ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
> 俺の懐に入ることになっている」 融通が効かないおじさん > それぞれソロで三十八層までは潜り込んで活動が出来る」 おじさんはカニうまダッシュマン(卒業)なのに。芽生さんのブーストもだいたい同じく…
芽生さんも結衣さんも、いっそのこともう一緒に住んでしまえば良いのに…と思わなくもないのですが。。 芽生さんは夏休み中はほぼダンジョン入り浸りですよね。 結衣さんも現状は小西ダンジョン専属で、車もある…
エンペラ、思った以上に芽生さんがお気に召していたようで 中華屋でプロの調理で楽しむのが楽しみですねえ
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