1053:夏休みの友
ダンジョンで潮干狩りを
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「何とか無事に面接終わりました。これからは夏休みになるので潜り放題ですね」
そんなメールに気が付いたのは朝だった。昨日はスーツを受け取りに行った後そのまま振り込みをして、最近働きづめだったのか疲れを感じたので早めに寝たのだった。どうやらグッスリ寝入っていたらしく、夜中とも言い難い結構早い時間にメールが来ていたにもかかわらず熟睡していたらしい。
「ずっと寝てた。お疲れ様。とりあえず初日いつ潜るか相談から始めようか」
今見たぞ、という形でメールを送信しておく。さて起きていつもの朝食を作るか。朝食を食べてる間に芽生さんも起きたらしく「今日からゆっくり潜るパターンを考えていくのでどうでしょう」と返事が返ってきていた。
朝食を食べ終わって一息つく。「昼食を作りながら作戦会議と行こうか。今から来れる? 後昼食のリクエストがあったら聞く」と送信しておく。
とりあえずダンジョンへ向かってそれから決めてもいいが、しばらく長い時間一緒にいる期間になるわけだし、短期目標中期目標とそれぞれ決めて探索に赴くのも有りだろう。
おっと、返事が来た。「揚げ物がいいです、カツとか行きましょう、肉はワイバーンで」
具体的なリクエストが来たところで揚げ物の準備でも始めるか。後、エアマットを複数並べておこう。芽生さんがこれが良いというエアマットがあれば六十三層ではそれを敷いておくということにする。それとは別に、二枚連結できるエアマットを用意しておいて、余裕があったらそれも敷いて……そうだな、今試せるな。ちょっと隣室に広げておいて寝心地を試してもらうことにするか。
揚げ物をやっている間に玄関から鍵が開く音が聞こえてきた。どうやら到着したらしい。
「さすがに暑いですね、おはようございます」
「おはよう。来てもらっていきなりで悪いが、ちょっと寝床の相談だ。リビングの隣の部屋来て」
「はい、今行きます。荷物は玄関でも良いですよね」
玄関に荷物を置きっぱなしにして芽生さんがリビングに入ってくる。隣室には購入したテントと、テントの中に三種類のエアマットと外にいつものエアマットが用意されている。
「試しに色々買ってみたので、気に入ったものがあればそれを使ってもらおうと思うんだけど、寝て試しておいて。その間に食事作り終わらせちゃうから」
「わっかりましたー。それー」
ぼふっと軽い音をたてながらエアマットに寝転がる音が聞こえた。流石に俺が同じことをやったらエアマットが破裂するかもしれんな。同じことをいくつになってもやりたい、という気持ちがあるが、良いホテルのベッドでもない限りはやめとこう。
芽生さんは飛び込んだ後はそれぞれの寝心地を色々確かめているようだし、その間に揚げ物を終わらせて昼食を作った後真面目な話と行こうじゃないか。
「私は感触的にはこれが良いですね。でも広く寝れるのもなかなか捨てがたいです」
連結タイプと黄色いすっぽり覆われるタイプで悩んでいるらしい。ならこの二つは持ち込み確定だな。残りは……とりあえず何かしらの初期不良や破損があった時のために予備として保管庫に入れておこう。
ワイバーンカツを揚げ終わり、よく油を切って切り目を入れていく。中までしっかり火が通っているのを確認すると千切りしたキャベツとピーラーで剥いた生のままの人参の上に載せて保管庫へ収納。これで昼食はヨシ、と。米も炊けたのでとりあえず保温にして今はまだそのまま置いておく。出かけるにせよ家で食べるにせよ、まだ焦る時間じゃない。
「さて、洋一さんが呼んだのは寝床の相談だけじゃないですよね? 多分他に何かありますよね」
「夏休みに入った、ということなので夏休み中の目標なりなんなりを考えておこうと思ってな」
ただ何も考えずに深い所だけを潜る、というのも芸がない。収集品なりポーションなり、集める物を集めて査定に回す物は回して、経済を循環させていくことが必要だ。もちろん金を稼ぐというのが大前提だが、その為にはダンジョンの先へ進んでいくほうが良いのか、それとも手前の階層で稼げる場所でしっかり集めていったほうが良いのか。その辺も加味して考える必要がある。
「六十五層を目指すのはまず大前提ですよね。その上で先へ進んでいつお金になるか解らない品物を集めておくのか、それとも今現金化できるものを着実に回収していくのか。どっちのほうが良いんでしょうねえ。将来性を考えてため込むか、現金化しておいて確実な収入プランを目指すか」
「後は潜る頻度だな。茂君にも通いたいしダーククロウの羽根集めの時間を俺がどれだけ取らせてもらえるかにもよる。なんかローカルルールで九時台と十八時台は俺のために開けておいてくれてある、みたいなところがあるんでその遠慮を有り難く受け取って素直に回収したい」
布団屋からせっつかれてはいないものの、あっちも在庫が結構ギリギリで回してるようなところはあるので余裕をもって納品にもいきたい。
「それなら毎日二回茂君でも良いですよ。その間に潜る、もしくは宿泊で深く潜る際だけ茂君へ行くのはなし、という流れなら時間もしっかり取れますし、洋一さんの狙いである市場に足りない商品の拡充や納品という面でも問題はないと思います」
「そう言ってくれると助かるな。後は週一日は休みというか、納品のために空けておく時間が欲しいのでそれもおいおい決めていこう。羽根が溜まり次第という話になるのである程度定期的に納品したい」
順番に今後の予定を決めていく。真面目に探索について語り合うのは何気に初めてじゃなかろうか。普段はその日どうするかをエレベーターで移動中に決めるぐらいのことしかしていないので、せっかく家まで呼びつけたのだし腰を据えて進捗確認や今後の予定について決める。
「六十五層からはどんなマップでしょうねえ。楽しみではありますし、ドロップ品にどんなものがあるかも気になりますねえ。モンスターも一新されますし色々と知るべきところが多そうです」
「次の一回で六十四層の地図が出来上がるかどうかだな。良い感じに探索が進めば、初日中に階段発見までは行けるんじゃないかな。その後はゆっくりデータを集めながら潜るのと、市場調査して何処のどんなドロップ品が足りてないのか、それを拾うためには何処の階層に潜ればいいのか。そのあたりを調べたりしながら世の中に金が回りやすい探索を心がけようと思う」
ノートに軽く図形を描いて需要、供給、ドロップ品等と書き記し、需要の高いもので他の探索者が取ってこれない部分について色々と書き連ね、それを供給していく、といった矢印を書き加えながら説明する。とりあえず夏休みの目標は査定金額ベースで四十億稼いでみる、ということになった。
「後、たとえばこの間洋一さんが生産をお願いしたみたいに、直接扱う店舗に対してドロップ品の卸しをしたりする可能性も考えているんでしょうかね」
「うーん、あんまり気前よくばらまいてもそれに終始しちゃうことになるだろうから必要分だけかな。在庫をある程度手元に持ちつつ、あとはギルドに全部納品するつもりではある。芽生さんも新しい槍が欲しいとか言い出した場合に材料が無くて作れません、みたいなことを防ぐためかな」
「つまり羽根は別として、基本的にギルドを通して売買するってことですね。流通量を増やすのが目的、というのも解りました」
「基本的に四十一層以降のドロップ品は自分たちでしか取れないという前提で考える。新浜パーティーが持ち帰る分もあるだろうけど、それはそれとしてそれ以外は自力調達するようなイメージで行ってくれればいい。だとすると、やはりまずインゴットの数の確保が大事だな」
インゴット、と書き丸で何度も囲む。やはりここのドロップ品は外せないだろう。
「B+ランクがどのタイミングで増え始めるかにもよるが、いわゆるワイバーン素材に関しては近いうちにドロップ品を持ち帰ることが出来る探索者が増えると考えられるので、自分が食べる分のお肉をストックする以外の理由でフラフラと回る可能性は低い。回るとすれば俺がひたすらスノーオウルの羽根を集めるぐらいだろうな」
「そっちのストックは大丈夫なんですか? 手元にあんまりないとかなら早速今日スノーオウルを狩りに行く、ついでにお昼で食べる分のワイバーン肉の補充という路線も考えられますが」
保管庫を覗いてみる。スノーオウルの羽根は複数回分の納品量がまとめて入っていることを確認、後二、三ヶ月ぐらいは大丈夫なことを確認するが、今の内に大量に取っておくのも大事かな、と考える所ではある。
「じゃあ今日はスノーオウル狩りに行くか。いつもより少しだけ遅いスタートになるがワシワシ狩ってワシワシ持って帰ろう」
「普段どのくらい持ち帰ってるんですか? 」
「そうだなあ、限りなく探索寄りの編成と持ち物と食事で行くとサンドイッチかハンバーガーか何かを齧りながら休憩なしで七時間ぐらい狩るから十キログラムぐらいは持ち帰ってることになるかな。流石に今日そこまでやるつもりはないけど」
「めちゃくちゃストイックじゃないですか。それをソロでやってたとまでは思いませんでした」
芽生さんから苦情が飛ぶ。だってそうするほうが一回でたくさん取って帰って来られるし楽だし収入になるんだもの。
「今日は芽生さんもいることだし、違う形で何かチャレンジしてみよう。例えばそうだな……普段やる時は三十八層をループしながら前の木、右の木、左の木、と順番に手元までスノーオウルを引き寄せながら倒してるけど、芽生さんが居るならもう二列ぐらい増やせそうだから普段の効率位のことは出来るかもしれないな」
ざっくり六割増しだから時間の短さを考えてもいつもと同じぐらいのドロップは期待できるな。芽生さんには一時的にバッグに格納してもらっておいて、増えてきたらこっちに渡してもらうって形でやるか。流石に百メートル以上離れた地点のドロップ品を回収なんてことは出来ないしな。
「まあ、実際にやっている光景を目にすることも必要でしょうし今日は言うとおりにしてみます。私もスノーオウルにどのくらいダメージが通るか気になるので試しということで」
「これで今日やることは決まったな。そして昼食も作り終えたし後は炊飯器ごと保管庫に入れれば準備は完了だ。三十五層に着いたら早めのお昼にして狩りの時間を長めにとれるようにしよう」
「七層で茂君、三十五層で食事、それからは……えーと時間を逆算して午後四時ぐらいまでは三十八層でひたすらスノーオウル狩り、帰りにまた茂君ってことですかね」
芽生さんが指を折りながら計算している。大体の目算が付いたところで納得したらしく、次には前に俺が教えた各階層の一時間当たりの収入リストを見て計算を始めた。
「大体このぐらいですか、予想収入」
芽生さんの手元の計算結果を見て、俺の記憶にある数字に近いものを出してくれていた。
「そんなもんだ。普段の五分の一ぐらいしかない。これで少ないと感じられる程度には我々は高給取りになってしまったな」
時計を見る。いつもの時間に比べて一時間遅れという所か。バスが残ってるかどうかが勝負の分かれ目だな。残ってなかったら最悪タクシー拾ってダンジョンへ行こう。今の我々の時間はエメラルド並みに貴重だ。
早速スーツに着替えると芽生さんに指摘される。
「あ、新しいスーツだ。出来上がったんですね」
「これでどれか破損してもまたどちらかが使える。その間に作り直しを頼めるし、服を交互に使うことで寿命も延びる。経費は掛かるが何年かかけて経費にする形にすれば最悪でも半額は経費で落ちるらしいし、気にせず使っていこうと思う。出来れば八割ぐらいは経費にしたいところだな」
「うん、いいですねえ。撮影もして結衣さんに渡しておきましょう……と、はい。目の保養になりました」
毎回ウォッシュをかけているから綺麗とはいえ、やはり新品のスーツと着慣れたスーツでは着心地が違う。こっちもしっかり使って体に馴染ませていかないとな。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も調子は絶好調。芽生さんと二人家を出ると、早速ダンジョンに向かうことにする。そう言えば新しい武器のほうの進捗はどうなっているんだろう。連絡が無いのが進んでいる証拠と考えるほうが良さそうだな。あまり頻繁に進捗確認をしてかえって機嫌を損ねてしまうこともある。今はそっとしておこう。
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