1052:アウトドア専門店
レビューを頂きました。ありがとうございます。
今日も気持ちよく起きる。布団には芽生さんが昼寝していった残り香が若干まだ残っている。今日は大事な日のはずだ、頑張れとエールを脳内で送っておく。レインで送っても構わないのだが、かえって気負いすぎるかもしれないからな。終わった! って通知が来た時にお疲れ様と返すようにはしておこう。
朝食を食べ終わり軽く時間つぶしのためにコンビニへ出かける。クロスワード雑誌の早めの補充をすると軽く立ち読みして帰る。いつもの雑誌の最新号はまだ出ていないが、今頃価格改定で何がいくらになったかとか、B+ランクの拡充の記事なんかの書き直しが発生して大変なことになっているんだろうなあと思っている。
原稿の最終期限まで多分まだ今しばらくの時間の猶予はあるとは思っているので編集部には頑張って欲しい所だ。
コンビニから帰ってもまだ時間がある。ネットニュースを見ると、やはりダンジョン関連は新熊本第二ダンジョンの話題でもちきりだ。当日から昨日一昨日にかけて何パーティーかの配信者が内部の様子を配信しながらダンジョンに潜っていた痕跡が残っている。
所々飛ばしながらの配信なので生中継をみるわけではないが、中々ドロップが面白いダンジョンではあるな。米と麦と、後手のひらより大きいサイズの巨大なブルーベリーがドロップしたらしい。巨大ブルーベリーか、いきなり飛ばしてくるな。最初はキノコ類から攻めてくると思ったが、いきなり巨大ブルーベリーか。
味はどうだったんだろう……と、確かめたがさすがに食べることまではしなかった模様。査定の後それなりの金額をもらっていたので、重さ査定だったのかもしれん。粒がそろってなくてもでかいブルーベリーというだけでお中元のインパクトとしてはちょうどいいな。
お中元と言えば、素麺セットなんかが出てきてくれてもいいかもしれないな。夏と冬には張り切って探索者が潜り込んでお中元用の品物を買い込みに行く探索者の列と、そのお中元を安く買いたたこうと並ぶ中間業者の呼び込み。そんな風景が思い浮かぶ。
他にも色々……これ、階層ごとの仕分けとかはどうなっているんだろう。ちょっと気になるが、知りたければ直接ガンテツに聞くしかないだろうな。近ければ足を伸ばすんだが、という残念な点を除いてはしばらく話題には事欠かなさそうだ。ネット越しで見れる範囲でダンジョンの成り行きは追っていこう。
時間になったので出かける。今日の目的はアウトドア専門店。普段使っているテントやエアマットなんかの器具で面白いもの、使いやすいもの、よく眠れるもの、そういうものに焦点をあてて探していこうと思う。
ショッピングモールの中にあるアウトドア専門店に足を向ける。アウトドア専門店で自前で店を構えているのはこの辺りでは少ない。大体の店はテナントとして店を持ち、短期的視点で見ると比較的安めのテナント料を払ってその分店の商品を大きく広げるのも狙いだろう。
また、集客も自前でしなくてもショッピングモール全体のお客さんからいくらかの人が足を向けてくれればそれだけでも価値がある、というのが方針なんだろう。買い物は昨日済ませてしまったのでこの店にしか用事がない、というのが今日の俺のスタイルだが、もしかしたら他の店の前で気になる商品が出てくるかもしれない。ついで買いが行えるという点で見ても、やはりショッピングモールという集客力は大事らしい。
周りを見るとお年寄りが多い。そういえば、健康のために歩きたいけど外が暑いのでかえって健康に悪い、そんなときはショッピングモールの中で歩き回りましょう、そのほうが涼しいし休憩できるし水分も補給しやすいので便利です、といったコラムを読んだ覚えがある。きっとそういうことなんだろう。
アウトドアショップの表を見る。この夏の軽装ということで、日差しを出来るだけ抑えて歩き回るのにちょうどいいトレーニングウェアが展示されている。その前を平服といった感じの年寄りが元気に歩いている。若干のミスマッチを覚えるが、若くて健康な人はこれでも着て歩けばいいんじゃないかな。
俺としては毎日ダンジョンで歩き回り走り回っているのでその点健康面では問題ないだろうとは思うが、内臓のほうはどうだろうな。健康診断の結果が来るまではちょっと心配ではある。
中に入り、早速アウトドア、キャンプ関連の商品が並んでいるコーナーを目指す。エアマットもテントもかなりの選択肢がある模様。近所のホームセンターとは……うーん、店の広さもあるからな、だが品ぞろえやメーカーの種類についてはこっちのほうが多そうな気がする。
出掛ける前にいくらか調べてきたエアマットの方向性や形なんかを考えると、今使ってる体に密着するタイプの真四角じゃないエアマットで方向性は合っている気がする。後はどれだけ寝やすいかにかかってくるんだが、実際に展示されているものはどちらもそこそこ、といった感じだ。
店員に相談するのが一番早いか。そういったアウトドア寝具専門の店員が配置されている可能性は高い。
「すいません、エアマット周りで悩んでいるのですが」
「エアマットですか、詳しいものを呼んできますので少々お待ちください」
やはり、専門家が居るらしい。その間に色々と見て回るが、どれもハンディサイズまで圧縮出来て自分で膨らませるタイプが主流のようだ。膨らませ方も手動、足踏み式、電動ポンプで入れると色々ある。この際どうやって膨らませるかは考えなくていいので寝心地を優先して考えることにするかな。
「お待たせしました。エアマットをお探しとの事ですが、お客様が第一に考えるエアマットの大事さは何ですか? 」
いきなりの切り口が優先度の付け方らしい。なるほど、話が早い。携帯性か眠りやすさか取り回しの良さか。どれを主流にするかでお薦め商品が変わってくるって訳だな。
「今二人でダンジョン探索してるんですが、いつも同じメーカーの同じエアマットを使用しているので、たまには違うメーカーの品やより眠りやすくて疲れの蓄積しづらいような物を、と思っています」
「なるほど、では眠りやすさが大事、ということになりますと、膨らませた状態での厚みのしっかりとあるものを選ばれるのが良いと思います。また、体に密着するほうがより眠りやすさに貢献すると思いますので……そうですね、この辺りの商品がよろしいと思います」
ササっと二つ三つのものが出てくる。短時間で一気に三つにまで絞り込まれた。専門家というのは伊達じゃないらしい。
形は二つは人の形をしているものらしい。そして一つは長方形だが、どうやらこれは二つを繋いで一つのマットとして運用が出来るもののようだ。並んで寝たり、テントの中を全面エアマットで覆いたいときなどに使用するとよいものなのだろう。
「どれも肩幅は六十センチ以上あって肩身の狭さを感じることはないと思いますし、一つは連結できる形なので、狭苦しさを感じることはないと思います。個人的なお薦めは、テントの広さにも依りますがやはり連結できるこのタイプの物が良いと思います。お二人で潜られている時、テントは共用でお使いならばこちらのタイプが猶更お薦めとなります」
なるほどな。テントの広さは充分あるからどれを選んでもいい感じか。
「その中で空気を入れやすいもの、となるとどれになりますか」
「こちらの商品ですと、やはり数十秒程度の誤差にはなりますが、先ほどお薦めした商品でしょうか。ただ、足踏み式で空気を入れる形になってますのでそれほど疲れたり口から息を吹き込んだりですとか、外付けの電動ポンプが必要だったりですとかそういう手間が要らないのも売りの一つになっております」
どれも大差なし、か。全部買って試してみる、というのも一つアリだな。一番体にフィットする物を選ぼう、という意味では全然アリだ、むしろ実際にそうして試してみるのが一番効率がいいだろう。最悪を考えても、一番にお薦めされた連結されるものはテントに出しっぱなしにしておいていつでも寝転がれるようにしておくという環境を維持するのにもいい。
「そうですね……試しに全部買ってみましょうかね。その連結できる奴は二個ください。実際に寝て試してみるのが一番良いと思うので」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます。エアマット以外に何か気になっている商品ですとか、そういうものがありましたらまたお声がけください」
エアマットをポンポンとかごに入れると、店員は満足そうに去って行った。いい仕事をしたな、と思っているのかもしれない。実際いい仕事だったと思う。こういくつも選択肢がある中でピンポイントで狙いの商品を持ち出してくるあたりかなりの知識量を持っているんだろう。またテント周りで悩んだらここに来ることにしようかな。
エアマット四枚で三万五千円ほどの出費。これは経費で落ちるだろう。レシートはきちんと残しておく。
経費と言えばそろそろスーツが出来上がるころだな。仮合わせには一度行ったことだし、そろそろ完成してもおかしくないだろう。スーツ三着そろえておけば一着がボロボロになったとしてもすぐに次に移行できるし、多少あぶない行動をしてスーツが破れたりしても着替えをすぐに出せるのは大きい。
買い物の金額としても大きいが、それでも一日の探索で充分おつりが来る範囲だし、何より新しいスーツは袖を通すととても気持ちがいいんだ。楽しみだな。
体格はそれほど変わってはいない。というより後は引き締まっていく段階なのでそろそろ腹筋も自慢できるぐらいにはなりつつある。ジムで鍛えて作った身体ではないのではっきりと見える範囲ではないが、触ったらちゃんと解る程度にはなっている。
メインの買い物は終わったので、いったん車に荷物を置きに行き、グルグルと歩いて回っている老人たちについていくようにあっちにフラフラこっちにフラフラ。色々と店を回ってみる。何か探索に活かせるようなものは無いかと二時間ほど歩き回ったところで昼になったので、フードコートに出かける。流石に休日ではないので人出はそれほど多くはないが、それでもちょうどいい時間なのでそこそこに混んでいる。
今日の昼食は……よし、久しぶりにインドカレーにしよう。ライスではなくナンのセットで、カレーはチキンサグカレーにする。多少は野菜も摂らないといけないからな。ないよりはマシ程度だが、それでもカレーに溶け込んでいる栄養分はそれなりにあるだろう。ナンを食べるのも久しぶりだ。
ホウレン草のギュムッという音と共にほぐれていくチキンにもカレーの旨味がしっかり入り込んでいておいしい。じっくり味わって……いや、ここはササっと食べてナンだけお代わりするという方向で行こう。
ちゃんと店舗を持っているインドカレー屋だとナンのお代わりは一枚までは無料、というところが多いが、テナント型のフードコードに設置されているこの店の場合、ナンは比較すれば小さいし一枚当たりいくら、といった感じでお代わり無料が付いてくることは少なく感じる。多分、カレーを頼んだことにしておいてナンだけ無料でもらうような行為をさせないための措置だとは思う。
ちゃんとナン代を支払ってもう一枚焼いてもらい、二枚のナンでカレーを食べきる。この店は……やはりインドカレー専門店に比べればちょっと物足りなさが強い。星二つという所だろうな。これでカレーが多いとかナンが大きいならもう一つ星をもらえるところだろうが、やはりフードコートという環境がそうさせるのか、雰囲気が無い。
あのカレー屋のBGMや謎のダンスビデオは装飾品としてカレーを美味しくさせる何かが隠されているのだろう。
食べ終わって帰るという段階でスマホに着信、出てみるとテーラー橘からだった。スーツが出来たらしい。家に帰ったら早速取りに行って支払いを済ませて、新しく二着の最高級スーツを受け取りに行くことにしよう。
テーラー橘に行く前に自分にウォッシュをかけて、カレーの匂いを断っておく。カレーの匂いを漂わせたまま店に行っては店の雰囲気がぶち壊しになってしまうからな。口臭消しも忘れずに買い求め、胃袋を裏返すように匂いの元を断つのだ。
さて、腹も膨れてスーツも出来上がって、後顧の憂いみたいなものは今のところ無いな。早く六十三層にテントを立てて、残りの六十四層も歩き通して六十五層への階段を見つけて、次のマップへ挑む。そういう準備は着々と進んでいた。
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