1050:リクエスト
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
ホームセンターでの買い物は無事済ませた。要らんものを大量に買い込むことも無く、芽生さんがこれ欲しい、といったようなものはある程度買いはしたものの、高い買い物はなかった。
次はスーパーだ。いつもの食パンと卵、キャベツを買いにいく。いつもの外付けのパン屋へ行くと、食パンを一本頼んでいつも通り六枚切りと十二枚切りを用意してもらって購入。ついでに菓子パンもいくつか買いこんでおく。賞味期限が今日まででも、保管庫に入れておけばお腹が空いたときに小腹を満たすためにちょうどいい感じのものとして機能してくれるだろう。
「なるほど、今日の朝食もここで調達してたわけですか。中々にお金を使ってますねえ、良い傾向ですねえ」
「無理をしない範囲で贅沢をする。これで時間をかけて探してこの一品でなくてはならない! ってものを見付けちゃうと、それを手に入れるために時間がかかる。時間がかかればその分だけ稼げなくなる。それではあんまり意味がないと感じ始めた。なので普段普通に生活してて手に入る範囲で贅沢をしよう、ということになってる。シチューやカレーに入れる人参もちゃんとブランド品が手に入るならそういうものを率先して買うように考えてる」
「時々やたら美味しい野菜が混じってるのはそういう理由でしたか。なんか甘味が強いな、とかえぐみが無いな、みたいなことは感じてましたが」
パンを買い終えたのでスーパー本体へ行く。まず、お高い卵を二パックとキャベツを二玉。これで朝食準備はヨシ。
カートを代わりに押してくれるらしいので買うものを選んでいく。レタス、トマト、ニンジン、ピーマン……と、後は米とおやつか。米も種類が色々選べるのでこれはこれでなかなか楽しい。
「今日は何処の銘柄にしようかな」
「高ければいい、というわけでもないんですね」
「まあ、食事に合わせてかなあ。米が甘いほうが美味しい料理や雑味が多いほうが美味しいとか色々組み合わせを調べていくのも楽しくなってきた」
「では今度あきたこまちで何か一品お願いします」
あきたこまちか……煮物か何かが良いかな。味を薄めにして、その分米の味が引き立つようにすればいいな。メモを取り出し「薄味の煮物+あきたこまち=美味しい」と記しておく。
あきたこまちの二キログラムの米をカートに載せて次へ。後確実に必要なのはミルコ用のおやつだな。まとめて三回分ぐらいを購入して分けながら渡していこう。
まずはコーラを箱で買う。これは必須だ。あと、ミントタブレットもそろそろ切れそうなのでこれも箱で補充。それ以外はまあ季節の限定ものだったり溶ける心配のないおやつを何点か。
「なんかミルコに食わせてみたいものが有ったら放り込んでいくといいよ。ついでに自分用でもいい」
「わーい」
子供のように色々とお菓子を見繕ってはミルコの喜びそうなお菓子を何品か用意してカートに載せていく。
「まて、知育菓子はやめとけ」
「なんでですか? 色が変わったりいろいろ面白いと思うんですが、そういう驚きは必要では? 」
「説明書きをミルコが読めない。粉だらけのお菓子を渡されたって僕にはどうすることもできなかったよと言い返してくる未来が見える」
「そうでした、じゃあこっち方面はナシですね」
すぐ棚に戻しに行くと、代わりに訳ありせんべいの大袋を持ってきた。そういうのでいいと思う。
「意外と考えてお菓子渡してたんですね、ちょっと驚きです」
「説明書きが必要だったりするものとか、出来るだけ乾燥材が入ってない食べ物とか。チョコが溶ける溶けないはまあ仕方ないとして何の説明がされてなくても口に入れても問題ないものを選んで渡しているつもりなんだ。なんだろう……幼児にそのまま渡しても問題ない食べ物という認識で選べば大体外れは無いと思ってるが」
一通り買い物を済ませたところで、昼食の話に向かう。お弁当コーナーにはちょうどこれからお弁当を買って帰ろうか、という人たちのために作りたてのお弁当が並べられつつある。
「ご飯はどうする予定だったんですか? 」
「さすがに一泊明けだから工数がかかる食事は作りたくないな。ここで気になるお弁当があれば買って帰ろうかなと思っていたわけだが」
「じゃあ私もそうしましょうかね。この店のお薦めはなんですか」
「揚げ物が俺の中で評判がいい。カラッと揚がっててサクサク感がまだ残っているうちに買いに来ることができたら万々歳というところだな」
「なるほど。えび天とかどうですかね。出来立てらしいですし今ならまだサクサクですよサクサク」
「すぐに買って保管庫に入れて帰って出せばサクサクがそのままだぞ」
「じゃあそうしましょう、すぐ買いましょう。洋一さんも早く選んでください。サクサクが逃げていきます」
苦笑いをしながら弁当をよく見る。ふむ……今日は焼肉と行くか。ちょっと量があるがコスパも悪くないし焼肉のたれも美味しそうだ。粒マスタードが目に見えて混ぜ込まれている焼肉のたれが目を引く。これで行くか。
弁当を選ぶと会計に。なんだかんだで一万円ほどの出費になったがまあ許容範囲。数日分の食料を買い込んだのでこのぐらいはするだろう、というところ。
「さて、帰ってサクサクを味わうぞ」
「楽しみですね。よほどご近所に住んでない限り味わうことのできないサクサク感が手軽に離れた自宅で味わえるというのは楽しみです」
ササっと車に戻り、まず荷物を保管庫へ。入れてしまえば後はこっちのもの。ゆっくり安全運転で家まで戻り、荷物は後回しにしてまず弁当を食べることにする。何をするにも腹が減っていては上手く事が回らないことはしょっちゅうだからな。
保管庫から出来立てサクサクのえび天弁当を取り出してあげると、芽生さんは天つゆをかける前にまず
一口エビを齧る。サクッといい音が聞こえた。
「いいですねえ揚げたて。この音を聞くために買ったと思えるところすらあります」
一人先に食事を始める芽生さん。負けずとこちらも焼肉弁当を開ける。良い肉の脂の香りがする。ガッツリ胃もたれしそうな、甘い、そして旨いであろう脂のにおいだ。大分張り込んでるな、この弁当は。早速肉を一枚食べると、濃厚なたれに粒マスタードが良い感じに絡んでいる。マスタード肉、有りだと思います。
マスタードの香りは残しつつ、醤油とみりんと酒と砂糖で味付けされた確かな焼肉のたれの味が舌を刺激して、そして胃袋に作動開始の合図を送る。うむ、良いぞ。ほんのりとだが砂糖やみりん以外の甘さがある。多分蜂蜜か何かをこっそりと隠し味で入れてあるんだろうな。
付け合わせのキャベツをもりっと食べて口の中を一旦リセットし、そしてもう一枚食べる。うむ、やはり美味い。肉にかなり予算を割いたのかご飯は少し少なめの印象だが、肉をメインとして押し出す以上ご飯が多少少なくなってしまうのは仕方がないことだろう。
他の弁当なら存在する大盛のプラス五十円のものが用意されていなかったので店としても予算ギリギリで美味しいものを、という信念に基づいた弁当を作り上げたに違いない。やはりあそこの弁当は信頼できるな。
ちょっぴりと申し訳程度に端っこに乗っているナムルのようなものを挟み、ご飯を食べる。タレが良い感じに染みていてこれもまたいける。ご飯大盛があればなあ、という気持ちでいっぱいだが、その場合は今度はタレが一杯だったらなあ……と永遠に交互に思い続けていることだろう。ここで弁当は完成されていると自分に信じ込ませることが必要だ。
焼肉を前面に出している都合上、焼肉とご飯とナムルっぽいものとキャベツ以外の具は乗っていない。シンプルだがそれでいい、という一品を確かに味わった。また新しい種類の弁当が出たら買って帰る気分にさせる地元スーパーには今日もありがとうを言いたい。
俺が感想戦をしながらしきりに味わっている間に芽生さんはキッチリ自分の分の天丼を食べきっていた。途中で肉一枚交換しませんかとも言いだしに来なかったあたり、よほど気に入っていたのだろう。最後の米粒一つまで綺麗に完食している。
「一品ですが満足しました。洋一さんが推すだけのポテンシャルは秘めてましたね。納得の出来でした」
「それはどうも……と、お茶でよろしい? 」
若干温くなったお茶のペットボトルを出す。冷えているとお腹を壊すからこのぐらいのお茶のほうが飲みやすかろう。触って程よい冷たさであることを感じ取ったのか、素直に受け取って飲み始める。その間に容器を洗って分別。後はゴミに出せばヨシ、と。ついでに保管庫の洗い物も済ませてしまおう。しばらく流し台で作業をしてる間に芽生さんはリビングのソファにもたれかかってゆったりしている。
緩やかな時間がしばし流れる。ちょっと休憩した後、二人でテントとエアマットを組み立てることにした。作業手順書を確認しながら一つずつ確かめつつ、リビングでテントを組み立てる。組み立てた後、中に入ってきちんと機能しそうかどうかをチェック。流石に地下水路だからと定期的に水が流れ込んでくるようなイベントは無いはずなので置いておくのは問題あるまい。
「さて、次回以降の安心も取れたということで……イチャイチャしますか? 」
「明日面接なんだろう? 余裕あるじゃないか」
「余裕綽々ですよー。ほれほれ」
そういいつつ抱き着いてくるが、若干震えているのが解る。逆に余裕がないから気分を晴らしたい、という所だろう。好きなだけ抱き着かせておこう。
しばらく立ったままむぎゅっと抱き枕のように抱きしめられたままでいる。芽生さんの死角になる所で部屋の片づけやらテントを格納したりやらはしているが、されるがままになっている。
二、三分そのままでいると、満足したのか体を離してきた。
「ちょっと落ち着きましたね」
「そうか、じっくり抱き着きたいならもうちょっとそのままでもいいぞ」
「立ったままだと疲れますから何処かで横になるほうが良いですね。出来れば何もせずにひたすら甘やかしてほしいです」
芽生さんには珍しい言葉が出てくる。珍しいことを言うな……とか発言するべきではないんだろうな。とりあえずスーツを脱ぐと部屋着に着替えて自室に招き、新品のエアコンがつけっぱなしになっているベッドの上でしっかりと抱きしめることにする。
芽生さんを抱きしめながらしばらくすると寝息が聞こえてきた。やはり疲れがたまっていたのか、それとも明日の緊張がほぐれたのか。俺もこのままちょっと仮眠するかな。急ぎでやることもないし一通りやることは済ませた。眠って体力を回復して、それから何かするでもいいだろう。
今はゆっくり休ませてあげよう。頭の下にダーククロウの枕をそっと忍ばせ、俺もダーククロウと芽生さんの香りを楽しみながら一緒に寝る。特別な運動とかはいいや、芽生さんが落ち着いて眠れてその後気持ちよく起きられて気分的にスッキリしてもらうことのほうを優先しよう。
しばらくうとうととしていると、俺もしっかり眠っていたらしい。気が付くと芽生さんは腕の中からすっぽり抜けだしていた。ちょっと家の中を探すとリビングでコーヒーを淹れて飲んでいた。
「あ、起きましたか。おかげでなんか気持ちが楽になりましたよ」
「それは何よりだ、明日への緊張は多少ほぐれたってところか? 」
自分の分もコーヒーを淹れる。リビングの机に座りながらゆっくりコーヒータイム。ミルコに出す予定だったお菓子を一つ開けて二人で食べながら談笑タイムとなる。
「そうですね。頭もスッキリしましたし、話す内容聞かれた内容に対してどう切り返していくか、みたいなものは出来上がりつつあります。後は……予想外の質問やディスカッションになった時に何を発言できるかとか、そのあたりですね。まあなんとかやってくるつもりではありますが、落ちた時のことよりもこの先何が出来るのかを考えるほうが前向きな姿勢のような気がしてきました。真中長官のことですから正面玄関以外にも何か手立ては打ってきそうな気もしますし、二次募集みたいな形で中途採用されるのも悪くないかなって」
たしかに、芽生さんは真中長官にとっては欲しいコマの中の一つだろうし、何かしら手立ては考えていそうではある。そこまでして確保したい人員の一人ではあるのだろう。最深部探索が出来る探索者が目の前で零れ落ちていくのをただ見ているしかできない、みたいなことはないはずだ、それを信じておこう。
「さて、じゃあ私帰ります。たっぷりと充電しましたし、明日に向けて早めに寝てバッチリの姿で面接に挑むことにします」
「前乗りとかしなくても大丈夫なの? 当日になって事故やら通行止めやらで試験時間に間に合わないってこともありうるぞ」
「そうですね……今から予約して今日中に泊まれる宿を探すのも有りかもしれませんね。考えておきます。でもよほどのことが無い限りは大丈夫ですよ」
そう言い残し、芽生さんは飲みかけのコーヒーを残したまま帰って行った。もったいないのできっちり飲んでおく。片づけを終えた後は保管庫と冷蔵庫の整理、一通り終えたら……さて、ネットでも見るか。
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