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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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105/1221

105:ギルドマスター級会議って書くとなんか格調上がるよね

 


 side:ダンジョン庁



 時間は少し戻る。


 ダンジョンギルドではようやくスライム騒ぎの原因をつかんだらしく、各々のダンジョンで対応策に乗り出し始めた。


 入場制限を始めるダンジョン、一時査定を中止するダンジョンが出たものの探索者からの抗議により泣く泣く査定作業を再開したダンジョン、事件現場である東海地方から遠すぎたため難を逃れたダンジョン、悲喜交々であったが原因の三勢食品にたどり着き、協議を開くことから始めた。


 協議すると言っても全国から集まるわけではなく、ネット回線を利用した会議であるので多少のラグや機器の設置、機器操作の対応などから若干の遅れは発生したものの、協議自体は始めることが出来た。


 主な出席者は東海地方各ダンジョンの課長級……つまりギルドマスターと部長級である関西地方管轄長、中部地方管轄長、東海地方管轄長、それとダンジョン庁トップであるギルド統括である。あえて横文字で表現するとギルドマスターマスター、もしくはグランドマスターだ。


 ギルドマスターが東海地方に限定されて参加するのは、主な発信源がこの周辺であることと、原因であるバニラバーの製造工場が東海地方に存在するからであり、最も影響を強く受けるであろうダンジョンはすべて参加することになった。


 召集されるまで状況を理解していないギルドマスターも居たが、上下間の報告についてうまく連携が取れていなかったのか、それとも忙しすぎてネットを探して理由を探す暇が無かったからである。


 また、同じ影響を受けたダンジョンのギルドマスターも発言権は無いものの自由参加が認められていた。


「で、どういう対応をしていくかですが」


 ギルド統括長である真中が第一声を発する。


「そもそも、対応と言ってもスライムのドロップが増えたことに対する対応なのか、スライムに餌付けをすることについての対応なのか、ダンジョン入場者に対する対応なのか、それすらまだ決まっている段階ではありません。ですので、こちらとしては喫緊の課題として、スライム素材の査定についての意見を募りたい」


「素材査定を一時中止して、探索者の猛反発にあい結局再開したダンジョンもあるという話ですが」

「実際に行ったダンジョンの管理者として、失策であったとしか言えません。申し訳ない」

「なにせ降って湧いて出た課題です。やれることをやるしかないでしょう。この際の対応のミスや責任については問うことは出来ないでしょう」


 清州のギルドマスターが他所のマスターをつつきにかかる。これはあくまでも確認であり、嫌がらせのつもりはない。


 各ギルドマスター同士の仲は悪いどころか良好なため、お互いを責めるというよりは状況の確認というほうがより表現として近いだろう。



「それは有り難い申し出ですが、現状こうやって会議をしてる間にも探索者はスライムに餌付けをしてドロップを確定させて持ち帰る有様です」


 時刻は十九時。小西ダンジョン担当の坂野としてはもうお家に帰りたい時間である。が、出席必須とされた担当ダンジョンのギルドマスターが全員出勤している時間がたまたまこの時間しかなかったので参加せざるを得なかった。肩書上、残業代は出ない。


「元々利用者の多いダンジョンではそこまで大きな影響はないでしょうが、小規模ダンジョンの対応人数の少ない部署では査定・精算業務に既に過大な負荷がかかっております」

「餌付けを中止する勧告を出したとしても監視カメラがあるわけではありませんし、止めることは実質的に不可能です。真面目に守る探索者とコッソリ餌付けして持ち帰る探索者に溝が出来、変な対立を生む結果になるのは目に見えております」


 爆心地である東海地方から離れた関西、中部のダンジョンでも同様の現象が確認されているため、外野のギルドマスターは発言権が無いにせよ、そのやり取りには傾聴していた。明日は我が身かもしれないのである。


「そもそも、なぜ特定のメーカーの特定の食品の特定の味にだけ効果を発揮するのか、その根拠すら解っておりませんので」

「発見者の報告レポートみたいなものはファックスで送ったはずですので各長の手元にあると思いますが、これがまず何処のダンジョンで行われたかも不明であります」

「今まで良く発見されなかったな、と思うような内容ですな。この特定のメーカーでないと効果がない、という事に根拠は」

「探索者の意見交換用の掲示板で日本各地で、場合によっては海外のダンジョンでの報告も上がってきているようですが、他メーカーのものでは効果がないそうです」


 とりあえず現在最も情報をかき集めている清州ギルドマスターが首をひねっている有様である。他のギルドマスターによってはその情報源すら見つけられていない者も居た。


「信憑性は? 」

「複数人が各々違う場所で実験を行っている模様ですが……冊子にある検証スレッドですか? ここに上がっているものを見る限り、メーカーと製品が特定されている以上、原料か製法かどこかにそれを決定づける手順があるものと推測されます」


 各ギルド長が次々に意見を出す。お互い大小のダンジョンの違いはあれど、対抗意識が少ない組織であることがこの際にいい方向に働いていた。


「やはり、査定側での調整が必要でしょうな」

「生産者にも問い合わせて一日どのくらいの生産量を、つまり、各ギルドの人口比率から考えてどの程度のスライムドロップが予想できるかを検討する必要もありそうです」

「買い取り量の制限をかけるとか」

「一日の買い取り量を制限したとして、買い取られない探索者からの反発が予想されます。それに、後日に持ち越されるだけで最終的に何の解決にもならないと思われますが」


「一つ、よろしいか」


 小西ダンジョンのギルド長、つまり坂野ギルドマスターが意見を出す。


「査定側の調整と言いますと、ざっくり言ってしまえば個数ではなく重さで査定する、という事になろうかと思われます。まず、スライムゼリーの平均重量、魔結晶の平均重量と、魔結晶を査定する時の重量価格に対して、スライム魔結晶の重量価格がどのくらい乖離しているかを調べなければなりません」


 それは安村が坂野に事前に言ってたものとほぼ同じ内容だ。やけに具体的な話をしてくるなぁと坂野はあの時思っていたのだが、こうなることまである程度予想がついていたのだろうと今になって思う。


「なるほど、個数に執着するからこその査定問題か。しかし、スライムの魔結晶は大きさに比べて買い取り価格が高い。査定価格の低下は免れないと思いますが」

「そもそも、探索者救済の目的でスライムの魔結晶の買い取り価格を意図的に高くしていたのです。それを本来の価格に戻す、という形になります。ただ、反発は大きいでしょう」

「いくらになりそうかね? 魔結晶は」


 グランドマスターからの一声で一瞬会議が止まる。事前に重量測定と平均値・中央値を計算しておいた坂野がはっきりとした口調で答える。


「おそらく重量単価で六十円から七十円ほどになるかと」

「スライムゼリーはどうなりますか」

「現在の一個当たりの価格が三十円と仮定して、平均重量から概算を割り出していくだけですから、こっちは価格改定してもほぼ変わらないことになるかなと。一個あたりとしては二十円から三十円にばらけることになりますが、重量としてまとめて試算してしまう形にすれば何個あったかはさほど問題にはならないと考えます」


「そうなると、スライム一匹の価値はドロップ確定で百円以下になるって事ですな」

「カロリーバー一本百円として、半分食わせて百円ですから一匹当たり五十円の利益を確保させることは出来そうですね」

「一分に一匹狩る算段をするとして時給三千円ですか。それでも十分な収入に聞こえますが」

「彼らは我々より収入が多い。だからちょっとだけ我慢してくれという訳ではないが……あぁ、私も探索者に戻ろうかなぁ」


 元探索者だった清州ダンジョンギルドマスターはぼやく。


「その路線で行くのが最も穏便にかつまともに行きそうな線ですが、魔結晶価格が下がるのは強い反発を生むのではないですか」

「確かにそうです。更にいえば、スライムの本来のドロップだけ期待してる人にとってはスライム自身の価値を下げることになります」

「価格を下げることで各階層間の密度を減らしていくしかないですかね」

「現在はスライムだけが出る階層からはみ出て他のモンスターが存在する階層でもスライム狩りをメインにして他のモンスターをついでにやっている位の有様です。清州ダンジョンでは、スライムより人のほうが多い時間帯があるぐらいですから」


「職員の負担が減ることについては賛成なのですが、果たしてうまくいくかどうか」

「三勢食品の製品販売圏内のダンジョンについてはそれでいいでしょうが、他の地方のダンジョンが納得するでしょうか」

「件のバニラバーですか、それを手に入れられない探索者にとっては……ええと、以前探索者から聞いたドロップテーブルですか、それによるとスライムの現在の価値は一匹当たり十五円だそうです。それが無断で全国共通で値下がりするということになりますと、反発以外何も得られないと思うのですが」

「我々には何の権限も無い。ですから食品の生産の停止を要請することは出来ません。つまり、完全に後手に回るしかないわけでして」


打つ手なし、という事である。ギルド側は今回は受け身に徹することになる。


「それについては部長級以上から各方面へ連絡して頂くしかありますまい。後、査定のシステム更新にも多少時間がかかりますが、これを突貫工事で変更してもらうようシステムを作った業者に要請しなければなりません」


「納得してくれるでしょうか、探索者達は」

「仮に三勢食品がより販路を拡大した場合の事を考えると、全国のダンジョンで共通して価格改定をするのが最も効果的であると考えます。地方によって価格の変動が多くなれば、探索者によっては家で狩って余所で売る、みたいなことが起きなくはないですが、それも総量に比べたら大した量にはならないでしょう」

「スライムの魔結晶およびスライムゼリーの買い取り形態の変化による価格改定で各ダンジョンの利益もその分だけわずかに増加することも考えると、メリットが多く感じられます」

「三勢食品に電話がつながれば詳しい事、つまり生産量と消費量に対するスライム素材の増加割合を考えることも出来るでしょうが、現在どうも電話回線がパンクしてしまっているようです」

「まぁ、この騒ぎですからな。つながったとしたら多分電話番号を間違えた時ぐらいでしょう」


 ハハハ……と笑いが漏れる。笑い事ではないのだ。本来ならこの場に三勢食品の生産部門に当たる人物を招聘してしかるべきなのだが、それすらできないほどあちらは忙しいらしい。


 一地方の生産工場に今そこまでの余力は無いのだろう。皆そう考えていた。


「ではこの会議の意見として、スライムゼリー一個当たりの重量に対する価格によりこれからは重さで買い取り価格を決める、スライム魔結晶も同じく他の魔結晶に合わせて重量で価格を決める。この二点について全ダンジョンにお伺いを立てる、ということでよろしいでしょうか」

「他に妙案があればいいのですが、どうもその意見が一番困難なく事態を収拾できそうです」


 結局坂野の意見は一定の説得力でもって通った。これも安村の予想通りなんだとしたら、彼は大した人物だと坂野は思った。


 この予測を立てる余裕がある、つまりこのお祭り騒ぎを冷静に観察できる理由はなんだったんだろう? もしかして彼が当事者なのかという予想を坂野は立てるが、それを口に出すには何も根拠がない。


 とりあえず、思ったより早く家に帰れることと、一週間はこの地獄の精算作業を続けることになりそうだな、という予想でもって会議は終了した。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 各ギルド長が出勤する時間がたまたまこの時間 19時に出勤ですか? どちらかと言えば、退勤前に時間が空くのがこのあたりなのではないかと。
[一言] なんで全部まとめて重さではかろうとするのか…… スライムだけ別で改めて重さ図ればいいやん それなら変に値下げしなくていいのに
[一言] 三勢食品さんがライン増設していたら気の毒…。 現地訪れて工場長さんにオンライン会議の日時知らせるくらいはギルド側がしてもよかったのに。
2022/10/14 09:26 退会済み
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