1048:帰りの報告会
ダンジョンで潮干狩りを
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二人分の朝食を作り終わり、この薄ぐらく少し湿っぽい気がするような……ジメッとしてそうな感じがするのは四十九層といい勝負か。ほこりっぽい五十六層とどっちがいいかと考えたら中々難しい所だ。やはり五十七層の回廊部分で取るのが場所としては似合っているだろう。
「ケチャップありますか」
「あいよ」
保管庫に色々入ってるであろうことを見越して調味料を要求されるが、完全に要冷蔵でない限りはほとんどのものは入れてある。無いのはポン酢ぐらいのものか。他の調味料はそろそろ温度が上がりそうかもしれない、と感じたあたりで一晩冷蔵庫に戻し、改めて収納しなおすという一手間を使っている。
温度変化も百分の一になっているから二週間に一回ぐらいのペースかな。ついでに残りの量も判別できるので便利に使わせてもらっている。本来はめんつゆなんかも要冷蔵なんだろうが入れっぱなしにしているな。後は密閉容器で保存することが好ましい色々なものだが、保管庫の中が酸素で満たされているというわけではないらしいというのがこれまでの研究や調味料以外の食品の味の変化などで解ってきている。
イメージ的には真空パックにして一定温度で保存している、というところか。徐々に温度が上がっているのは確認できているので、やはり保管庫にも常温という温度が存在しているらしい。それが何度なのかまではまだ解っていない。物によって常温が変わるものもあるので科学的にこの温度に近づこうとしている、ということが判別するのは難しいのだろう。
せっかくなので俺もたまには目玉焼きにケチャップをかけるか。普段は何もつけずに食べているが、ダンジョン内に丸一日居たおかげで少し味の濃いものを恋しくなっているのかもしれない。今日のお昼は何にするかな。コンビニで味の濃いものを求めるか、それともスーパーで買い出しのついでに何か探すかしよう。
キャベツもきっちり二人で食べきり、皿を綺麗にしたところで食事の時間が終わり、少し食休みの時間を取る。芽生さんは食後の運動とばかりにこのドーム状の広間をうろうろしている。何かあるのかな? とも思うが多分何もなくて純粋に暇を持て余しているんだろう。
その間にこちらは移動準備だ。食事の跡と椅子と机を片付けて六十三層には今は我々とリヤカーしか存在しない。何とも贅沢な空間を二人占め、というわけだ。しかし、この広さで足りるのかな? という不安も若干残る。他の階層から探索者達がここまで下りてくるようになったらおそらくテントを張る場所も少なくなり、場所取りで諍いが起き始めるかもしれない。
土地がダダ余りしている七層みたいにはうまくいかない、ということだな。あまり遅くに現れた探索者には、自分のテントがある他の階層まで戻ってから休憩を取ってもらうような二度手間をその内要求するようになるのだろう。
まあ、そうなるのも何年か後の話になるだろうし、そこまで早く追いついてくる探索者が居るとは考えにくいか。しかし、一年ちょっとでここまで来てしまった自分たちを考えるとそう遠い話ではないのかもしれないな。
「帰るよー」
「はーい」
うろうろしていた芽生さんを呼び止めてエレベーターのほうへ向かう。エレベーターの脇には軽くスペースがあるのでここがリヤカー置き場になりそうだな。そこに駐車しておいたリヤカーを引くとエレベーターに乗り込み……九ボタン分だから四万五千円相当分の魔結晶が必要になった。ちょっと中途半端だがエレベーター移動用に保管庫に入れてある魔結晶から適当に出来るだけ無駄が無いように放り込むと、一層のボタンを押す。
今から四十五分暇な時間が出来る。思えば遠くへ来たもんだ。たった四十五分でたどり着けるともいえるし、エレベーターなのに四十五分もかかるともいえる。エレベーターの高速化は課題として取り組んでもらう必要があるかもしれないな。
その内ミルコに要望を……その要望のために貸しを一つ使うというのもありだな。この時間が半分になってくれるだけでも充分ありがたさが伝わる。もしくは、燃料分だけ早く到着してくれるとかでも良いだろう。
エレベーターに揺られている間に今日の戦果を確認するためにいつものエコバッグに仕分けて取り出す。
とはいうものの、今回査定に出せるのはヒールポーションのランク5と青魔結晶のみ。キュアポーションのランク5らしきポーションはサンプル品としてギルドに一時的に預かってもらうことになるし他のドロップ品はまだ査定にかけることはできない。食べることは出来たな。
メインで潜っていたのが六十一層以降であったので、その総額はそう多くない。ほとんどは青魔結晶での収入ということになるだろう。
現状で一番おいしい階層はどこか? と問われると、将来性では六十四層、現状では五十九層という回答になるだろう。五十九層で一時間籠っていれば四千万円ほどの収入になりそうではある。これに鎧の破片の査定が加わればもうちょっと上にはなるかな? というところだ。
ところで鎧の破片って、やっぱりあのインゴットで作られているのかな? ということはアルファ型……そういえばあいつらの正式名称聞いてないな。あいつらと同じ素材で出来ているということになる。リビングアーマーは主にあいつらで出来ている、ということになるな。
地上に戻ってギルマスに会ったらアルファとベータの名前も聞いておかないとな。インゴットはダンジョニウムという仮称を与えられているのでいいが、あいつらの魔結晶を拾った時にいつまでもアルファとベータではかわいそうだろう。こっちでの名前をきちんと保管庫でもつけてあげたい。
「うーん、一晩の割にそこそこって感じの儲けでしたね」
「まあな。でも六十四層でしっかり歩き回った分と、おそらく五千七百二十万円になるであろうポーションが四本拾えたのは確実に美味しい。あれだけで二人の取り分が一億増えることになるから、後日ダンジョン庁にその請求書は回すとしても現状最深層であるだけの美味さはあったと思うぞ」
とりあえず仮計算をしておく。甲羅やエンペラ、ワニ革の金額を省いて魔結晶の大きさから値段を把握して……よし、雑感で出た。
「大体一匹七十万円ほどになるかな。五十九層をグルグル回るのと同じぐらいの収入にはなりそうだ」
「だとすると緩衝地帯みたいなもんですかね。確実に美味しいと言える品はエンペラぐらいですか」
「味的な意味ではそうだな。あとはまあ追々時流に任せて稼いでいくとするさ」
まだ時間がある。四十五分というのは意外と長い。クロスワードを一冊新しく買いに行って正解だったな。お互いもうやることも無いので早速二人で解いていく。クロスワード以外にも数独とかそういうのを何冊か仕入れるのも悪くないな。おつむの体操にもなるしボケ防止にも良さそうだ。
なんやかんやでクロスワードで盛り上がってる間に一層へちゃんと着いた。エレベーターの稼働確認ヨシ。これで次回からもちゃんと使っていける。
「んー、ほぼ一日ぶりの地上ですね。そういえば丸一日以上ダンジョン付近に居るのは久しぶりのような気がします」
「なんだかんだで朝七時から仮眠は取ったとはいえ活動してたからな。そう考えるとなんだか疲れが押し寄せてきたような気がする」
退ダン手続きの後査定カウンターへ。ほぼ一日ぶりで同じようなものを提出するので不思議がられたが、今日一日でかなり進捗が進んだことを考えるとちょっと収入としては少なくなるかもしれないが、まあ収入目的なら五十九層に潜り込めばいいし、明日からどうするかが悩みだな。
青魔結晶と査定できる範囲のポーションを査定してもらって、五分で決着。今日のお賃金、九千七百五十八万円なり。確かに丸一日使ったにしては少ない。しかし保管庫にはまだ未査定のポーションとドロップ品がまだまだあるので、こいつらが査定可能になった時が楽しみだ。
芽生さんの着替え終わりを待ち、レシートを渡すと、やはり少し不満気。
「もうちょっと稼いだ気がするんですけど、やはりドロップ品が査定不可能なのが大きいんですかね」
「多分な。特にポーションは大きい。もしポーションがちゃんと値付けされてれば……二倍にはなってたかな」
「ならそれで納得したことにしておきましょう。さて、ギルマスの所行くんでしたっけ? 」
支払いカウンターで振り込みついでにギルマスの出勤を確認、ちゃんと出勤しているようだ。えらい。そのまま二階へお邪魔し、ギルマスルームの扉をノック。
「あぁ、一分待ってね。それからならいいよ」
何やら朝からお忙しい様子。一分待てとのことだったのできっちり一分待って再度ノック。
「もういいよ、どうぞ」
「失礼しまーす」
「おはようございます」
ギルマスは机の上を片付けていたらしく、早朝から何かしらしていたようだが俺達の訪問で一旦止めたらしい。見せては不味い書類ってのは確かにあるからな。
「今日は……うーん、もしかして一晩潜って帰ってきたところかな? 」
「そういうことです、で、ご報告とお願いと色々と話のネタを持ってきました」
ギルマスはなるほど、と答えると、早速話を始める。
「まず、六十三層まで到着したのでその報告を。それと、ダンジョン庁に鑑定してもらいたい品物があるのでそれをお願いに来ました」
「六十三……あれ、ってことは六十層のボスは倒したの? 」
ギルマスは不思議そうにしている。報告したのは芽生さんだから……と、そっちに視線を送ると芽生さんとも視線が合う。あぁ、なるほど、そういうことか。と二人で納得してギルマスに向きなおす。
「真中長官には報告したんですが、その話が下りてきてなかった、ということですね。六十層のボスはちょっと前に無事撃破しましたよ」
「出来ればボス討伐した時に報告してほしかったなあ。まあ、詳細は真中長官に聞けばわかるか。で、六十三層までは無事に潜れたと。それは解った。ミルコ君からは何か貰ったかい? 」
「今のところ何も。貸し二つで待ってもらっているところではあります。で、ついでに六十四層もめぐってきたんですが、かなり厄介でしたね。モンスター密度が高かったこともありますが、六十四層の広さが小西ダンジョンでは過去例がないほど広かったですね。結局六十五層への階段を見つけられなかったので後日チャレンジすることになります」
坂野ギルマスがメモを取り出し、六十四層は他のダンジョンでも広いかもしれない、とメモを取る。おそらくギルドマスター会議に向けての備忘録だろう。うちのダンジョンはもうここまで潜ってるんだぜイエイとマウントを取るための材料にでもするつもりなのだろう。
「六十三層、六十四層については解った。六十三層はセーフエリアのはずだよね。充分に休憩できる広さはあったかな? 」
ギルマスが芽生さんのほうに向けて質問をする。ちゃんと受け答えできるかどうかのテストでもやっているのだろうか。
「そうですね、小学校のグラウンドぐらいの広さはありましたからテントを張って休んだり調理器具を持ち込んで調理したり、ということに関しては問題ないと思います。また、エレベーターホールに当たる部分にちょっとしたスペースが出来ていたのでリヤカーを直接乗り付けることも難しくないと思いますし、実際そうしてきました。なので大規模な人数の移動が行われる未来は解りませんが、現状では問題はないと思います。ただ、四十九層みたいにちょっと湿っぽいマップではあるので生活スペースとして利用するにはあまり向かないかもしれません」
芽生さんが俺に代わって報告をする。これも面接や就職した時のことを考えてのことだろう。何事も積み重ねだ。俺が居ないときでもこうしてちゃんと受け答えが出来ているかどうかは大事なことだぞ。
「現状で考えるに、一番狭いセーフエリアというとどこが該当するかね? 一応ギルドマスターとして自分のダンジョンを把握するうえでも参考までに聞いておきたい」
再び芽生さんへの質問が続く。俺は芽生さんにヘルプを求められるまで黙っていることにするか。二人の視線が芽生さんに注がれる。
「そうですね、体感ですと二十八層か十四層が一番狭いと思います。今Bランクが増えてきてますし、彼らがB+ランクになって三十五層付近に移動し始めるまではずっと混雑を続けているんじゃないでしょうか。確か私たちも二十八層のテントを撤収させてもいいかもしれない、みたいな話をした覚えがあるので。逆に広いのは七層と五十六層だと思います。どちらも露天環境で階段と階段の距離も遠く、その間にテントを張る意味でもマップ的な意味でも広いのは間違いないと思います」
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