1045:深夜戦に突入する! 前の一休憩
ダンジョンで潮干狩りを
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アラームが鳴り目が覚めた。確か設定したアラームは五時間後。つまり現在時刻は……うん、午前三時。地上は草木も眠る丑三つアワーをちょっと過ぎたぐらい。たっぷりと睡眠をとったおかげで体のあちこちも程よく疲れが取れ、目覚めも良い。
そして、予想通り芽生さんはまだ夢の中。結構大きめの音でアラームが鳴っているはずだが、よほど深い眠りに陥っているらしい。
芽生さんを起こさないようにゆっくりと起き上がると、まず外に出てうーんと伸びをする。まずは水分の補給からだな。このマップでは水分が非常に奪われやすい。いざ動き出しとなった時に軽い脱水症状でも起こさないようにしないといけない。芽生さんも起こしたらまず水分を摂らせよう。
さて、今からどうするか。食事にするには早すぎる。食べて寝てしかしていない。胃袋のほうもまだお腹が空いたと泣きついては来ていないし、朝食前の軽い運動にでも出かけなければならないな。
あ、今の内にノートに書きこんでおこう。六十三層までたどり着きましたと報告しておかないとな。エレベーターの脇にある机のところまで行くと、高橋さん達から連絡事項だ。
日付は二日前、「ボス、アドバイス通りに行けました。ありがとうございました」とのこと。無事にボスも倒せたらしい。あれはギミック解除が肝だったからな、ギミックさえ分かってれば後は弾幕を避けてダッシュ大会するだけで済む。
こっちも日付を書きこんだうえで報告だ。「六十三層たどり着けました」これで無意味な先着争いをすることなく、無理しない範囲での探索が行えるようになるだろう。
ノートにドロップ品についても記載しておく。「エンペラ、バター醤油が中々美味しかったです」更に書き加える。多分酒のあてには良いだろうから参考にしてくれると嬉しい。
テントに戻ってきて、芽生さんをそろそろ起こそう。これからの行動指針もそうだが、今から開場まで五時間はある。その間に食事をとるかどうかも含めて相談しながら先を進むか、六十二層の地図を作り上げるか、それともそれ以外の何かか。また寝直すという選択肢もあるが、少し勿体ない気がする。それならとっとと昨日の内に帰って自宅のベッドで寝たほうが疲れはとれただろう。
芽生さんの肩を揺らして起こす。P波とS波が伝わり、やがて芽生さんの本体である脳に届いたらしく。ゆっくりと起き上がる。
「今何時ですか? 」
「午前三時ちょい。開場まであと四時間ってところだ。とりあえず水。ここ乾燥してるから喉がやられてるかもしれないし、多分それなりに汗をかいているはずだから補給しといて」
素直に水を受け取り、一気に飲み干した。どうやらかなり渇いていたらしい。本当に乾いている時は徐々に水分を摂ったほうが体には優しいはずだが、一気に飲み干す方が気持ちいいのは確か。
「……ふぅ。どうですか、お肌ツヤツヤですか? 」
「うーん、どうだろう。元々そんなに汚い肌をしてないからな」
芽生さんの顔を両手で挟んで、頬の当りをよく観察してみる。肌のきめも細やかだしちゃんと三角形を維持している。瑞々しさもあり、健康的だ。
「うん、多分だがお肌はツヤツヤ感が増した気がするな。ワイバーンの肉とエンペラと一緒に鍋をすればもっとツヤツヤになれるかもしれないな」
「それは楽しみですね。今後のレシピに一回分だけで良いので追加しておいてください」
早速保管庫から二人分のスーツを取り出すと、ポケットのメモにワイバーン鍋、エンペラ煮込みつき」と書き込んでおく。
「さて、寝起きの頭で申し訳ないが、これから何するかを相談しよう。後最低四時間はダンジョンから出れない。荷物を上まで持っていって開場に合わせるにしても三時間半は暇ということになる。この間に何をするか、だ」
「六十二層へいくか、六十四層へ向かってみるか、それともこの階層付近でうろうろするか、ってことですよね」
「そうなる。査定の手間を考えたら五十七層から六十四層の間を回るほうが多分早く帰れるだろう。ただ、ドロップがまだ金にならないのはいつものことだし仕方がないとはいえ、そこが難点だな」
亀の甲羅やワニの皮、エンペラ、そしてポーション。それらがいくらになるかまでは想像がつかないが、エンペラはあんまり高級品という感じはしない。美味しいけどね。多分だが馬肉相当の値段になってしまうだろう。ドロップ率の高さから考えてもそのぐらいだろうなあという予想はしておく。
「じゃあ時間で決めずに、ポーションをもう一本拾って帰るのを目標にしましょう。六十四層のモンスター密度がどのぐらいになるかは解りませんが、六十二層よりは確実に密度が濃いことは今までの傾向から考えても確かだと思います。もし厳しかったらその時は六十二層でレベリングをしてから改めて向かう、という形でいかがでしょうか」
芽生さんの言には聞くべき点が多い。ポーションをもう一本出して帰れるならサンプルとしては充分な品としてギルドに提出できるし、時間を決めないことで戻りが何時になるか分からない分、今日の出社時間が分からないギルマスにも出会えるかもしれない。
その間に朝食を食べて帰ればいいし、モンスター密度としても儲けとしては充分だろうし、青魔結晶しか査定にかけられないのは五十七層も同じだ。そういう意味では理に適った意見だと言える。
「よし、それで行こう。で、どうする。何か胃に詰めていくか? 何か一品作るが」
「そうですねえ。さっきのエンペラをもう一品、別の味付けでお願いします」
別の味付けか。煮付けなんかにするには時間が足りなさすぎる。あっさりと、それでいて胃にそこそこ溜まるものか。香草焼きなんかはどうだろう。キノコも取り交ぜてシーズニングパウダーを程よく混ぜたところでちょっと水分を足せばいい感じに香り立つかもしれない。
早速エンペラを準備し、シーズニングパウダーと保管庫に放り込んだままのキノコを適当に取り出し始める。芽生さんがじっと見ているのでちょっとやり辛いが、いつもの手順でキノコを一口サイズにカット。エンペラも同じぐらいの大きさに切ると、まとめて袋に入れてシーズニングを入れて混ぜる。混ぜた後にちょっと水分を足して、それからスキレットで焼き始める。
じわっと焼き色が付き始め、香草とキノコの混じったいい香りが周辺を漂う。やはりシーズニングは偉大だな。ちょっとした手間で最大限の美味しさを提供してくれている。まだ美味しいと決まったわけではないが、確実に美味しいだろうという予感がしている。
全体に焼きが入ることによりコリコリとした感触が少なくなって、柔らかくなっていく。しんなりとし始めたところで火を止めて新しい皿によそい、またスキレットを洗う。今日はよくスキレットを使うな。帰ったらちゃんと手入れするか。
一品だけだがお腹にそこそこ溜まるおやつが出来上がった。早速食べてみる。
「これは……ご飯が欲しくなる奴ですね」
「だな。今からパックライス開けるか? 時間には追われてないし半分こならすぐにできるぞ」
「いえ、止めておきます。このご飯が欲しいという気持ちを探索にぶつけながら進めばきっといい成果が出るはずです」
満足しすぎるとこの場でじっとしていたくなる、という奴だろう。この後また寝直すなら腹を満たして寝るのが一番だがさっきまでそれをやっていた。ここはあえて少なめにして次の休憩を楽しみにしながら戦うほうが楽しそう、ということらしい。
決して大きくは無いが小腹を満たすには充分な大きさのエンペラを半分こし、味と香りを満足させたところで食事はお開き。胃袋がちょこっと膨れたところで運動前の体調確認だ。
全身を動かしておいっちにーさんしーとぐりんぐりん体を動かす。肌の調子は……鏡を持ち歩けばよかったか。思い出したら百円ショップで買い求めよう。手でぷにぷにとつつくだけでは本当にこれが肌にいいのかどうかは解らん。家に帰ったら風呂入ってそこでチェックだな。それまでの楽しみにしておこう。
芽生さんは食べ終えると槍をクリクリ回しながら体調の確認をしている。そのまま型稽古みたいなものを始めた。関節をボキボキと鳴らしながら目の保養にと芽生さんの動きを目で追いながらストレッチを続行する。
お互い体が温まってきたところでストレッチ終了だ。ここは気温が高いのであんまり念入りにやりすぎるとまた水分を持っていかれるからな。それに相手は人型じゃなくてワニ形、亀形だ。仮眠前までの動きを忘れないようにしないとな。
「さて、行きますか」
それとなく芽生さんが言いだしたので、荷物を片付けてリヤカーを引いて六十三層に戻る。六十三層に到着したらリヤカーを置き、再び中央のドーム状の広間に戻る。ここから北へ向かえば五分で六十四層だ。六十二層であれだけ手こずったマップ構成だ、六十四層は更にややこしくなっている可能性もある。今日中に階段を見つけるのは難しいかもしれないな。
ちょっとメモを見返す。購入品メモにちゃんとテントと机セットが書いてあるかどうかを再確認する。……うん、書いてあるな。帰ったら早速買い出しに行って組み立てて保管庫に入れることにしよう。
六十四層へ下りて、まず亀二匹を視認。二匹なら何とかなる。三匹でも多分上手い事時間差をつけて雷撃していけば倒せる気がする。実際にその場面に出会わないと何とも言えないが、うまくやっていける事だろう。
いつも通りの手順で亀を二匹、まずは両方雷撃の後片方ずつひっくり返して雷撃を浴びせ続けながら頭が出てこないように牽制しつつ片付ける。初手の感触はヨシ。まず下りたところに問題は無いらしい。
「初手から三匹来たらどうしようかと思ったが、今のところは心配無さそうだな。亀三匹やワニ四匹が集まる所はそれなりに広さがあるだろうし、細い道を歩いてる間は多少安心して進めそうだな」
「まあ、ここもいずれクリアしなきゃいけない所ですからね。さあ張り切って地図作りもやっちゃってください」
「気楽に行こう。攻撃が一切効かないとか特定の攻撃に弱いというわけでもないし、どちらかが戦力外になるというわけでもない。いつも通り、二人とも攻めの姿勢でな」
早速周りを確認する。下りた先はいきなりの三叉路。水路が北から東へ向かって伸びていて、南側は水路が無い通路になる。気分的には南を選択したくなるが、ここで俺が南だと考えた以上南である可能性は低い。
芽生さんは水の流れる方向を見ている。どっちが上流側に当たるのかを確認しているんだろう。
「北へ向かえば上流方向ですね。そっちへ向かってみましょう」
「上流が二本無いなら水路沿いに帰って来れれば少なくとも地図が間違ってても迷う心配はない、ということか」
「そうですね。もし上流に当たる場所が二ヶ所あったとしても、合流地点や分岐地点が出来るでしょうし、そこさえしっかり解ってればいい、という判断ですがいかがでしょう」
「今日は一日芽生さんについていくと決めたからな。判断に従おう」
芽生さんの方向指示に従い水路をさかのぼっていく。道中には、ワニがたくさん。流石六十四層、この地下水路マップの最終層だけあってかなりのモンスター密度を誇る。歩いていく先に次のグループが見えているぐらいには近くに湧いている。索敵にもかなりの数がマーキングされているので囲まれたらさすがにまずい。
ちょっと慎重に行くべきだろうな。たまにはパチンコ玉でこちらへ呼びつけたり、水中へ弱く雷撃をして近くにいるモンスターにだけ反応するように仕向けて見たりと試行錯誤をしながら回っていく。
「さすがに数が多いですね。戦いが多くて前へは進めませんがその分収入が増えると考えると悪くないですね」
「また収入にならない荷物が保管庫に増えていくことになるんだけどな。高橋さん達はその辺どうやって管理しているんだろう? 今度話す機会があったら聞いてみるか。保管庫使わずに査定不能品を溜めこんでいる場合テントに置きっぱなしなのか、それとも持ち帰って一旦地上で管理してるのか」
地上で管理しているとなった場合、ギルドに話を付けて何処か置き場所を用意してもらったりしているんだろうか。まさかテントにお邪魔して実際のところを見せてもらうというわけにもいかないだろうから聞くだけの話になるだろう。
そういえばしばらく高橋さん達とも会ってないな。六十三層に入り浸るようになるかは解らんが、また出会う機会もあるだろう。同じダンジョンに居るんだしその内のんびり食事でもしながら話せる機会を作るとしよう。
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