1044:夕食と休憩とのほほんと
ダンジョンで潮干狩りを
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まずはコンロを二つ出して白米とシチューを温める所から始めよう。白米は少し水を足して焼きめし風にならないように焦げに気を付けながら温める。シチューもかき混ぜて焦げ付かないように注意しながらだ。
温め終わったらそれぞれの皿に……ミルコの分はどうしようかな。
「ミルコはシチューはご飯にかけてもいい派かな、それとも別派かな」
「僕のは洗い物が増えないように一皿にまとめてくれていいよ」
ミルコのリクエスト通り、シチューを一皿にまとめてかける。ご飯を多めに炊いておいて正解だったな。ちょっとシチューが足りなくなってしまうが、そこはまあ昼飯の残りということで了解してもらおう。
さて、問題のエンペラだ。かなり大きいし俺も食べたことが無い。調理する前に欠片を切り取って味見してみる。
これは何とも楽しい食感だ。コリコリしていてそのままでもイケるな。よし、生と焼きと両方用意しよう。生のほうは……ビールのあてみたいにさっぱりする感じでいこうかな。
半分に切り分けると、サイコロ状に切った後ごま油と薄めの酢を混ぜ込んで酢の物のようにして一品をまず作る。これは比較的早めに作れたのでシチューとは合わないかもしれないがまず食べてもらうことにしよう。酢味噌が有ればなおよかったんだが、今回は薄味の簡単酢しか持ち合わせがないのでそれで納得してもらおう。
さて、次は焼きだな。食感がどう変わるのかも気になるし、まずは焼きながら醤油を振り回すように少量かけ、そこにトースト用のバターを入れて溶けて全体に味が回るようにする。おそらく、焼き過ぎると固くなるだろうから味が回って少し縮んだぐらいで火から下ろす。
まず試食。すると、焼く前の生のエンペラのコリコリしたところは残しつつ、柔らかくなった部分の食感が同時に味わえてこれも中々美味い。二品目はこれでいこう。三品目は……疲れてるから馬肉だな。コンロの余熱も使ってそのままバター醤油の香りを馬肉に移してじっくりと強めの火で一面だけを焼く。
二人は俺が料理している間にシチューとエンペラを味わっている。俺の分残しておいてくれよ?
片面だけの馬肉のタタキを作り上げると切り分けて三人分をまとめて一皿に載せて、とりあえずこれで夕食の準備は整った。さぁ、俺も急いで食べるか。
「実は、このエンペラはガンテツもお気に入りの一品だったんだよね。酒によく合うから何処かの階層で亀のようなモンスターを出すならドロップ品として提供すれば人気になるのは間違いないって」
ミルコがどうでもいいかよくないか微妙なミニ情報をくれる。ダンジョンマスターもエンペラ食べるのか。というか、魔素から作った食品でも満足して食べることが出来るんだな。
「これはまたお肌に良さそうな品ですね。女性からの人気もあると思います。たくさん持って帰って一杯食べるのがいいかもしれませんね」
まだお肌ツヤツヤの年齢の子が何か言っている。でも多分、無言でこれを女性に向かってふるまうのはかえって失礼に当たったりしないだろうか。私はそこまで衰えてない、とか言われそうで怖い。主に結衣さんに。
「すっぽんだと思えばやっぱり鍋にしたいところだが、流石にそこまでの用意は無かったのでとりあえず疲れが取れるものと、まだ味わってなかったエンペラをお出しした。エンペラの料理は頭の中に調理するようなイメージが浮かばなかったので手ごろな所から二品出してみたが、評判は良さそうで何よりだ。今度食べるときは自宅でゆっくり鍋でいきたいところだな」
エンペラの在庫は結構ある。ドロップ率もかなり高いほうなので安くても品数で勝負できる系統の食品だ。階層と大きさのわりに値段は……そうだな、馬肉と同等程度かもしれないが、それでも利益が生まれそうなのはこの美味しさを知ってからでも遅くはないな。
自分で作ったエンペラをよく噛み、コリコリと口の中で転がしながら食べる。うん、なんか肌がツヤツヤになってくるような栄養素を感じる。何処で感じるのかは解らないが、何となくそんな気がしてくる。しばらくすっぽんばかり食べて肌ツヤを若返らせるのもいいかもしれないな。
「さて、いろいろご馳走になったことだし、あとはコーラの一本でもあればエレベーター作業も頑張れそうだね」
ミルコが暗に食後のコーラは無いのかい? と催促してくる。
「冷えているかどうかは保証できないがほれ、あるぞ」
コーラを差し出すとキャップを開けてゆっくりと飲み始める。顔がいいからコーラのCMに使えそうな絵面でもある。イケメンはいいな。出来れば俺ももっとイケメンに育ちたかった。
「私もください。シュワッとしたいです」
「今手に持って分かったが、飲み頃は過ぎてしまっているぞ。うーん……よし、一分時間をくれ」
保管庫からコーラとペーパータオルを取り出すと、生活魔法でペーパータオルを濡らしコーラに巻き付け、生活魔法で冷風を仕掛ける。気化熱によってコーラを冷やしていこう作戦だ。
生活魔法なら温風も出せるが、温風では気化熱に勝って余計に熱くなってしまうかもしれないから、ペットボトルが吹き飛ばないよう抑えながら出来るだけの出力で風を吹き付け、ペーパータオルが乾いていくのを待つ。
ペーパータオルがほぼ乾ききったところでコーラを触ってみる。充分にとまではいかないがかなり冷えたと思う。冷えたコーラを芽生さんに渡すと、喜んで飲み始めた。
ミルコはこの光景を見てちょっと驚いている。そして同時に、自分もやってもらえばよかったという顔もしている。
「生活魔法に冷やす系統のスキルは付随してなかったはずだけど今のはどういう原理なんだい? 」
「これは気化熱と言ってな。水は蒸発する時に周辺の熱を奪っていくんだ。で、濡らした紙をボトルに巻き付けて風をぶつけて、風の勢いで水分を蒸発させてやると、水分に覆われたコーラが冷える、そういう現象だ。科学の領域だからミルコが知らないのはちょっと意外だったな」
「なるほどねえ……勉強になった。今度コーラが温かったらぜひ使わせてもらおう」
「紙が無ければ布でもなんでもいけるからな。水分を含んでいて出来るだけ薄いもののほうが効果はあると思う。同じ動作をもう二、三回繰り返すと良い感じにキンキンに冷えると思うぞ」
科学と魔法の技術的ギャップが今目の前で少しだけ緩んだ気がする。
「とりあえず、僕は一足先にエレベーターの設置に行ってくるよ。この後休憩するために一旦五十六層まで戻るんだろう? 急ぎでやったほうがいいかな」
「いや、ゆっくりやってくれて構わんぞ。食休みで体を落ち着けたいところもあるからな」
ドライフルーツを口に咥え、ここまでの疲労はとりあえず取っておく。生活魔法をそれなりに使った分魔力も消費しているはずだ。疲れた体に温熱と冷感のダブルパンチが襲ってきて非常に気持ちがいい。ふと芽生さんのほうを見ると口を開けて待っているのでそっちにも突っ込んであげることにする。
芽生さんが体をぶるぶるッと振るわせて気持ちよさを体感しているうちに食事の片づけを済ませてコンロも粗熱を取るためにスキレットに軽く水を張って冷やし、その後水分を飛ばす。取り出した瞬間に熱が残ってて火傷なんて事は御免被るからな。
机と椅子はそのままに、机に頭を乗せて軽く休憩。今日は今までで一番強行軍だった気がする。普段だったら一回折り返してまた後日ここに来る、ということもできた。そうしなかったのは芽生さんの予定が明日おそらく空いているであろうことと、帰るより突っ切ったほうが楽に探索が出来る、という芽生さんの判断によるものだ。今日一番頑張ったのは芽生さんかもしれない。
同じく机に頭を突っ伏している芽生さんの頭を軽く撫でてやる。芽生さんは頭にハテナマークを浮かべている様子だが、嫌がるそぶりも無く逆に手に頭を押し付けてくる。
「今日はよく頑張ったな。エレベーターが出来上がったら五十六層でたっぷり休もう」
「そうですねえ……さすがにお腹も満ちて少々眠くなってきました。たっぷり寝て起きて、早めの朝ごはん食べてそれから行動しましょうかねえ」
「とりあえず今は頭を休めるか。体を休めるのはエレベーターが出来上がってから……あぁ、そういえばリッチのボス討伐ボーナスも今回のボーナスもまだ溜まっていく一方だな。何か欲しいものはあるかい芽生さんや」
「そうですねえ。今は何より一眠りが欲しいですねえ。途中休憩を取ったとはいえ緊張の連続でしたからゆっくり体を休めてその間にお肌がプルプルになったニュー芽生ちゃんを登場させたいですねえ」
考えることは大体同じらしい。多分この会話もミルコが聞いているだろうからオアズケということは伝わってはいるだろう。
しばらく机でボーっと突っ伏していると、ミルコが戻ってきた。
「設置終わったよ。寝るなら五十六層でゆっくり横になりなよ。そのほうが多分しっかり疲れが取れると思うよ」
「ミルコの言う通りだな。さ、芽生さん移動しよう」
到着ボーナスの話を始めない辺り、ちゃんとさっきの会話は聞こえていたんだろう。そのままエレベーターが出来たらしき場所まで行く。
水路の無い側の折れ曲がった先でゴブリンキングの角を掲げると、エレベーターはちゃんといつもの姿を見せてくれていた。
「じゃあ、お休み、良い夢を」
ミルコに見送られて五十六層へのボタンを押す。いつも通り、スムーズにエレベーターが動く感じがする。どうやら壊れたり初期不良だったりはしていないようだ。
時間にして五分、早く休憩したいと思っている自分には長く感じるその時間をじっくり待ち、五十六層の赤砂の砂漠エリアに戻ってきた。ちゃんとエレベーター前にリヤカーも放置されている。
早速テントに潜り込み、昼間に来た時のように二人エアマットに倒れ込む……前にスーツの上着を脱ぎ、あとが付かないように保管庫に仕舞っておく。
「あ、私のもお願いします。ついでにウォッシュも」
芽生さんにせがまれたのでウォッシュ、ついでに全身もウォッシュ。綺麗にした後保管庫へ。ブラウス一枚の姿になった芽生さんだが、若干暑めのこの気候にはちょうどいい感じなのか、気持ちよさそうに横になる。
「また枕要るか? それともさっきみたいに羽根を散らすか」
「仮眠と言ってもこの先を急ぐ仮眠ではないですから、適当にアラーム設定してその間に眠って精々体の疲れを解すことにしましょう。スノーオウルは今回は要らないです。ダーククロウは……あると嬉しいかも」
ダーククロウのサンプル枕のほうを渡すと早速頭にセット。よほど疲れていたのかすぐに眠りに入った。眠りに入るのが早いのは疲れているか、もしくは一種の才能である。
もしかしたら今日はなんだかんだで芽生さんは一日お疲れのご様子なのかもしれない。朝からなれない荷物運搬をして、仮眠しているとはいえ初めての階層を長々と進路を確認しながら戦って……と、普段やらないことをさせて負担がかかっていたのかもしれない。
仮眠から明けたらいつも通りに戻っているだろうか。それだけがちょっと心配だ。親心ではないが年上として心配はしておくに越したことはない。ゆっくり眠って体力を回復させるんじゃよ。
俺もちょっと長めの休憩を取ったほうがいいかもしれないな。若い芽生さんにそれだけの負荷がかかっているとすると、俺も見えない疲れが深層に残っている可能性がある。こちらもダーククロウの枕で眠ってしっかり体を休めよう。現在午後十時。仮眠というより睡眠に近いが、五時間ほどゆっくり眠って疲れを取ることにしよう。
アラームをセットして芽生さんの横に寝る。既に寝入っている芽生さんの寝顔を見ながら、横向きになる。寝顔を見られて恥ずかしい、という段階はとうに過ぎ去ってしまったらしい。これはアラームが鳴るまで爆睡モードだろうな。起こさないようにおれもそのまま横になって眠る。
起きたら朝食……いや、この場合夜食になるか。作って食べて、それから何しようかね。エンペラをかき集める作業に戻るか、それとも五十七層で指輪を集める作業に従事するか、五十五層で確実に買い取ってもらえるドロップ品をかき集めつつ、次に石原刃物に出かけるときのために追加のインゴットを用意しておくか。
査定の手間を考えたら五十七層以降に潜るのが最も効率的ではあるんだろうけど、一泊で色々巡ってきたという証拠にもなるからな。起きたら……芽生さんと……相談……
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