1042:六十三層強行軍 1/2
ダンジョンで潮干狩りを
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広間を綺麗にしたところで周りを確認する。広間と言っても六十一層にあったいくつかの水路の合流地点というわけではなく、どうやら水路に下りて来たその広場、という雰囲気が漂っている。ここから行く先は二本。階段から見て右へ行くか真ん中奥へ行くか、と言った感じ。
「さて。ここは真っ直ぐ奥へ行くか」
「つまり右ですね、解りました」
……もう何かを言うことは諦めた。大人しくついていこう。そのまま道沿いに行こうとすると、数分歩く前に早速ワニ三匹とご対面。水辺でもないのでそのまま戦い合うことが出来る貴重な場面だ。全力雷撃でいくか、極太雷撃で行くか。
「ちょっと極太雷撃でどのくらい焼けるかここで実験だ。何秒で焼きあがるか試そう」
それほど広くない通路、極太雷撃を全力で放てば道一杯に広がる雷撃。これも威力が徐々に上がっているからどのくらいの規模のダメージが入っているかは解らない。が、ワニは縦長でそこそこの大きさはあるものの体積としてはあまりないので極太雷撃も地面に向かって撃つような形になる。うっかりドロップ品まで焼き切ってしまわないようによく注視しながらの雷撃だ。正直眩しい。
しばらく照射した後、ワニの影が見えなくなったので雷撃を停止する。どうやらワニは消滅したらしい。十秒間ってところかな。照射面積が小さいので結構ダメージを与えにくいのかもしれない。
とりあえずドロップ品は無事に生成されている。雷撃の余波で消滅したということは無かったようだ。そういえば、スキルに反応してドロップ品が消失するようなことは過去出会った覚えが無いので、一層当たりでドロップ品が出たらスキルダメージでドロップ品が消えるかどうかを試して確認しておくことも必要だろうな。
スライムをバニラバーしてドロップ品に雷撃して、アイテムが消えるようなことが有ったら今後は注意しないとな。ここで試して消滅した場合多分ダメージが大きい。
そのまま水路のない道に沿って進みながら戦闘をし、数回繰り返したところで水路とぶつかった。水路にはワニもセットだ。ワニを水路からおびき出して倒した後、水の流れを確認して上流へ行くか下流へ行くかの確認をする。
「さて、上流側へ行くか下流側へ行くか。下流側は最終的にまた壁に阻まれてこれ以上進めないってなってそうなんだよな。もちろん、その途中で横道に入って更に複雑な地形になっていることはまだ否定できないんだけど」
「じゃあ今回は上流側へ行きましょう。次回は何も無かったら下流側ということで。横道は見つけ次第そっちにいく感じで良いと思います。他の水路が合流したらその時考えましょう」
芽生さんの巡り方を素直に受け止めて、行かせたいように行かせてみる。今回で巡り切らなければいけないというものでもないし、時間的余裕から帰り道に向かう時間だけをカウントしながら戦闘して地図を描くお仕事に従事しよう。
芽生さんに続いて地図をウネウネと描き記しながら上流側へ向かう。亀二匹、亀一匹とワニ一匹、ワニ二匹か三匹、というのがここでの出現パターンらしい。亀二匹はちょっと広い所じゃないと出ないので、これは前に砂岩のマップで見たゴーレムと同じくモンスターの大きさと通路の広さを兼ね備えないと配置されない、というような感じだろう。
亀二匹の地点にはマーキングをしておき、そこがちょっと広い戦闘場所であるという目印にしておく。こうすることで変化があまり見られないマップでも目印が増えていくので、あと何回亀二匹のパターンに出会ったら次で脇道が増える、といった具合に利用できる。
ドロップ品はそれなりに溜まってきて、亀の甲羅の破片とワニ革のドロップ率がだいたい二割ぐらいであることが解ってきた。エンペラは四割ほどのドロップ率で獲得することが出来ている。これに加えて普段ならポーション……と言いたいところだが、まだポーションの類は出て来ていない。
そろそろお目見えしてくれてもいい頃なんだけどな……というところではあるが、このポーションが落ちるかどうかでここの階層の探索としての美味しさが変わってくるのだが、このままではいまいち美味しくない階層、というイメージが付いてしまうかもしれないな。
若干整然としてきた道を曲がったり真っ直ぐ行ったり、分かれ道が来るたびに地図を描き加え、戦闘しながら芽生さんの行きたいように行かせてみる。気分的には犬の散歩に近い。
ご主人、モンスターが居たよワンワン、みたいな感じだ。モンスターが出てくると率先して戦いに行くあたりも割とそんな感じはしている。首輪をつけて……いや、そういう趣味は無いな。
ワニと戯れる芽生さんを横目に自分の担当分を確実に倒しながら多少よそ事を考える余裕が出て来たらしい。慣れが来たということだろう。そろそろ六十二層のモンスターの濃さは問題じゃなくなってきたな。
数と密度、強さに慣れてきたところで、そろそろ帰り道の時間かな、というあたりになった。およそ一時間当たりに遭遇するモンスターの数も解ってきた。ワニが二十五に亀が十五ほど。六十一層の倍ぐらいの数だな。この密度ならそこそこ美味しいと言いたいところではあるが、ポーションが落ちるかどうかで大きく変わってくる。まだポーションは無い。
「そろそろ時間かな。いつもよりちょっと遅めに帰るとはいえこのままだと夕食と朝食もテントも無い内に一泊、という形になる。それはさすがにモチベーションとテンションと体調の維持に問題が発生しそうだ」
「もうそんな時間ですか。もうちょっと先まで見たかったところですが」
六十二層の広さを六十一層と比べると三分の一ほどは回ったかな? という感じだ。ただ、六十一層全体を歩きとおしたわけではないので実際はもっと狭い範囲しか回ってないことにはなるんだが。
「残りは次回のお楽しみ、かな。六十三層がどうなってるかもたしかに気になるし、下手に戻るより六十三層まで強行軍で行くことも不可能ではないとは思うが、流石にちょっと疲れを感じ始めた。帰りの分の体力は残しておきたいしね」
「そう、ですか」
芽生さんはちょっと不満気。不完全燃焼っぽさが何となく伝わってくる。うーん、このまま帰るのも六十三層へたどり着いてそこでエレベーター作ってもらってから五十六層で休憩、という手段も取れるか。ここは、無理にでも前に進んでみるか。
「うーん……よし、モンスターが居ない今の内に休憩してしまおう。それでカロリーと水分と体力を温存して六十三層まで行ってしまおう。休憩する時は五十六層に戻ってテントで休む。夕食はシチューの残りといくつか焼ける物があるからそれで何とか間に合わせる。それでどうだろう? 」
折衷案を提示してみる。この感じなら俺も無理をせず潜っていられるだろうし、目的には達することが出来る。芽生さんもここから帰るという選択肢を取らないでおく分やる気を阻害せずに進めるだろう。
「じゃあ、次の広間みたいなところ……亀が二匹出てくるあたりで休憩すれば六十三層まで行くってことですか」
「そうなる。営業時間が長くなって宿泊コースで申請が要らなくなったから地上であれやこれや迷惑をかけずに済むしな」
「では早速休憩に入るために戦闘に赴きましょう」
芽生さんの機嫌が直ったところで再び歩き始める。やはりメンタル的な所のカバーも必要だな、と感じ始めた。せっかくここまで来たんだしというのもあるし、帰り道にまた同じだけ歩かなければならないことを考えても、そのまま六十三層を目指す、というほうが近く感じたのだろう。
宣言通りちょっとした広間で他への道が水路で接続されている地点まで出て来た。湧いているモンスターは亀二匹。ここで一旦休憩だな。亀を雷撃で動きを止めた後ひっくり返して片方を足止めし追加雷撃で首が引っ込むようにさせて、その間に芽生さんが止めを刺してその間にもう一匹も雷撃してこちらもひっくり返す。
両方ひっくり返して腰に多少の負荷がかかるが、これが一番早く終わるので仕方ない。実際の所早く休憩したいのだ。その為には休憩場所をサッサと掃除してゆっくりしたい。その為には多少の濡れや臭いは我慢だ。終わったらウォッシュで綺麗にすればいい。
亀の処理が終わったところで周辺は一時的に安全地帯になった。椅子を取り出して座り込んで休憩する。
「ふー、流石に疲れて来た。歳かな? 」
「まあ仮眠は取ったとはいえ朝早くから動いてましたからね。疲れがたまっていてもおかしくないです」
「そっちこそ大丈夫か?突然電池が切れたみたいに倒れたりしないでくれよ。さすがにここから一人で突破して帰るというのは厳しいものがある」
「その時は保管庫に放り込んででもなんとかしておいてください」
無茶を言う。生き物は入らないんだってば。そういえば、生き物でも細菌の類……例えば生のキノコなんかは問題なく入るのだから生き物と判断されるラインはどの辺にあるんだろうな。気が向いたらこれもそのうち調べてみようか。昆虫は、ナメクジは、クマムシは、寄生虫は。その辺を綺麗にした上で保管庫に入れられるなら、保管庫に入った段階でそれは綺麗な物体であると言えるのではないか。
「生き物の範疇が何処までってのは調べてなかったな。メモメモっと。そう言えば長い事使ってる保管庫だが真面目に検証したりしてないな。それよりもっと手前の便利さで満足してしまっている。レアスキルとはいえ、もっと情報を色々と仕入れる必要があるな」
「荷物が入って温かいご飯が食べれるだけでも充分役立ってますからね。解析が進めば保管庫のスキルアップにもなるんじゃないですか? 」
「むしろそういう風に使ってないからこそレベルのあがりが悪いのかもしれない。本来ならもっと詳細に色々事細かく使えるスキルなのかもしれない。六十三層に到着出来たらゆっくり考えていこう」
休憩しながらカロリーと水分を補給する。六十二層はまだこれからだ。この休憩で気合を入れなおして挑むとしよう。
椅子に座っていると足のむくみが多少気になってきたので多少揉み込みつつ、若干ハリ具合の良くなっているふくらはぎを刺激して足の緊張をほぐしていく。ほぼ歩きっぱなしだった分ちょっと疲れが出てきているかな? というところ。後二時間ぐらい彷徨っても大丈夫なように身体の調子を整えていく。
芽生さんのほうは……とみると、椅子にもたれて軽く眠っている。すぐに眠気が来てすぐに眠れるというのはある意味才能だな。十五分ぐらい休憩すれば充分だろう。その間に多少なりとも体を休めておいてもらおう。
きっちりとはいかないものの、十五分ほど経ったところで芽生さんを起こす。その間の警戒はしておいたのでモンスターは湧いていない。もっとも警戒と言っても水路をじっと見続けているだけだったが。
「おっと、寝てましたね」
「見えない疲れという奴だな。多少楽にはなっただろうから張り切って六十三層への道を探すとしよう」
「ごめんなさい、警戒してもらってましたね」
素直に謝る芽生さん。本当に気が付いたら寝てたという奴なんだろうな。
「まあ、疲れが取れたならそれで今回はヨシということで。ちょっと座っているだけで眠ってしまうほど疲れがたまっていたことを考えると、無理に帰り道に差し掛かったあたりで怪我してたかもしれないしな。結果オーライだな」
「じゃあお言葉に甘えます。では気合を入れて巡りますか」
もっと甘えてくれてもいいんだけどな。よっこらせと立ち上がってあちこちのチェック。休憩中に軽くマッサージしたこともあって体の血の巡りはほどほどに良いようだ。腕も肩もまだまだいける。
腰のほうもダメージは来ていない。休憩もしたし、腹も少し満たした。芽生さんも再起動した。地図は……まだまだ先がありそうだし六十二層へ下りてきてすぐの道のほうとはまだ合流していないようだし、巡る場所はたくさんある。
とりあえず来た方向へは戻らずにそのまま突き進んで、合流しそうなところが出てきたら合流して、もう一度相談、という形で行こう。今のところ階段から見て遠くへ行く方向へ進んでいるので、階段が遠くにあるというならこっち側に来ているのは正解とは言えるだろう。
さて、続きへ向かうか。この階層はもうちょっとかかりそうだ、気を引き締めていこう。
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