1039:耐久試験合格
ダンジョンで潮干狩りを
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五十八層も最短経路で進む。六十層までの最短経路は解っているので戦闘結果や探索の成果は後回し。今はとにかく素早く回って素早く倒して素早く次の階層へ行くことに専念する。
おかげで余分な戦闘をすることなく五十八層を通り抜け五十九層に入った。ここからは石像も出てくるので、新しい直刀に持ち替えて戦闘をする。六十層へ向かいしばらく戦闘を重ねたところで石像が現れた。こいつだ、こいつが敵だ。
「こいつが直刀を折ってくれたおかげで六十万とそれから色んな出費、それから裕一さんの腰が治った。ありがとうというべきなのか恨むべきなのかはちょっと悩ましいな。どっちにしよう」
「悩む時間があるというのは随分余裕がおありですね……っと」
芽生さんがウォーターカッターと魔法矢でスパスパ石像以外の相手をしていてくれるうちにこちらも石像へ斬りかかる。
念のため雷切で表面を覆っておいて、直刀に直接全打撃力が乗らないようにワンクッションを置いての試しの攻撃だ。が、石像に読まれていたらしく最初の一撃は避けられた。お返しにと石像から俺の脇腹にブローが入る。中々の重さ、そして石像と言ってもただの石ではない、相当に硬い石だ、と言わんがごときの硬い一撃が入る。
胃袋に物が入っていたらちょっと戻っていたかもしれないが、他の行動を阻害されるほどの威力は無い。が連続で受けるとかなりの威力だっただろう。石像がただ人間型のモンスターなのではなく、それなりにスパーリングが出来るボクサーのようなものであるんだと再認識する。
「ちょっと油断したか。ダメージはまだ問題ないがまともに打ちあうと危険、と」
直刀を構えなおし、石像に対し真っ直ぐ姿勢を向ける。石像はジャブでも打つような仕草でこちらに威嚇を仕掛けてくる。徐々に距離を詰め、射程に入ったところで斬るではなく突き込む形で石像の首元を狙った。
石像はこちらの速さに対応しきれずに首に直刀を受け、亀裂が入る。直刀を差し込んだまま下へ斬りおとすように心臓部分を砕く。石像は心臓部を砕かれたがまだかろうじて動く。そのまま突き込んだ姿勢のまま、直刀をグリッとねじる。心臓を確実に破壊するつもりで全力でねじり込んだ。
心臓部を破壊されたらしく、石像が黒い粒子に変わる。旧直刀、敵は取ったぞ……そして新直刀、ありがとう。目で見た感じ、ねじった衝撃での曲がりも折れもぱっと見では存在しない。何で出来てるんだろうなこれ。石相手に刀をねじるという本来ならやるべきではない使い方をしてしまったが、今のところ問題ないらしい。
同じことを旧直刀でしたら一発でお釈迦になる所なんだろうが、お値段分の効力は出してくれた、ということか。次回はねじらなくても石像を破壊できるように戦い方を考えていこう。もっとシンプルに殴って割るだけで済むように戦い方を考えるのだ。
「武器供養は終わりましたか? 」
肩を槍でトントンと叩き、こっちはもう終わってますよというポーズを決めながら芽生さんが若干の呆れ顔でこっちを見ている。
「うん、満足した。後は通常通りやっていこうと思う。ちゃんと性能実証実験は済んだということで」
「じゃあ後は六十層でひたすら石像をかち割ってあげてください。私も適度に石像割りには参加するので」
五十九層で無事に前の直刀の借りを返したことで心にあったモヤモヤが晴れた。後はいつも通りにいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
五十九層を危なげなく抜け、その間に物理耐性の指輪を一つ手に入れた。これで今日の探索は大いにプラスになったであろうことが確認できる。ヒールポーションのランク5も四本手に入れているので確実に四千万ほどは懐に入る計算になる。これは帰りも含めると中々の金額になるな。六十一層より先のモンスターも青魔結晶は査定にかけられるので、ただ移動して保管庫の荷物が増えるだけという事態は避けられる。
六十層は必ず石像が混じる面倒くさいエリアだが、短く、そして戦闘回数も少ない。ボス部屋のおかげだともいえる。
交互に石像を倒していく、という取り決めの中、ガーゴイルやリビングアーマーとの混成部隊が待ち受けている。肩の力を抜いて行動できるのはここに来るのも三回目だということと、新しい直刀の耐久性を信頼してのこと。やはり頼れる武器は必要だな。これで新しく発注した奴が出来上がったらどのぐらいのものになるのだろう。
あれからまだ石原刃物から連絡は無いが、どんな武器が待ち受けているのかワクワクしている。そう思えば目の前のモンスターを叩き割るにも力が入ろうというもの。
「何か張り切ってますね。良いことでも思いつきましたか」
「数打ち品でここまでのものが出来上がるなら、俺専用のものならどこまでの要求にこたえてくれるのかを考えると待ち遠しくなってきた。まだかなあ出来上がるの」
「じっくり待っていい一品を仕上げてもらうことのほうが大事そうですから、大人しく今はそれで我慢していてください。今は待てです、待て」
「きゃうん」
遊び半分で戦える程度には余裕のある六十層での戦闘、これも散々【身体強化】と各種スキルを鍛えて勝率十割まで持っていった努力のおかげ。決して楽をしている訳ではない。まあ、荷物運びに関しては楽をしている、うん、しているな。
本来ならこのバッグ一杯に鎧の破片と青魔結晶とポーションを割れないようにしまい込む必要性や戦闘行動中にポーションを割らないようにとか、いろいろ考える必要があるのだがそうしなくてもいいようにしているのは確か。
パーティーによっては、各自腰にベルトを巻いてベルトにポーションを差し込むことで戦闘行動中に攻撃を喰らわない限りは激しく動いてもポーションが巻き込まれないようにしたりと、色々考えられたりはしているし、ポーション専用のバッグというものも開発されているらしい。
ポーション専用のバッグはポーション一本一本を固定して外側を硬いカメレオンの革などで包み、衝撃に耐えうるような形になっているのだとか。ポーションも高級品になればそれなりの扱いを受けても仕方ないものではある。特に全体の四割から六割の収入を占めるようになるBランク帯以降の探索では、いかにしてポーションを無事に持ち帰るかも課題となっているらしい。
時々査定の時にポーションが破損していることに気づいて査定してもらえずそのままビンカンのゴミ箱に捨てられていくポーションがあるとかないとか、探索・オブ・ザ・イヤーで読んだ覚えがあるな。
そういう悩みとおさらばできている点で言えば保管庫の驚異の収納力と安全性は格段のものと言える。レアスキルがレアスキルである所以がここにあると言えよう。
よそ事を考えているということは戦闘に余裕がある。このようなことを思っている間に進捗は進み、予定通りの時間で六十一層への階段の前まで来ることが出来た。
「到ちゃ~く、定時」
「色々やった割には早く着きましたね」
槍を階段の脇に立てかけ一服、と言った感じで芽生さんが数回深呼吸をする。
「しっかり休んで体力が回復してたからだろう。さて、こっから本番だ。六十二層への階段を探して、潜れそうなら六十二層も見て帰る。せっかく来たんだし今日は時間いっぱいまで使って探索をしていこうと思う」
「珍しいですね、時間ギリギリまで使おうというのは」
「問題は空腹だけかな。カロリーゼリーとカロリーバーで何処まで我慢できるかの勝負になる。今日は朝、時間が無かったおかげで優雅に夕食を作る暇が無かった。コンビニで買ってくる……あぁ、コンビニ行った時に何か買ってくればよかった」
何故コンビニに立ち寄った時に夕食のことを考えずに来てしまったのか。これも荷物を査定にかけ終わって一安心したが故の油断だったかもしれない。
「そこは今更嘆いても仕方ないですからあきらめましょう。たまには食事にうつつを抜かさずストイックに行くことも大事かもしれませんしねえ」
ふぅ……と深いため息をついてそこから深呼吸して一気に頭に酸素を送る。
眠気、ヨシ。
空腹、ヨシ。
体調、ヨシ。
心拍数、呼吸、ヨシ。
体調を確認すると、水分を補給してちょっと休憩。
「次のセーフエリアは今日中にたどり着くことは無いだろうけど待ってくれているのは確かだ。その次はまだ解らんが……まあ、しばらくは六十三層六十四層あたりでお茶を濁すか、インゴットを社会に流通させるために五十五層に入り浸ることになると思う」
「何でインゴットなんです? 他のものでもいいのでは」
「どうやらサンプルでダンジョン庁に提出したインゴット、大手企業が買い占めてしまったおかげで市場での期待価格が相当に高いらしいんだ。今日提出した分も含めてだが、定期的に安定供給して先物としての価値を安定させてしまうほうが良いんじゃないかと思って」
今現在、いくらぐらいの価値になってるんだろ。もしかしたら石原刃物に置いてきたインゴット、あれだけでもすさまじい価格になってる可能性はある。ちょっと多めに置いてきすぎたかな?
「なるほど、今他のダンジョンでどのくらいまでの深さで潜られてるのかまでは解りませんが、少なくともこの小西ダンジョンで潜れるのは私たちと高橋さん達だけですから、それだけ市場に流れる数も限定されてしまっていますね」
「今日の千二百本でどう動くかまでは解らないが、買い占めせずにできるだけ多くの人に触れる機会が訪れると良いんだけど」
「一本一キログラム。混ぜ物をしてインゴットの組成を変化させるとしても、一本で一つの装備と考えると千二百人分の装備が作れるようになるわけですか。私もそのお店に新しいのを発注してみますかね。お金には困ってないので体にフィットするベストな奴を」
芽生さんが立てかけていた槍をくるくると回しながらバトントワリングのように体の周りを回していく。休憩中なのに。
「俺のが終わったら話をつけてみてもいいんじゃないかな。手が空いてるなら引き取りに行く時に一緒に来ればいいよ」
「そうですね、これからは夏休みにも入りますし、就職活動で他の企業を見回る機会も無さそうですし……まあ気になった企業の説明会が有れば見てきて、何かダンジョン探索に刺激とか新しい気付きがあるようなところがあれば潜入調査をしてきますよ」
「それは心強いな。今何処の分野で何処のドロップ品がどのぐらい需要があるのか、または無いのか。そういうのはダンジョンに潜り続けてるのでは解らない所もあるからな」
五分ほど階段を下りずにその場で休憩した後、腰を上げる。
「さて、行くか。久しぶりのような気もするが、ちゃんと前にも進んでいるんだぞというポーズだけは決めておかないとな。あ、後買い出しメモも更新しておかないと」
ポケットに入ったメモに「テント二人用」「机、椅子、ボールペン、ノート」と買い出すものを記入しておく。これで次に買い物に行くときの準備は良いだろう。ダンジョンの中で無くさない限りは次の買い出しで購入を確定させられる。
あちこちを確認して準備が万端になったところで六十一層への階段を下りる。今思えばこの階層は少し過ごしやすかったな、と思いをはせることになる。暑すぎもせず寒すぎもせず、ちょうどいい感じ。ここにセーフエリアがあったならテント張ったり机と椅子を出しっぱなしにして色んなパーティーと交流を交わしたり、そういう場にもってこいの場所だったろうに。もったいなかったな。
六十一層に到着し、水路にワニの陰が居ないかどうかチェック。流石に下りてすぐ戦闘とはならなかった。一安心したところで早速、前回とは違う方向へ歩いていく。
「前回はこっちを見たから今回は反対側から行くわけですか」
「最初に亀が居た場所がもしかしたら解りやすいマップの順路だったかもしれないが、今のところそう決めつけるにはまだ情報が足りないからな。回れるところは回って地図に描きこんで、行き止まりだったら素直に戻る。それでいいんじゃないだろうか」
どうやら一定の説得力があったらしく、芽生さんは素直についてきた。さあ、今日こそ六十二層への階段を見つけて、可能ならば六十二層にも下りよう。この地下水路マップ、あまり長居はしたくないという感じのジメッとしたところだが、セーフエリアがここにあることが確定しているので、その、なんだ。まあ覚悟を決めよう。
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