1038:サブウェポンは快調に
ダンジョンで潮干狩りを
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さて、戻ってきて再びダンジョンへ。再びリヤカーを駆り一層から五十六層までの長い時間をクロスワードを解きながら相談をしていく。
「今日は六十一層方面へは行かずに五十九層あたりで新調した直刀の調子を見たい。具体的には石像殴っても壊れないかどうかだな」
「実体剣の新調は今洋一さん専用のものを作ってもらってる途中なんですよね。そのまま新しいのが出来上がるのを待っててもいいのでは? 」
芽生さんは別に私が相手にするのでいいですよ、という感じで気軽に応対してくれている。確かにぶっ叩くなら俺より芽生さんのほうが武器としても向いている。
「ほら、一緒に新調した分芽生さんのほうも寿命が来てるかもしれない、と考えるとお互いがちゃんと倒せるかどうか確認しておくのも大事だしね。それにせっかくサブウェポンとはいえ新調したものはちゃんと機能するのかどうかも確認しておきたいし、これでもダメそうなら素直に芽生さんの言うように従うことにする」
「ちなみに六十一層に行かない理由を聞いても良いですか? 」
芽生さん的には石像云々もそうだが、行かない理由についても聞いておきたいらしい。
「今日はいつもより早く起きて早く出かけてきている。時間があるのは確かだが、同時にそれだけ体を酷使してる。それも普段より長く探索している訳じゃなくて慣れない荷物運びだ。もし六十一層に潜るなら長めに昼休みを取って、仮眠もとってしっかり見えない疲れを取り除いてから行くのが良いと思う。行くなら五十六層で昼食を取ってしっかり休んで、それから行くのがヨシかな。どうする? 今なら予定変更できるけど」
「そうですね……いっぱい稼ぐならいつも通り五十七層で休んで五十九層で稼ぎ、奥へ行くなら五十六層で早めの休憩取って仮眠もとって、万全の状態で、ということですか」
説明に一応の納得はしてくれているようだ。多分芽生さんも慣れない荷物運びとエレベーターで移動だけという行動に少々お疲れなのだろう。
「芽生さん的には奥に行くのと稼ぐの、どっちがいい? 俺が毎回決めるのもアレだからリクエストがあるならそっちにシフトしようと思うけど」
「そうですね……最近ちょっとご無沙汰気味だったので色々と巡りたいという意味では下層を探索したいところですが、洋一さんの体調を気遣うと五十九層で稼ぎに徹するというのも悪くないですね。どっちにしろ体が動かせるならそれが一番いいですから、そういう意味でも五十九層は魅力的ではあります。指輪も数をそろえて二人ではめていけるならお互いに危険は少なくなりますし……あ、でもこれからB+ランク探索者が増えてきて上層が賑やかになってくることを考えると、追いつかれないように精々奥まで進んでおく、というのも悪くないと思います」
どっちも魅力的で迷う、ということらしい。
「じゃあ、ここはコインで決めるか。表が出たら六十一層へ行くために五十六層で早めの食事をとって軽く仮眠を取って先の地図を作る。裏が出たら五十九層でひたすら稼いで今日は早めに上がる。それでどうだろう? 」
保管庫の財布から五百円玉を取り出すと、裏表がちゃんとしていることを確認。去年発行の五百円玉だった。
「解りました、それで決めましょう」
コインを気持ち回転多めになるように跳ね上げると、手の甲にポトッと乗せてもう片方の手で隠す。ステータスブーストの動体視力が有れば見ることも可能だっただろうが、今回は結果を後で予想して賭けをするような形ではないので見えてようが見えていまいが関係ない。
そっと手をどけると、表面の桐の模様が見えていた。つまり、六十一層行きだ。
「よし、下りたら長めの休憩だな。今が十時半だから……十二時まで休憩という形で。ご飯食べてしっかり仮眠取って、それから移動開始だ」
「早いところ六十三層までたどり着いてしまいたいところですが、今日はどのくらいまで探索が進むんですかね? 」
「前回はそこそこ探索したが……と、この範囲が何処まで広いかに依るな。モンスター密度は薄かったから多少戦いやすくはあったもののマップが広いかどうかは判別が出来ない。前回を思い浮かべながらまた地図を描きこむしかないな。出来れば六十二層の階段の位置までは把握したいところだな」
早速リヤカーにもたれ込んで休憩のポーズをとる。立っているより座っている方が確実に疲れないが、やはり横になって眠る以上の効果は無いと思う。枕も持ち込んでいることだし、短時間高効率睡眠を自分に仕掛けて加齢による消耗の速さをなんとか回復させたいところではある。こういう時にスノーオウル百%の枕は便利でいい。
五十六層に到着、早速お昼の準備だ。ホワイトシチューをそれぞれの食べ方に合わせてよそい、早速食べることにする。
「今日は色鮮やかですね。赤白緑にキノコの黒。何となく体に良さそうな気分が漂ってきます」
「本日のシチューは見た目にこだわっております。ちゃんと一晩寝かせたシチューだから気に入ってくれると嬉しい」
早速パクつく芽生さんだが、表情を見るに気に入ってくれた模様。早速俺も食べることにする。ブロッコリーもしっかり熱が通っていて歯で簡単に噛み千切ることが出来る。キノコもムギュッという食感が楽しい。人参とジャガイモは芯まで柔らかい。豚コマもいい味出してる。今日も美味しいシチューが作れた。余は満足である。
少し多めかな? という程度まで胃袋を満たしたところで、仮眠の後すぐ動けるだけの胃袋は空けておかないといけないと思い、もう一杯という所を途中でやめる。いざ腹が減ったらカロリーゼリーとカロリーバーもある。
お互い、皿を平らげたところで手を止める。どうやら前にここで起こった、食べた後にすぐ動いて腹が痛くなったことを思い出したらしい。
「「寝ましょう」」
二人頷くと、食事の準備を止めて片付け。久しぶりに使うテントの中で二人横になる。アラームは一時間後ぐらいで良いかな。エアマットも完備。枕も完備。布団はさすがに無いが、スノーオウルの羽根枕は一つある。
「スノーオウルの枕使う? 俺は顔の周りに羽根をまき散らしておいて香りを楽しむだけという行為もできるから無くてもいけるんだけど」
「そうですねえ。じゃあ二人の顔の間に敷き詰めてもらいますか。どうせ隣で寝るんですし両方がきっちり仮眠を取って眠気と疲れがとれるようにしたほうがいいと思います」
そういうと芽生さんはさっさと横になってしまった。なので、顔を包むようにスノーオウルの羽根を保管庫から取り出し、まき散らす。まき散らした分だけで三百グラムぐらいの分量にはなった。価格改定された今の価格だと九万円に相当する。たかが一時間少々仮眠するために九万円を贅沢に散らすことになった。
九万円、されど九万円。五十七層以降のモンスターなら一匹倒せばおつりがくる計算になる。先ほどの査定の結果によると、ガーゴイル一匹当たりの魔結晶の価格は十万円ほどになるということが計算できた。
このちょっと香りを使い切ったスノーオウルの羽根をまた混ぜ混ぜして布団の山本に納品することになるのだが、まあたまにはそういうものが混ざり込んでもおかしくは無いだろう。たまには品質が低いものも混じり込む。大勢として品質が良ければそれでヨシ、ということにしておこう。使ったことは内緒。
早速寝入りに入ったらしい芽生さんの呼吸が徐々に静かなものになっていく。外から見るのは初めてだが、かなりの効果を及ぼしていることが解る。外側から見るとこんなにもスッと眠りに入っているように見えるのか。多少疲れはあったとしても寝入りに入るのが早すぎるようにもみえる。
さて、俺も横になろう。アラームをセットして目をつぶって深呼吸をし、スノーオウル百%の枕の香りを鼻から存分に嗅ぎ入れると、そのままスウッと……
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴った。バチッと目が覚める。胃袋は……まだ動いてるが、運動の邪魔になるほどではないような感触だ。いきなりトップスピードで動けと言われたら難しいが、今から二十分かけて五十七層側に歩いていくことには問題は無いだろう。
さて、芽生さんを……ぐっすり眠っている。深い寝息と身動きの無さが間違いなく熟睡していることを確認させてくれる。起こすのがちょっと悪い気がしてきた。もう少しだけ眺めていようかな。
アラームを五分延長し、その間芽生さんの寝姿を観察する。短い時間だが、その間にとれる疲れは通常の何倍にあたるのだろう。よほど深い眠りに入り込んでいるのか、寝言も何もない。
たまには寝顔を眺めるぐらいしても罰はあたらんだろう。後で文句を言われる可能性はあるが、黙っておけば問題ないはずだ。
やがて五分延長したアラームが鳴り、今度は芽生さんが目を覚ました。
「おはようございます」
「おはよう。グッスリだったな。最初のアラームで目覚めなかったんで五分延長して寝かせてたけど、効果はあったかな」
「うーん……どうですかね。でもスッキリ眠れたのは確かですし体も軽いですね。お腹は……もうちょっと時間がかかるかもしれませんが、それ以外は大丈夫みたいです」
もしかして、スノーオウルの羽根を使って眠ると内臓の動きも緩慢になる、とかそんな感じだろうか。一つスノーオウルの特性が解ってきた気がする。消化活動も若干鈍る。食休みのためにスノーオウル枕を使うのは効果が薄い、ということはメモしておいて損は無いだろう。
「どうもスノーオウルの枕には消化促進の効果は無いらしいな。まだ胃袋に結構残っている感触がある。五十七層までゆっくり歩いてそこからスピードを徐々に上げていこう」
「そうしますか。スッキリ眠れましたし、疲れは取れた感じはあります。午後から動くのは問題なさそうですね」
五十七層の階段まで二十分歩く。前みたいに胃袋を痛めながら歩く、という二次災害を起こすことは無く無事に階段までたどり着いた。
「さて、肩の力を抜いて六十一層まで真っ直ぐ行くか。道中は最短経路で行こう。今日の収入は気にせず、地図を作ることを優先してざっくりと行けば多分また二時間ぐらい新しい場所を歩く時間が出来るはずだ。その間に階段が見つかるように祈るか」
早々と五十七層に下りると、最短経路、最小戦闘数で五十八層に向かう。途中、モンスターとは十回ほど戦闘になった。念のためガーゴイルもリビングアーマーも新直刀で殴ってみた所、効果あり。雷切も纏わせて斬ることによりガーゴイルは綺麗に切断、リビングアーマーも鎧に傷をつけ破断させることに成功した。
この調子ながら石像も行けそうだな、と手ごたえを確かにする。五十七層の内に耐久試験を終えて五十八層からは真面目に戦闘をこなす。その間にポーションと青魔結晶、そしていくらかの鎧の破片を手に入れた。
「この破片も後日まとめて上へ運ぶはめになるんだろうな。そう思うとここに通うのもちょっと気が重い」
「まあインゴットほど溜めこまなければ大丈夫じゃないですかね。今何個ほどあります? 」
「三十二個ほどあるな。まだかろうじてリヤカーには乗る範囲ではある」
これ以上増えればまた二往復とかする形になるだろうが、二往復ぐらいならまだ許容範囲内か。値段にもよるが、安ければ芽生さんも分け前を気にせずにさっさと現金化させちゃってください、となる可能性もある。
いや、そもそも金になるという可能性自体が無いのかもしれない。ゴブ剣みたいに価格が付かないとか、素材的に価値がないとか、鉄くずを買い取るような価格にしかならない可能性もまだ充分に含まれている。実際にいくらになるか考えて、それから考えることにするか。
「六十三層に到着するようになればまた何かしら……と、そういえばまだテントセットを仕入れてないな。次の買い出しでまた買ってくるか」
「何処かの階層のテントを外して持ってくるのでもいいんじゃないですか? 二十八層とか」
二十八層か……二十一層でも良いが、問題はテントの形状か。
「そうすると、またテント二つ立てて別々のテントでってことになるがそれはいいのか? 」
「そういえばテントを変えたのは途中からでしたね。それにテントの立て直しの手間とか考えると難しいかもしれませんね。人前で保管庫で収納してこっちでパッと出す訳にもいきませんから。テントの解体手順覚えてます? 」
テントの解体手順か……説明書どこ行ったっけな。同じテントの立て方をネットで探して印刷して保管庫に放り込んでおくか。それでなんとかなるはずだ。
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