1036:精算日 1/2
ダンジョンで潮干狩りを
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アラームで目が覚める。最近はアラームよりも少し早く起きるように体が調節されていたが、今日はアラーム通り。いつもより二時間早く鳴らすようにしたため体がまだ慣れていないらしい。
しかし、昨日の内に早く寝ておくことで睡眠時間は充分に取れている。しかしそれでもやはり早起きはちょっと眠いな。っと、お礼を言わなければ。今日早起きしたにもかかわらずあまり体に負荷みたいなものがかかってないのは君らのおかげだよ、ありがとう。
早速朝食を作って食べ、シャワーを浴びて眠気を完全に飛ばす。風呂上がりに洗面所の鏡を見てニッと笑顔。よし、今日もいい顔をしているぞ。
米は夜の内にタイマーでこの時間には炊きあがるようにしておいたので、ご飯の準備はヨシ。
冷蔵庫から一晩寝かせたシチューを取り出して、火にかけて焦げない程度に強めに温めつつ、時間ギリギリまで弱火でトロトロに煮込む、ヨシ。
温まったところでシチューの味見をする。昨日よりトロミが出ていていい感じになっている、ヨシ。
スーツに着替えていつもの装備をそろえる。普段のように探索をしない分違うストレスが溜まりそうではあるが、一日の我慢であるし、時間が空いたらいつも通り探索に戻る事だってできる。そう考えると午前中から午後半ばにかけては我慢の時間か。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。ギリギリまで煮込んだシチューと炊飯器を保管庫にしまい込むと、いつも通りの仕事のキリッとしているはずの自分を取り戻す。たまには部活の朝練に参加するのもいいだろう、という懐かしい具合を思い出す。早起きもたまには悪くない。
◇◆◇◆◇◆◇
ほぼ始発の電車に乗り最寄り駅へ。最寄り駅では接続するように駅始発のバスが待っている。そう言えば午前七時運営に変わってから始発で来るのは初めてだな。朝一はどんな顔ぶれの探索者が来るのだろうか。知っている人は居るのだろうか。ちょっと楽しみではあるが、同時に物珍しさを感じさせてしまうかもしれない。
バスの中で待っていると、よく見た昨日連絡した顔。朝一に寝坊せずに到着したらしい、芽生さんの登場だ。
「おはようございます……さすがに少し眠いですね」
「軽く寝てていいよ、下りるときに起こすから」
「いえ、頑張って起きてます。寝るならエレベーターの中でも眠れますから」
若干目をこすりながら受け答えするだけの頭は保っているらしい、完全に寝不足という感じではない。
「朝早い仕事になりましたけど、お昼とかどうするんですか、タイミング合わせて中華とか行きますか? 」
「一応作って持って来たから時間を合わせて一緒に食べよう。今日はホワイトシチューだ」
「お、それは楽しみですね。それまでの暇な労働時間、頑張って運ぶことにしましょう」
やがて時間が来たのか、バスは発車した。人の乗り具合はそこそこ。朝七時から活動する探索者はそう多くないのか、それともダンジョン周りに住んでいる人がほとんどなのかは解らないが、バスの席が全部埋まるか埋まらないかという程度には人は乗り込んでいる。勿論全員が探索者というわけではないんだろう。
道中、新しい武器を発注したことを芽生さんと情報を共有。腰を壊していた裕一さんの腰を無理やり治したことや前金と材料を前払いして剣の製造をお願いしたことを直接伝える。
「そういうのはレインで逐次報告してくれると嬉しいんですけどね。ログも残りますし」
「直接話したほうがいいかな、と思って。確かに言われてみるとレインで報告した方が確実に早く伝わる所だったな」
「洋一さん前も言いましたけど、スマホというか電子機器全般を十全に使いこなしてないですね。もっと現代技術に慣れましょうよ。パソコンは普通に使えるのにレインで連絡やメールやなんやらの細かい話やなんかは思い出さないと使わないようなところ、あると思います」
芽生さんにビシッと指摘され、思い返すことを想像する。
「明日のご飯はカレーライスだよ、とかでもいいの? 」
「全然アリです。むしろその連絡でやる気がたぎります。何なら料理中の画像を添付してくれてもOKです」
「なるほど……あんまりポコポコ送ると迷惑かもしれないという意識のほうが先に来ていたかもしれない。今後は頻繁に連絡することにする」
「そうしてください、でないと安くは無いお金払って維持してるインフラが勿体ないです」
そうか、連絡不足か。指摘されるまで気づかないことは色々あるんだな、一つ勉強になったぞ。今後はもっと連絡していくことにしよう。
色々と打ち合わせをしている間に【小西ダンジョン前】バス停に着き、自分たちを含めいくらかの人数がバスを降りる。さぁ、二人してせっかく早起きしてきたんだ。どうせならリヤカーも二台借りたい。もう一つのリヤカーの耐荷重にもよるが、出来るだけ少ない回数で運びこんでとっとと済ませて残った時間は探索にあてたいところだな。
芽生さんが着替えるのを待って早速入ダン手続き。なじみの受付嬢に少し驚かれる。
「今日は珍しく早いですね。深く潜られる予定でもあるんですか? 」
「昨日の改定で査定開始になった品物をダンジョンの下から持ってくる作業で一日が費える予定です。リヤカーも可能ならもう一台借りていきます」
受付嬢がリヤカーのほうを見る。リヤカーは数をさらに増やされ、綺麗に整列されている。数が揃っていないのは一泊作業で借り切っている探索者が居るからだろう。
「そうですね……今なら大丈夫だと思います。持って行ってください」
「ありがとうございます。おかげで倍速とはいかなくても手早く終わりそうです」
受付を済ませると、リヤカーを装備。芽生さんもリヤカーを装備。耐久荷重を確認すると、こっちは二百五十キログラムまでいけるとのこと。これは、先に青魔結晶を積み込んで送り出して、二人で運び出せばうまく行けば昼からは探索に持っていける流れかもしれないな。
早起きは三文の徳というが、実際は百円ぐらいの価値らしい。だが我々の手にかかればそれが一千万円を超える価値になることはそれぞれが胸に刻んでいる。三文どころの得では無かったということだ。
「ちなみに芽生さん、ゴブリンキングの角は忘れず持ってきてるよね? 」
「もちろんです。部屋に飾ってあるのをちゃんと持ってきましたとも」
芽生さんがバッグからゴブリンキングの角を取り出す。
「ならよかった。これで角を忘れて来たなんて事になったら途中で十五層に寄ってもう一回撃破する流れだった」
「さすがにそこまでのおまぬけはしませんよ……と。三十五層まで行くんですよね? 」
「そう。なので先にそこまで行ける魔結晶を複数渡しておくので、往復する間の燃料費として使っておいて」
スノーオウルの羽根を取りに行くついでに拾った魔結晶でちょうどたどり着けるので、キリのいい魔結晶として重宝しているダンジョンヴィーゼルの魔結晶を複数個渡す。
「じゃあ、先に行ってて。次のエレベーターで下りるから」
「解りました……と、その前に何か雑誌ください。下りていく間暇です」
バッグから最近仕入れたほうから雑誌を適当に渡すと、芽生さんは自分でエレベーターを起動して乗り込んでいった。エレベーターが閉まった後、十秒ぐらいしてまた新しい箱が出現する。次の箱に乗り込むと、同じく三十五層のボタンを押してそこまで下りる。
さて、いつも通りクロスワードでも……あ、昨日雑誌買ってくるの忘れたな。もしかしたら今日中に全部解いてしまうかもしれない。そうなったらどうしよう。古い探索・オブ・ザ・イヤーでも見返すことにするか。
いつも通り三十分クロスワードを解いて、四問ぐらいクリアしたところで扉が開いた。三十五層に到着したらしい。普段より到着までの時間が短い分やはり早く感じるな。
芽生さんはテントの前にリヤカーを置いて待機していた。そして開口一番。
「この雑誌もう読んだので次の雑誌ください」
どうやらドロップ品を渡す前に雑誌のほうを渡さないといけないらしい。
「どれにする? 」
芽生さんからあらかじめ渡されていた雑誌の内、いくつかを取り出して芽生さんに直接確認してもらう。
「そうですね……これとこれにしましょうかね。バッグに入れておきます」
俺から雑誌を受け取ると、早速自分のバッグに仕舞う。今彼女のバッグの中には魔結晶とゴブリンキングの角、そして雑誌が入り込んでいるはずだ。他に何か……水分と生理関係の用品ぐらいは自前で用意してるだろうな。
とりあえず、耐荷重が三百キログラムのこっちには三百個のインゴットを乗せる。本来ならもうちょっと軽めにしておくべきだろうが、回数をこなしていく都合上ギリギリまで載せたいのが本音だ。
「何キログラムぐらいまでなら引いて行けそう? とりあえずそっちのには二百五十キログラムまで載せられるらしいけど、載せられるのと自分で引けるのはまた別だし無理に引っ張ろうとして力なく出入口で力尽きるのもアレだろうから、魔結晶を先に運搬してもらうということもできる」
「そうですね……とりあえず二百キログラム載せてもらいましょうかね。それで行けそうなら次は二百五十でも大丈夫だと思います」
芽生さんも多少ステータスブーストが地上でも使えるつもりになっているらしく、女性の細腕にはちょっと辛いかもしれない量を申し出て来た。
とりあえずインゴットを二百本、荷台に載せてみる。芽生さんはそのままリヤカーを引き、重さ的に余裕があるかどうかを試してみている。
「これなら大丈夫そうですね。これで行きます」
こっちもインゴットを三百本載せて試してみる。ダンジョンの中だからと言ってリヤカーにはステータスブーストが使えないので、若干普段に比べてきしみが出始めているが、問題なく動きそうなのでそのまま行くことにした。
そして再びエレベーターに戻り、一層へのボタンを押して一層へ上がる。クロスワードは最後のカテゴリになってしまった。これを終えたらもうこのエレベーター時間にやることが……やることが少なすぎる……
さすがにちょっとコンビニ行って雑誌買ってから帰ってくるような真似は芽生さんに言えんし、ここは眠気をより覚ますために少し眠るか、それともやはり溜めこまれた雑誌を読むかしかないな。
そう言えば芽生さんは普段はどんな本を読んでいるのだろう。無造作に突っ込まれて雑誌として保管してはいるものの、読んだことが無い。これを機会に読んでみるのも有りかもしれないな。
等と考えているうちに一層に到着したらしい。さあ、みんな大好き査定のお時間だ。気合を入れてリヤカーを引こう。
出入口を越えると途端に手元にグッとくる重さ。これが三百キログラム、そしてこれが過去の成果。感動すら覚えるが、この暑い中感動に打ち震えていては熱中症になってしまう、さっさと涼しいギルドの中まで移動しないとな。
退ダン手続きを取ろうと受付嬢に近寄っていく。
「すいません、これからダンジョン内とギルドを往復する予定なんですが、毎回退ダン入ダン手続き必要ですかね? 」
「いえ、そのまま行っちゃってください。何回か往復するという話はもう聞いていますし、最終的に何時にダンジョンを離れられたのかが解ればいいですから。文月さんにもそう伝えてあります」
これは一手間助かる。そのまま安心して査定カウンターへ行くと、芽生さんが絶賛査定中だった。空いていた隣のカウンターに並ぶ。
「さすが二百個は重いですね。ちょっとくじけそうになりました」
「まあ、頑張った分の報酬はちゃんと出るんだからいい汗かいてお賃金をもらおうじゃないの」
査定嬢がてきぱきと数を数えている横でのほほんとリヤカーに体重をかけつつお互いをねぎらう事を忘れない。この精神が大事だと思う。
流石に芽生さんのほうが先に終わったらしく、二分割でレシートを出してもらっていた。
「どうします? 今渡します? 」
「うーん、全部終わった後でいいかな。そのほうが解りやすいし」
「解りました。じゃあ後でまとめて支払いカウンターへ行きましょう」
レシートは後でそれぞれ交換することで意見がまとまった。同時にカウンターに現れる保証はないし、そのほうがより確実だろう。
「質問ですが、あとどのぐらい持ってくる予定ですか? 」
既に朝からお疲れの査定嬢から質問が飛んでくる。
「そうですね。後三往復ぐらいで済めばいいかな、ぐらいですかね」
「そうですか、覚悟しておきます」
どうやら今日は朝から精一杯仕事をしなければいけないと覚悟を決めたらしい。より気合の入った表情になった査定嬢から支払いレシートを受け取ると、そのまま支払いへ行かずに再びダンジョンへ戻る。後三往復予定。しっかり暇つぶしを考えておかないと、妙なストレスに襲われてイライラするかもしれない。
その内、なんでワープじゃなくてエレベーターなんだよと言いだしそうだが、エレベーターを申し出たのは俺なので文句を言う相手には自分の顔しか思い浮かばない。ここは我慢の時だ。ひたすらに頑張ろうではないか。
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