1034:いつもの流れでいつもの探索
ダンジョンで潮干狩りを
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「ふむ……まあ、いつも通りに生活していればいいってことかな。何かしら不具合が起きた場合は僕が直接出向いて対処する必要はあるかもしれないが、そうじゃないなら好きにしてくれても構わない、と」
「そもそもこっちからこうしろ、と言える立場じゃないことは承知の上で動いてるんだろうし、もしも人懐っこいダンジョンマスターが居たなら自分から進んで会いに来るだろうし。他のダンジョンではどうしているかまでは情報を仕入れてはいないが、ダンジョンマスターのサービス精神あふれるダンジョンというのはまだ確認されてないしね」
それだけ気軽にダンジョンマスターに会いに行けるダンジョンがあるならもう話題に上っていてもおかしくは無いが、そういう情報はなかった。現状ではミルコのように時々お供え物を持っていくことで時々顔つなぎをする、ぐらいのはずだ。
「まあ、状況を見ておいおい、といったところかな。お供え物が捧げられた場合はどうしようか。姿を見せてあげたほうがいいのかな? 」
「その辺を含めて任せるよ。初めてお供え物をくれたからサービスで登場するでも良いし、お供え物だけ貰っていくでも好きな方を選べばいい。どうせ会話は聞こえてるんだから、ダンジョンマスターを呼び出して自分の欲を満たすためだけに呼び出そうとしてるのかどうか、なんかは判別がつくはずだしな」
「それもそうだね。一々報告とかもしなくていい感じかな。ただ世間話程度にこんな探索者が居たよ、ぐらいの話のタネにはなるかもね」
そのぐらいだな。ま、そういう訳で今後はダンジョンも賑やかになると思うよ。流石に一ヶ月や二ヶ月で追いつかれる可能性は無いと思うけど、俺もそれなりに奥へ行ける準備をしていかないとな。
「とりあえず、探索者が増えてドロップ品の持ち出しが増えていく可能性が上がったのは解ったよ。もしかしたらエレベーターの件も含めて、僕らが予想していた年月よりかなり早く目標を達成できそうなんだ。もしかしたら安村が生きている間にダンジョンが必要なくなる日が来るかもね」
「それはそれで寂しさはあるな。俺としては今後もダンジョンは続いていくんだなというのを肌で感じながらひっそりと引退したいもんだが」
「まあ、その時が来そうなら教えておいておくれ。次の保管庫の保持者を何処のダンジョンでどういう人物を目標にして僕らの楽しみを増やしていくか、なんかの相談もあるかもしれないからね」
そういうとミルコは両手いっぱいにお菓子を抱えて転移していった。相変わらずフリーダムな奴である。尤も、フリーダムなおかげでこっちものんびりと探索が出来るので悪いことはない。精々見守られながら探索を進めることにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
腹が落ち着いたところで出立する。もしかしたら結衣さん達がうろうろしてるかもしれないが、その時は挨拶をして通り過ぎよう。五十一層ではスキルオーブはしばらく出そうにない、という共通認識があるので、彼女たちが来ているなら五十二層か、少しモンスター密度を落として五十層で戦っているだろう。
価格改定初日だから今日は軽めに流して五十層、という可能性もある。残り三人分の【毒耐性】と体に着いたシャドウバタフライの鱗粉を落とすための【生活魔法】。ここにきて色々とスキルが必要になってきたという感じはするが、俺達もそうだったことを考えると通過儀礼みたいなものだろう。二人パーティーという少ない人数であるが故にかき集めるスキルオーブの数が少なかったのはこの際利点であるな。
さて、今日の探索だがスキルオーブドロップを優先的に狙って五十層をうろうろする、というのも有りだが、五十層と五十一層では時給換算の儲けの値が六百万ほど変わってくる。今から仕事を五時間するとして、三千万円分の変化ということになる。ほぼ【毒耐性】一個分の差額になるため、かなりの違いになる。
そして五十一層でも問題なくソロ活動できることが解っているし、甘ったるい匂いが嫌になったら自分でウォッシュをかけて綺麗にできるようになったのでここは他のマップと同様に行動できる、という【生活魔法】と【毒耐性】両方を兼ね備えた俺にとってはボーナスステージみたいになっている。
四十三層でカニうまダッシュでも良かったが、最近気になっているのはシャドウバタフライの鱗粉、つまり甘味だ。これを何処かの企業が買い集めて商品化し、その商品が店頭に並びだすまでは集めるのを頑張っていきたいというのが本音である。
今までにもかなりの数を納品しているはずで、多分少なめに見積もっても四百袋ほどの分量は出荷している。どこかの企業複合体が買い取ってそれを研究しながら食品に応用していくという話は聞いた。食べ物なのか飲み物なのかまでは判別がつかないが、一袋に十グラムぐらいは入っているこのシャドウバタフライの鱗粉、五百万倍に薄めることで砂糖と同等の甘さを演出することが出来る。
つまり、中身が十グラムだと仮定しても五十トンの砂糖を使用するのと同じだけの価値がある、ということか。五十トンの砂糖同等品、もしかしたらカロリーレスかもしれないこの甘味を使うことでどのくらいの甘味代金を浮かすことが出来るのか。
それとも物珍しさや独特の風味を前面に出して、ダンジョン産の甘味を使用しています、みたいな形で売り出すのか。いずれ商品が出来上がった時にその味わいとこれが作られるために努力したんだぞ、という自己満足を得たいものだ。
さて、五十一層行くか。五十層の階段を下りて歩き慣れた道どおりに進み、シャドウバタフライを遠距離で雷撃し、シャドウバイパーをたまには近接攻撃で倒して汗を流し、シャドウスライムを見つけたらバニラバーの儀式で確実にポーションに変えながら進む。五十層はモンスター密度が薄いのでシャドウスライムに仕掛けるバニラバーも比較的楽にできる。一匹八十万円確定というのは中々に熱い。
しかし、シャドウスライムだけを相手にして毎回バニラバーをしていては俺が食べる分も含め、今はそこまでの在庫が無い。無理にバニラバーをする必要は無いので心のオアシスに水を湛えたくなった時にふらりと現れてくれればそれでいい。
そのまま階段までのんびりと進み、五十一層へ。ここからはそこそこ飽きずにうろうろできるエリアが広がる。どっちを向いても敵ばかり、という五十二層とは違い戦いと戦いの間に少し一息入れる時間もある。焦って探索に精を出す必要もない、通い慣れたこの場所が割と好きである。
他の探索者からすればこんな所はとっとと通り抜けて次へ行きたいという気持ちもあるだろうが、この先五十二層はエンカウントというくっきりとした区別のない、延々とモンスターが近寄り続ける危険地帯だ。集中力を欠いた状態で戦えば毒なりマヒなり攻撃なりを受けてもおかしくは無い。
流石に一人で五十二層をうろつくまでの度胸は無い。実力的に抜けられるのか? と問われれば多分そうであるとは言えるだろうが、ダッシュ大会でもないのに戦闘に忙殺されるのもそれはそれでストレス。出来るだけストレスなく戦うことを考えると、スキルオーブのドロップを考えずに五十一層をひたすら回るのが正解だと思う。
五十一層なら、ダッシュ大会とは言わずとも徐々にギアの段階を上げてより素早く移動して少しでも儲けを多くして帰ろうとすることもできる。五十層で同じことをやろうとしても、そもそもモンスター密度が低すぎるのであまりお勧めできない。
もしかするとあれかな、四十九層に緊急用のキュアポーションランク1を並べておいて手持ちが無くなった時にお使いください、みたいな利用法で並べておくのも有りなのかな。人が増えてここまで潜りこんでくる猛者が増えてきた時にまた考えてみるか。
さて、五十一層ダッシュ……ではないな、速歩か。まずはここから始めてみよう。少しでも時間当たりのモンスターとのエンカウント数をあげつつ休憩をいつでも取れる環境を維持しておかないとな。
早速目の前に現れたシャドウバイパーを消し炭にしてドロップを回収。目的としてはシャドウバタフライのほうが優先されるが、シャドウバイパーの牙もそれなりの価格で売れるのでくれるものは貰っておこう。
実際の所カニうまダッシュよりも金にはなっているが、どっちのほうがより良いものになっているか、という点については一口では言い難いな。ドウラクの身もそれなりに値下がりしてしまったし、四十二層付近の旨味は少し減ってしまったことに違いは無い。
探索者として金を稼ぐことに注力して出来るだけ無理をしない範囲で深い階層に潜るのか、それとも需要のありそうな素材を目指してそこで探索を続けるのか。どちらが姿勢として正しいものなのだろう。
ダンジョンの目的としてはより深い階層のドロップ品のほうが魔素が多く籠められており、それを数多く持ち帰ってくれる方が希望に沿った話になる。そうなれば、今ここに潜っていることには問題は無いはずだ。
細かいことを気にするのはやめるか。俺一人で取り切れない分は他の探索者がより深く潜ってくるようになったら数でごまかしがきくようになるはずだ。数で押すのは戦略の基本。俺一人で出来ることはたかが知れている。
今日もいつも通り好きなだけモンスターを狩り倒して帰ることにするか。よし、考え事やめやめ! 探索に集中しよう。ここから先は何も考えず、見えたものについて考えるだけにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
集中すれば時間はあっという間。普段より少し長めに探索をして戻るのに時間がかかった。そして、四十九層に戻ると、エレベーター前で待機する結衣さん達の姿が。
「お疲れ様です、安村さん」
「お疲れ様です、これはあれですか、洗濯待ちの行列? 」
試しに聞いてみると頷く全員。まあ、ちょうど居るということと、生活魔法をオファーにかけている最中なのでその間の手慰みという意味でも、地上に戻ってまた一悶着起こさないためにも必要な措置ではあるだろう。
「明日は一日三十五層との往復ということになってるのでかけられないけど……まあいいか、今日は」
順番にウォッシュをかけていく。気持ちよさそうにしている全員の、白い鱗粉がまとわりついている全身から黒い粒子が立ち上り、段々綺麗になっていく。俺もウォッシュが上手くなったもんだな。
「お世話になりました! 」
全員にウォッシュをかけると五人そろってこっちに敬礼。うむ、本日も探索ご苦労である。
「安村さんは今日は何層におられたんですか? ちっとも出会いませんでしたが」
綺麗になった平田さんがガントレットを外し、ガントレットの隙間の匂いを嗅いだりして細かい所をチェックしながらこちらの様子をうかがってくる。多分残り香が有ったらもう一回お願いします、と来るところだろうな。
「ちょっと遅めに入って昼食食べてからずっと五十一層に居ましたよ。そっちは何処にいたんですか」
「ずっと五十二層で中々進めず難儀しておったとこです。あそこはなかなか進むのが難しい所ですな」
「モンスターの索敵範囲もなんだか広いような気がしますからね。あの階層だけなんだか特別ですね。五十五層も似たような雰囲気を出してはいるんですが」
どうやら細かいところまでチェックしても大丈夫だったらしく、ガントレットを嵌めなおした平田さんがもう一度こちらにぺこりと頭を下げ、礼を言う形になった。
「最悪地図は出来てますから、それを参考にしてもらいながら最小限の戦闘だけで進んでいく、という手もありますよ。ただその先でどうなるかはちょっと保証できかねますが」
「もし何回かチャレンジしてみてダメそうなら参考にさせてもらうわね」
結衣さんも全身チェックでOKが出たのか、荷物整理をしつつ会話に参加する。
「それまでは自力で頑張るってことか。あんまりうかうかしてると他のB+ランクに追い抜かれるかもしれないぞ」
「それは安村さん達も一緒でしょ。Aランクがダンジョン踏破の証明書でしかない以上、みんなB+ランクになって最深層まで潜りこむようになったら……そういえば、ミルコ君はどう対応するのかしら。安村さんみたいにフレンドリーにお菓子をねだりつつ会いたい人には会いに行く、みたいな感じになりそうだけど」
結衣さんはフレンドリーにふるまっているミルコの動向が気になるらしい。
「それはお供え物する際についでに言っておいたよ。やりたいようにやればいいって。こっちからダンジョンについて色々と……あぁ、でもダンジョンについての質問はどうしようね? 一応秘匿されてるダンジョンの秘密とか他の文明やらの話については聞かれても秘密で通してほしいかな。今になって思いつくとはな。これちゃんとミルコに伝わってるかな」
すると、コーラの空きボトルが目の前にポコッと現れた。どうやらちゃんと見ているぞ、というのを伝えるためにわざわざこれだけ転移させてきたらしい。本人が出てこないのはもう今日の貢物をもらった後だからだろうか。まあ、伝わってるならそれでいいや。
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