1033:行くか、ダンジョン
ダンジョンで潮干狩りを
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会見が終わり、質疑応答に入った。まず、最初にダンジョンマスターと接触したことがあるのは何処のダンジョンで誰だったのかなど、ダンジョンが現れた比較的初期の段階の質問から始まり、今この場で具体的な金額を濁したのはなぜか、などを追及されているが、既に対策は考えてあったのであろう、滑らかに言い訳……この際言い訳で良いよね? きちんと対応して記者の詰問に近い質問を受け流し、次の質問へ向かわせている。
そして、既に価格改定の話と前回までの金額に対して金額の差異や減少、上昇における基準などを質問する意見が相次いだ。
真中長官曰く、これからB+ランクが増えていくため今までよりも供給が増えることになる。そうなった場合、査定価格の高さが参入障壁になっていたそれらのドロップ品に携わる関連企業に、大手だけでなく中小の企業も参加できるようにあえて金額を落として行っている。ただ、消耗品や食品である所の部分に関しては可能な限り下げないように調整はしたつもりである、とのこと。
具体的には金額の変わっていないワイバーンの肉と、金額がかなり下がったドウラクの身とミソだろうな。やはり一肩一万五千円は高すぎた、と感じたらしい。一生懸命普及に努力したつもりだが、味と値段と満足差のバランスがまだ悪かったのだろうな。
値段が下がることは悲しいが、高くて買い手がいなくて人気が無い食品というのも扱いに困るだろうしな。安くして様子をしばらく見る、という形でいずれどこかで需給が握手し合うところに行き当たるのだろう。もしかしたらカニが突然採れなくなるなんて可能性もあるしな。そう言った場合のダンジョン産食品の強みはある。
今まで下層に潜って散々稼いでいた探索者については少し冬の時代が訪れるかもしれないし、俺のスノーオウル討伐も目撃されてどうやって羽根を運んでるんだろうと疑問を持たれる可能性は高い。まあでかいバッグに順番に入れて行けば目隠しは出来るだろう。本当に問題になった時にまた布団の山本に相談しに行くことにするか。
さて、なんだかんだ時間がかかってしまったのでおそらくダンジョンに潜るのはワンテンポ遅れるだろうし、ギルドへ行って本当に査定物が貼り出されているのか確認作業も必要だろう。そろそろ出かける準備をしなくてはいけないな。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日の午前中は仕事にならなさそうだが、その分カロリーは使わないので軽めの昼食にしたのは英断だったかもしれない。さて、でかけよう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもより遅い時間にダンジョンについた。ダンジョンには当然の如く、ダンジョンに潜るよりもギルドの建物のほうに集まっており、自分たちが昇進できるのかどうかの確認や、他のランク帯のドロップ品について貼り出された写真と名前と画像を自分の手元に置いておくためにスマホで撮影する探索者、それらを見てワイワイ楽しんでいる探索者などであふれかえっていた。
「あ、安村さんおはようございます」
田中君もその中にいたようだ。やはりBランクになって日は経ってないとはいえ、自分がさらに上昇できるチャンスがあるかについては気になるのだろう。
「おはよう。大賑わいだね」
「ここで集まって価格改定でワイワイやってる間に長官の記者会見があったでしょう? スマホでみんなでライブ中継見て、その後揃って支払いカウンターのほうへ集まりだして、昇級の基準書をそれぞれ求め始めたんでそこからこの混雑っぷりですね」
どうやら誰かがスマホか何かで中継を見ていたらしい。そこで詳しくはギルドへ! となってみんなが集まりだしたと。
「安村さんは……安村さんはどの辺のドロップまで見たことあるんですか? 」
田中君がいつもより踏み入った質問をしてくる。張り出してドロップ品を何処まで見たことが有るかで俺が何処まで潜ったことがあるのか、ということについて当たりを付けるつもりなんだろう。ふむ……黙っていてもどうせドロップ品を下から運んでくる日に全部バレることになる。
真中長官がすべて公表したことで、もう黙っていなくていいよというメッセージも含まれているんだろう。なら、教えておいてもいいか。
「全部だ。今日まで査定にかけられなかった分のドロップ品は下層に溜めこんである。今度芽生さんと潜る時に、今日から査定開始になった品物も含めて一通り全部査定にかけようと思っている」
実際は今全部持ってるけどな。流石に昨日の今日でB+ランクに上がって三十五層や四十二層まで駆け上がって来れるほどアクティブな探索者は思い浮かばない。ランクが上がるにしてもすぐさまその準備が出来ていて納税額まで達成できている、となると限られてくるだろうし、あと数日の猶予はあるだろう。
「量からしても明日は一日換金作業になるかな。エレベーターの中でどんな暇つぶしするのか考えておかないとな」
「そんなに溜めこんでるんですか……でもそこまで奥深くまで潜っているなら仕方のないことなのかもしれませんね」
「新しいドロップ品が出ても、それが社会的にどのぐらいの影響力を及ぼすかや、いくらぐらいになるのか、食べ物なら今ある食べ物なのか、味はどうか、装備品なら使い心地はどうか、なんかを色々検証したうえでちゃんと値付けをしてくれるみたいだからな。安すぎても高すぎてもいけない所をうまいところ調整するのに時間がかかるとかそういうのだと思うよ」
価格改定は、そもそもそういう市場価格との乖離に対して査定側で仕入れ値部分から調整をかけるための作業だ。安くなったということは需要に対して価格が高すぎるか供給が多すぎるという話になる。
「適当に値段付けて、ではいけないということですか。確かに、珍しさだけで値段をつけることもできますけどそれを買う人がいるかは別の話ですもんね」
「たとえば……今回一万二千円になったドウラクの身。これはカニの一肩分で一キログラムぐらいの大きさがあるんだけど、同じ重さのカニの市場価格がいくらかを調査したり、味やその評判を調べて実態を調査して、その辺のバランス調整が入って今回価格変更になった、とかそういうのだな」
「じゃあウルフ肉とかボア肉に今回調整が入ってないっていうことは、需給が安定してるって見ていいんですかね」
「そうだと思うよ。わざわざそれを調べる専門の部署もあるそうだし、ギルドの査定価格よりも君らが査定にかけずに持ち帰って市場にばらまくほうが流通ルートの主流になるって形になっていくなら、査定価格も下がるんじゃないかな」
田中君がさっきからなるほど……なるほど……と言いながら俺の話を聞いている。今回は肉関係で調整が入ったのはケルピー肉が三千円に下がったことぐらいか。美味しくて疲れが取れる馬肉だが、Bランク探索者がたくさん取ってきてくれるおかげで供給が需要を上回ったらしい。
今回は以前からあった二割縛りというものは無視して需給の調整を確実に行うほうを最優先し、これからの人口増加を見込んでの価格改定になったようだ。
しかし、事前に価格を知っているB+ランク帯の人間からすれば、今回の価格改定はすんなり受け入れられるということはなさそうだ。今まで充分稼いできたんだからもうちょっと他のランク帯とのバランスを取れとは言わずとも、俺の懐にも少し寒風が入ることは確かだ。
特にスノーオウルの羽根がかなりの値下がり価格になったことは大きい。さて、布団の山本との値段交渉をどうするかが悩みどころだな。
「じゃ、俺はダンジョンに早速入ることにするよ。ここでうろうろしてても金にならないし、値下がりした分のアイテムはきっちり回収しに向かわなければならないし、明日の準備もあるんでな」
「そうですね。今回の調整で大きく懐に関わりそうなことはなさそうですし、B+ランクが増えるならBランク帯の混雑が解消してその分実入りも大きくなるかもしれません。僕もしばらくしたらいつも通り二十一層に向かうと思います」
田中君と別れて入ダン手続き。顔なじみの受付嬢から早速一言貰う。
「おはようございます。価格改定初日から早速潜るんですね」
「まあ、他にやることも無いですしね。本番のようなものは明日なんで、よろしくお願いしますよ」
「明日何かしらやらかすということは解りました。ではご安全に」
「ご安全に」
リヤカーを引いてダンジョンに潜って早速七層、茂君。茂君は今回の価格改定で影響を受けることは無かった。そして今日も無事に茂っていてくれた。こっちは問題なさそうだな。
茂君との挨拶を終えて四十九層へ向かう。そろそろ新しいクロスワードの月刊誌が出るころだな。明日は一日荷物の出し入れをしたらそれで仕事を終えてそのまま買い出しに出かけることにするか。明日の予定がたったところで今日もクロスワードを解き始める。
エレベーターの速度ももっと速くなればいいのに……とそろそろ思い始めるころだが、深さ故の問題だし、移動時間がかかるのはネックだな。他のB+ランク探索者の間でもこのエレベーターの暇な時間で何をするか、という点について色々と考えているに違いない。一人で潜っているような奇特な探索者は多分いない。
やはりこう、話し相手というか相談相手というか、そういう点でもパーティーメンバーが居るのは大事であるということをしみじみと感じながらクロスワードに勤しむ俺であった。
◇◆◇◆◇◆◇
四十九層に着いてリヤカーをいつもの場所に。時間が遅いおかげで早めの昼食のサンドイッチを今の内に食べて、じっくりと五十一層で狩りをすることにしよう。
ダンジョン素材が全くないダンジョン飯、というのもたまにはいいな。しいて言えばもう少し量があっても悪くは無かったかもしれないと今更になって思い始めたぐらいか。トーストを焼いて卵を焼いて、トーストに乗せて食べてもう一枚分カロリーを補給しておくぐらいにとどめるか。
早速トーストをコンロで焼き始める。トーストのほうが先に出来上がるし余熱も充分に蓄えられるので、先にトーストを焼いてから目玉焼きだ。このほうがトーストを焼くのに使った余熱も目玉焼きに吸い取らせることが出来るのでこの手順にした。
目玉焼きをバターを塗ったトーストの上に乗せて食べる。小腹を満たせる感じがちょうどいい。やはり肉でもう一サンド作っておけばよかったか。
腹が満たされたところで次はミルコの腹を満たしてやる番だ。ついでに報告も行っておかないとな。
「ミルコ、ちょっと相談したいことがある」
叫んだあと二拍。ミルコは姿を現してくれた。
「やあ安村。なんか久しぶりだけど今日は何か用事かい? 貸しを一つ使ってのお願いかな? それとも、もっと他の出来事でもあるのかな? 」
「具体的にはお願いではなく用事、それも連絡事項に当たる事かな。主に探索者連中についてだ」
ミルコには簡単に、今後は三十一層以降にも自由に潜り込んでくる探索者が増えることを伝えた。
「なるほど、その探索者ランクを開放することになったわけだ。僕らにとっては理想的な話になりそうだね。真中だったかな? 彼の尽力のおかげということだろうか」
「そんなわけで、ダンジョンマスター目当てに潜り込んでくるパーティーも増えるだろうから、その対応についてなんだが、自由にしてくれていいと俺は思ってる。そもそも俺から口を出すようなことでもないしな」
「隠匿して一部の探索者にだけダンジョンマスターとのやり取りを続ける、という手もあると思うんだけど? 」
ミルコがこっちの様子を確かめるように質問をしてくる。
「もうダンジョンマスターが居るってバレちゃったし、いまの探索者ランクのまま継続するのは難しい、と判断してのことだろうしね。そうなったら奥まで行ってダンジョンコアを破壊するか、ダンジョンマスターに出会って説得するかの二択になるだろうし、ダンジョン庁としてはダンジョンを出来るだけ潰さずに深いところまで作ってもらうようお願いして回ってるはずだからな。俺のところにダンジョンマスターのことは隠匿してくれって依頼が来ていないってことは、好き放題言いふらしても構わないという意味ではないが、会いたいやつがいたらダンジョンマスターのルールを逸脱しない範囲で出会ってしまっても良いと思われてるんじゃないかな。もしくは連絡不足か」
たしかに、価格改定に合わせてB+ランクを開放することに関しては芽生さん経由で話は来ているが、それについてダンジョンマスターに連絡をしておいて欲しいような内容の話は無かった。つまり、なるようになればいい、その刺激がダンジョン界隈に必要なんだと考えている可能性は高いな。
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