1030:過ぎれば早い三日間
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
リビングで寝始めて三日経った。予定では今日の午後一で設置業者がエアコンを設置しに来てくれる手はずになっている。その為今日は一日休みだ。朝一で布団の山本に行って納品だけ済ませてしまおう。それで帰ってきてからエアコンの設置作業をリビングで見守る、ということになる。念のため扇風機で風通しはよくしておこうかな。
いつもの朝食を食べてお通じを感じ取り、今日もいつも通りの生活を送れそうだという感覚を得る。この感覚は三日間何とか維持してくることが出来た。そして、今夜から今までと同じ通り同じ部屋で違うエアコンで、より涼しく快適に過ごせる可能性が高くなっている。
一通り朝のお仕事を終えたところでちょっとコンビニで買い物。エアコンの取り付けに来る人たち向けに麦茶を三本買っておく。取り付けが終わった際にお疲れ様といって差し入れするのにちょうどいいだろう。
戻ってきて布団の山本が開く時間までネットで情報収集をする。ダンジョン界隈はあと数日で訪れる八月一日の価格改定に色めき立っており、何が安くなって何が高くなるのか、魔結晶は、ポーションは、と様々な反応を見せている。
価格が安くなるであろう筆頭はトレントのドロップ品一通りとカメレオンの革であるらしい。ほとんどのBランク帯で探索者の通う姿が目撃されており、需要を大きく上回る形での供給が為されているからではないか、という予想と、何処から漏れたのかまでは解らないが流通業者からの話が聞こえてきており、これらの在庫の移動がほとんどないので需要を既に上回っている可能性が高いとのこと。
たしかにカメレオンの革は今更珍しさもないし、それほど使い道が幅広い商品でもない。トレントのドロップ品に関しても、モンスター忌避塗料に使われるトレントの樹液と香料用のトレントの枝ではやはり需要がそれほどない、トレントの実に関しては食うと気持ちがいいという消耗品としての需要は高いが、やはり現在の価格で流通するには高く、一般流通に乗せて加工品や丸のまま一個お出しするような商品としてはやはり値下げが必要なのではないか、という話だ。
個人的に思う所を追記するならば、今後B+ランクが拡充されるということが解っている以上ワイバーンの素材やその更に下の階層のスノーオウルの羽根や熊の熊胆もまとめて値下げし、供給がだぶついても需要側がその値段に納得してくれるように調整を入れて来るのではないか、という予想である。
今まで価格改定は聞けば教えてくれるもの、として価格の査定をやってきたが、どうも坂野ギルマスの言いぶりからすると、今回からは価格発表を大々的に打ち出し、前回からいくら下がったかいくら上がったかを記述することなく各ドロップ品はいくらで買い取るようにします、という形でギルドに貼り出すそうだ。
それを今回担当する五十六層のドロップ品と、青色魔結晶までまとめてそれをやる、という形にするらしい。今のところ手持ちの中で金額が定まっていない、溜めこまれた青色魔結晶とインゴットは相当な量になる。これがいくらになるか非常に楽しみだ。
ただ、その為には五十六層とはいかずともそれなりに深く潜って……最低でも四十二層か、そこまで潜った偽装をして荷物の積み下ろしをやって、そこから更に地上に戻って査定にかける、という作業を繰り返すだけで一日がつぶれることは確定しているので、今後は保管庫との付き合い方も考えていかなければいけない。
リヤカーの耐荷重を考えると、インゴットだけで五往復、魔結晶で二往復は確定だろう。つまり七時間ほど、荷物の移動だけに費やすことになる。保管庫の中のクロスワードがもう二冊必要になるだろうな。
利益を分割する芽生さんも当然ながら同行することになるので、二人してエレベーターの中で過ごす時間が格段に増えるということだ。これはこれできつい。お互いに対して飽きるという意味ではないが、時間を潰す手段がクロスワードだけというのも中々厳しいかもしれない。
これはパーティー存続にもかかわる大事なことなので俺だけ積み下ろししてその間芽生さんがフラフラと狩りに出かけている、というのも許容する必要があるだろうな。
さて、良い時間になった。布団の山本に電話連絡をかけて今日も十五キロと四キロを納品することを伝えて車で出発。三十分後到着。休日だからか駐車場には若干の混み具合が見られる。お客さんがそれなりの数いるということだろう。
店内に入ると山本店長を見つけ、店長が会話を行っているお客さんとの話が終わるまでしばし待つ。その間に店内を見回ると、ダーククロウの羽根の芯だけで作ってある枕を見かけた。触った感じ中空のプラスチックを中身に詰めたような感触だが、お値段はそこそこの物になっている。
商品の捨てる部分の再利用とはいえ、利益を出すためには大事なことなんだろう。隣にはダーククロウの枕と一般的なダウン、羽根を混合したお試し快眠タイプというものも用意されている。試しに眠ってみるだけならこれでも充分に香りと快眠を楽しめます、という売り文句だった。
羽根枕は複数種類有り、それぞれ一般ダウンとダーククロウの混合品、そこから更にダーククロウの混合比率を上げたもの、純百%ダーククロウ枕、二十五%スノーオウル入り、五十%スノーオウル、と段々値段が釣り上がっていく形になっている。百%スノーオウルは無いらしい。
そして、お試しとして一晩布団貸し出しサービスというものも始めたらしい。お値段はなかなかのものだが、一式ダーククロウ枕と布団をお貸しして、眠りの良さを味わってもらい中毒者を出させるための一計らしい。
「お待たせしました安村様。何か気になる商品でもありましたか? 」
山本店長が客との会話を終わらせこちらへ向かってきた。
「あぁ、色々見せてもらってたところですよ。貸布団のほうは好調なんですかね? 」
気になっていた貸布団の回転率について聞いてみる。
「この先二カ月予約で埋まっている状態となっております。まだ枚数が作れないので一気にお客様にご提供できるわけではないのが残念な所ですし、販売用布団にも数が必要なので少しずつの貸し出しではありますが、非常に好調な滑り出しを見せている、という感じでしょうか。結構グレードの高い旅館でスッキリ眠ってもらうために、と借り入れを希望する業者さんも結構いらっしゃるので」
「なるほど、順調なようで安心しました。とりあえず持って来た羽根をお渡ししたいのですが……お忙しそうですね」
「ちょっと奥から人を呼んできます。すぐ行きますので車のほうでお待ちくださいませ」
車で待っていると一分ほどで店員が現れたので、まずダーククロウ、それからスノーオウルと順番に渡し、奥へ持って行ってもらっていつもの品質調査と重さについて調べてもらった。
店内に戻ると、商談スペースに麦茶と羊羹が三つ乗せられていた。十五キロと四キロだと羊羹は三つに、そして麦茶はキンキンに冷えた奴が出て来るらしい。法則性がだんだんわかってきた気がする。
「さて、業務連絡という形になりますがまずご報告です。八月一日付でギルド査定の価格改定が行われます。まだ何がどういう風に値上がり、値下がりするかはサッパリ解らない所ですが、おそらくスノーオウルの羽根に関してはもっとお安く提供できるようになると思います」
「それはこちらとしては有り難い話になりますね。ちなみにそう予想される理由を聞いても? 」
山本店長が前のめりになりながら話を聞く姿勢を崩さない。俺は羊羹を一つ口にして、麦茶で軽く口を漱いでから話を切り出し始める。
「ここだけの話ですが、探索者のランクが開放される可能性があります。そうなれば、スノーオウルの採取できるエリアをより多くの探索者が通い詰めることが出来るようになります。その供給の増加を見越してあらかじめ安くしておく……というのが私の予想です。ダーククロウに関しては話題に上らないのでよく解りませんが、こちらは値上がりも値下がりもしないかもしれません」
「なるほど、安村様は他の多くの探索者と違って深い階層に潜れるからこそスノーオウルの羽根を大量に持ち帰ることが出来る……そういう立場だったということですか。ならば、布団の商売に手を出さなくてももっと儲ける方法もあったんでしょうね。それなのにわざわざありがとうございます」
山本店長が改めてこちらを見直し、頭を下げ礼を言ってくれた。
「そこは前に言った通り半分趣味、というところですから。ちなみに間もなく公開されるので大きな問題にはならないでしょうから言いますが、私の探索者ランクはB+ランクで何処までも潜り込んでいっていい、という探索者評価になっています。現状ダンジョン踏破経験者という名誉ランクであるAを除けば一番高いランクになるんですよ。おかげで深くまで潜って色々と情報を探って帰ってくることが出来るわけなんですが」
「では、最初にスノーオウルの羽根について持ってこられた時は、最深層でさっそくみつけたから持って帰ってきた、ということで合ってるのでしょうか」
「大体そうですね。後はギルドがまだ査定……つまりドロップ品の買い取りですね、その価格がまだ決まっていなくて持ち帰るしか選択肢が無かったというのもあります。すぐ後で暫定的に私たちがドロップ品をギルドに査定してもらうために価格が設定されたので、当初のあの価格、ということになっています。スノーオウルの羽根は今後ドンドン値下がり傾向に入るのではないかと推測しています」
スノーオウルの羽根の睡眠効果は絶大だが、絶大過ぎるのが困りものという弱点を持っている。確かに眠気は取れてスッキリはするのだが、体の体調時計がそれに合わせて動いてくれないという欠点がある。十全に機能させるには他の羽根と混合するなりダーククロウの羽根と混ぜてより快眠効果を高めるなどの処置が必要だ。
「それは我々にとっては有り難い話かもしれませんね。ともかく、価格改定に入ってその後の次の納品の時にまた値段交渉をすることにいたしましょう。今日のところはいつも通りの金額、ということでよろしいですか」
「そちらで不都合が無ければいつも通りということで。しかし、繁盛してますね」
店内にまた客が入ってくる。満員御礼とまではいわないものの、町の布団屋でここまで繁盛するという光景は現代ではそう見れるものじゃない。大売出しのセールをしている訳でもないのに、お客さんがひっきりなしに来ては布団の相談や布団のサンプルを見たり、ダーククロウの枕の匂いを嗅いでその香りに包まれたりしている。帰りの運転大丈夫かな。
「これも安村様のおかげ、ということは否定できませんので、今後とも良いお取引をお願いいたします」
「……と、こんな時間ですか。午後から家の工事がありまして業者さんが来るのでここらで失礼いたします」
しっかりと羊羹と麦茶を片付けて帰りの姿勢を取る。それに忙しいのに店長をいつまでも釘づけにしておくのも良くないからな。
「また何かありましたら……事業のタネでも見つけたらご連絡ください。精一杯対応させていただきたいと思います」
「解りました。では」
足早に布団の山本を後にする。山本店長の前では口に出さなかったが、予想としては一万円ぐらい値下がり、と言ったところだろう。今でさえギルドの査定価格より高い金額で引き取ってもらっているのだ、次の値段交渉はこっちから切り出すべきだろうな。
さて、昼食はあまり手間のかからないものがいいな。パスタでも茹でて適当なパスタソースを消費して、業者が来るまでじっと待つか。三日の間メンタルコンディションのちょっと良くない中で頑張ったんだ、ここできっちり休んでまた明日からの活力にしていこう。それに今夜は新品新作のエアコンをガンガンにつけて眠ることが出来る。
今我が家の中にある家電で最新の物になる。工事が楽しみだな。どのぐらい時間がかかるだろうか。試運転できちんと動くかの確認時間も含めるから最低でも二時間はかかるだろうな。それに加えて今のエアコンの取り外し工事もかかるから……さらに三十分。午後一と言っていたから午後一時に来るとして、午後四時までには終わる計算か。その間リビングでネットでまた色々見て回って自分に関係ありそうな価格改定やネットの話題をまた漁って時間を潰すことにしよう。
エアコン工事に関しては素人だから何も手伝えることはないし、ネットで調べたエアコン工事の下準備として、エアコン周辺を片付けておく、という作業は終えてあるので工事の邪魔になるようなものはないはずだ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。