1028:臨時収入っていい響きですよね
ダンジョンで潮干狩りを
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二階へ行くまでに結衣さん達の手続きを待つ。それぞれ査定完了のレシートをもって振り込みをお願いしているようだ。さすがに今から取引するとはいえ、実弾でやり取りするわけではない。前回と同じく振り込みで対処する予定だ。保管庫に入れている前提だが、俺もそこまで大量の現金を持ち歩いている訳ではない。
やるとしても気まぐれで一千万円の束を持ち歩いて、金ならある! ドン! みたいな感じでお出しすることもできなくはないだろうが、やること自体にそれほど意味があるとも思えないし、使い所があるともまた思わない。普段使いにするなら財布に入っている数十万だけでも充分すぎるぐらいだ。
結衣さん達を待っている間に休憩室でいつもの冷たい水を頂く。外の暑さとダンジョンの中の涼しさと水の冷たさで体が色々なことになっていそうだが、仕事終わりの一区切りをつけるという意味ではこの水のありがたさが文字通り一番身に染みる。
今日も一日が終わったんだ、あとはゆっくりしようぜ洋一、と水が語りかけてくるようだ。思わずそうかい、ありがとうとお礼を言いそうになるが、そういうのは家でこっそりやるぐらいがちょうどいい。ここでやったらただの変な人である。
結衣さん達の準備が終わったようだ。振り込みを依頼したレシートをバッグに仕舞うとこちらへ向かってくる。途中で水を汲み、俺と同じように一杯飲んでぷはっとしている。
「それ、美味しいよね。仕事後に飲むと今日も一仕事終えた気持ちになれる」
「解るわ。凍るギリギリまで冷えてるようなこの冷たさがキリッと身を引き締めてくれるのよね」
「飲んだら二階へいこう。ギルマスはもう居ないらしいけど準備はしてくれてあるらしい」
「こっちはじゃんけんが終わったら向かうわね。まだ誰が覚えるか決まってないのよ」
後四つ、今日の分を抜いて後三つ。人数分そろえるのかどうかはさておき、じゃんけんで決めるということは誰が覚えても恨みっこ無し、ということなんだろう。仲が良いことだ。向こうで四人で緊迫した雰囲気の中、じゃんけんぽい! という声が響いてきた。
「よし、今回は僕だね。ごちになります」
どうやら多村さんが勝ったらしい。多村さんは【索敵】を持っていることはよく解っているが、他のスキルについては知らない。他のメンバーのスキルも俺が把握している訳ではない。今どうなってるんだろうな。流石にスキルの数や性能に差が出始めるようならもっと別の何かしらのアプローチでもって彼らにスキルオーブを提供するのも悪くは無いのかもしれないな。
じゃんけん勝利の余韻に浸ったまま多村さんがこっちにルンルン気分で向かってくる。若干スキップするような感じで歩いてくるその様は勝利者のそれを思わせる。ちょっとかわいさもある。
「準備できたようだし行きましょう。ギルド職員は忙しいんだから待たせるのも悪いわ」
「そうだね。僕もさっさと取引して毒耐性の毒がどのぐらいまで効くのか試してみたいところでもあるしね」
全員そろったところで二階に上がると、応接室だけ明りが点いていた。ここにこい、ということなんだろう。中に入ると、いつものスキルオーブ取引セットを準備し終えた後方支援嬢が準備を整えている最中だった。
「あ、安村さん。スキルオーブの取引相手って安村さんだったんですね」
「私は売る方、こっち、買うほう。なのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
結衣さんも丁寧に挨拶をする。もしかしたらギルドの性質上縁が無いのかもしれない。
「では、時間もそれなりに遅いですし私も仕事がまだ残ってますので簡潔に行きましょう。まず、スキルオーブを出してください」
後方支援嬢にスキルオーブを渡す。後方支援嬢はスキルオーブの種類を確認した後「ノー」と声に出していい、スキルオーブを机の上に乗せる。
「なるほど、【毒耐性】ですか。今回考えられている取引額はおいくらになりますか。直接取引ですので金額はいくらでも良いのが本当の所なんですが、不正取引やギルドを利用しているのにやたらと安い値段や高い値段で取引されることによるマネーロンダリングや一部の探索者に対してギルドが優遇しているのではないか等の嫌疑がかかるおそれがあるので、あまり極端な金額での取引は出来ればご遠慮ください」
「その辺は前回も注意されたので大丈夫ですよ。今回も三千五百万円の取引でいかがでしょう」
結衣さんに前回と同じで良いよね? という視線を送る。結衣さんはこちらを見つめた後顔を縦に振り、了解の合図を送ってきた。
「こちらとしては問題ありません。その金額でお願いします」
「では、両者とも合意が取れたということで。買い取り側の皆さんはこちらの取引用の口座に振り込みをお願いします。五人居らっしゃるのでそれぞれ七百万円、ギルド税を抜きまして六百三十万円ということでよろしいですか? 」
五人全員が顔を縦に振る。結衣さんから順番に振り込みの手続きをし始めた。各自振り込みを確認された後で、今度はこっちが受け取る番。ギルド税を引かれた三千百五十万円の振込先を指定。これで取引完了だ。
「では、スキルオーブを覚える方は手にしてください」
多村さんがスキルオーブを手にし「イエス」と答える。スキルオーブが多村さんの身体に沈み込んでいき、発光を始める。しばらくして発光は元に戻り、いつもの多村さんが光の中から現れた。
「これで覚えたことになるのかな。【索敵】みたいに使い方が頭に流れ込んでくるわけじゃなさそうだね」
「【物理耐性】の時もそうでしたからな。まあ強くなったかどうかは次に潜った時に確認するか、帰ってお酒でも飲んでみればわかるんとちゃいますか? 」
物理耐性を覚えるときに特に何も感じなかったうえに、既に【毒耐性】も会得している平田さんが多村さんのなんか拍子抜け気分だというのをカバーしている。
「なるほど、酒も毒と言えば毒か。あれ、ということは安村さんは今はお酒を飲める体になってるってことなのかな」
ふと気づいたのか、こちらに話題を振ってくる。
「そうなりますね。限界量を試したことは無いですが、少なくともちょっと飲んだだけで眠くなるような完全にダメだった体質が改善されたのは確かです」
「なるほどね。帰ったら早速試してみることにしよう」
まず酒で【毒耐性】の効き具合を試す、という時点で酒は毒だと自認しているのにそれでも試そうとするのか、と疑問に思うところではあるが、もしかしたら多村さんは気持ちよく酔える体験を今後無くしてしまうのかもしれないな、と思うと少し残念な気がする。
もしかしたら【毒耐性】もON/OFF出来たりするんだろうか。今度試してみ……いかんいかん。思考が多村さんと同じになってしまった。
「では、取引終了ということで両者よろしいですね。お疲れ様でした」
後方支援嬢は備品を片付けるとさっさと我々を追い出さんとしている。これ以上ここでだべっているのは邪魔、ということだろうな。
「じゃ、取引も終わったし帰りますか。お疲れ様でした」
「今日もスキルオーブありがとうございました。また出たらよろしくお願いします」
そんなに毎回出るようなものでもないんだが……まあ、次また毒耐性が出たら考える、程度のことはしておこう。
「今日もってことは前も彼女たちに取引を? ……と、これはあまり聞いていい領分のものでは無さそうですね」
後方支援嬢がふと疑問を持ったのか質問をし、そして質問を取り消す。
「実はソロでやってる探索場所と彼女たちの探索場所が同じでね。そこでは【毒耐性】を持ってないと行動に色々支障をきたすところなんだ。この間、運よく拾えたのでそのまま伝手で渡すことになったんだけど、ギルドを通さずに取引しちゃうと贈与税やら雑所得やら面倒くさいことになりそうだから、ギルドを通して正式な取引として認めてもらうことでその辺を綺麗にしてもらったんだ」
「なるほど、そういう使い方も有り、というわけですか。今回みたいな話があった場合相場を見て、相場に沿った価格でやり取りするようにって坂野ギルマスから一言があったのはそういうことですか」
どうやらきちんとその辺を周知していたらしい。やることは最低限やっているのでここのギルマスはあんなんでも侮れない。もう一回や二回は俺達が取引をする可能性があるだろうと見込んでいたわけだ。
「またお世話になる可能性もありますのでその時はよろしくお願いします。スキルオーブの取引のために遠方まで出向いて取引……というのは今の私にとってはちょっと時間効率が悪い話になりますので」
「わかりました、覚えておきます。それに地元で落ちたスキルなんですし、出来るだけ地元で利用してもらいたいという気持ちはありますからね」
さて、帰るか。夕食は何にしようかなっと。さっきも考えてたな。コンビニで何か弁当を探して、新しい味の解らないものか、これを味わいたいというものを探してみよう。
バスの時間を確認するとまだ余裕がある。これは最寄りのコンビニで買って帰って家で食べる流れがスムーズだな。どれどれ、早速弁当を探しに行くか。
ギルドからコンビニまでの暑い距離を我慢して歩き、たどり着いたコンビニで再び涼む。涼しい所と暑い所を常に出入りしていると体がおかしくなりそうだが、ずっと暑い所に居るよりは幾分マシだろう。
さて、何があるかなと弁当を物色すると、夏のボリューム満点弁当セールをやっていた。当社比二十五%アップでお値段そのままというのがウリだが、たしかここのコンビニは底上げ弁当で有名なチェーン店である。底上げされた中でアップしたとしても、元に戻っただけではないのだろうか。
いやしかし、それでも普段より量が多いのは確か。ここはまず弁当で一品、それからおにぎりで一品、あとは飲み物を適当に選んでそれと……今日は体調が悪いにもかかわらず頑張って稼いだんだ、ホットスナックをつまみ食いして体をいたわってやるのも大事だろう。
栄養ドリンクを買うことも考えたが、今更栄養ドリンクとポーションを並べたらポーションのほうがより効きは確実なのだろうからわざわざここで栄養ドリンクを選択する理由は薄い。ポーションは気まぐれで飲んでしまってもいい程度に在庫はある。
洋食ミックス弁当の増量版とたらこバターおにぎりを選択すると、飲み物にビタミンCが豊富そうなものを選ぶ。クエン酸も入っていて疲労軽減にいいらしい。これで決まりにしておくか。
後は会計時に鶏肉を揚げた奴を選ぶと会計。鶏肉を揚げた奴は今食べて家までのカロリー補給分とする。買い食いはやっぱり大人になってからが本分だよな。
そのままバッグに買い物したものを仕舞い、保管庫へそっと入れておく。レンジでちんちんにしてもらったので家に帰ってからもまだ熱い弁当を食べられるだろう。程よくコンビニで悩んだおかげでバスもちょうどいい感じの時間になっている。この最後のバス乗り継ぎが上手くいくことで、今日はコンディションは悪かったがタイミングは悪くなかった日として記憶にはとどめておこう。
家に帰って、早速実食。洋食ミックスにはエビフライとコロッケと鶏肉の揚げた奴……鶏肉の揚げた奴が被ってしまっているが、あっちはおやつでこっちはご飯。気にすることは無いだろう。そして底にはナポリタン風のスパゲティが敷かれていて、ご飯も増量分だけ増えているのだろう、ボリュームはたっぷりだ。
ジャンクな夕飯だが、ビタミンC多めのドリンクで補填することでとりあえずビタミンバランスはそこまで崩れるようなことにはなっていないはずだ。ダンジョン探索者を始めた当初に念のために買い入れておいたマルチビタミンの錠剤は丸ごと残っているし、脚気や壊血病になるような食生活はしていないのでお世話になることはこの先も無いだろう。
なんだ、案外ちゃんと生きているな、俺。このまま食生活も大きく崩さず毎日を続けていければ思ったより長く探索者を続けていそうだ。十年ぐらいはいけるかな?
その間に攻略されては新しく作り替えられたり、ダンジョンもいろいろ事情が変わるだろうし、もしかしたら今でいうスタンダードなダンジョンというものが希少化する可能性だってある。
全てが全て新しいダンジョンは食品を落とす、ということにもならないだろうし、もしかしたら面倒くさいからダンジョンのエレベーター周りだけ毎回リセットされて新しいダンジョンをひたすら潜り続けるという選択肢も考えられない訳じゃない。
小西ダンジョンは何層までご用意されていく予定なんだろう。多分世界でも深いほうだとは思うが……飯を食い終わったら少し調べてみるか。
そしてふと保管庫の中身を見て気づく。夏野菜サラダと素麺、作ってそのまま忘れてたな……今から夜食にでもつまむか。
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