1025:結局いつもの中華屋で
ダンジョンで潮干狩りを
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とりあえず家には戻ってきた。昼食の事を考える前にやらなければいけない仕事を先に済ませてしまおう。
リビングの真ん中を空けて俺の部屋からベッドを保管庫経由で運んできて設置。後三日間はここで寝ることにする。エアコンが壊れた室内で汗でびしょびしょになりながらベッドを解体してマットレスを運び出して、また汗をかいて組み立てなおしてマットレスを敷いて……という作業が省略されるだけでも保管庫の存在のありがたさが身に染みる。
リビングに大荷物を動かした後、続いて小物だ。部屋に置いてあるカラーボックスやその周辺、それからノートパソコンなどを部屋の隅っこに移動。これも保管庫でまとめて収納まとめてゼロ速度射出で簡単に移動が出来た。机もまとめて移動させたため、部屋の半分が使用不可能なことになっているが、まあ三日ぐらいなら我慢とまではいかないがなんか使い心地悪いな? ぐらいの感じで済むだろう。
完全にガチガチに寄せてしまうと生活感のない物置のようになってしまうので、それぞれのボックスやら机にはアクセスできるようにはしておく。後は言われた通り、コンセントは抜いておく。
エアコン周りの写真を共有してあるので、新しく壁をぶち抜いたりコンセントを増設したりという手間は無く、同じ穴を使って同じところに室外機を設置して、運が良ければエアコン用の壁掛けラックもそのまま再利用して……とかなり手短に作業を終えてくれる可能性は高い。
部屋の模様替えっぽいものが終わったところで腹が減ってきた。支払いする分も含めてちょっとまとまった額が必要になったことだし、銀行へ行ってお金を下ろしてこよう。先日石原刃物に渡したように、いつも保管庫に入れてるように札束を一つと、後はエアコンの代金、そして生活費。全部で百五十万もあれば足りるだろうか。
これは銀行へ行ってそのまま昼食を取れる場所を探しに行く流れだな。何食べようかな。車を再度走らせまずは銀行へ向かう。何は無くともまずは金だ、金が必要だ。財布の中身が空っぽという訳ではないが、いつもギルドの支払いから必要分だけ補充していくという形に出来るほど安い稼ぎをしている訳ではないし、かといって数千万その場で支払えと言えるわけでもない。
コンビニで預金を引き出すには毎回手数料がかかるので何かの機会があればまとめて一気に引き出すように心がけている。一応、最近移した口座のおかげで月に数回までは手数料無料で済むようにはなっているらしいが、そう頻繁にコンビニによってちょこちょこと小遣いを引き出すようなことはせず、財布は折れ曲がりタイプのくせして折れ曲がらない状況に去年からなっている。
そもそも財布そのものが保管庫に入れてあるし、電子マネーで少額だが別で電子決済が出来るようになっているのでそれほど折れ曲がらない財布について思うところは無い。精々人前ではあまり見せないようにして嫌味な感じをさせないことに終始するぐらいか。
銀行に着き、百五十万円を引き出す。通帳も印鑑もカードも全部保管庫に入っているし、本人確認をされた際にも免許証は持っている。そういえば通帳の記帳をするって行動を忘れていたな、今日忘れずにやっておこう。
ついに口座の預金の桁が一つ上がった。来年になればまた税金やらなんやらで一桁減るものの、ここの一桁増えたのは結構な達成感があるな。祝いになんかいいものを食べようかなとも思うが、どうもピンとこない。
銀行の駐車場でスマホで店を探すが、何処もいまいち俺の胃袋に引っかかってこない。今の俺は何腹なんだ。それをスマホに出てくる情報と照合してみても胃袋はあまり反応してくれない。
こういう時は何でもいいから胃袋に詰めれば大人しく仕事を始めてくれるところだが、その胃袋もなんだか元気がない。普段ならそろそろ腹が減ったから何か物をくれと言い始める時間なのだが、やはり朝エアコンが壊れたことがここまで響いているのだろうか。だとしたらここ三日はちょっとした工夫が必要になるだろうな。
◇◆◇◆◇◆◇
悩んだ結果、ダンジョンへ向かうことにした。と言っても真っ直ぐ向かう訳ではない。正確にはダンジョン前で下りた後、中華屋で飯を食ってからダンジョンに入る、が行動としてより正確になる。
家に帰ってきていつもの服装に着替え、ダンジョンへ行く準備をする。今日は昼からなので飯の持ち込みや持ち出しは無い。必要最小限の装備でダンジョンへ向かう。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さあ、まずは飯を食う。そしてそれからダンジョンに潜る。いつもより短いダンジョン巡りになる。普段の午後勤に比べても一時間ほど短い。これは行きの茂君は無しだな、他の探索者がもう採取しに来ている可能性が高い。
朝一ではなく九時から九時半にかけての時間と、午後六時から午後七時当たりの時間帯はどうやら俺がダーククロウを狩る時間帯であるということが認識されているらしく、その間はダーククロウを狩られることなく時間を空けてもらっている感じがする。その流れ以外は他の探索者が自由に狩って楽しんでいるようだ。
別に俺が空けておけよ、と言い張れるわけでもないが、せっかく空けておいてくれるのだからその時間帯は出来る限りきっちり刈り取りを済ませたいし、それ以外の時間は他の探索者に譲るのが筋、というものだろう。お互い不干渉かつ効率的に探索を進めるためにも、余計なことはしないに限るな。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョン前に着いたので、そのままダンジョンへ……ではなく、歩いてまず中華屋へ向かう。昼食時には少し遅い時間帯なので店の中は混雑というほど混雑はしていないが、食べ終えて軽く雑談している探索者と地元の人が何組か見られる。
「なんだ、今日は珍しく昼時に来たな」
「今日は遅めの午後勤務ってところかな。さて、今日は何にするかな」
「決まったら教えてくれよ」
いつもの爺さんとの会話を済ませて席に座り、メニューを確かめる。さて、まだ俺が食べたことのないものは……と。レバニラは前に選択肢に入れて頼まなかった一品だな。これにするか。
「レバニラ定食、あと餃子」
「あいよっ」
調子のいい返事と同時に注文が入ったことを認識させてくれる。水とおしぼりを自分で運んで、おしぼりで軽く顔を拭き、ここまでで味わった暑さを暖かいタオルで更に熱くし、その後よく冷えた水を飲んでクーリング。今日は今からがお仕事の時間なので腹いっぱい詰め込むと動きが悪くなる。腹には余裕があるのでもし仕事上がりなら唐揚げも頼む所だ。
爺さんが珍しく流しているラジオのほうに耳を傾け、出来上がるまでの時間をじっと待つ。ラジオからは地元のおすすめグルメ情報から通販番組へ切り替わったところだった。
「今回のおすすめ商品はこちら、トレントの実のジャムでございます、採れたて新鮮のダンジョン産フルーツをそのまま使用しております。お値段は一瓶四千九百八十円のところを今回はこの番組を聞いていただいた方限定で二千九百八十円、二千九百八十円でのご奉仕となります。ダンジョンの一番奥までたどり着かないと採取できない希少品を限定でこの価格。お電話は今から三十分限定とさせていただきます。番号は……」
安いのか高いのか判断に困るな。一体どれだけの砂糖で嵩増しをしているのか、そして熱することで本来の効果である疲労回復効果や、そもそものトレントの実の味わいがどれほど飛んでしまっているのか。
もしかすると純粋に加熱しなくてもジャムに加工できるような技術が生み出されたのかもしれないが、トレントの実のジャムか。気になる所ではあるが……俺にはドライフルーツが大量にまだ残っている。これの処分が終わってから改めて考えることにしよう。
ラジオを聞いている間にレバニラ炒めとチャーハン、スープ、そして餃子が届いた。早速食べよう。
レバーは固くならない程度に焼き締められていてムニュッという食感が堪らない。そしてそれと一緒に口に入るニラの香り。レバーは独特の臭みを完全に消され、ムニュムニュと楽しい。そして歯触りも香りも良いニラだ。一緒に炒められているもやしがさらにシャキシャキと口の中を楽しませてくれる。チャーハンを間につまみ入れつつ、レバニラをあっさりと片付けるとスープで口の中をサッパリさせながらチャーハンに手を付ける。どうやら豚肉ではなくウルフ肉を使っているらしい。
おそらく何処かの探索者が土産で渡した物を使っているのだろう。やはりここも税務査察が入るとちょっと書類上無い仕入れがあったり、あるはずの受け取りが無かったり、厳しい感じになるに違いない。ここは便利なのでそういうものとは無縁であってほしいなあと思いつつ、自分も色々とリクエストしたりお土産を持ってきていたりするので人のことは言えなくなってきたな、むむむ。
お中元やお歳暮の一般の範疇ってどこまでを指すんだろうな。石原刃物の親父さんに渡したポーションは明らかに逸脱しているので別だとは思うが、探索者界隈での一般……サッパリ思い浮かばん。とりあえずカニ一杯ぐらいまではお歳暮の範疇に入るはずなので、去年の年末の店へのお土産は問題ないはずだ。
建前上、今年の収入は布団の山本とギルドからの収入に絞っているので、税務管理の書類もまとまっているはずだ。その辺をややこしくしても税理士に一任しているので、こっちとしては関係書類をまとめて渡すだけで後は完全にお任せ、という形で問題は無いのだが、出来るだけ綺麗にしておくことに不都合はない。
芽生さんが居たら経費で落ちるんだろうが、流石にダンジョンに潜ってるとはいえ今日の食事は経費では落ちないんだろうな。芽生さんと二人ならパーティーとはいえそれぞれが個人事業主、打ち合わせや業務連絡の中での食事、ということになるからこっちは経費で落ちそうだ。次来る時は芽生さんと一緒に来ることにしよう。
レバニラを片付けてチャーハンとスープを交互に食べつつ、またラジオに耳を傾けながら食事を再開する。尺が長いけど絶対にラジオで省略してはいけないという洋楽の名曲が流れて来た。うむ、若干俺の音楽遍歴とはずれてはいるが、いい曲はいつ聞いてもいい曲だ。
知ったのは割と最近で、映画になってから初めて聞き始めた部分はあるので充分ミーハーであるとは思う。でも名曲は色あせないという。今知った俺でもかろうじて最盛期にこれを聞きかじっていたとしても、俺の心に残る曲であったのは確かだろう。
スープを飲み干しチャーハンを片付け、最後の餃子を一気に二つ口に放り込んだ。腹六分から七分、ここから動き始めても胃の中が踊りださないギリギリのラインを攻めれた気がする。最後に水を一口飲んで軽く口の中をそっと濯ぎ、今日の遅めの昼食を終わらせる。
この曲が終わったら店を出るか、途中で出るのはなんかもったいない気がしてきた。残りの水をちびりちびりしながら曲が終わるのを待つ。しばらくして、曲が終わった。
すると、同じタイミングで立つ客が自分含めて三つ。みんなこの曲好きなのか? まあ好きであることは良い事だとは思うが。
会計の先を譲って最後に会計。千二百八十円なり。さて、今日も元気にエアコン代を稼ぎに行きますか。中華屋を出ておそらく今日一番暑く感じる時間帯である日差しの中、ギルドまで歩く。
出来れば日中出たくなかった時間ではあるが、そもそもエアコンが壊れなければここで歩くという行為自体が存在しなかった出来事である。これが毎日のルーティンを破壊するに至った原因だ。
今日は午後から出勤で普段よりも稼働時間が短いとはいえ、いつも通り気を抜きつつ余計なことを考えながら探索をすることはちょっとためらわれる。慎重に行動すべきだろう。
今日は調子が悪い、つまりメンタル的にバッドコンディションであると言える。なら、バッドコンディションなりに戦える手札を新しくこしらえる必要がある。こういう時はどう戦っていけば危なげなく戦っていけるのか。それを体と心に刻み込みつつ、できるだけ問題が発生しないように探索をする。
一つ課題を出されたつもりになって取り組んでいこう。嫌になったらいつでも帰れるんだということさえ胸に刻んでおけば何とかなってくれるはず。さぁ、行こうか。
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