1021:勘を取り戻せ
ダンジョンで潮干狩りを
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午後からはダッシュで対応する。いつも通りカニを雷撃爆破と直刀による斬り込みを合わせ技にしながらドロップ品は少し離れた距離から遠隔で収納。この遠隔収納も距離が徐々に伸びてたりするので、保管庫が日々成長しているのは間違いないらしい。
そして直刀だが、明らかに切れ味と威力は前に比べて向上している。前の直刀を買ったのは一年以上前なので、値段が上がってる分の性能かもしれないが、やはりより良いものにモデルチェンジされていくものらしい。
ちょっと中央部分に寄り道してリザードマンと切り結び合ったりもしたが、こちらの直刀の一撃でリザードマンの槍を柄の部分から斬りおとすことが出来た。はっきり言って気持ちいい。ここまで一方的にモンスターを蹂躙できる状況が発生すると、後は出てくるモンスターが全てお金に見えてくる。実際お金だ。無限に湧くお金の鉱脈だ。
リザードマンに対してはもう優位に戦えることを確認したところでドウラク狩りに戻る。リザードマンを狩り続けても問題は無いが、やはりテンポとスピード、それからこちらの移動速度とモンスターの密度を計算すると、ドウラクだけをターゲットにしたほうが移動時間を短く、それでいて数も期待できる。数か月の間ここで散々戦い続けているのにもちゃんと理由があるのだ。
一周、二周、ここでちょっと水分補給。良い感じにグルグル回れたな。今日はちょっと水分不足の様相が見て取れる。普段ならもう一周回ってから水分を補給するところだが、多分ピリ辛きゅうりが効いてきたんだろうな。
やはり喉に来る系や喉が渇く系の食べ物はその後の体調にも影響してくるな。美味しかったから良いし、今日は一人だからそれほど問題は無いが、芽生さんがいるときは考慮に入れる必要があるだろう。
水分を取って軽く汗を拭き、足を止めて軽く二、三回スクワット。まだ体力的には問題ないことを確認すると再ダッシュ。もう二周して今日は帰るぞ。
一日直刀を振り回しっぱなしにしてきたのでそろそろ肩に来そうだが、もし明日筋肉痛になりそうならその時はヒールポーションかドライフルーツのお世話になろう。どちらでも構わないが、今日の内にトレントのドライフルーツで疲れを取っておいて明日の朝肩がバキバキになっていたらヒールポーションで筋肉痛を無理やり直していく感じかな。
さあ、引き続き走っていこう。今日の摂取カロリーは少な目とはいえしっかり体を鍛えてより割れた腹筋を目指すの悪くない。
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更に二周のノルマが終わり、帰り支度をするには良い時間。試運転としては問題ない形になったし、ドロップも充分に出た。今日はこれであがりとしておこう。もう一日、五十層あたりで試運転をして完全に体になじませることにする。
エレベーターで七層を指定するとリヤカーに今日のドロップを整理して並べ、時間を待つのみ。この間にまた乾いた喉を潤して、ハンカチで汗を拭いて、ちょっと湿ってきたスーツの上着に軽い乾燥をかけたりしながら時間を潰し、七層に到着したら茂君を狩って日課のダーククロウの羽根を手に入れる。
エレベーターに戻り再度一層へ。出入口で退ダン手続きを取ろうと退ダンの列に並ぶと、少しの人だかり。どうやら退ダン手続きに問題があるわけではなく、探索者のほうに問題があるようだ。
何の騒ぎだろうとひょこッと首を出してみると、そこには甘ったるい匂いが軽く漂っていた。人だかりの中心には、結衣さん達。
「何かあったの? 」
「あ、安村さん、ちょうど良いところに。ウォッシュかけてウォッシュ」
なるほど、匂いとそれに付随するマヒのおかげで一悶着あったらしいことだけは解った。
「そういうことね。はいはい並んで並んで」
新浜パーティーメンバーに二回ずつウォッシュをかけて服と体を綺麗にしていく。
「体は拭いて綺麗にすればある程度は綺麗になったんだろうけど、服のほうはどうしてもそうなるよねえ」
「そうなんですわ。えろうご迷惑をおかけしました」
平田さんが周りに迷惑をかけて申し訳ないとペコペコしながら周りに謝罪している。
「これ、毎回やってるの? だとしたら相当な手間か、もしくは替えの服を用意して中で着替えるなんかの対応が必要になりそうだけど」
「普段はもっと人が少ない時間帯に査定とか出入りしとるんですが、今日はちょっと人が多かったみたいで。ほんと申し訳ないです。安村さんにも迷惑かけて」
「まあ、俺は良いとして【生活魔法】の入手は死活問題になりそうだな」
「そうですなあ。何とか考えまへんと。【毒耐性】もそうですが【生活魔法】までとなると色々と出費が重なって大変ですわ」
生活魔法は一つで済むとは言え、五人で五千万捻出するのは……いや、でもそれぞれの稼ぎとそれから経費として考えてみればそれなりに安い範囲ではあるのか。少し高めのオファーを出せば何とかなるような気もする。
「とりあえず明日は俺も五十一層に潜る予定だから、明日は何とかしてあげられるかな」
すると、全員がホッとした表情に戻る。やっぱり甘さに包まれたまま一日を過ごす、というのはそれなりのストレスになるらしい。
「じゃあ、俺は行くから」
「うん、ありがとうね安村さん」
結衣さんのお礼を背中に受けながら先に退ダン手続きを終わらせて査定カウンターに向かう。
「魔法一回……一回じゃないけど、それで安寧が買えるなら安いもんでしょ」
「それでも、ありがとう」
そのまま査定カウンターにドロップ品を持っていく。今日はちゃんと大量にドロップ品を持ち帰ってきたぞという証拠を見せる。査定カウンターでスムーズに査定をしてもらい、本日の収入、七千四百三万四千円を手に入れる。
今日は調整日の割に結構稼げたな。多分ポーションの落ちが良かったんだろう。うむ、昨日の出費は税金で取られる分を除いたとしても充分に黒字だ。もしかしたらオーダーメイドしなくてもこの予備でも充分だったんじゃないかとも考えられるほどに黒字。
後はゆっくり武器の出来と、それから芽生さんの面接の結果を待つとしようか……あ、もしかしたら芽生さんが自分の就職について俺に細かく報告しないの、こうやって心配することが無いように、という配慮だったかもしれんな。
明日面接日なんです、なんて聞かされたらその日中芽生さんの面接がどんな感じで進んでいるかを想像してモヤモヤして仕事にならないかもしれない。そういうところまで組み込んであえて伝えてくれてない、という話かもしれない。
良い相棒を持ったもんだな。おじさんは少し涙が出て来た。そして、ちょちょりでた涙を補うために休憩室の冷たい水を飲み、水分を補給する。
さぁ、今日も仕事は終わった。後は今日の夕飯をどうするかと、明日の昼飯の準備だな。予定通り家に帰ってまずは買い出しだ。夕食はスーパーで何か見繕うかな。何となく普段食べないものを食べようと努力してみよう。料理のネタになるかもしれんし向上心は大切だ。
バスの時間は大丈夫、ちょうど来るぐらいだ。これならスムーズに家に帰って出かけることが出来るな。長々と居続ける理由もないしさっさと帰ってしまおう。
バス停にいき、暑さの残る夕方から夜にかけての熱気を味わいながらバスが来るのを短い間だが待つ。多分バスの中はちょっとだけここよりマシだろう。
数分待ってバスが来て乗り込む。同じ時間にバスで駅方面に行く探索者は数人いるため、バスの中はそれなりに混雑。おかげで人口密度が上がってせっかく少し涼しいと思われたバスの中も若干の熱気が上昇した。涼しさだけを味わえるスキルがあればいいのに。そこまで便利なスキルはさすがに無いだろう。
例えば複合的に色んな属性を使える【生活魔法】でも、氷系のスキルを使えるという話は聞かない。そもそも氷系のスキル自体を聞いたことが無い。もっと深い階層じゃないとドロップしないのか、それとも存在しないのかのどちらかだろう。
ひんやり涼しい風を浴びながら移動できるなら、訓練もかねてずっと使い続けるという選択肢もありなんだがどうも思い浮かべるほうに想像力が足りないのか、それともやはりスキルとして存在しないのか、生活魔法をあれこれ想像してみても冷やす系のスキルは使えないらしい。ちょっと残念。
家に着いて片づけを終わらせた後で早速消耗品の補充に出発だ。今日は食パンの補充もあるのでパン屋のある方の店舗へと車を走らせる。昨日に比べて格段に楽な車の運転。行き慣れていることもあるがやはり名古屋とは道路事情がまるで違う。ちゃんと一時停止で止まらない車が多いことと、制限速度のプラス二十キロが巡航速度であることを除けば安全運転そのものだ。
スーパーへ到着し、カートを押して中へ。仕事中はリヤカーを引いているが買いもの中はカートを押す。何かしら今日は押したり引いたりする日らしい。
まずはパン屋でトースト用の食パンの補充だ。今日は一気に三本買ってしまおう。一本をサンドイッチ用に十二枚切り、二本を六枚切りで切ってもらえるようお願いする。もちろん、耳はちゃんと持ち帰る。昔は食パンの耳だけをまとめて一袋十円とかで販売していた時代もあったが最近はそういうのも見なくなった。日本人が豊かになったのか貧しくなったのかは難しい所だな。
食パンついでに総菜パンも少し買う。最近は小麦が高くなっているらしく、なんだか前に比べてちょっと重量が軽く、表面から伝わるパンの小麦感が薄れているような気がする。値段は上がってないので実質値上げという所だろう。下手に小麦の量を増やすよりも具を増やしてその分小麦を減らした方が安くつく、なんてことにもなってそうだな。
さて、パン屋の支払いを終わらせると他のメイン物資である卵とキャベツを探しに行く。キャベツは随分安くなった。卵の値段も落ち着いた。やはり鳥インフルエンザのせいで値上がっていたんだろうな。高級な卵もつられて値段が上がっていたが、俺の思い出せる範囲の感覚だとこの値段が大体平均的な価格だ。
どうせ安かろうと高かろうと必要なので買う訳だが、俺にとって値段がどうかよりも周りの人にとっての値段のほうが大事だ。そういう点で、ダンジョン産の作物が市場に開放され始めるというのは価格の安定に対してどのくらいの規模まで対応しきることが出来るのか。市場の弁として機能するのか、それともダンジョンブランドとして独立独歩の線をたどることになるのか。
さてメイン物資の補充が済んだところで他のお買い物。夏らしい何かを探しに出かけよう。まずはピリ辛きゅうりが美味しかったのできゅうり、トマト、ナスの夏野菜三点セットを仕入れる。それぞれで食べても美味しいし、全部切って炒めて夏野菜炒めにするのも良い。体を冷やす作用もあるらしいので、ダンジョンでしっかり動いた後のクーリングとしても機能するかもしれない。
後はジャガイモと玉ねぎと人参と、いつものカレーを作るのに欠かせない野菜も今日補充。これで二、三日カレーが続いても大丈夫な量の野菜は仕入れられた。後は夕食、そしてミルコ用のおやつだ。
普段食べないジャンルの弁当、焼きそば弁当とかたこ焼き弁当とかそういう意味ではなく、味付けの方面だ。弁当コーナーをグルグル回ってみると、白身魚の甘酢あんかけ弁当というベクトルを発見することが出来た。
甘酢あんかけか。頭の中で味のイメージをして、唾液の分泌するあたりに問いかけてみる。
どうだ、今晩の食事はそれでしっかり働けそうか?
うん、全然いける。今すぐ食べても良いぐらい。
心地よい返事が聞けた。今日の弁当はこれだ。勿論ご飯は大盛……っとそうだ、米の追加も買っておかなければいけないな。いざカレーを作って米が足りないでは飲み物になってしまう。さすがに昼食を飲み物だけで過ごすのはちょっと厳しい。忘れずに米も二種類ぐらい違う産地の物を買っておこう。
さて……結構な買い物になったな。パンだけ一旦保管庫に隠し入れてしまったほうが良かったのかもしれない。合計七キログラムほどになろうかともする買い物をし終えて会計。今日はたい焼きもお好み焼きもちょっと口の中のバランスが合わないので無しだ。香の物ぐらいならまあ、弁当についてる分も含めて追加してもいいだろう。
さあ、今日も家に帰って美味しいご飯が待っている。さっくり食べて明日への活力にしておこう。これからは打ち合わせだけする、と言った感じのお出かけも増える事だろうし、少し収入的には少なくなる時期が訪れるかもしれない。去年の今頃は芽生さんの夏休みに合わせて散々潜り倒していたが、あの頃程綿密に潜り続ける理由はそれほど多くない。マイペースでやっていこう。
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