102:かえりみち
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六層へ上がった。行きはよいよい帰りは怖い。家に帰るまでが探索だ。慣れたとはいえ、油断しないように帰らなければ。
たしか奥にある木を目指して、そこまで行くと階段が見えるんだったな。それまではワイルドボアの相手をしつつ黙々と進もう。
前を歩いていく人がいるおかげで、エンカウントは少なめだ。来た時みたいに大量のワイルドボアに追いかけられるような事はない模様。
しかし、一人で歩くのは割と寂しさを感じるな。サバンナがあまりに広すぎるせいだろう。荒野を行く旅人って感じだ。行きは平田さんと一緒だったから緊急対処も楽だったし、連携らしきものも出来た。
一人で出来ることは割と少ない。六層をとっとと渡り切ってしまいたいな。
目標としていたあの木まで来た。相変わらず木の上にはダーククロウが群がって居る。ここが小西だったら全部ひとりで叩き落として儲けを全部保管庫に詰め込めるとこだが、一応人の目もあるし、その手を使うことは出来ない。今回も木を避けて遠回りに階段へ向かおう。
おっとワイルドボアだ。こんにちは、死ね。荷物の重さが若干の負担になるが、それでも危なげなく一匹二匹と処理していく。
面倒くさくなってきたので、体当たりを全部正面から受け止める。荷物の重さもあって、こちらが押し切られることは少ないと考える。それに、グラディウスで正面から頭を割るのがシンプルで楽でいい。
と、ドロップが出た。また肉だな。バッグに無理やり詰め込むとまた行軍を開始する。五層への階段が見えてきた。人がいる分視界が開けているのか、視界外となる領域が狭く、リポップするワイルドボアは少なめだ。
これは五層でも楽が出来るかな? 同じ方向へ向かう人とこのまま一緒に出られるとより好都合なのだが。急いで五層への階段を駆け上がる。五層は短い。そのまま真っ直ぐ四層へ行けるといいが。
五層は階段を上がるとすぐそばに……といってもサバンナマップ単位でのすぐそばなので、それなりに距離がある。しかし、ここは階段間の距離が近く最初から階段が見えている。
とにかく、もう四層への階段は見えているので周りを警戒するだけで済む親切設計だ。安心して周りを警戒できる。問題があるとすれば、近すぎて戦闘中に方角を見失い、また六層に逆戻りする可能性があるぐらいだ。
もし向きを間違えても十分ぐらいのロスで済むのだが、うっかりやらかすのもあれだ。しっかり風景を頭に叩き込んでおこう。
そしてタイミングよくワイルドボアが来る。向きを見失わないように真正面から対応する。こういう時はグルグル動かないことが大事だ。
真正面からグラディウスで受け止める。そのまま頭に刺さった刃で昇天したワイルドボア。落ちる魔結晶。増える荷物。さすがにバッグがきつい、ポケットに捻じ込む。
方向は……よし覚えてる。さぁ四層へ急ごう。サッサと四層への階段まで歩くと、いそいそと階段を上り始める。
一日しかたってないが何故か懐かしさを覚える、薄暗い洞窟型マップへやってきた。ただいま四層。地図を確認して三層を目指す。多分ここが最後の山場になる。行きの三層まではとても人が多かったからだ。
今の時間を確認すると午前二時。まっすぐ帰ったとして、電車通勤だとギルドの建物で少し休憩して始発で家に帰ることになるのかな。周りを見回し人が居ないことを確認すると、保管庫からペットボトルを取り出し一口飲む。少し疲れてきた体によく沁みわたる。
さて、三層まで後四十五分ぐらいかかるかな。焦らずゆっくり行こう。油断しても取り返しがつくのは三層からだ。ソードゴブリンにさえ油断しなければあとは気楽な道だ。今更ゴブリンが四、五匹群れて来ても問題は無い。
と、早速ゴブリンの集団のエントリーだ。今日の総括をするにはちょうどいい相手だ。向こうより先に動き、向こうが構えるより早く刃を立て、どんどん次へ次へとくるくる回りながら始末していく。
大事なのはこっちが先手で一対一の状況を作る事。そうすればワイルドボアが相手でも、ジャイアントアントが相手でも後れを取ることは少ない。先の二匹に比べて動きが緩慢なゴブリンなのでより苦戦に陥ることはない。
あっという間に一パーティーが黒い粒子となる。魔結晶はポケットに突っ込んでいこう。もう査定に行くまでバッグを触るつもりはない。どんどん上へあがっていこう。
さすがに深夜帯は人が減るのか、行きに比べてエンカウント率が高めだ。また、この時間のうちに七層へ行こうというのだろう、大荷物を背負った平田さんみたいな人たちが俺と逆方向に向かっていく姿も見られる。
ダンジョン酔いというべきなのか、五層から八層に居る間はずっと明るい青空が広がっているせいか、七層で休憩を取るとどうも体感時間がずれていく。小西ダンジョンはきっちり営業時間が決まっている分、時計を参考にして残り何時間ダンジョンで活動できるかが明確に決められる。
しかし、清州は二十四時間営業でオールウェイズ入り放題出放題だ。影響されるのは電車の始発終電ぐらいのもので、それも自動車通勤なら関係はない。
これだけ人が居れば七層に入り浸るどころか、七層を住居として生活することも不可能ではないだろう。実際、長くダンジョンで生活するうちにダンジョンに居る時間のほうが長くなってしまって地上に戻った後しばらく感覚が戻らないという事もあるらしい。
っと、次のお客さんだ。ソードゴブリン一、ゴブリン三。ソードゴブリンに真っ先に近寄り、頭の上から下まで真っ直ぐ刃筋を通す。そのままサイドステップで横へ抜け、次に近いゴブリンへターゲットを定めるとまっすぐグラディウスを差し込む。
これで一対二。後はもう流れ作業だ。先に殴ってきたほうを盾で受け止め、弾いた後刃をそのまま相手に向けて差し込む。これを二回。また魔結晶を落とした。魔結晶をポケットに押し込むと三層への道へ戻る。
歩くたびにポケットがジャラジャラと魔結晶を鳴らす。今はまだ歩くのに邪魔とは言えないが、その内邪魔になりだすだろう。その前に脱出したいもんだな。
無事四層を抜け、三層にたどり着くと途端に人が増える。三層に上がった階段のところで小休止する、清州ではいつも見られる風景が広がる。この時間でも結構人がいるもんだな。夜勤の人たちかな?
二層へ向かう道はおおよそ掃除が行き届いている。とても綺麗で気持ちがいい。道の真ん中を安村様のお通りだいとでも言わんがばかりに堂々と歩く。この様子だと、側道へ入ってもゴブリンたちとは出会えないだろう。
予定が狂ったな。もう少し苦戦しながら帰って家にたどり着く算段だったのだが、予想より早くダンジョンから脱出してしまうようだ。査定で時間を潰してその後少し休むか。
考え事をしているとスライムが一匹だけ居た。お帰りの挨拶が出来るんだな、いい子だ。
ポケットからカロリーバーを出すと半分スライムに食わせてやる。
嬉しそうにほおばるスライムを見ながらあっという間に命を刈り取る。二つ出たドロップを拾う。このスライムゼリーの感触も久しぶりのように感じられる。あぁ、帰って来たんだなぁ。
足取りも心も軽くなった俺は軽快に二層へと向かう。その後も道は続くがモンスターが現れることはなかった。
二層へたどり着いた。休憩中の人が多くみられる。どうやらグレイウルフも狩りつくされているな。熊手を持った人が時々居る。商売敵か。思わず腰にぶら下がっている熊手に手を伸ばす。
一層への道を急ぐ。もう少しだ。あとほんの一時間とちょっとで地上に出ることになる。閉所恐怖症であるわけではないが、開放感を求めているのは間違いない。自分が思っているより、俺は早く家に帰りたい気持ちに駆られているらしい。
急ぎ足で一層へ向かう。邪魔をするものは何もいない。誰も居ない。居るのはモンスターを探しさまよい求める探索者だらけだ。
これでは儲けにならないだろう。深夜帯でこれだ、探索者のピークタイムである十八時前後になったら人だらけでやってられないのではないか。小西ダンジョンは今閉店時間だが、仮に小西ダンジョンも二十四時間営業だったら人が流れてきたりするのだろうか。尤も、この時間に小西ダンジョンから帰る手段は皆無に等しいのだが。
一層の階段へついた、一層名物広小路通り(俺命名)は人だらけだ。人だらけ、といっても二十人そこらが固まって移動しているのだが。
やはり何を見るにも小西ダンジョンと比較してしまうな。スライムの湧き方、モンスターとのエンカウント、人とすれ違う回数、そして下層へ向かう列。おそらく始発組が来る前に入ダンする人が結構いるのだろう。
ということは、今ダンジョンに潜っている人たちも始発で帰るんだろうか。その列に巻き込まれたくないな、急いで戻って査定してもらわないと。足をさらに速める。いつもなら帰り道にスライムの一つでも引っ掛けていくところだが、その時間も惜しい。
これだけ探索者がいるのだ、わざわざスライムの尻……どこに尻があるか解らないが、その尻を追いかけるのはやめにする。今回の目的はすべて達成したんだ。今更サブミッションを増やす必要はない。
何よりこんな環境で稼ごうとする気がおきない。もっとこう、スライム狩りは心に余裕を持ってゆったりとあるべきなんだ。額に汗して血走り見開いた眼で追いかけるようなものじゃない。
あぁ、やっぱり俺は小西に執着しているんだな、と思う。何の魅力も無いただの片田舎の、交通が不便で時間もかかるあそこに。
広小路通りをまっすぐただ歩くだけの作業を終え、俺は無事ダンジョンを抜けることが出来た。
フラグ?そんなものは物語の主人公が立てて折るものだろう。ただのオッサンが立てて回収するようなもんじゃないんだ。
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