1017:おみせさがし
ダンジョンで潮干狩りを
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鬼ころしの駐車場でエアコンをガンガンに効かせながら、まずどこの会社を訪問してみようかな、と近いほうから順番に回っていくことにする。
名古屋市北区から北名古屋市にかけて、数軒の探索者用装備を作っているメーカーがある、ということをさっき教えてもらったが、その中で武器、とりわけ刀剣の部類について得意な会社を教えてもらった。早速電話をかけて個別訪問の形でお願いに上がることにする。
どこも大きな会社ではなく、中小の、どちらかと言えば一人親方に近いような会社が圧倒的に多い。これは大手の金属加工メーカーが早々と進出したおかげで量産品がある程度確保できてしまっている現状もさることながら、その隙間、つまり売りポイントは解るが俺の拘りたいところはそこじゃない、と言ったような声にこたえるための製造としての色が強いようだ。
何処も一癖ありそうだな、という感想が漏れるが、その一癖にこそ俺の求める何かがあるのかもしれない。そもそも俺自身一癖も二癖もある、と自分で自覚するところもある。その癖同士がぶつかり合うことで生まれる何かがあるかもしれない。まずは近いほうから回っていこう。
早速一軒目に連絡をする。しばらく呼び出し音がなると、受付らしき女性の声が聞こえて来た。
「お電話ありがとうございます。株式会社凶差工業でございます」
「鬼ころしさんから紹介されてお電話をかけさせていただいております。私安村と申します」
「安村様ですね、本日はどのようなお問い合わせでございますでしょうか」
鬼ころしから参りました、と伝えたがそれによって対応が変わるわけではないらしい。この後の話し合いによっては進展する、とみていいかな。
「オーダーメイドの装備を見繕ってくれるという風に鬼ころしさんから紹介を受けまして。武器を見繕っていただけるようにお願いに伺おうと思うのですが」
「少々お待ちください、担当の者に確認をいたします」
担当の人が居るらしい。多分全体の進捗と現在の受注量とそこからかかるであろう新規商品のデザイン時間や納期なんかを把握している人なんだろう。
電話から流れる音楽に耳を傾けつつ、ボーっとしている。車の中はエアコンがしっかり効いているので涼しく、待つのは問題ない。その間駐車場を貸してくれている鬼ころしにも感謝しないとな。
五分ほどになるだろうか。音楽が十ループ目に到着するあたりで電話口で音がする。五分でまとめて帰ってくるのは早いのか遅いのか俺には区別できないが、この場で判断を下せるような情報が返ってくることを期待しよう。
「お待たせいたしました。お電話口で恐縮ではございますが、現在の当社の生産ラインですと、最短でのお渡しが半年後となることになるのですが、それでも当社にご依頼をしてくださいますでしょうか? こちらとしてはあまりお待たせするのも探索者のお客様には、その間の事を考えますとちょっとお勧めしづらい所があるのですが」
半年後か……半年は長いな。ここは他のメーカーさんで早くいいものが出来る可能性を考えて納期のあいみつを取らせてもらうことにしよう。
「解りました。一旦こちらで受け取りまでの時間を含めて条件をよく精査したいので、相談する時間をいただきたいと思います。突然のお電話を申し訳ありませんでした」
「いえ、わざわざ事前連絡までしていただきありがとうございます。ご縁がありましたらまた当社をご利用くださいませ」
「はい、そうさせてもらいます。では、失礼します」
一社目は期限が長すぎる、と。メモ書きしておく。期限以外の部分では相談に乗ってくれそうな雰囲気ではあったな。第二候補ぐらいのところで留めておこう。半年後でも忘れず受け付けてくれるという点は好印象ではあるし、それだけの待ち行列が発生しているということは腕も悪くないということだろう。
続いて二社目。株式会社ヨノベアという会社に電話をかけてみることにしよう。番号は……と。ここはそこそこ大きい会社らしく、そういえば鬼ころしのラインナップの中にもこの名前を見た覚えがあるな。量産品もそこそこ請け負っているということでいいのか。期待してみよう。
「お電話ありがとうございます。株式会社ヨノベアでございます。個人のお客様でしょうか、それとも法人のお客様でしょうか」
個人か法人かでいきなり選択肢が狭まるらしい。きちんと個人であるという事を伝えておくことが必要だな。
「個人になります。清須の鬼ころしさんの紹介で連絡させていただいた安村と申します」
「鬼ころしさんに、ということは装備品の受注生産のお電話、ということでよろしいでしょうか? 」
「そうなります。武器を破損してしまったのですが、代替品以外に長めに使える一品ならこちらのほうへ直接連絡してみてはどうか、というお話を受けまして、それでということなんですが」
少し間が開く。電話の奥で「今個人どうしてるんだっけ? 」という声が密かに聞き取れる。その場で確認が取れるということはこの場には電話受付以外にも事務担当や現場担当者がそれなりの数居るということだろう。さっきの会社に比べたら少し規模が大きい会社なのかもしれない。
「お待たせしました。わざわざのお電話でのお問い合わせにも関わらず申し訳ないのですが、現在当社では個人のお客様の受注生産を一時的に取りやめさせていただいております」
一時的に取りやめとな。鬼ころしではそんなこと言ってなかったぞ。何やら事情を尋ねておいたほうが良さそうだな。もしかしたら一軒目と同じくオーダーメイド品の受注のし過ぎでラインがパンクしているのかもしれない。流行ってるのか? オーダーメイド武器。
「理由をお聞きしてもよろしいですか? 」
「はい、現在大口の法人のお客様の受注で製造ラインがしばらく開かないことになっておりまして。それで現在個人のお客様の受注を止めてそちらに集中する、という形で進めさせていただいております。ですので、重ねて申し上げますが現在個人のお客様の受注案件を一時ストップさせていただいております。重ね重ね申し訳ありません」
大口の法人か。とすると何処かの企業で大きくダンジョン攻略に向かうとかそういう流れがある、ということか。しかし、ラインが手いっぱいというのであればそれも仕方ないだろう。何処の会社だってじゃあ明日からラインを一つ増やします、みんな頑張ってね、という形にはならない。これもしばらくは期待できない話になるだろうな。
「解りました。理由までわざわざありがとうございます。今後御縁がありましたらまたお願いすることになるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそ、お断りしかできないにもかかわらず誠に申し訳ございません。では、失礼いたします」
二軒目もダメか。しかし、こっちはいつになったらラインが開くかまでは教えてくれなかったな。それほど大口の客が入っているのか、それとも個人のラインではなく法人のラインをメインにやっている会社なのか。電話をかける前に調べておけばよかったかな?
ともあれここが最後、三軒目だ。ここでだめなら……どうしようかな。二軒連絡してダメだったんだから、三軒目もきっとダメなんじゃないだろうか。いや、でもきっちり三軒教えてくれた鬼ころしの人のためにも、三軒目にもちゃんと連絡をしよう。それでもだめなら一軒目の会社に連絡しなおして半年待つのを覚悟でやってみるしかないな。
三社目、石原刃物。前株も後株もついていない、個人経営の店らしい。名前からして、メインは包丁やハサミ、彫刻刀や剪定用具なんかを作っているイメージだ。ホームページを検索したがそれらしいものが無かった。鬼ころしの伝手でなければ多分遭遇しないタイプの店であるのだろう。もしくは、地元では有名だけど地域が広がると名前が知られていないとか、多分そんなイメージだ。
まあイメージがどうかではない、俺が持った時の感触や切れ味、そしてそれだけの性能を持つ一振りを作ってくれるかどうかが大事だ。
早速電話をかけてみる。しばらくすると電話に出る音。
「はい、石原刃物です」
またしても女性の声。声の聞こえ方からするに年上かな? 多分刃物店の店主という感じではないだろう。奥様というイメージが付きまとう。
「もしもし、鬼ころしさんから紹介されて連絡させていただきました。安村と申します」
「鬼ころしさんからですか。ということは武器の作成の御依頼、ということでしょうか」
「そうなります。まずはご連絡をさせていただいて、具体的なことはお店のほうにいくなり日時を調整するなりしてお話を進めさせていただきたいと思うのですが」
「少々お待ちくださいね」
また電話の待ち時間が出来た。後ろでは、「お客様からお電話ですよ」とか「話を聞くだけでもされたらいかがですか」などの声が漏れ聞こえている。何となくだが、頑固爺が出てくるようなそんなイメージが漏れ出てくる。
しばらくして、電話が取られる音が聞こえ、そこからは若い声が聞こえて来た。
「お待たせしました。まずはお電話ありがとうございます。それで、どのような武器をお探しになっているんでしょうか」
どうやらこの若い声の主が鍛冶師をやっているらしい。
「以前は数打ち品を使っていたのですが、つい先日ポッキリと壊れてしまいまして。これを機に、一度自分の体や使い方に合った一本を作っていただきたいというのがこちらの要望になります」
また少し間が開く。何やら考え事をしているらしい。後ろでは、まずお話だけでもされたら? と声が漏れてきている。
「解りました。こちらの現状を知っていただいて、その上でお互いに納得が出来る状態でお仕事が出来るかどうか、それを判断していただこうと思います。それでもよろしいですか? 」
なんか奥歯にものが挟まったようなものを感じる。仕事をしたくないとかそういう感じなのだろうか。言い方から察するに、仕事が詰まっててそれどころじゃない、という感じは伝わってこない。その点は前の二社とは違うものがあるんじゃないだろうか。
これも新しい武器のため。そう思えば惜しい手間でもないし、もしかしたらより良い一品を仕上げてもらうための助力や活力になるかもしれないし、ここがだめなら半年待ちで我慢するのも致し方ない。半年待つことに比べたらこの先数時間なんて大した問題でもない。是非行かせてもらおう。
「解りました。今鬼ころしの清須店に居ますので、そちらまではどのくらいかかるか解りませんが、調べて伺います」
「でしたら道が順調なら十五分ほどで到着できると思います。それでは、お待ちしています」
三軒目になってようやく対面での話し合いが出来る。まずそこまで行けるようになったのは一歩前進だ。この後打ち合わせをして向こうの事情を聴いて、その後で作れるのかどうなるのか、見極めていこう。まずはこの交通危険地帯を脱しなければいけない。あの尾張小牧に近づくことになる。
危険な名古屋周辺道路事情でも有数の危険な地帯に挑む勇気を持とう。ダンジョンの新階層に挑むよりも緊張してきたな。何よりこの辺りはあまり走り慣れていない道だ。
目的地が決まったところで、鬼ころしの駐車場からようやく動き始める。昼前だが、まだお腹は空いていない。ここで先に取引の話をして、納得できる妥協ラインを決められたらそれで満足して昼食を食べるということにもできそうだ。
まずは、無事に石原刃物まで到着できるように祈ろう。そして安全運転だ。ここでいう安全運転とは交通ルールを守ってきっちりと行くことも含まれるが、自分が周りの車にある程度合わせることで自らの危険を回避する、という意味も含む。
さすがに交通違反を率先してやろうという意味ではないが、危機的状況に遭遇した際にはそうなることも念頭に置いて車を走らせるということに……おっと、目の前でクロスバイクの赤信号特攻が入った。これは左にきっちり車をよせていたら突っ込まれていた状況だったな。出来るだけ道路の真ん中を走ろう。
恐る恐るだが、ちゃんと目的地には近づいている。このまま何事もありませんように。
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