1014:さて、どうしようね?
ダンジョンで潮干狩りを
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六十一層から六十層に無事に抜けて戻ってくることが出来た。後は帰り道を逆順にたどれば問題なく五十六層までたどり着くことが出来る。
「やっぱり帰り道が解ってるってのは気楽でいいな。出てくるモンスターも顔なじみだし、倒し方も解ってるし。六十一層からがいかに面倒くさい所なのかというのを実感するよ」
「なんかのフラグですか。そんなの回収したくないんですけど。通い慣れたとは言ってもまだ二回目ですよここ通るの。なんかこう、あるかもしれません」
芽生さんが警戒モードに入った。六十層のモンスターは五十九層とほぼ同じで石像が必ず居る以外は大きく変わることは無い。石像以外はスキルで一掃できるし石像も物理攻撃で対応できる。何の心配があろう。
「洋一さん、フラグを立てるのはご自由ですが、私に回収させるようなことはしないでくださいね」
「フラグって本当にあるのかな。物欲センサーがあるのは解るけど、今日も拾えるだけのドロップは拾ったし後は帰るだけ。心配はないさ」
そう言いつつ前に現れた石像とリビングアーマーをスキルで一掃しつつ、石像に直刀で挑む。石像に向かって思いっきり直刀を振りかぶって、ガキッといい音を立てた瞬間、俺の直刀が真ん中あたりで折れた。
「え? 」
「あ、フラグ回収した」
流石に直刀なしで石像と戦うのは難しい。芽生さんはすぐさまこっちの動きに対応すると槍で石像をぶったたき、黒い粒子に還していった。
「なるほど、フラグか。そしてこれがフラグ回収か」
「そうです、フラグ回収です。今から石像は私が対応するのでそれ以外はお願いしますね」
「そうする。しかし、長く使ったな。決して高くは無かったが、当時の俺にとっては安くも無かった。良い相棒だった。このまま保管庫で眠らせておくのが供養になるだろうか」
「好きにされたらいいと思いますよ。しかし、洋一さんの直刀が折れるとなると私もそろそろこの槍を買い替える時期かもしれませんねえ」
芽生さんも、そろそろ新しい武器が気になり始めるお年頃らしい。そういえば芽生さんが今使ってる槍も同時に買い替えた仲間だったな。俺より物持ちがいいのは槍そのものの扱いのうまさなんかが関係しているんだろうか。芽生さんの槍とて、物持ちの良さを目的として選んだわけでもあるまい。
「とりあえず、五十九層抜けるまでお願いします」
「素直に反省することは良い事です。芽生ちゃんにお任せしておいてください。石像はキッチリ砕きますので」
芽生さんの先導で六十層から五十九層まで抜ける。俺が石像に対して効果的な武器を持ってないので、仕方なく柄を振ってはいるものの、申し訳なさが少し前に出ている。ダンジョン内で己の武器を破損させるとは何事か、と自分に対して反省を促すことにする。
次に潜るまでに予備の直刀……とはいかないまでも、同等の硬さ、そうだな。切れ味より硬さだな。硬さをメインにした同じような感じで振るえる武器を探すことにしよう。
六十層をあっさり抜けて五十九層。最短経路は解っているのでこっちも最小戦闘回数で潜り抜ける。途中で魔法耐性の指輪を手に入れた。これで預けてある指輪も含めて【魔法耐性】【物理耐性】それぞれ二個ずつ。ここまでで四回この大理石の城っぽい何かエリアに来たということになる。一回来たら一個ずつドロップ。解りやすい指標で大変よろしい。
五十九層でも石像の間は芽生さんに任せ、賑やかしの他のモンスターを相手取る。もうちょっと進めば五十八層。芽生さんにお任せする石像も居なくなる。
後二十分ほど待てをされている時間が発生する。この間が居心地が非常に悪い。お互いにお互いをカバーし合う、ということが出来なくなっている。これは相棒としてはあまり良い状態じゃないだろう。
「苦労を掛けるねえ、芽生さんや」
「そのための相棒でしょう、洋一さんや」
気持ちはちゃんと伝わってはいた。公私ともに良い相棒を持ったな。
「次にここに来るまでには予備だとしてもそれなりの装備をそろえないといけないな。久々に鬼ころしへ行く必要がありそうだ」
「そうですねえ。お金には糸目を付けなくていい御身分なので、良い装備を一つと使い慣れた直刀に似た装備があれば一つ、といったところでしょうか。まあ洋一さんが扱うものなので細かいところまで口を出す気はありませんが、出来るだけ自分の体に合った装備を選んでくる、というのは重要だと思いますよ」
新しい装備か、ちょっとワクワクするな。どんなのがいいだろう。やはり前の直刀と重量バランスが変わらずに、それでいて硬いものを殴っても悪くない装備……言ってしまえばメイスみたいなものでも良いし、中橋さんが使っていた鉄鞭でもいい。どうせ物理攻撃メインではない相手には柄を使って切る形になるのだ、切れ味を求めないものを探してみるのもいいだろう。
五十八層に戻り、ここからは石像は出ない。攻撃が通じないモンスターが居ない安心できるエリアに来たぞ。後二階層、時間にして一時間半ほどで五十六層にたどり着ける。長い時間だが戦っている間に気が付けば終わっている程度の距離だ。
しかし……直刀が壊れたか。丈夫さを売りにして買ったはずなんだが、当時に全国的にメイン階層であるおそらく九層から十五層あたりからかんがえて、丈夫で問題ない、と言われていた可能性があるな。
流石に今の主流の丈夫さで言えば、ゴーレム殴っても欠けないとかそういう感じになっているのだろう。そして、今俺に必要なのは五十七層から六十四層にかけても丈夫である必要がある。丈夫さを基準にしてそれでいてきちんと切れ味もある武器。
鬼ころしにそれを満たせる製品があるかどうかは怪しいな。店のラインナップを疑う訳ではないんだが、俺の好みを満たせる品物があるかどうかは運も絡むだろう。
もしかしたらだが、雷切を付与していた事でちょっとずつ武器に無理をさせていた可能性もあるし、どっちにしろ疲労の蓄積による武器の破損はいつかは来ることだ。よほどのことが無い限り絶対に壊れない装備なんてものは無い。これはボス戦中や六十一層を巡っている間に壊れなくてよかったと逆に安心するところだろうな。
そのまま何事もなく五十六層までたどり着くことが出来た。今日は色々と学ぶべきことは多かった。日々の指さし確認だけでは足りない。特に自分の武器についてはそうだ。ちゃんと毎日手入れをするとまではいかなくても、今後は欠けやヒビが入っていないかどうかを確認して行こう。
「さて、色々あったが無事に帰ってこれた。夕食を食べて上がって報告が出来ればする、出来なければ明日以降、という感じでいこう」
「夕食はカレーでしたね。一晩寝かせましたか? 」
それなりに負担をかけたせいか、いつもよりも食欲旺盛な芽生さんだ。これはがっかりさせるわけにはいかんな。
「昨日作って冷蔵庫で一晩寝かせたからいきなり昨日のカレーが美味しいを楽しめるようにはしてあるつもり」
「それは楽しみですね。まずはエレベーターまで行きましょう。その後の食後休憩はエレベーターの中でしましょう。そういうところも今日は時短していきましょう。洋一さんも多分新しい武器何にしようかで食事に集中できるような状態ではないでしょうし」
エスパーかな? おっしゃる通りだ。まあそれはさておき昨日の今日のカレーを楽しむことにしよう。いつもの夕食楽しみセットを保管庫から出すと、深皿に炊飯器からご飯を盛ってカレーをかけると芽生さんにスプーンと共に渡す。やはり一日の終わりの食事は楽しまないとな。
「しかし、いいタイミングで壊れたと言えなくもないですね。ちょうどしばらく私が潜るタイミングが無いですし、その間にゆっくり色々試したりいろんな店を回ったりする時間が取れるのは良いことです。もし夏休みに突入してたら私も一緒にお店巡りということになるところでした」
「芽生さんは同じタイミングで買った武器が壊れたことで、こっちも寿命かな、とか思ったりはしない訳か」
カレーをちょっとずつ混ぜながら食べる。一晩寝かせてコクの出たカレーは口の中を満足させつつも、何処かほろ苦い味わいを見せるのは俺のメンタルが少々味わいのほうではなく次の武器どうしようという思考に向かっているせいだと思う。
「そういう考え方も有りですが、一応これでもまだ大丈夫かどうかは毎日とまではいかなくてもちゃんとチェックしてますし、買い替えたいタイミングがあればまた言うのでその時で良いですよ。最悪、使いづらいですが洋一さんの保管庫の中のトライデントを使うという手もあります。壊れたからと言って他に武器が無いという訳ではありませんからね」
なるほど、トライデントというものの存在を失念していた。一応これも四十二層付近でドロップする武器ではあるので、ここでの使用に耐えられるかどうかを考えると一つの案としては浮かぶわけか。
「じゃあ、早速明日にでも鬼ころしへ向かってみるとするか。ここ最近寄り付いていないのもあるし、そろそろワイバーン素材の装備品なんかも出回っている頃かもしれん。でもワイバーン素材の剣とか槍って具体的にどう加工すればそうなるんだろうか」
「それを調べるのも作り手の仕事の内なんじゃないですかね。さすがにワイバーンの爪を金属で挟み込んで研いでそれで終わり……なんてのもあるかもしれませんが、味気ないですねそうなると」
「鱗を何枚か重ねて作った盾とか。想像力が貧困過ぎるか。きっと超高温で溶かせばきちんと液体になるからそれを形にしていくブレストプレートとかもあるんじゃないかな」
「冶金の分野はド素人も良いところですからね。それと、洋一さんの保管庫に入りっぱなしのインゴットも気になります。もうすぐお金に変わるとはいえ、その後どのような流通経路をたどって制作場所に持っていかれて装備として成り立つようになるのか。そういう面を考えて探索をするのも今後は必要になってくるかもしれませんね……あ、そうだ」
芽生さんが何を思い出したかのように突然声を上げる。何だろう?
「官庁訪問の時に個人的に真中長官と話す機会が出来まして。リッチ討伐の件を話してきたんですが、今度の価格改定に合わせてB+ランクの条件緩和を行う可能性があるそうです。はっきりとは決まってないけどとりあえず言っとくね、みたいなフランクさでしたが」
「ということは俺のスノーオウルの羽根取りもやり辛くなるってことか。今の内に精々溜めこんでおかないとな。と、すると今後は増えるであろうB+探索者による手で回収されていくような素材は軒並み低下する可能性があるな。ワイバーン素材、スノーオウルの羽根、熊の熊胆、カニ……この辺りは値下がりか」
「洋一さんのメイン収入がどんどん減っていきますね。羽根が値下がりするって事は布団の山本に卸す金額もそれだけ下げるってことでしょう? 商売にならないことは無いとは思いますがちょっと残念ですね」
芽生さんが心配してくれているが、俺としてはどちらかというと安心している。他に取次のできる探索者が出来るって事は俺の負荷も減るって事になるからな。スノーオウルの羽根もダーククロウの羽根もどちらも寝具には欠かせない代物になってしまった。
ダーククロウは趣味で良いとして、今後スノーオウルの羽根がどうやってどういう形で流通していくのかを見るのも大事だし、流通し始めてからはっきり布団の山本に問いただし、いくらぐらいが採算ベースに乗せられるのかをきっちり聞くことも大事だろう。お互いに儲けるためのやり取りだ、腹を割って話すことが大事だろうな。
「いずれにせよ、ダンジョンを占拠できる、という状態はそろそろ終わりに近づいてきたってことかな。ついでに言えば小西ダンジョンの異様な深さと、そこまで深く俺が潜り込んでいる事実についてもバレてしまう時が来たってことだな。どういう形で公開するんだろう? ちょっと楽しみだけど怖くもあるな」
「散々稼いでおいて今更感はありますが、おすそ分けをみんなにするのも大事だと思います。それに、B+ランクの狩場は一部を除いて広大ですから、所謂ダンジョン景気みたいなものが来るかもしれませんね。みんながみんなホクホク笑顔で探索して帰っていく姿が見れることになります」
「リヤカーの争奪戦は更に激しくなるんだろうな。そうなると専用リヤカーを使わせてもらってる分の稼ぎはちゃんと担保しないといけないよな」
ひたすら金の話をしつつ夕食は続いた。
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