1012:六十一層 2/3
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
ヘルメットのマウントにスマホを装着して録画モードにすると、ゆっくりと進んでいく。足場はつるつるしていて躓くことはなさそうだ。どっちかというと滑りそうな雰囲気すらある。これだけ綺麗な隠し通路、使われることが頻繁にあるような物騒な隠し通路らしい。
もしかしたら王のフリをしたリッチが人に化けて城下町をこっそりと見回るために作られた通路、そんなコンセプトかもしれない。アトラクションとしては中々悪くないところかもしれん。
「なんかウキウキしますね。地下水路っぽいところですが、探索って感じがヒシヒシとします。久しぶりですねこの感覚」
芽生さんは結構楽しんでいるらしい。探索らしいマップと言われればそうかもしれん。前にそれらしいマップだったのはいつだったのか問われると、そもそも探索らしいマップとはどういうものから定義すればいいのか。そういう意味では前のマップも探索らしいといえばそうとも言える。まあ、本人のやる気の問題なのでやる気が上がりそうなマップならそれでいいだろう。
「さて、第一村人はどんな格好をしているのかな……と」
第一村人は水路の中から現れた。体長三メートルほどの見た目に反して素早く、そしてほどほどに光を反射する皮をもち、大きな口にギザ歯。現実で言い表すならこれはワニと呼んでいい種類の生物のはずだ。
「地下水路にワニが居るって都市伝説は聞いたことがあるが、本当に出て来るとは思わなかったな」
「でもそれらしくはなってきましたね。強さはどんなもんでしょう。とりあえず洋一さん録画していることですしそのままかましてしまいましょう」
「それでいこう」
早速全力雷撃二発。階層の深さを考えて全力雷撃一発で落ちるような体力はしていないはずだ。なので念のため二発。ワニはそれで身動きがとり辛くなったのか、動きは鈍くなった。これはそのまま雷撃で倒すべきか、それとも雷切で切断してみるか。でも迂闊に近づいて急に素早く動いて噛みつかれると困るしな。
ワニは口を開ける力は弱いという。ダッシュしてワニに近づき、ワニの口を足で踏んで閉じる。ワニは口を開けようと試みているが、俺の体重に抗うほどの力は無いらしい。普通のワニ、という感じだ。
この階層まで深く潜り込んできて普通のワニ、というのも変な話だが、何か特殊な攻撃をしてくるようには見えない。文字通りそれなりに素早く移動してきて噛みついてこっちの体をかみ砕く、と言ったような基本的な攻撃しかしてこない可能性は高い。
とりあえず足元のワニに雷切を突き立てると、ズブズブと沈み込んでいく。皮自体の耐久力はそれほどないらしい。もしくは突きに弱いか、だな。しばらくそのまま雷撃を雷切経由で流し続けているとワニは黒い粒子に還っていった。ドロップはいつもの青い魔結晶。大きさは……リビングアーマーのとあまり変わらないな。
「マップが切り替わった割に大きく変化みたいなものは無いみたいだな。魔結晶の大きさもほぼ同じだ。ワニの魔結晶だと自覚せずに放り込んだら混ざってしまいそうだ」
「まあ、どうせ重さ査定なんですから混ざってもあまり困ったりはしないでしょうが、ドロップ割合なんかを参考にする場合数がちゃんと解ったほうが分析がしやすい、とかそういう理由ですか」
「お、早速さっきの勉強の成果が出始めたな。大体そういう感じだ。ワニ以外にモンスターが居るだろうけど、ポーションのドロップ率なんかを計算する時に合計で何体倒したか、その間に何個でたか、査定価格はいくらか。そこらを計算することで一匹あたりの旨味が計算できる」
時計を見る。抜けて来た階層を残り時間で逆算し、ここに居られる時間を算出する。
「後二時間、ここで様子見をしていこう。その間に地図作って他のモンスターの調査もして、ドロップ品も調べる。やることはそれなりにあるからできるだけスムーズに進んでいきたいな」
「では早速次のモンスターに会いに行きましょう。すぐそこにもう一匹居るはずです」
早速次の一匹を索敵で近そうなところから探してみると、同じくワニが現れた。
「次、芽生さんやってみる? まだどんな攻撃してくるかはっきりしてないけど」
「噛まれなきゃ大丈夫そうなのでいってみます」
芽生さんがまず遠距離からいつものウォーターカッターを複数枚打ち出して効果があるかどうか試す。表面にいくつか傷は出来たものの、致命的に効くという感じでは無かった。攻撃に反応したのかワニがこっちへ移動してくる。
ワニはのったりゆったり……ではなく、それなりの速さで走り込んでくる。もっと小型のワニならかわいいで済むが、かなりの大きさを持っているワニなので迫力はある。パニック映画ならそこそこのクオリティという感じだろう。B級ならしらんが。ワニって実際どのくらいの速さで走るんだろう。帰ったら調べてみるか。
ワニに対して素早く距離を取りつつ槍で対応していく芽生さんだが、ワニは噛みつこうと芽生さんに近寄っては回避され、いたずらに表面に傷を増やしていく。流石に歯がある部分に切り傷を付けることは出来ないようだが、自分とワニの立ち位置を槍先を中心にしてくるくると入れ替えつつ、何処を攻撃すればいいのか、どうすれば致命打を与えることが出来るのかを考えながら攻撃のチャンスをうかがっている感じだ。
ワニが芽生さんをもろともかみ砕こうと顎を大きく開ける。それをチャンスと、口の中へ【水魔法】……ウォーターバレットかな? を撃ちこみに行くと、口内はどうやらそれほど強くないらしく、口の中から外皮を通り抜けて貫通していった。
外からの攻撃にはそこそこ強いが、内側からの攻撃には弱く出来ているのだろう。不思議な光景だが、もしかしたら次で試して外から中への攻撃が出来るのかを確かめるのかもしれない。
ワニの行動が鈍くなっていく。どうやらさっきの口内への魔法発射は中々の効果があったらしい。【水魔法】の弾丸で空いた穴もそのままだ。きっちりダメージは入っているのでこの後どうするか、というところだな。
芽生さんは再び槍を構えると、そのままワニが口を開け始める前にやはり上を取って上段から顎を叩き落すように殴る。それで怯んだワニが一旦口を閉じ、そのスキにワニの上に乗っかる。あまり大きな声では言えないが、芽生さんぐらいの体重をかけるとワニも口を開けられないらしい。
その間に芽生さんはプスプスとワニを槍で刺し、ダメージを蓄積させていく。これは芽生さん苦手なタイプだろうなぁ。もっとスパッスパッと切り刻めるなりぶったたけるほうが戦い方として向いてそうな気がする。
すると、ワニの頭の上から【魔法矢】の連射を始めた。自分の足元を除いてワニに魔法矢がどんどん刺さっていく。
なるほど、魔法矢なら刺さるのか。まだ二匹目で色々試す段階だから色んな攻撃方法を試しているのだろう。ワニは芽生さんの足元で苦しんでいるのか、振り落とそうとグネグネと動き回るが、その動きに合わせるように体重移動をうまく利用してワニの頭の上を維持しつつある。
やがて、トドメとばかりにワニの胴体に一発槍を突き込み、ワニを黒い粒子に還していった。
「戦いづらいですね。弱点がぱっと見で解らないのが一番の問題ですかね。攻撃は噛みつきぐらいしかしてこないようなので距離を取ればなんとかなりそうですが、水魔法にはちょっと耐性がある感じですかね。魔法矢はキッチリ刺さったんで魔法耐性そのものがあるわけではない、ということは洋一さんの【雷魔法】の効き具合からしても証明できると思います。物理攻撃は……ちょっと皮が硬いですが攻撃が通らないということは無いですね。と、こんな感じでレポートはよろしいでしょうか」
「充分だと思うぞ。とりあえずこれと言って確実な弱点みたいなものは見当たらないことは解った。でもこの様子なら雷切でスパッとやろうと思えば何とかなるのも解ったし収穫はかなりあった。回数をこなしていくうちに楽に倒せる方法を探していこう」
一直線の水路と並行して続く道を歩く。モンスターもしばらくワニが続く。ワニ以外は居ないのか? とも思うが、まだ到着してそう時間が経っていない。ワニしかいないことはあり得ないだろうし、もしこの階層にはワニしか居なくても、他の階層へ移った時にまた別のモンスターが出て来るであろうことは想像に難くない。
最低でも二種類のモンスターを用意してくれてあるのがこのダンジョンのシステムというか仕組みになっているようなので、もう少し先に進んでから確証を得てもおかしくは無い。
一直線の水路でワニと戯れながら歩き抜けると少し曲がりくねった後、少し広い場所に出た。そして、いくつかの水路が合流した後他の方向へ流れていくのが見えている。水路には小さいが足場になる小橋があり、通路内をある程度だが比較的楽に水路の上を渡ったりできるようになっている。
その水路を塞ぐように、一匹の大きな亀が寝そべっている。通路の上のほうが居心地がいいのか、和んでいるようにも見える。が、モンスターはモンスターだ。往来を邪魔されているのは間違いないし、討伐対象であることもまた間違いない。
「邪魔ですね、討伐しますか」
「見るからに堅そうだからな。とりあえず雷撃で動き出すかどうかを見てみよう」
試しに雷撃を最大出力で撃ちこんでみる。すると、亀はダメージを受けたのに反応したのか、その瞬間手足を首を引っ込め、甲羅の中にしまい込んだ。
「反撃してくるそぶりは見せないな。この亀も結構素早く移動したりするんだろうか? 」
「もうちょっと雷撃してみましょう。変化が訪れるかもしれません」
続いて雷撃。しかしさっきと違って何のリアクションも起こさない。不思議に思ってもう一度雷撃してみるが、再度リアクション無し。
「これはもしかして、甲羅の中にいる間はダメージが通らないとかそういうのだろうか? 」
「かもしれません。ただひたすらに固いモンスターって倒すのが面倒だから困りますよね」
二人して考える。考えている間に亀もお? 攻撃が止んだかな? と思ったのか、首と手足をひょっこりだし、こちらにのったりと迫ってきた。足は遅い。遅いと言ってもスライムよりは速い。のっしのっしとこちらに近づいてくる。あまり近寄られないように少し距離を取るが、構わず移動してくるので戦闘状態になったのは確かなんだろう。
「とりあえず雷撃でどこまで削れるか試してみよう。その後で手早く倒せる方法を考えるって事で」
雷撃、手足を引っ込める。しばらくして手足を出してこっちへ向かってくる。
雷撃、手足を引っ込める。またしばらくしてこっちへ向かってくる。この繰り返しだ。
いい加減嫌になってきた。ここまで戦闘で苦戦するのはボス以外では無かった。まだリッチのほうが気持ちよく戦える場面があったと思うぞ。
ここで、全力雷撃で首の穴に向かって意識を集中させて狙い撃ちをする。すると甲羅の内側に入った雷撃にはダメージがちゃんと出るらしく、首の穴から少量の黒い粒子が出ていくのが見受けられる。
「芽生さん、魔法矢で首の穴の中狙ってみてくれない? 」
「解りました……よいしょ」
首を引っ込めている亀のその空いた穴に魔法矢が飛び込んで中身を蹂躙する。全ての穴から少量の黒い粒子が漏れ出している。どうやら効果はあるらしい。
「やはり近づいて直接中を攻撃する必要がある訳か。しかし、近づいたところを首を出してきてガブリと噛みつかれる恐れはあるな。亀の顎の力は中々強いらしいし」
「その時こそ雷切でスパッといってしまったらどうなんですかね? 」
「首が飛び出てきて噛みつかれても雷切なら問題ないか。よし、穴に突っ込んで内側から焼くイメージでいってみよう」
まずは全力雷撃で亀の行動を封じる。雷撃を喰らった亀は先ほどまでと同じように手足と首を引っ込める。それを待ってたと言わんばかりにこっちが雷切で甲羅に開いた、さっきまで首が出て来ていた穴に突っ込む。
そのまま雷切の出力を上げて雷切経由で雷撃を亀の内側を焼き切る。甲羅の中からジューっといい音がする。甲羅の内側にどこまでモンスター肉が詰められているのかまでは解らないが、内部にダメージが入り続けていることに違いは無い。証拠に黒い粒子があちこちから上がっている。もう少し焼け具合に時間がかかるかな……結構体力もあるらしい。
しばらくすると亀が首を出し、俺に向かって口を開いてくる。何か来る、という予感を感じ、亀の頭の直線上から体を逸らす。すると、亀から水鉄砲が放たれた。最後の抵抗なのか、最初から持っている武器なのかは解らないが、亀は少なくとも噛みつき以外にも攻撃が出来るということが確認された。
亀が首を伸ばしている間がチャンスだと、亀の首を雷切で切断する。亀は首から先を飛ばされ、甲羅と共に黒い粒子に還っていった。
雷撃で焼いてる間に首にダメージが入っていた割には首は元気なままだった。甲羅の中身は一体どういうことになっていたんだろう? いくつかの謎を残しつつも、初遭遇のモンスターは無事に討伐された。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。