1011:六十一層 1/3
ダンジョンで潮干狩りを
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午前中目一杯を使って今までの探索のおさらいをした。芽生さんの指摘により、いくつか改善の見込みのある場所の選定、それから普段俺が回っているカニうまダッシュは参考データにはなりえないことや、それから現在どこまで潜りこんでいるのかを公にしても良いのか、など二人の話し合いだけでは決められないことも出て来た。
これは明日ギルマスに直接聞いて、何層まで潜りこんでいることを公にしていいのかという形で、正式に安村パーティーが今ここに居ますよ、という情報を公開する必要に迫られていることも解った。
やはり適度な話し合いの場を設けることは必要だな。ギルマスとも、最下層まで潜ってきましたと言うだけでなく他にもこちらの情報を公開していくことで他の探索者に見せられる景色のようなものがあるのではないか、という向きで説得していこうと思う。
「頭使ったのでお腹空きましたね。お昼とお夕食は何ですか……と、これもそろそろ甘えを卒業するべきなんでしょうかね。私も今度何か作ってきましょうか」
「それも楽しみではあるが、ここまで揺らさず冷まさず温めず、無事にお弁当を持ってこれるかどうかは解らないからな。それにほら、俺の趣味でもあるし。ここで作るってなら、材料を事前に教えてくれていれば持ってこれるけど」
材料さえ指定してくれればここまで安全な状態で運ぶことが出来るのは保管庫の強みだ。何なら料理道具を一式仕舞って持ってきて、ここで調理をして出来立てを食べる、ということもできる。
「そのほうが確実かもしれませんねえ。でも、材料を用意してもらってここで作るのでは結局作ってもらうのと大差ないでしょうし、びっくりさせるという目的は果たせそうにないですが……でも、ダンジョンで変なもの食べさせて二人そろって体調が悪くなることを考えたら洋一さんに任せてしまうほうが合理的なのかも? 」
「そうだな。そして俺の趣味のためにもこの料理作りはそのまま続けさせてもらえると嬉しい。で、昼食と夕食だが、カレーとチャーハンの二種類が選べる。どっちにする? 」
夕食にカレーのつもりで持って来たのだが、別に昼食でも構わない。好きな方を食べて、後でもう片方でも良いし、好きなものは後で残しておくという手段もある。
「そうですねえ。胃に溜まりすぎないようにチャーハンで行きましょう。夕食は探索が終わった後でゆっくりと頂くという事にしましょうか」
そういうことになった。予定通りだ。勉強道具を片付けてチャーハンを取り出し、二人分のレンゲをセットする。チャーハンはまだ熱をしっかりと帯びており、食べごろ感を失っていない。
早速一口。ボア肉の脂がいい感じに米にも付着していてそのほのかな香りが更に食欲を誘う。先日中華屋で食べたニンニクチャーハンを思い出し、ニンニクを入れればよかったなとも思うが、ニンニク臭いままダンジョンを巡るのはアレだと思ったので取りやめたのを思い出す。
今日のチャーハンはこれで正解なんだ。だからこれを楽しんで食べるんだ。そう思うと更に舌と胃が喜んで受け入れてくれてきているような気がする。
芽生さんのほうをちらりと見やると、中々の勢いでチャーハンをかきこんでいる。多分普段よりも体より頭を使ったのでお腹が空いているんだろう。もうちょっと盛りの量を増やしたほうが良かったかな?
ダンジョンの中で勉強会をするという予想外の出来事だったのでそれに対応する食事がご用意できなかったのは不徳の致すところ。
「足りないなら肉を焼くけどどうする? 」
「そうですねえ、焼くのは時間がかかりそうなので、馬刺しがあると嬉しいですね」
「よし、じゃあ早速作ろう。生姜醤油で良いよね? 」
「お任せしまーす」
自分の食事を中断して芽生さんの食べるペースに合わせられるように馬肉のパッケージを開けると包丁で丁寧に一枚ずつ切っていき、並べた後生姜醤油を上からたらり。そういえば馬刺しを食べるのも久しぶりか。
安直すぎるかもしれないが、たれにこだわって作った馬刺し丼という選択肢もあるんだな。今度自分用に作って試してみよう。やはりごま油にニンニクとすり胡麻、そして青じそと昆布あたりで味の重厚さを演出するのも良いな。よし、今度やろう。是非やろう。
食事を食べ終わって少し休憩。その間にクロスワードを二人で進める。二人でやるとワードが埋まるのが速い。埋めていく楽しさの速さも二倍だが、その分終わってしまう速さも二倍。どちらがいい……と言い切ることは出来ないが、胃袋が落ち着くまでの時間つぶしとしては割と適している。頭が疲れたらやめればいいし、その時こそ文字通り休憩すればいいわけだ。
おっと、ミルコ用のお菓子を渡すのを忘れているな。忘れないうちに渡しておこう。クロスワードを少し脇に避けて、お菓子を取り出すとパンパン。お菓子は消えていった。さぁ、もうちょっと続きを楽しむか。
適度に時間がつぶれて胃が落ち着いたところで、探索開始。早めに昼休憩にしたとはいえ、普段なら五十七層の回廊で休憩しているところを五十六層の五十五層側で休憩しているため、移動時間分のロスが多少出てしまう。しかし、これは予定として組み込んだロスだ。
収入の面では普段より少ないものになるだろうが、そもそもまだ査定すらしてくれないドロップ品がほとんどのところへ行くのだ、ポーションの数だけで今日の収入が決まる現状では、二本や三本少なくなっても問題は無いし、そこまで金に困っている我々でもない、気楽に行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
五十六層から五十七層、五十八層を経由して一気に五十九層まで下りた。ここからは少し気を付けていかなければならないゾーン。まだ回数をこなしていない上に、雷切がほとんど効かない動く石像が登場する。ここからは武器を切り替えて直刀を再び現出させる。
どっちにしろ雷切は付与するので、実体剣としての性能を求めるかそうでないかの違いと、手元に来る重さは変わってくるので注意しないと自分の足を斬る可能性だってある。注意深く行こう。ちなみにここまでに四本のポーションを手に入れることが出来た。これでそれぞれ収入三千五百万円というところ。もう少し収入としては欲しいな。
「最短経路は解っていることだし、ここまでも順調に戦いつつ来れた。後は石像に気を付けながら六十層まで抜けていこう」
「そうですね。私は基本的に物理槍なので大きな問題にはなりませんが洋一さんの場合そっちを出さないと石像相手にはできませんし」
「そうなんだよなあ。そろそろこれも新しくするべきかもしれん。おニューの武器、今はどういうのがトレンドなんだろう? ワイバーン素材の武器とか出てきててもおかしくは無いんだよな」
「とりあえず折れるまで使うつもりなんでしょう? だったら折れてから考えましょう。もしダンジョンの中で武器が破損したとしても一応洋一さん予備になるような武器持ってるでしょうし、最悪石像は私が担当して帰ることになるのでその時はその時ですよ」
そう言ってもらえるとなんだか有り難いようなそうでないような。とりあえず新階層までは問題なく扱えるだろうから、次のマップの動向による、というところか。
「とりあえず、石像のレアドロップは無いのかどうか気になるな。指輪と同レベルのドロップとすると相当回数戦ってみないと出会えそうにないぞ」
「そうですねえ。他のガーゴイルやリビングアーマーが落とす指輪ですら一回集中して潜って一個とれるかどうかですからね。でも望みはあります。出るまで粘ってみる、というのも一つ面白いかもしれませんよ」
「ふむ……六十一層以降へ潜るのはともかくとして、確かにそれはありだな。出ないなら出ない、出るなら出るを確かめるのも調査の一環だ。ひたすら戦っておかなければいけないというところもある。まだ戦った数は精々数十体だ。千体ぐらい狩ってみないとデータ取りとしては足りないぞ」
「なかなか難しそうですねえ。でもまあ、急ぎで次へ行く理由もありませんから今日はともかくとして、次回以降はそれを狙っていきましょう。もうすぐ夏休みも来ますし、その間にデータ取りというのも悪くないと思います」
そういえばもうそんなシーズンか。去年の夏休みはひたすら当時のBランク帯、つまり二十二層あたりをぐるぐると回って地図を作っていたような記憶がある。もうあれから一年もたったのか。年月が過ぎるのは早いな……ジャネーの法則だったか。芽生さんには実りある一年間だっただろうし、俺にも同様に実りある一年だったはず。
よそ事を考えながら戦闘は続く。石像は六十層まで下りるとほぼ必ずと言っていいほどモンスターのグループに混じってくる。五十九層のほうが出会う回数は多いが今は六十層。目標は六十一層のチラ見と調査なので、今戦闘回数が少ないことはかえって楽である。ボス階層だということも有り、モンスター密度はそれほど高くない。
石像は出来るだけ芽生さんと交互に殴るようにしている。戦闘回数を重ねてパターンみたいなものを完全に得られるまではお互いに回数を重ねるのが大事だ。
石像と一緒に出てくるガーゴイルとリビングアーマーはスキル二、三回で消し飛ばせるのでもはや敵ではない。ただし石像はスキル耐性が非常に強いのでどうしても肉弾戦での戦闘になる。どうやら心臓から頭にかけてが弱点らしく、そこを潰すと黒い粒子へ還っていくことまでは確認済みだ。
石像がメインモンスターとなった六十層を既に分かっている地図通りに進む。以前ボス討伐をする際に六十一層の階段までは見つけているため、迷う心配もないし、そもそも気合を入れて迷うことは難しいぐらい単調なマップなので素直に戦闘回数を増やすことなく階段へ向かう。
複数回の戦闘を得て、ここまでで合計六本ポーションを獲得したあたりで六十一層への階段に着いた。
「さぁ、新しいマップだ。楽しむ準備は出来てるか? 」
「過ごしやすいところだと良いですねえ。六十三層はセーフエリアのはずですから四十二層ほどとまでは言いませんが、そこそこ暖かくて寒くないところがいいですねえ」
「それはフラグって奴だな。ジメッとしててカビの生えそうなところかもしれん。たまにはそういうセーフエリアがあってもおかしくない。十四層がそれに近かったな」
何にせよ、この階段を下りればそれが解る。早速下りていこう。階段を下りていくと、徐々に狭まっていく階段の幅。やはり階段の幅はこのマップの豪華さを演出するためのものだったらしい。
普段通りの階段の幅に戻ったところで階層の間を感じさせるいつものつぷんとした感触。そして、肌で感じる気温の低下。どうやら暖かいマップであることは早速否定されたらしい。
「暖かい階層はまたお預けのようだな」
「七十層に期待しましょう。それまでの我慢と思えばなんということもありません」
あてが外れた芽生さんだが、それでも休める場所があるならそれはそれでいいらしい。
外壁が大理石のような物からコンクリートのようなものに変わり始めた。手で軽く触って確認するが、つるつるとしていて肌触りは良い。ジョリジョリとした感触ではなく、うっかり壁にたたきつけられてすりおろしになる心配は無いらしい。
そして、相変わらず何故かついている照明。ランプのようなもので照らされ続けているが、炎の揺らめき見たいなものは感じ取れないので多分LED電球みたいなもので出来ているんだろう。
そして階段を下りた先に現れた、道に沿って流れる水。汚水か清水かまでは解らないが何処かへ流れ込んでいるらしく、わずかな傾斜があるらしい。
「下水……って感じでもないですね、臭いませんし」
「大理石の王城を抜けたら下水。これはあれかな、この手のアトラクションによくある隠し扉の向こう側には城から脱出する抜け道がある、みたいな。ただ、明るいのはダンジョンの不思議の内なんだろうよ」
「なるほど、ここは抜け道ですか。だとしたらモンスターは居ないかも? 」
「さすがにそれはない、と思う。索敵の隅っこに反応がある。何が居るかまでは解らないが、とにかく第一村人の発見に出かけるか。もう発見はしてるけど」
俺の索敵にも引っかかるぐらいなんだから芽生さんにはとっくにバレバレなんだろう。黄色い点がいくつか見受けられる。
「そうですね、マップだけ確認してはい終わり、では面白くないですし戦闘評価とマップの撮影ぐらいはしておかないといけませんね。というわけで洋一さん、その使ったところを見たことが無いヘルメットのマウントのところにスマホでもつけておいてください」
「あ、このマウントそうやって使うのか……なるほど、これなら便利だ。向いてるほうにしか撮影できないのは同じだが、目線撮影が出来るのは便利かも」
俺はヘルメットの使い方を学習した。
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