1010:報連相はしっかりと
ダンジョンで潮干狩りを
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今日も暑い。おはよう、そしてありがとう。今日は簡素なお念仏だが毎日のお念仏と大して変わりは無いと考えている。大事なのは言葉の長さではなく、ありがとうと気持ちを込める一念だ。
冷房をかけたまま寝たとはいえ、部屋から出て廊下に出たとたんムワッと感じるこの湿気と熱気は中々こたえるものがある。
この暑さに加えてもう少しすると雨が降るという予報だ。更に湿気が上がって大変なことになる。帰りには傘が必要になるかもしれん、保管庫にちゃんと二本あるかどうか確認しておこう。……よし、ある。帰り道で雨が降ってきても芽生さんの分もある。
今日は芽生さんと潜る日。そして夕食はカレーだ。今日の予定はまだ立てていないが、六十一層をチラ見して帰ってきて、それから五十八層か五十九層あたりを回遊しておくことにする。価格改定までまだすこし時間がある。
新しい階層に潜って新しいドロップ品を拾ってくるのも大事だが、このいくらまで詰め込めるか解らない保管庫に滞留しているブツをさっさと掃かしてもらいたいというのが今一番の本音だ。
個数で言えば、インゴットとシャドウバイパーの牙とシャドウバタフライの鱗粉がまるっと入りっぱなしだった時が一番保管庫の中が混雑していたんじゃないかと考えられる。
ただ、質量的には今のほうが大きいかもしれない。鎧の破片とインゴットと青い魔結晶が今のところの査定待ちドロップ品だ。鎧の破片は個数は少ないものの体積もあるし、インゴットは一つ一キログラムとしても合計で一トン以上ある。そして大量の青い魔結晶は出してみないと解らないが、そこそこの数がある。
普段使いの専用リヤカーが三百キロぐらいが限度なので、馬鹿正直に正面から荷物を出し入れしていたらそれだけで一日がつぶれてしまう。何か裏道を用意してもらうことにしよう。
いつも通り朝食と朝のお通じが終わったところで昼食づくりの開始だ。今日の昼食はシンプルにチャーハンで攻めてみることにした。昨日の夜の内に細かい材料の下ごしらえは済ませてあるので後は混ぜ合わせて炒めて終わりというとてもシンプルな構成にしてある。普段の食事からすればかなりシンプルだと言える。
細切れにしたボア肉を軽く炒め、火が通ったところで一旦どけて卵を投入、半熟あたりに出来上がったところで炊き立てのご飯を投入。ご飯とよく馴染ませて、ご飯をオムレツにするように卵が米粒を包みだしたら他の具材と肉を入れてさらに炒めながらよくかき混ぜる。最後に市販の最強調味料である所の中華の素と胡椒を一つまみ入れて、かき混ぜて完成。
ニンニクを入れると口の匂いが気になるのでやめておいた。チャーハンが出来たところで、昨夜の内に作って冷蔵庫で寝かせておいたカレーをちんちんに温めて炊飯器と共に保管庫に入れて準備完了。
最近段々手際が良くなってきたように感じる。いかに短時間で効率よく美味しいご飯が作れるか。これを徐々に学んできた気がする。これはいつ探索者を引退しても主夫としてやっていけるな。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さて、新しい階層に向かってずんずん進もうと思う。新しい階層へは挑み続けておきたい。一応先に進む気はあるんですよ、という気概を見せつけるためと、早めにサンプル提出をしておいていざ査定開始という形に持って行きやすくするためだ。
これは早ければ早いほどいいので本格的に潜り続けるのとはまた別の、いわゆる地上側の理屈だ。だから新階層へ進んで挑もうという気持ちは今のところ無い。後二週間ほどすれば価格改定だ。それが終われば大荷物を下ろせるということも有り、文字通りまとまった金が手に入ることになる。真面目に潜るのはその後だな。
◇◆◇◆◇◆◇
予報通り、バスに乗ったところで雨。最近の天気予報は正確で困る。本当に傘が必要になってしまった。雨のほうももうちょっと時間にゆとりをもって遅めに降りだしてくれても良かっただろうに。
天気に文句を言いつつ、まあ濡れたところで生活魔法で乾燥させられるからちょっと濡れたぐらいなら良いか、とも考えている。何ならぐしょぬれでも構わない。そのぐらい生活魔法は便利である。
一人に一つ生活魔法があっても不便は無いぐらいの性能をしている。出やすいスキルオーブである割りに値段が高いのもそのつぶしのきく範囲の広さを示している。
いつもの停留所に着きバスを降りる。雨は更に強くなっていて、バス停からギルドの建物までの短い距離でも傘があっても濡れそうなぐらいだ。下手に走ってスーツや靴を汚すのも面白くない。素直にゆっくり歩いていくことにしよう。泥や汚れはダンジョンに入ってから落とそう。
なんだか逆のような気がしてならないが、気分的なものなのでそういうことにしておく。さて、後は芽生さんを待つのみだな。
しばらくのんびりしながら他の濡れた探索者を乾燥させたりして待っていると、少し濡れた状態で芽生さんが現れた。
「今から着替えてくるんですけど、今の内に乾燥させてください。生乾きのままロッカーに入れておきたくないので」
たしかに、生乾きの服をそのままレンタルロッカーに放り込んでおくのは気分的に面白くないだろう。乾燥をかけてあげてスッキリとさせたところで満足したようで、その足で着替えに行った。
着替え終わるまで更に人間乾燥機として雨に濡れた探索者達を乾かし、あちこちでお礼を言われたり飴ちゃん貰ったりしていると、漸くスーツ姿で芽生ちゃんご到着である。
「お待たせしました。さあ行きましょう」
「うむ、暇つぶしは充分できたのでヨシ。というわけですまんがみんな乾燥作業はここまでだ。後は自分たちで人員を見繕ってくれ」
後ろでお礼を言われながら入ダン手続きの列に並ぶ。次々にダンジョンに入っていく探索者を目にしながら自分たちの番になった。
「今日もご安全に」
いつもの声をかけてもらうとリヤカーを引いてダンジョンの中へ。すぐそこのエレベーターで五十六層まで下りる。
「今日は六十一層をチラ見して帰ろう。本格的に潜るのはまた後日って事で、今日は先触れだけにしておきたい。出来ればドロップ品は一通り持ち帰りたいところだが、レアドロップは多分期待できないだろうから基本ドロップ品だけになるかな」
「解りました。後、これお土産です」
芽生さんからお菓子を箱でもらう。東京駅名物……と書かれている。
「東京行ってたの? 旅行? 」
芽生さんが旅行とは珍しい。卒業旅行にしてはまだ気が早すぎる。なんぞあったんだろうか。
「いえ、官庁訪問のお土産です。ダンジョン庁にきっちり取材申し込みをしてきたので。真中長官が直々に対応してくれて有意義な時間を過ごせましたよ」
官庁訪問ということは、一次試験は無事に合格していたということか。何で教えてくれなかったんだろう。
「一次試験合格した時点で情報の共有は欲しかったなあ。この先々の予定や人生に関わることだし」
「家族には伝えたんですけどね。洋一さんにはまぁいいかなって」
「まぁいいかなって……俺はそんな割とどうでもいいカテゴリの人間だったのか。ちょっと残念だよ」
もうちょっと信頼されてると思ったんだけどなあ……
「いえ、そういう意味では無くですね。伝えようと伝えなかろうと、洋一さんとこうしてダンジョンに潜るのはダンジョン庁に入庁した後でも、一次試験に落ちていたとしても変わらないじゃないですか。なので優先度がかなり低かったんですよ」
なるほど、確かに一理ある。一理だけはな。
「それでもやはり経過観察というか、順調に話が進んでいるかどうかをおじさんとしては知りたかったわけよ。お祝いするかどうかとか、本当に順調に進んでいるなら潜る予定の調整とかもあるわけだし。今後は出来るだけ共有して欲しい所だ」
「解りました。以後気を付けます。というわけで今報告します。官庁訪問までは終わりましたので二次試験が来週以降に入ります。それが終わって夏休みが終わって、十月ぐらいに最終発表という形になります。なのでここから先一、二週間はちょっと忙しい感じになります。その後はまぁいつも通りって感じですね」
今ここで情報を共有してくれるあたり、ちゃんとこっちの要望は受け入れてもらえているということだろう。
「わかった。じゃあ今は二次試験に向けて詳細を詰めていくって感じで良いのかな」
「大体そんな感じです。まあ二次試験と言っても面接なので、質疑応答の形になるとは思うんですが。そこで洋一さんにお願いがあります」
「なんでしょう芽生さん、私に出来る事ならご協力いたします」
「各階層のざっくりの一時間当たりの探索で儲けられる金額や各ドロップ品なんかのリストがあれば分けていただきたいのですが。深くまで潜ってるのにそのあたりをきっちり知っておく必要があると考えます。いつまでも潮干狩りおじさんのおまけでは居られませんし、ダンジョン庁に入ったらちゃんと一人でもできる探索者であることを証明する必要があると思うんです」
なるほど、一理も二理もあるな。たしかに今までの計算やらドロップ品のカウントやら金銭的、ドロップ品の運搬含めてそういうものは全部俺が担当していた。きちんと相棒として知っておく必要はあるだろう。
「それじゃあ、午前中はその辺のすり合わせの時間に使うとするか。一応保管庫にその辺のデータをまとめた資料も一緒に放り込んであるので、データを見せつつ一人で巡る場合どのくらいのペースで集めることになるかやその重さなんかを共有していこう」
「よろしくお願いします。面接で何処まで進んでいるのかどうかとか、そういう質問をされた場合にただ付いて行ってるだけで主体性が無いと思われるのも癪ですし、実際にデータとして頭に持っていることで探索者であることをよりアピールしていきたいんですよね」
「なるほど。普段は俺任せで何でもヨシとしてるところをここで一旦共有する時間は確かに必要だな」
「洋一さんも自分で復習するみたいな感じでよろしくお願いします」
午前中は芽生さんの試験対策を行う、ということになった。これも芽生さんの将来を考えてのことだ。決して無駄な時間ではないし、芽生さん自身も普段自分がどのような探索生活を送っているかを見直すいい機会になるかもしれない。俺自身も自分で適当に済ませがちであるここのところの探索を行っている意味や行く場所によるドロップ品のそれぞれの行き先など、色々考えることも出てくるだろう。
五十六層に到着、リヤカーをそのへんに駐車すると、そのとなりに机と椅子を出し、書類やデータの取り出しを始める。俺のデータも古くなっているし、自分が潜っている時、つまりほとんどライバルの居ない状態での情報がメインとなる。
三十層より浅い情報については現在では他の探索者が居る関係上、もっと稼ぎの悪い、収入の少ない状態での参考値という事を念頭に置いておかなければならない。実際どのぐらい違うことになるのかを検証するには自分で潜ればいいんだが、流石に俺一人で今から潜ったとしても効率は悪くなるだろう。
それに人目のある場所では保管庫が使えない関係上、ドロップ品の持ち運びや一旦テントに戻って荷物を置いて再度探索へ、という一手間が必要になるだろう。
そこを念頭において、というより最低条件としての探索となればもっと効率は悪くなるだろうことが考えられる。そうなると何割ぐらいの効率低下が見込まれるんだろう。実際に荷物を背中に入れて見て計測するしかないだろうか。
「まず大事なことから言うが、この手持ちの情報は保管庫がある前提での探索効率の話になる。荷物が多くなったらテントに戻るなり次の階層に行く、もしくは階層を進むこと自体を諦める、という可能性があることを考慮してもらいたい」
「それもそうですね。これだけ大量の荷物を問題なく持ち歩きながら最良の形で戦闘を行えるのは保管庫の性能ありきですから」
「そこを隠しながらの情報となると、三割程度稼ぎが少ないと考えながら行くのが妥当な路線だと思う。そこを踏まえて、各階層のざっくりとした一時間当たりのモンスターとのエンカウント数とドロップ率、それからポーションの出る割合、スキルオーブの出た種類、などを確認して行こう。まずは……」
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