1009:官庁訪問 3/3 直接報告会
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
side:文月芽生
居残りを所望されてしまいました。洋一さんが居るならまだしも、私一人に用事っていったい何でしょうね。
長官室に通され、山積みになった書類を横目にする。流石に内容まで気にするのは機密にもあたるでしょうから見なかったことにしましょう。きっと、官庁訪問に際して手が空いてないから長官自ら対応に当たる、というのは建前だったってことでしょう。
ということは、目的は私か? その為に書類を溜めこませてまで長官を動かすなんて私も罪な女ですね。冗談はさておき、私だけ残したということはダンジョン関連で何か話し合いがあるんでしょうから、最深層の話でもするんでしょうかねえ。どうなんでしょうかねえ。
「出来れば総合職で入ってきてくれればよかったんだけど一般職のほうで入庁希望してくるとはね」
「さすがに私もそこまで賢くは無いので。総合職じゃないと都合が悪かったりしますかねえ? 」
「まあ、さっきも言ったけど正門から入ってきてくれて何よりだよ。お互い忙しい時期でもあるし、簡潔に行こう。最近の調子はどうだい、安村さんとは順調にいってるかい? 」
世間話から入るらしいです。話のとっかかりとしては問題ないでしょう。後ろでは秘書の方が無言の圧力を加えつつ、書類の整理をしています。はよ帰れというプレッシャーがそこそこあります。
「そうですね、就活のほうを優先させてもらっているので潜る頻度は下がってはいますが出来る限りのところで頑張らせては頂いてます。洋一さんとは……公私ともに順調ですよ」
危なげない範囲で言葉を返しておく。
「公私共にか。仲良く探索続けてくれているようで何よりだよ。パーティーメンバー間の不仲が原因で探索者そのものをやめるってケースもあるからね。その点二人パーティーでお互いがお互いを大事にしているということが解っただけでも充分に聞いただけの答えは貰った。その点は大事な所だ。是非ともそのまま探索を続けていってほしいね」
真中さんは笑顔で答えてくれた。民間とはいえ国を入れて、いや世界を含めてもトップパーティーが仲たがいで解散、そのまま探索者を辞める、という流れにならないであろうことはダンジョン庁にとっては重要なことなんでしょう。
私としては残り一年分しっかりお金を稼いで来年からどうなるか解らない収入の面を少しでも豊かにしておきたいところ。その為にもきっちりここで探索者としての意見は通しておかないといけない。
「さっきのディスカッションの話ですが。まだはっきりと探索者と両立してやっていけるとは決まってないんですね。てっきりそのあたりの話はもうついてるのかと思ってました」
「実はそうなんだ。副業とするのか、それとも探索者として国家公務員として所属しているのか。なにせ稼いで帰ってくるというタイプの国家公務員は今までにあまりない形での業務形態だからね。きっと、IT関連の仕事が出てきた時のインドのカースト制度も同じような問題に直面したんだろうなあ。私としてはドロップ品とギルド税さえきっちり納めてくれていればいくら稼いでくれてもいい、というのが本音なんだけどそうそううまいこと行ってくれるわけでもないのが実情でね。こっちから誘っておいてそのあたりの土壌をしっかりと作っておけなかったことは素直に謝るしかない、ごめん」
真中さんは苦笑いをしつつ、しっかりとこちらへの謝罪を形として表してくれました。
「謝る必要は無いですよ。いざ自由に稼げなくなったらその時はまたフリーの探索者に戻るだけですから。ダンジョン庁としては、トップパーティーに形式上だけでもうちが関わってますからある程度のお願いをすることは難しくない、という形にしたいってところでしょうかね」
トップパーティーが自由に色々行動している訳ではなく、こちらからの命令ではないけどお願いの形で行動をある程度左右させることが出来る。そういう繋がりがあって私もその一部分なんだ、という見かけ上の繋ぎが必要だと思っているんでしょう。
「大体そんな感じだね。実際に君たちパーティーからもたらされた情報やそっちからダンジョンマスターへと伝えてくれた情報、会談、そして新しいダンジョン。どれも君らが関わってくれたおかげで改善や理解への一歩、いや二歩も三歩も進んだことになる。改めて直接お礼を言おう。ありがとう」
「せっかくですし、ここは一応進捗報告でもしておいておいたほうがいいんですかね? それとも今後の学習のために文章として提出したほうがいいんですか? 」
これはもう面接試験が始まっているようなものだと考えておいたほうがいいでしょうねえ。だとするなら行政能力を問われる部分もありますし、正式な報告として残すには文章として回答を回す必要が出て来るでしょう。そういう受け答えをしておくほうがポイントが高いはずです。
「そうだね、いずれは書面で提出してもらうことになるだろうね。まあ今日のところはまだいいよ。で、進捗のほうはどうなんだい? 」
真中長官はそういうと、ボイスレコーダーを取り出し電源を入れる。口頭報告の形でもちゃんと証拠が残るように、ということだろう。安心して報告をすることが出来る。
「小西ダンジョンは六十層まで完成していることは確認されました。六十一層への階段をまだ下りたことが無いので中がどうなっているかまでは解りませんが、おそらく六十四層までは出来ているものと推察されます。他のダンジョンでどうなっているかまでは把握していませんが、おそらく現状の探索範囲としては六十層はかなり深いところまで潜り込めていると考えます。それと、六十層のボスですが、おそらくリッチ……と呼ばれる部類のモンスターであると思います。私はモンスターの知識とかそういうものにあまり見識が無いので洋一さん、安村の言い分をそのまま正しいと言えるなら、モンスターはそういうものであったと言えます」
「リッチか、なるほどね。召喚術とか使ってきたわけ? 」
リッチ、と言われて一発で頭に想像が浮かんだらしく、前のめりになる真中長官。おそらく長官の中のファンタジー熱を大いに盛り上げたに違いないですね。
「確かに召喚術の使い手ではありました。スケルトンネクロマンサーを召喚して、更にスケルトンネクロマンサーがスケルトンを召喚する、という召喚の二段構えで戦いにくるのが戦闘パターンの一つでした」
「一つでした、ということは他にもいろいろ攻撃してきた訳だね。他にはどんな攻撃をしてきたんだい? 」
「そうですね、【火魔法】と【水魔法】の弾を連射してきましたね。避けられないほどの数ではありませんでしたが、初期状態でダメージを受けるとかなりの被害になると予想されたので全て避けて対応しました」
「その初期状態ってのは何だい、何段階か戦闘形態が変わるフェーズでもあったってことかな? 」
真中長官が更に前のめりになり、早く続きを、とせがむ。この人も割としょうがない人ですね。
「まず、リッチは以前ギルドに提出して鑑定待ちの状態になっている指輪を何本も装着していました。あの指輪は安村が推察するところの、何らかの耐性を自分に持たせるための装備であるとそこで認識することが出来ました。なので、リッチの手首を外して手を奪い取って指輪を外してはその辺に放り投げることでどんどんと物理魔法両方についてダメージ量を上げる、つまり耐性を弱化することが出来ました」
事前に聞いてしまったことはこの際伏せておいて、ボス戦でそれに気づいた、ということにしておいたほうがいいだろう。とっさの判断でそれが出来るパーティーであると自分たちを売り込むにも都合がいいはずです。
「ふむ、そういうギミック付きのボスというのは初めてだね。それで、手を奪って指輪を全部外して……よく簡単に手首を外せたね」
「一応祖父に武術を習ってはいましたので。掴まれた時や掴んだ相手の手首を外してその間に逃げる、という稽古を受けていたのが役に立った感じですね。それで、両手首を外して全部の指輪を取り外すと攻撃が効くようになり、また手に持っていた杖を奪うことでリッチの弾幕の威力も下がることが解りました。おそらく杖自身が魔法強化のような触媒であったと思われます」
「で、最後はスキル攻撃を集中させて倒した、という所かな? 」
「そうなります。ドロップ品は大きな青い魔結晶、これは価格改定まで価値不明とのことなので手持ちへ。そして、さっき言っていた指輪が一つ、そしてリッチの装備していたマントが一つ、以上になります。リポップスケジュールまでは解りませんが、ここまでの流れから考えますと倒した日から三週間か四週間ほどかかるんじゃないかと見込んでいます、以上ボス討伐の流れでした」
ここで一旦言葉を区切ります。ボス退治の報告としてはここまでです。これ以降はまた別の話題に移りそうですからね。
「おおよそ分かった、ご苦労様。もしかしたら世界初の六十層ボス討伐かもしれないからね。無事に怪我無く帰還してきてくれて何よりだよ。それで、指輪のほうだけどもうしばらく分析に時間がかかることを許してほしい。実際の効果は解ったとしても、どのくらいの性能を持っているのかまで調べる必要があるし、ものがものだ。政府のお歴々の方々が護身用に私も欲しいと言い出しかねない。金を出せば自動的に身を守ってくれる夢のような、しかも取り外しや受け渡しが出来るともなればかなりの価値を有すると言える。ここはしっかり性能を把握して、その上で価格を決めたい。そこは了承してもらいたい」
「そこは気長に待つと安村も言っていました。その間に精々数を落として後で現金化するなり自分で使いまわすなり、有効活用したいと思いますので」
「この指輪はどのぐらいの頻度でドロップする物なんだい? ドロップ率によってはすべての探索者に配って回るぐらいの価値はあるとは思うのだけれど」
ドロップ率かー。詳しいことは洋一さんに一任しているので今度しっかりと情報共有して、ただくっついてるだけの相棒ではないということを実感しておく必要も有りますね。
「体感で申し訳ないのですが、実際に探索する時間ベースですと七時間で一個出るかどうかぐらいの割合になります。なのでかなりのレアドロップであることは間違いないですね」
「なかなか難しい所だね。でも逆に言えば人気の出る場所にもなりそうだ。今後に期待と言いたいところだが、他のダンジョンでそこまで作ってもらってあるかは別問題なんだろうね」
「人気の出る場所……ということは、人が入り浸れるようにB+ランクを拡充する流れが少しずつ来ている、ということなんでしょうか」
「まだ概要が定まってない所だし決定事項でもないが、その流れは確かに来ている。判断材料としてはやはりギルド税と、一定の戦力をみとめたパーティー……ここから先はパーティー限定という形になるが、たとえばエルダートレントの討伐の証明を条件として徐々に増やしていって様子を見る、という形にしたいね。そうしないとワイバーン素材をはじめとしたB+ランクの探索場所の資源を採取できないし、ダンジョンマスターとしても人が増えないのは面白くないだろうしね」
B+ランクの拡充か。次の探索で洋一さんと情報共有しておくことが増えましたね。ちゃんと頭の中のメモに残しておきましょう。
「さて、ご報告も済みましたし、私の官庁訪問もこれまでとさせていただきますが……今お薦めの東京土産って何ですかね? 」
「安村さん向けの、かな? だったら酒のつまみよりも甘いもののほうがいいだろうから、東京駅の構内で探すと良いと思うよ。甘いのもさっぱりしたのもくどいのも一通りそろってるはずだ」
「参考にします。では、書類仕事頑張ってください。本日はありがとうございました」
「うん、また何かしら重大報告があれば小西ダンジョンからいつものビデオ通話でね。たまには君が主導権を握って報告をするのも、今後の練習だからとして安村さんを説得しておくのも有りだと思うね」
最後にチクッと釘を刺される。今後はダンジョン庁の人間になるのだからパーティーよりもこっちを優先して報連相を欠かさないように今の内から練習しておきなさいということだろう。
今度こそダンジョン庁の建物から出る。さて、真中長官のおすすめどおり、東京駅構内で何か探しますか。何がいいですかねえ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。