1008:官庁訪問 2/3
ダンジョンで潮干狩りを
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side:文月芽生、ダンジョン庁にて
「なるほど……まだ見通しが甘いということか。このケースにおいて有効的な対策とか部隊の強化案としてはどういうものがあるだろうか」
話はそのままディスカッションの形に持ち込まれた。お題は、新設する予定のダンジョン庁直轄探索部隊について、だ。一次試験合格者の中からいくつか考えられるという意見が飛び出す。
「まず考えられるのは、初め一年は新設しただけの成果を考えることをせず、ひたすら潜らせて経験と実績を積ませることです。既に探索者である者も含めてパーティーを組んでいくことになるでしょうから、そのパーティー間の連携やお互いの考えの違いや進捗をそろえて同じ階層で同じように攻略していく。その過程で得られる資源やドロップ品については、国が全て所有権を持つのか、それともパーティーで分割する現在の探索者制度をそのまま活用し、半ば副業みたいな形での資産形成を行っていけるようにするのか。そのあたりがあやふやですと来期どころか今期の人員募集にも影響するでしょう。ダンジョンに潜るだけ潜らされて利益は全部ダンジョン庁が持っていって国家公務員としてもらえる給料だけが収入、では正直に言って誰も寄り付きはしないと思います。そこをどうすり合わせていくか、どのような形で国家としてダンジョン事業に参入していくのか。ここを主軸にしておくのは大事でしょう」
「ダンジョンの成果物については同じく一番大事な所だと思います。えっと、国家公務員収入としてそれらのダンジョンでのドロップ品が成果給としてボーナスや昇級基準として認められるのか、それとも完全に別個の仕事をしていく上での給与として毎回振り込まれていくのか、それとも全てダンジョン庁が確保する形で査定物はダンジョン庁が預かって支給は何もないのか。また、実際に現場に潜る人間と事務方として後方支援にあたる職員との収入差がかなり出る可能性があります。私の知る範囲ですと……」
皆が口々に給与面での仕事の内容について揃って議題として挙げている。たしかに、汗をかいて働いて大体命がけで拾ってきたドロップ品の成果が全てダンジョン庁が吸い上げて、一般給料と同じではやりがいが無い、と感じているんだろう。文月は自分らしい視点で何か糸口を見つけられないだろうかと少し考えつつ、他の一次試験合格者の顔色をチェックし始めた。
収入の面で意見がヒートアップしているのは、おそらく探索者としてダンジョンに潜り込んでいくことを希望している側の人間だろう。でなければ自分の懐を気にする必要は無いからだ。文月としては事務方に回るほうの意見も聞いてみたいところではあった。
自分は最前線に配属される、多分安村と今後も一緒に潜っていく形で配備されていくであろう。だから、このあわただしいダンジョン庁の中に今存在する空白ともいえるこのスペースに居続ける可能性は低いと考えていたからだ。
合格、内定するならばここに居着く可能性はゼロに近い。ならば自分とは関係ない人の意見というものもきっちり吸い上げて、一歩離れた位置からの視点として物事を見ることに心がけた。
「あえてこういう言い方をしますが、後方担当をするという視点から物事を見ますと、収入の面で差がつくのはある程度仕方がないものなのかな、とも思います。ただ人事院から探索者部隊の収入についてある一定の金額を上回った際に勧告を受ける可能性はあると考えたほうがいいと思います。ダンジョンに潜って副業をしているのと変わらないじゃないか、と言われた際にどのように受け答えをしていくのか、そこがポイントなんじゃないかなと考えます」
たしかに、言う通りではある。国家公務員は原則副業が禁止されている。そのダンジョンに潜っていくというのが仕事であっても、その成果物について利益を受け取るのが副業に当たるかどうかは大事な視点だろう。
「なるほどね……君はどう思う? 」
文月が真中長官から直接質問を受ける番になった。さて、どう答えたものかと思い浮かんだのがダンジョン作戦群だ。その点について確認してみることが最善手なのではないか、と考える。
「現在公的部隊としてダンジョンに潜り込んでいるダンジョン作戦群ではどのようにしているのでしょうか。彼らが潜っただけの収入をそのまま自分の懐に入れているのか、それともある程度差っ引いた金額を収入として受け取っているのか。それとも、全額が防衛省の収入としてカウントされているのか。そこに倣ってみるのが良いかと思います。が、もしダンジョン作戦群よりも自分の身内……この場合ダンジョン庁ですね、ダンジョン庁の直轄部隊にいい思いさせたいし今後は探索についても主導権を握れるように頑張っていきたいとなれば、収入については人事院を説得して一般探索者と同じようにギルドでの査定を受けられるようにするのが良いと思います。それに」
一旦ここで言葉を切る。
「それに、ダンジョン庁部隊だと銘打って潜るのも大事ですが、一般に向けてのアピールとして民間ダンジョンにも潜るようにフレキシブルに対応できた方がいいかと思います。官専用になっているダンジョンとしては、開店休業状態のダンジョンもいくつか見受けられるようですし、そこに対して民間に開放するという視点も含めていくらかの対応をする必要があるでしょう。ただし、官専門ダンジョンでは潜っている人数の少なさからくるスキルオーブを自分たちの物としてドロップできる可能性が大いに埋もれています。スキルオーブを誰が覚えるのかはまた別の話として、スキルオーブ狙いとしていくらかの探索に赴きつつ、どのダンジョンでは最下層が何層まで用意されているのか、というのを確認する必要も出てくると思います。今のところ思いつく範囲だと私からは以上ですね」
「ダンジョン作戦群を参考にするんですか。防衛省がどういう線引きをしているのかは気になりますね。でも、彼らが金持ちになって散財して回ってるという話も聞かないので、もしかすると探索者分としての収入は無いのかもしれません」
他の一次試験合格者から若干否定的だが、意見としてはアリなんじゃないかという話が出される。
真中はそれぞれの意見を聞きつつ、さて、どうしたもんかと考えている。個人的には収入はそのまま探索者分の収入として充てさせたいという思いはある。それによって探索者志望の国家公務員を増やして全ダンジョンに探索者を潜り込ませるということにしたいのだ。
いずれは官専用のダンジョンもごく一部を除いては民間にも広く開放し、すべてのダンジョンで探索活動が活発に行われればいいなあと考えている。その為の第一歩としてダンジョン庁の部隊運用を考えている。
ダンジョン庁が出来た当初からこの案はあったが、現状は防衛省から人手を借りてダンジョン作戦群として潜り込ませていることによりたびたび否定されてきた案であり、今回申請が通ったことでここで目いっぱい人員を獲得してダンジョンに送り出したいと考えている。その為のいわば釣り餌としての探索者報酬は用意しておかなければならないだろうなとも思っている。
人事院という巨大組織に対し、いかにして言い訳をするのか、また説得に応じさせることが出来るのか。文月には大盤振る舞いをして、お金貰いながら探索者収入も得られて国家権力が後ろ盾になる便利なものにならない? と誘いをかけてしまっている以上、ここはしっかりと土台を作ってあげなくてはならない。
「これはあくまで予定だが、今国会で探索者を個人事業主として認めるという改正案が通る見込みだ。だとすると、探索者は個人事業主になるのでこれは国家公務員の副業規定に引っかかってしまう。それについて人事院をどう説得させるか、というのがネックになると思うんだよね。それについてはどう説明をするべきか聞きたいね。上手いこと乗せられる案があればそれを昇華させる形で人事院を説得しようと思うんだけど」
真中が具体的なディスカッション案を示す。しばし考える時間が与えられた後、文月が口を開く。
「実働部隊は実質本業として探索者をやるわけですから、副業には当たらない、その収入も探索者をやっていくうえで装備や備品その他色々の費用を自分で捻出する必要がある以上、副業ではなく本業収入として計算していく、という路線で膨らませていくのがいいんじゃないでしょうか。もちろん、ドロップ品はすべてギルドに卸して企業間取引の場に出さないことが前提になります。出す場合は完全に副業だと見込んでしまっていいと思います。あくまで全ドロップ品をギルドに卸すという点をしっかりと強調しておくのが大事だと思います」
「探索者がいくらぐらい儲かるか、というデータが手元にあるわけではないので一概には言えないのですが……本業である国家公務員としての給与を超える範囲でなければいいとか、そういう形から徐々に始めて膨らませていくことも有りではないでしょうか。深く潜るなら深く潜るだけの装備も必要になるでしょうし、ダンジョン内のエレベーターを使用するにも燃料費がかかるとの話ですから、それを自腹で毎回補填していくというのは厳しい話だと思います。ここはダンジョン庁が全てを支給できる体制が整うまでは探索者収入で各自補ってもらいたい……という表向きの理由でそのままずるずるとなし崩し的に認めさせるという手はいかがでしょうか」
それぞれが思い思いの意見を述べる。どうやら、探索者収入について自分のものにせず全額ダンジョン庁に寄付の形で渡すべきである、という意見の者はこの中には居ないようだ。
「事実上の黙認として探索者収入を認めさせるわけか。ギルドで全額査定を受ける以上、収入についてはダンジョン庁でいくら稼いでいるか追いかけることもできるし、データとして全て残される以上脱税もできない。その路線はアリだねえ」
真中も若い意見や、自分も考えたがいまいち押しの一手が見つからなかった案について色々と思いついたところも有り中々に有用な話が出来ているな、と思っている。さすがに第一次試験を突破してきただけの能力はあるし、ある程度情報も仕入れてきているな、とも考えている。
今年こそ、あの忙しい日々から多少おさらばできるかもしれない。彼ら以外については真中自身が担当して官庁訪問を行ったわけではないが、そちらからも良い反応があるとの報告は受けている。今年は期待できそうだ。
「……なので、探索者収入の面は問題とされるまでそのまま触らずに、言い方が悪いですがポケットにしまい込んだままでいいのではないでしょうか。表面に上がってきた段階で何かしらの対応をするという形でこちらから自主的に仕事をしていることにする間にのらりくらりとかわす、というのでどうでしょう」
ここでの話も棚上げしておいて考えないことにして、実働部隊は稼げるだけ稼いでもらった方が社会的貢献としては上なのではないか、ということらしい。
「中々参考になる意見が多かった。この辺りでディスカッションを終了しようか。これは今結論を出してこうする、と決めるための話ではない。君らの視点として探索者が稼いでいることにどう考えているのか、ということについて把握をさせてもらった、というところだ。もちろんいくつかの意見は参考にさせてもらう。今日は私も中々勉強になる意見が多かった。ここらで一旦締めとさせてもらおうと思う。今日は来てくれてありがとう」
真中が場を締める。全員がお世話になりました、と頭を下げて礼を言い、帰ろうとする。すると、真中が少しだけ呼び止める。
「あぁ、文月君はちょっとばかし残ってくれるかな。探索の件で少し話がしたくてね」
「はい、私ですか? 今日は相棒が居ないんですがそれでもいいんですかね」
「構わんよ。別に深い話をしようというわけじゃない、世間話の延長戦みたいなものさ。こうして顔を合わせて話す機会はそうないだろうからね。せっかくだし少しおじさんとお話ししよう」
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