1005:Bランクになれたよ
ダンジョンで潮干狩りを
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「やすむらこんにちはなの」
「こんにちはリーン。そう言えば君はまだ仕事も無くフリーの身だったな。久しぶりだから忘れていたよ」
元ダンジョンマスターで唯一自分本位にあっちへこっちへうろうろしている存在である。そういえばリーンは新しいダンジョン作らないのかな。せっかくの機会だし聞いておくか。
「リーンは新しいダンジョンは作らないのか? 」
「ガンテツのおじさんがいってたの。いろいろデータがあつまってからつくりはじめてもおそくはないって。いまはいろんなはなしをきいたりつたえたりしにあちこちのダンジョンをふらついてるさいちゅうなの」
なるほど、各所のダンジョンの伝令役をしているということになるのか。確かにそれはリーンにしかできないことだな。
「それは大事なことだな。お菓子あるけど食べるか? 」
「いただくことにするの」
ミントタブレットの爽やかさの薄い、あまり刺激の来ない奴を渡してみる。リーンは一粒取り出して口に入れて、ビクッとした後かみ砕いて返答を一つ。
「スキッとさわやかなの。これでこのなつをさきどりできるきがするの」
「そうか、気に入ったならそれ全部食べていいよ」
「だいじにするの」
リーンの餌付けに成功した。ミルコと違い消費量が少なくて済むらしい。ミルコにも見習ってほしいものだ。
「で、今日は何しに来たんだ? 」
「ガンテツからでんごんなの。『何とかうまくいきそうじゃからしばらく様子見じゃ。そっちから用事が有ったら酒を片手に会いに来い』だそうなの」
ガンテツの声真似をしているが、あの渋めの落ち着いたオッサンボイスを出そうとしても出るような形をしていない。口調だけ丁寧にまねされたそれは、子供がテレビ番組の名台詞を復唱するようで中々にほほえましい光景だった。
「解ったよ。もし暇になったら、だな。リーンはこの後はどこかに行く予定はあるのか? 」
「いまのところへんじはほりゅうというところなの。もしよばれるようなことがあったらそっちへいくの。だからいまのわたしはふりーなの」
特にやることは無いらしい。ここに来たのはお互い暇そうなので、というところだろう。
「言っておくが俺はフリーじゃないぞ。ちゃんとお仕事してるぞ」
「しってるの。みんなおまえをみているぞなの。おしごとまいかいごくろうさまなの」
言い方はアレだがちゃんと仕事をしていることは伝わっているようで何よりだ。あと少し早かったら無水カレーを一緒に食べる所だったんだが、タイミングがうまいこと合わなかったようだ。
そのままリーンに相槌を打ちつつクロスワードを解いていると良い時間になった。
「じゃあ、俺はお仕事の続きをしてくるから、リーンもがんばれよ」
「やすむらもがんばれよなの。またなの」
リーンは結局ミントタブレットを追加でもう一つ貰うと帰っていった。真に自由とはああいう感じのことを言うんだろうか。そういう意味ではまだまだダンジョンの奴隷という印象がぬぐえない俺だが、それはそれでいい。
世の中のためにあえて奴隷の身分に身を落とすぐらいの気持ちで物事に打ち込むほうが余計なことばかり考えて仕事に熱中しすぎない、いいかんじの時間経過とその間の成果物を手にすることが出来る。さて、午後もいっちょ五十一層で頑張りますか。
もしかしたらだが、また【毒耐性】がでて結衣さん達に渡す流れになるかもしれない。ミルコも見ていることだし、もしかしたらこのマップではしばらく【毒耐性】しか出ないように調整をかけてくれているかもしれない。
そうだとしたらうれしいんだが、それを口に出すときっとミルコに漏れ聞こえてキャンセルされる可能性がある。頭の中まではさすがに覗けないだろうし、これは俺の心の中の考えだけにとどめておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
時間はあっという間に過ぎ帰り道。たくさん稼げた、と言い切れるかどうかは解らないが、毎日潜ってるだけの収入を確実に得られたのは確か。エレベーター燃料には少々多すぎる魔結晶だが、無くなってエレベーターが動かせなくなることに比べれば数千倍マシ。無駄な燃料だが惜しみなく使っていこう。
そろそろエレベーター代をケチる人のために、魔結晶の両替をしてそれで細々と儲ける探索者でも出てこないものか。他のダンジョンには意外と居るかもしれないな。バトルゴート辺りの魔結晶なら一粒の重さで七層分と解りやすく計算できるため、他の魔結晶の重さと燃料費が解ってさえいれば天秤棒一つで商売が成り立つ。手数料は十%ってところかな。
深く潜りすぎている我々には恩恵があまりないのは確か。もしかしたら見かけてないだけでもう居るのかもしれないな。商売の種はいろんなところに転がっているということだろう。
今日も七層へ立ち寄ってから帰る。茂君して往復して帰ってくると、いつもの目隠しテントの前に田中君がいる。なんぞ用事でもあるんだろうか。
「田中君、どうしたのこんなところで」
「あ、帰ってきた。見てください安村さん、僕もようやくBランクですよ」
探索者証をバーンと見せてくる。確かにホログラムの入ったBランクの探索者証だ、昔俺も持ってた。
「おめでとう。これで二十二層以降、もっと言えば二十九層でケルピー肉集めが出来るね」
「そうなんですよ。今ケルピー肉が疲れも取れて栄養も取れる健康食品みたいな立ち位置でにわかに人気になり始めてるそうで、僕はともかくとして会社のほうでも多めに集めてきて欲しいという指示が出てまして」
そんな事になっているのか。やはり業界人の知り合いは居ると参考になるな。
「前からお世話になってるパーティーと一緒に行くような形になりそうなのかい? もし違うならブックマークだけ……つまりエレベーターだけでも使えるようにとりあえず二十八層までたどり着けると良いけど」
「そうですね。彼らの都合にもよりますが一度お願いしようと思っているところです。一日だけ時間を潰させるような形になるのでうまく受けてくれるかどうかまでは解りませんが。安村さんは最近どうですか、順調ですか」
順調かどうかと言われれば順調そのものなんだろうな。潜りたいときに潜って成果を上げて帰ってきている。深部探索もだいぶあたりがついている。これ以上を望むなら二人そろって時間が空いた時が必要だが、これ以上深くに潜るとなるとさすがに価格査定を待って保管庫の中の荷物を一旦査定にかけて、それから潜るべきなんだろう。
「まあ、色々障害みたいなものはあるけど順調かな。今日もしっかりこの通りだし」
「安村さん、一人でこれだけ稼いで帰ってきますからね。まだ見たことない色の魔結晶持ち帰ってきてますし」
「一応、自分たちで潜って持って帰ってきたドロップ品をギルドに提出して、これにはどのくらいの値打ちがあるものなのかを判断してもらうこともあるから、深い階層ならすぐ金になるって訳でもないんだよね。査定開始待ちで下層に置き去りにしっぱなしのドロップ品が結構あるんだ。田中君この後の予定は? 俺はもう地上に戻っちゃうけど」
「地上に戻って査定受けて、残りを家に持って帰って今日はゆっくりしようかなと。風呂にも入りたいですし。ちょうど細かい魔結晶を燃料に使いたかったので僕が払いますね」
田中君も一旦一層に戻るそうなので、狭くはなるし彼持ちの燃料費になるが、たまにはお言葉に甘えよう。田中君が自分の角を仕掛けて燃料をドサドサと細かいのを放り投げていき、最後に微調整して一層へのボタンを点灯させる。
「で、実際の所いくらぐらい稼げてるんですか。 僕にぐらいこっそり教えてくれてもいいでしょう? 誰にも言いませんから参考までに自分のダンジョンのトッププレイヤーの収入という奴を知っておきたいところです」
「別に教えても良いが……広めるのは無し、後必要以上に引くのも無しだ。その上で田中君の心の内に仕舞っておいてくれるなら今日の分だけは教える。あまり広められると探索の邪魔になるような話しか舞い込まないだろうし、他の探索者に漏れてB+ランクだけずるい! なんて話に広がると誰も得しない未来が待っている。あくまできっちり仕事してスキル鍛えて地道に努力した結果だからな」
念のため、溜めの時間を作っておく。言い広められると余計なものがくっついてくるだろうしそれが原因でB+ランクの開放を待ち望む声が大きくなっていたずらに物事を進行させて怪我人が増えるような事態にはなってほしくない。
「解りました。僕の心の中にちょっとだけ引っ掛ける程度にしておきます。で、どんな懐具合ですか? 」
「しょうがないな。査定にかけるまで正確な金額は解らないが大体……このぐらい」
田中君が驚いて後ろに下がり、エレベーターの壁にぶつかる。文字通り桁が違ったので余計に、ということだろう。
「聞かなかったほうが良かったか? 」
「そうですね……そうかもしれません。でも目標としては解りやすくていいですね。B+になって一人で深い階層を探索できるようになればそのぐらいの金額を目指せるとなればやる気も上がるってもんです。Aランク探索者には成れなくてもB+ランク探索者としてある程度稼げるようになって、それなりに資産を築ければそれを元手に何かしらやるって方法もありますしね」
「ちゃんと考えてるんだな。そんなわけで、小西ダンジョンでも奥深くまで潜って一人でなんとかできる力量があればこのぐらいは稼げるって目標にはなったか。後はそうだな。どうやって荷物の搬出や搬入、持ち歩きをうまく工夫するかが大事ってところかな。流石にそこは商売のタネだから教えることは出来ないが」
保管庫を使わずに荷物を持ち歩いたまま同じペース同じ仕掛けでモンスターと対峙できるかどうかと言われればかなり難しい。田中君も保管庫については知らない側の人間なので、その大きいメリットを享受しているのだから同じだけ稼ごうと思ったら自分のキャンプへの荷物を置きに行くという経済的ではない移動時間が発生する。それをいかにして少なくしていくかが問題になるだろう。
新熊本第二ダンジョンならスロープ式の緩やかな階段を利用することでリヤカーごと移動しながら荷物を運ぶことが出来るのでその点では改善されていると言える。
「うん、おかげでやる気が出ましたよ。このまま探索者続けていつ体や精神に不調をきたしても良いように無理せず頑張りたいと思います」
「無理せずってのが一番大事かな。田中君が今いくら稼いでるかは解らないが、ランクなりに充分な稼ぎは得られているようだしそれは一つ安心しても良いところかな? 」
「そうですね、ランクなりにってところは間違いないと思います。とてもじゃないですけど追いつける予感はしないんですが、スキルを拾うなりなんなりでカバーできたらいいなとは思ってます」
ということは田中君は未だスキル無しか。スキル無しで単身探索者でBランクってそれ自体がかなりレベルの高い仕事をしているように感じてしまうんだが、そういう視点で見ると田中君はかなりの実力者じゃないだろうか。
彼はダンジョンに関しては俺よりもいくらか先にダンジョンに潜り始めて七層で悠々と拠点を構えて住み込んでいたぐらいの人物である。それだけの経験と実績の溜めこみはかなりの質と量であると言えるんじゃないか。
エレベーターが到着し、田中君が先に降りる。
「それじゃ、またダンジョンで。今日は良い話が聞けました」
「内緒だからなー」
最後の念押しをしておくと自分もリヤカーを引いてダンジョンを出て退ダン手続き。査定カウンターにドロップ品を持ち込んで査定のお時間だ。今日もたっぷり稼いだので成果は期待できる。
五分ほど待って査定が終わり金額が出てくる。今日のおちんぎん、一億千七百六十万三千円。大体予想通りの金額が出て来た。田中君に教えた金額よりはちょっと多めになったが、大きく外れてはいないし、何より彼にとって大事なのは一番上の桁だろうから細かいことは良いだろう。
さて今日の仕事も終わったな、といつもの冷えた水の所に行き、冷水を一気にのみ、体内温度を一気に冷やす。これで今日のお仕事完了、という自分への刷り込みだ。
ここから先はプライベートタイム。夕食を何にするか考えつつバス停へ向かう。そうだな、汗をかくことになるが中華もありか。久しぶりに爺さんのところで……今度は何を食べようか。食べたことないものを注文しよう。今年の小目標に中華屋のメニューを制覇する、というものもあったような覚えがある。早速行くか。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。