1004:日課を忘れずに
ダンジョンで潮干狩りを
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カレーをいつも通り短時間調理で一気に作り上げた。たまには良いかと思って無水カレーに挑戦してみる。加水しない分いつもより粘度の高いカレーが出来上がった。これは洗い物が大変になるのかどうか微妙な所かもな、というのが食べる前の感想として立ち上ってくる。
初めて作る無水カレー。味見をしてみたが濃厚な野菜のエキスがカレーに溶け込んでいてとても味わい深い。濃厚な分ダンジョンでは喉が渇きそうなのでもしかすると似合わないかもしれないが、たまにはいいだろう。飲み物の在庫は充分だ。
いつも通り米を炊いた炊飯器ごと保管庫に放り込むと食器が揃っているのを確認した上で今日の調理終了。夕食は別で何か作るか、適当に帰り道に思いついたものを作る、または購入することにする。
流石に日帰りが確定している一人ダンジョンで夕食もまとめて作るというのは手間が大きい。サンドイッチでも良い日ならその限りではないがカレーが食べれるなら午後まで頑張れるだろうし、最悪カロリーバーでごまかすという手もある。手抜きをする時は手抜きにするのだ。
さあ、いつも通りに仕事にいこう。体力は今のところ十分、気力は昨日結衣さんに分けてもらった。まずはいつものからだ。
柄、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。嗜好品は昨日買い物に行ったついでに補充したが「さすがにこれは甘やかしすぎじゃない? もうちょっと量が少なくても良いと思うわ」と結衣さんが呆れていたっけか。でもまあ二回に分けて渡せばいいことだ。
たまに渡すこと自体を忘れることもあるので、その分普段から多めに入っていると解釈しておこう。今日は多分忘れずに渡せるはず。渡すまでに何か出来事が有ったらその限りではないがまあイベントも何も起こらなければ素直に五十層に下りた段階で問題ないとは思っている。
ただ、最近時々物忘れが始まりつつはあるので今こうして考えていることも電車やバスに揺られてる間に頭の外に置き忘れてしまう可能性は考慮に入れておかなければな。こればかりはメモに書いてあったからといって確実性が増す訳ではない。覚悟はしておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつも通りの通勤経路でいつも通りの時間である午前九時前にダンジョン到着。ミルコにおやつを上げるのはまだ忘れていない。短期記憶はまだ大丈夫らしい。四十一やそこらで認知に問題が発生しだしたというわけではないらしい。
若年性認知症っていくつぐらいから発症するもんなんだろう。ちょっと戻ったら調べてみて、あてはまる項目が無いかチェックだな。まあ、無事にダンジョンから帰ってくることが出来るならただちに問題は無い、ということでもあるが。
入ダン手続きを済ませいつも通りリヤカーを引いてダンジョン入口すぐそばのエレベーターに乗ってまずは七層へ。七層まで一緒に行く人がいたのでついでに乗せてあげる。費用は俺もち。すると、不思議そうにして話しかけてくる。
「七層でリヤカー使うほど一杯狩りするんですか? 」
「いえ、六層のダーククロウを掃除するのが日課になってますので七層で下りるのは途中下車みたいなものです。本来はもっと奥へ潜ってますので」
「そうなんですね。追いつけるように頑張らないといけませんね」
気合を入れて両手を握っている。フンスと鼻から気合を入れる姿はなんかかわいらしいイメージすら持つことが出来る。七層で下りるということは鬼殺しにはなっているはずなので、七層から十五層まで下りながら狩りをするスタイルなんだろうな。
七層に到着して先に降りてもらってからのリヤカーごと七層に到着。まずは六層茂君だ。いつもの手順でランニングしながら向かってくるワイルドボアを殲滅しつつ、茂君に向かう。今日も良い茂りっぷりを見せつけてくれている。とりあえず今日明日朝晩四回収穫できれば一回分納品できる分が溜まることになる。
布団づくりも中々忙しそうだからな。原料の供給はそれだけに死活問題なのだろう。まだまだ暑い日が続くので布団を打ち直したり買い直したり、混ぜ物入りでも良いからダーククロウの羽根で布団が作りたい、という人たちの願いをかなえるためにも朝晩の茂君は欠かすことが出来ないな。
まだまだ俺の腕前にかかっているということだ。うれしいことじゃないか。さっくりと投網で茂君を狩り取り切ると、周りを確認して範囲収納。今日も羽根と魔結晶のみが収穫できた。偶に注意しておかないと、キュアポーションが混じったり運が良ければスキルオーブも紛れ込む可能性がある。
こいつからスキルオーブは二つも供出してくれた。有り難いことなので毎回お参りに来てしまうのは仕方がないことなんだろうな。
七層に戻ると再びリヤカーを中に引きこんで今度は四十九層。時間的に……五十層で午前中を終わらせて一旦四十九層に戻って、それから五十一層で狩り、という時間指定で良いだろう。今日のカレーはとろみを通り越したドロドロのカレーだ。しっかり具材の味わいが引き出せていることは味見の時点で解っている。
今から食うのが楽しみだが、あまり早く食べ過ぎても帰りにお腹が空くからな。急がず焦らず参ることにしよう。
四十九層に着くまでの暇な時間およそ三十分、クロスワードに費やす。何か内職に当たるようなものがあればそれをするところだが、今のところそういうものはない。
茂君が範囲収納ではなく手摘みで、しかもゴミが混じるようならそのごみを取り除く作業、みたいなものも発生するんだろうが、このダンジョンはそういう風には出来ていないので安心安全に保管庫に仕舞っておけるのは便利の極みである。
クロスワードを解いて三十分、中途半端な出来高のところでエレベーターが四十九層に到着したのでリヤカーも降ろしてエレベーターの脇に設置。すぐさま机を出して机の上に今日のお供え物を取り出して、パンパン、と手を二拍。瞬時に消えるお供え物。これは、待ってましたという奴だろうな。
さて、まずは準備運動の五十層だ。机をしまって早速階段から五十層へ。かなり通いなれてきたこの五十層。大体どっちに向かって歩いていってどっちを向けばどのくらいのモンスターが出てくるか把握しつつある。
カニうま島のダッシュもいいが、こっちの方が金になるのは確かだ。本気のカニうまダッシュだとトントンぐらいだが、ドロップ品を考えると今は五十層周辺で色々と集めるほうがいい気がする。
カニは食ったらおしまいだが、シャドウバタフライの鱗粉から作られる甘味は、まず鱗粉を取り扱う企業、使って製品を作る企業、そしてその甘味を使ったスイーツを食べる人、と社会的な循環回数が多い分社会貢献が出来ているような気がする。
もしかしたら気のせいかもしれないが、今自分が納得できる階層と納得できるドロップで生活を回していけることは精神的な部分から見ても気持ちがいい。
そういう観点から見れば、間に企業を挟まずに直接布団屋に卸している部分についてはその分社会を回していないことになるが、まぁこっちは趣味なので、ということで自分を納得させておく。
よそ事を考える余裕があるほどほらこの通り、と、自分の歩いてきた後ろには何も残っていない。モンスターは索敵範囲外から攻撃をしてくることは無いし、二匹三匹がワンセットとしてエンカウントしてくれるのでまとめて雷撃で吹き飛ばして終わり、という味気も見せ場も無いような戦いが繰り広げられている。
単純作業もここまで来ると飽きが来そうなものだが、一つ倒しては金のため、二つ倒しては社会のため、三つ倒してはダンジョンの目的のため、と順番に倒しながらでもいけるようになっている。
出会った当初はかなり素早く対応に苦慮をしていたシャドウバイパーも今では十分に動きを読んで適切な場所、適切な威力で雷撃を浴びせたり、雷撃で対応しきれなかった場合は雷切で倒せるようになった。
甘ったるくなる鱗粉そのものの毒性は【毒耐性】で、体についた甘ったるい香りは【生活魔法】でそれぞれ除去が出来る体になってしまった。スキルも数があればいいわけじゃない、と思ったこともあったが、あればあるだけ効果はそれなりにあるということをこの階層まで下りてきて痛感するところである。
◇◆◇◆◇◆◇
シャドウバタフライの鱗粉が十ほどあつまったところで戻るにはいい時間になったので、四十九層に一旦帰る。戻ったところで体の皮膚や髪の毛の間等細かいところと、服全体にウォッシュ。二回のウォッシュで綺麗にするぐらいにはできるようになった。
体から離れていく黒い粒子が綺麗になったことを証明してくれる。生活魔法も極めればモンスターの浄化とかそういう形でダメージを与えることもできるようになるのだろうか。簡単な火や水を出すことも可能なので、多重化して威力を底上げすれば色々使える便利スキルとして成長する可能性は確かにある。
それはそれで見ものだな。生活魔法で何処まで戦えるか試してみた! みたいなお題で検証している探索者は居るだろうか。気が向いたら調べてみよう。
さて、まずは腹ごしらえと行こう。カレーだカレー。日本人のほとんどが大好きカレーのお時間だ。今日のカレーの具材はジャガイモにトマトに人参によく炒めたタマネギに加えてウルフ肉の薄め切り。完全に薄切りにしたり切り落としにするまでの技術はまだ無いので割と肉ゴロゴロ系にはなってしまっているが、それでも水を加えず軽めに煮込んだ無水カレーだ。
無水なぶんだけ煮込む時間が短く、具材に火が通っているかの調整が少し難しいが、きちんと火が通っているのは確認したし味のほうもちゃんと確認したから、食べて腹を下すようなことは無いだろう。
炊飯器からご飯を深皿によそい、鍋からカレーをドロッと振りかける。意図的に混ぜていかないとカレーとご飯が中々絡み合わないので、早速カレーとご飯の軍事境界線での戦線の膠着が始まったが、両者の混戦しそうな中から一掬いスプーンで持ち上げて口の中に運ぶ。
ピリッとした辛さは無いが奥深さみたいなものはある。きっと加水しない分だけ分散しなかった味わいが今口の中で広がっている。カレーの深みとご飯の甘味がちょうどいい塩梅で絡み合い、そして具材の確かな食感が舌を弾ませる。
珍しく入れたトマトの酸味がいい具合にカレーの美味しさにアクセントをつけてくれている。ピーマンやナスを入れて夏野菜カレーとしても良かったぐらいだな。夏もこれからだし、もう一回か二回作って芽生さんにも感想を聞いてみたいところだ。
ドロドロだがカレーの味はしっかりと封じ込められているし、それでいて水分が程よく抜けたカレーはやはり喉が少し渇く。出来立てそのままとはいえない熱さとそこそこで辛さは無く、だが濃ゆいカレー。喉が渇く条件は十分にそろっているのだ。
ダンジョンの中とは言え水分不足の症状を受けながら探索をするのはちょっと大変。なのでここはきちんと水分を取っておこう。
全てを平らげることは無しにして、胃袋の状態を程よくしておくことにした。このレシピはローテーションに加えても良いぐらいの出来だった。家に帰ったらローテーションメモに夏野菜無水カレーとして登録しておこう。また美味しいレシピが一品増えた。
腹ごなしの休憩にまたクロスワードを始める。クロスワード専門雑誌というのもなかなか楽しいな。テーマが有ってそれに沿ったワードばかりをはめ込んでいくものや、特に属性を含んでいないいろんな言葉をあちこちから引っ張ってきたものなどもある。
その内漢字クロスワードにもチャレンジしてみよう。他にも数字だけを入れる奴なんかもあったはずだ。こういう頭の体操を日々こなしていくことで老化防止にも対応していこう。
今日は誰も居ないことが解っている孤独なダンジョン。結衣さん達は私用、つまり実質仕事休みであり、芽生さんは本業。高橋さん達は潜っているとしても下の五十七層から六十層あたりをうろうろしているはず。なので今日はここには俺以外誰も来ないことが確定している。
「ひまそうなの」
俺以外は誰も居ないことが確定している……
「それ、おもしろいの? 」
この子がいたな。
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