1002:スキルオーブの合法的裏取引
ダンジョンで潮干狩りを
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ギルマスルームの中に入ると、ギルマスの机の上にはそれなりに書類や回覧板みたいなものが積まれている。ギルマス的にはこれで散らかってるほうに入るらしい。そうなると、机の上に何も乗っていないのが普段通りということになるのだろう。
机の上をある程度片付けて、見られても良いものはそのまま、見られてはまずいものはしまい込むなり積みあげた書類の下側にするなり一通りの書類整理をし終わった後、ギルマスがこっちを向く。
「で、今日は集団で何のご用? まさか、揃ってダンジョン探索を休憩するとかそういうのじゃないよね」
「さすがにそういうのではないですね。単純にギルドの力を借りたいのと、ちょっと借りたい部分について融通を利かせてくれたらいいな、という相談です」
「です」
「とりあえず詳細を聞こうか。今日は朝一から忙しいことだね」
ギルマスに【毒耐性】のスキルオーブが出たのでそれを新浜パーティーに有償で販売して渡したいということ、それから金銭面で贈与や売り上げなど税金周りの処理が面倒くさいことになりそうなのでギルド取引の形でやり取りを進めたいこと、ギルド取引を使う場合譲渡相手を指定して取引が出来るかどうかを確認したかったこと、主にこの三点について質問をする。
「なるほど、内容は解った。結論から言えば可能だ。ギルド取引を通してくれる分だけギルド税収入が入る形になるし、目の前にお互いの取引相手がいるなら色んな所へ電話をかけたり取引の場所や日時を打ち合わせする時間が省略できる。個人的にはどんどんやって欲しいところではある。ただし」
ここでギルマスが一旦言葉を区切る。何か大事なことがあるのだろうか。
「ただし、金額は相場を大きく離れた金額ではない、ということが条件かな。近場でそこそこの値段だったんでうまく売却の相談がまとまりました、というアリバイを成立させるためでもあるし、特定の探索者に対するえこひいきや探索者同士の平等さを保証する為でもある。そこはいいかな? 」
結衣さん達と目線を合わせるとお互いに頷く。探索・オブ・ザ・イヤーのスキルオーブ取引金額欄を出す。
「これを参考にして値段を決めようと思います。どうやって調べているのかどうかは解りませんが、結構参考の金額にはなるとは思いますので」
「なるほどね。どれどれ、試しにギルド取引の情報と照合してみよう。もしぴたり合ってるようなら内部情報の漏洩の可能性もあるからね。それを確認する意味でも数種類確認させてもらっても良いかな? 」
ギルマスが急に真面目顔になり、俺から探索・オブ・ザ・イヤーを奪い取ると、パソコンでカタカタと何かを入力し始めて誌面と交互に確認してはふむ……とかほう……とか言い始めた。
しばらくしてこちらに向き直り、真面目な顔を崩さぬまま話を再開する。
「大体雑誌面の相場とギルド内取引の相場、合ってるね。これは情報漏洩の疑いもある。ちょっと今度の会議で情報漏洩がされていないかどうか確かめる必要があるかもしれないな」
ほぼ正確な内容だったらしい。ギルドとしてはギルド取引を使用した際の探索者のオファー金額は一応内部情報であることに違いはないらしいので、それを漏らすことで収入を得ているようなギルド職員が居たらそれなりの処分が下される可能性があるという話らしい。
「で、今から取引するスキルオーブはどれでいくらで彼女たちに売りつけるつもりなんだい? 」
真面目顔が元のやんわりした顔に戻ると、いつもの調子に戻ってきた。
「まず、スキルオーブがこれです」
ギルマスにスキルオーブを渡す。スキルオーブを確認し「ノー」と言って手を離す。
「なるほど、【毒耐性】か。君らの間でやり取りをするってことは、【毒耐性】スキルを持っていないと突破が困難なマップが存在してるって認識で良いのかな」
「それで問題ないです。具体的には五十層から五十二層の間なんですが、常に毒をまき散らしてるモンスターがいまして。その毒を浴び続けると徐々に全身の動きがマヒしはじめてくるので、一定時間ごとにキュアポーションを摂取しながら探索をする必要が出てきます。それに対応する策としての一つが【毒耐性】の獲得になります。二十二層から二十四層の間でもドロップする可能性は高いのですが、今から我々がそこまで浅い階層でスキルオーブ集めに走ったり、解毒用のキュアポーションを集めに行くというのも過剰戦力になりますし、他のBランク探索者の探索を阻害するような結果になりうるので、できれば今メインで探索している階層で数を出して通り抜けられるようにさせてあげたいんですよね」
一気に説明をする。
「ちなみに【毒耐性】スキル取得の副産物として二日酔いしにくくなるというか、酒にも強くなりますね。意図的に薬を飲んだ場合その薬が毒として認識されるかどうかまではちょっと解りませんが、少なくとも健康診断を受けた時の下剤はきちんと毒ではなく薬として機能してくれたようなので、使い勝手がいいスキルだと考えて良いと思います」
「そういえば安村さんは酒が飲めないんだったね。それが飲めるようになったってことかい? 」
「酔えなくなったとも言いますが、気持ちよくはなれるので中々に好感触のスキルではあります。その為にこの金額を支払うか? というところまでは個人の自由ですが」
「大体わかった。で、いくらで取引するんだい? 」
具体的な取引内容に入る。価格は三千万から四千万というところ。なら、お互いが納得できるように中間点での取引ということにすれば紛れ込ませることもできるだろう。
「三千五百万円で行こうかと思います。この金額なら怪しまれることも無く、紛れ込ませやすく、安過ぎず高すぎず良い取引だと見せつけることが出来ると思います。結衣さん達もそれでいいかな? 」
「私は譲ってもらうほうなので問題ないですね。移動したりする手間を考えたら四千万でも良かったぐらいなんですが、せっかく予定より安く譲ってくれるというのならその金額を飲もうと思います」
「よし、じゃあ取引だ。お互い何のスキルをやり取りするかはもうわかってるだろうからいつもの形式的なやり取りは省略させてもらうよ。まず、ギルドのほうに振り込みを頼むよ。それが終わったらスキルを覚えてもらって、その後で安村さんの口座にギルド税を引いた金額を振り込む。それでいいかな」
ギルマスのパソコンでそのままやり取り。結衣さん達の各自の振り込みが終わった後でスキルオーブを渡す。どうやら覚えるのは平田さんらしい。たしかにどのモンスターにも一番近くで接触することになるし、優先度は高いと判断したらしい。
「イエスですわ」
平田さんにスキルオーブが沈み込み、四角い発光体が生まれる。しばらくして光りが収まった後、俺の口座を指定してギルド税を引いた金額、三千百五十万円が振り込まれることになった。
「これで終わりかな、お疲れ様。おかげでこの短い時間で中々の売り上げを上げることが出来たよ」
「こっちも良いスキルの取引が出来ましたありがとう安村さん」
それぞれにお礼を言われる。しかし、これでスキルオーブを拾ったのは何個目になるのかな。狩場を独り占めしてかなりの数を倒しているとはいえ、中々のドロップ回数なんじゃないだろうか。
「これでまた一つ小西ダンジョンのパーティーが強化された、と思っていいのかな。そうであれば私も誇らしいことになるが」
「直接的に強くなる、とは言い難いところですが、パーティーとして持久力が上がったのは確かですし、例の甘味料の需要が高まってきたとなれば定期的に仕入れてギルドに納める必要も出てくると思います。その時にキュアポーションを片手に持ちながら探索するよりは格段に荷物が減ることになりますからね」
「行動の自由のためのってところかな。何にせよ無事に取引が出来て何よりだよ。みんなお疲れ様。私は仕事がまだまだあるからこの辺にしてもらっても良いかな。また何かスキルオーブのやり取りが有ったら私の力の及ぶ範囲でなら何とかなると思うからまた言ってね」
「そうそうポンポン出るものでもないはずなんですけどね。他の階層に居る探索者については解りませんが、最近はそれなりにギルド取引で現金化する探索者も少なくないのではないですか? 」
「まあ、そこそこってところだね。それにほとんどの探索者は清州ダンジョンで取引を行っちゃうからこっちの手間はそんなにないかな」
なるほど、やはり取引の中心地は大きいダンジョンになるか。基本的には俺の時と同じってことだな。小西ダンジョンでもその内会議室や応接室が頻繁にスキルオーブの取引場所として機能していくこともあるんだろうか。未来に期待しよう。
「それじゃ、お疲れ様でした。今日はご協力ありがとうございました」
「昨晩はお疲れ様。ゆっくり休んでね」
ギルマスに丁寧にお礼を言って部屋を出る。
「これで一仕事終えた感がでましたな」
平田さんが呑気な一言を漏らす。
「そうですね、これでシャドウバタフライに近接して殴り倒しても安全、ということになります」
「ただ、甘ったるうなるのはどうしようもないところなんですけどな」
「それには【生活魔法】がまた必要になるでしょうね。頑張ってみてください、もしかしたら【毒耐性】の代わりに落ちる可能性だってあります」
生活魔法のほうが必須になるってところもあるんだったな。自分たちは直前になって覚えていたから障害にはならなかった。結衣さん達がどうやって乗り切っていくか、ギルド内に甘いにおいを残していくかどうかは彼らの問題だ、自分で解決法を見つけてもらおう。俺が居る際は俺がウォッシュかけるようにはしようかな。
「じゃ、ここで私たちは解散するわね。安村さんはどうするの、帰るの? 」
結衣さんから話を振られる。今日はスキルオーブを購入したものの、それを超える範囲で収入にはなったようだ。あまり金使ったなあという顔をしていない所を見ると中々に稼いで帰ってきたらしいぞ、ということがわかる。
「今からは暇……暇と言い切れるほどではないけど自由時間ではある。今日もしっかり働いたし、寝なおすほど眠たくもないから今から何しようってところだね」
「じゃあ私が送っていってそっちの家で過ごす、とかでもあり? 」
結衣さんから実質デートのお誘いだ。せっかくだし受けておこうかな。
「それでも全然かまわない。何するとか決まってないし、適当にダラダラしようか」
「じゃあ決まりね。たまにはお昼も私が作りましょう」
夜勤明けにもかかわらず色々とやる気に満ち溢れてきたようだ。若い気力を感じるな。
「お任せするのも悪くない。ついでに買い物にも寄って俺に食べさせたいものを選んでもらう方式にしようかな。今特にこれが食べたいと強く念じるようなものは無いんだ」
「そうね……スーパーで買い物している間に色々考えることにするわ」
「これで退勤がずいぶん楽になったな。バスと電車を乗り換えなくても済むようになった。もし何か食べたいものが出てきたらその時はリクエストすることにする」
「じゃ、お二人さん。我々はここで退散することにするよ」
多村さんが気をきかせて二人きりにしてくれた。さて、とりあえず移動しながら次を考えていきますかね。俺は今何が食いたいんだ。そして結衣さんと何がしたいか。眠気は仮眠でバッチリ飛んだし疲れもそんなに残ってない。
こっちがスーツで結衣さんが私服なのでちょっと合わないかもしれないが、ツナギにヘルメットでいるよりは随分マシだろう。このまま何処かへ遊びに行くということもできる。まだ朝早いのでやれることは色々ある。
「ひとまずはスーパーへ寄ってから安村さんの家に行く、ということでいいのかしら」
「それで。まだ朝一なら混んでないだろうしゆっくり買い物できると思うよ」
駐車場まで行くと、結衣さんの車の助手席に乗り込み早速出発する。この時間に開いてるスーパーは……まだ無いが、到着するころに開店するとするならいつものあそこぐらいか。
「我が家の近所になるけど、いつもの行きつけのスーパーならこの時間でも開いてるみたいだ。流石に早すぎたかな」
「まーしょうがないわね。急ぎでもないしゆっくり行きましょ」
ゆっくりと車が出発し、自宅方向へ向かっていく。さあ、何を作ってもらえるのかな。楽しみにしながら運転を阻害しない程度に会話を交わしつつ、最近の進捗の様子や探索の話をしながら自宅方面へ向かっていった。
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