1001:有償譲渡相談
ダンジョンで潮干狩りを
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流石にちょっと疲れたので一旦四十九層に戻った。戻ってすぐに全身に二回ウォッシュ、甘い匂いと鱗粉を落としておく。身綺麗にするのも探索者の仕事のうち。いくらきつめの探索を行ってきたからと言って匂いを存分にまき散らしたまま地上に帰って、バスや電車の中までその匂いを漂わせながら帰るのはちょっとマナーが足りない。
テントに戻ると、真っ先にノートへ向かう。ノートに今日の日付と階層、出たスキルオーブの種類と出したモンスターを記録。これで次回の探索向けの準備がまた一つ終わったことになる。もしも自分たち以外の探索者がここを訪れることになったとしてもこの情報は役に立つことになるだろう。
書き込みを済ませてから結衣さんのテントへ。どうやら仮眠の最中らしく、静かな寝息が聞こえて来た。起こさないようにメモを解りやすい所に貼り付け、スキルオーブの事で相談があります、起きたらこっちを起こしに来てと書き記しておく。結衣さんなら多分気づいてくれるだろう。
やることはやった。後は仮眠を取って朝食を食べて、それでいい具合の時間になるはずだ。その後地上に戻って取引と今日の成果の査定を行ってもらおう。
疲れを取るためにいつものダーククロウ枕で仮眠。途中で起こされてもこいつの威力ならそこそこ寝ぼけずに良い感じに目がバチッと覚めてくれるはずだ。期待してるぞ。
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アラームが鳴る。どうやら結衣さんは起こしてくれなかったようだ。期待してたんだが、どうやらこっちが目覚めるのを待っているという選択をしたらしい。ほんのりとだが、料理をしている音が聞こえる。多分早めの朝ごはん、といったところだろう。
寝汗を軽く拭くとテントから出る。少し離れた結衣さん達のテント前では、食事の配給を待つ探索者が四人。どうやら今日の朝食は一人ワンプレートのような形らしい。順番に並んでは食べていく形式のようだ。
「おはよう。起こしてくれてよかったのに」
一生懸命料理をしている結衣さんにちょっと拗ねた感じで話しかける。
「おはよう。私たちもさっき起きたところだからあんまり変わらなかったと思うわよ」
「おはようさんです。なんでもスキルオーブが出たから相談がしたいと聞きましたが」
一足先に自分の食事を受け取った平田さんが声をかけてきた。今日の朝食はそばめしがメインらしい。炭水化物多めなのはこれからも一稼ぎするからなのか、それとも手軽さを優先したものなのか。
「えぇ、そうなんですよ。とりあえず俺も自分の朝飯作るんで、お互い食事が終わってからゆっくり話をしましょうか。おれも腹が減ってきましたし」
机を出してコンロを出して、火をつけて調理開始。まずは目玉焼きを弱火から温めつつ、片面が焼けるまでの間にトマトとキャベツを刻んで付け合わせのサラダに。目玉焼きの片面が焼けたらひっくり返して表も焼く。肉は……肉はいいか。目玉焼きが焼けたらサラダに乗せて、マヨネーズを一振りかけ。
コンロの余熱でトーストを二枚焼いて良い感じにカリカリ感が出たところでいつもの朝食の出来上がりだ。
「なんでも入ってますなあ」
「入っているものだけですよ。さすがに卵を割らずにここまで持ち運べるのは保管庫のおかげですが」
椅子を出して座り、優雅な朝食の始まりだ。夏にもかかわらずひんやりして冷暖房が要らない空間での食事。少々ほの暗いのが引っかかるが、気になるならハンディランタンでも買ってきて飾っておけばそれっぽさの演出は出来るだろう。
サクサクのトーストにバターを塗り、ザリッザリッという音をたてながらパンに美味しさが広がっていく。そしてそのトーストにサラダを挟んで一気に口の中へ。マヨネーズとバターの風味が良く効いて美味しい。
今日の目玉焼きは両面きっちりと焼いたので、黄身を潰しても中身が出てくることは無い。これもダンジョン内ではできるだけ汚れるような食事をしないように済むためと思ってのことだ。もう一枚のトーストは最後にとっておいて、切り刻んだサラダを食べていく。ダンジョン内で食べる野菜はそれなりに貴重。みずみずしさを保ったまま持ってきてもその日の内に食べてしまう必要がある。
ただ、この階層ぐらい涼しい所ならそのまま放置しておいてもいいかもしれないな。卵に関しても同様だ。冷蔵庫ほど肌寒いとはいかないものの、冷暗所といえなくもない。
良い感じにサラダで胃袋を膨らませてトーストを最後に胃袋に入れて食事終了。ご馳走様でした。
結衣さん達の食事と片付けが終わるのを、コーヒーを淹れてゆっくり待つ。スキルオーブは保管庫に入ったままなので焦る必要は無い。後五十日ぐらいゆっくりしてくれてもいいぐらいだ。
結衣さんが自分の分を食べ終えて食器とゴミを片付けてさあ今から自由時間、といった具合になったところで、まず全員にウォッシュ。綺麗に鱗粉の毒と甘いにおいを打ち消したところで、机と椅子に座って相談開始だ。
「まず、五十一層でこれを拾った。確認して欲しい」
スキルオーブを結衣さんに渡す。結衣さんはスキルオーブを手にした後数秒硬直し、「ノー」と言い放ちスキルオーブを机の上に置いた。
「出たのね。おいくら? 」
とりあえずスキルオーブを保管庫に入れずにそのままにしておく。後で確認作業をするであろうギルドに対して、普通の手段で運んできましたよというアリバイをつくっておくためにも、ある程度の時間経過をさせる必要があるからだ。
「話が早くて助かる。ここでやり取りをするのは色々と面倒だし税金周りで面倒くさい不具合が出る恐れがある。なので、地上へ戻って査定を受けるついでに、ギルドを通してそっちに渡すという形にしたいんだけどどうかな? 値段は多分市場価格からして三千万から四千万というところか」
探索・オブ・ザ・イヤーの最新号の相場欄を指さし、この辺が相場だからという意思を示す。
「値切るつもりはないわよ。ただ、その辺をどうするのかをはっきり決めておきたかっただけだから。ギルドを通してやり取りするなら私たちも問題なくお金のやり取りが出来るしね」
「後は、パーティーメンバーの誰が覚えるにしても支出をどうやって管理しているのかを聞きたかったんだ。共同の貯金をあらかじめ設定しておいてそこから出す形になるのか、それとも覚える個人の支出として各自で管理していくのか、相談しないと解らないことが色々あるからね。むしろそこのほうが大事かも」
「だとしたら回答になるけど、それぞれ等分してお互いの銀行口座から引き出す形にしてるわ。だから今回の場合五等分してそれぞれが口座から引き落とされる形になるわね」
腕組みをしながら結衣さんが答える。結衣さんの言葉に頷く一同。どうやら準備も財布も問題ないようだ。
「なら、いつやろうか。早速朝一で査定ついでにという流れでもいいし後日でもいい。保管庫に放り込んでおける都合上限度はあるけど今日明日でやらなきゃいけない、というほどのものでもないからね」
「じゃあ、早速開場時間に合わせて査定ついでにぱっぱとやってしまいましょう。早いに越したことは無いわ。私たちも昨夜の戦果を持って帰らないといけないし」
指さす先には結衣さん達が借りてきたらしいリヤカーが鎮座している。宿泊申請でタイミングが合えば一晩借りておくことも問題ないらしい。
「じゃ、早速……と、まだ早いな。もう少しゆっくりする時間があるか。もうちょっと寝ててよかったかも」
「まあ適当に時間つぶししましょう。たまにはこうやってダンジョンの風景そのものを眺める時間もあっていいわ」
開場時間までしばしの休憩時間となった。時間まで寝なおす者、今日の予想金額を計算して一人頭の収入から今日出費が確定している【毒耐性】を誰から覚え始めるかを考える者、そして今後キュアポーションをどうやって入手しておくか、ランク2で押し通すのかランク1をわざわざ拾いに行くのか等相談する者、あっちのパーティーは色々やっておくことがあるらしく大変そうだ。
俺はと言えば、机の上にクロスワードを広げてゆっくりと一つずつ解いていく。実にゆっくりとした時間が流れたが、時間が経つにつれ段々俺の周りに集まりだして一緒にクロスワードを解き始めた。
一つのクロスワードを完全に埋めきったところで良い時間になったので、それぞれ荷物を抱えながらエレベーターに乗り込む。
「じゃあ、後で地上で会いましょう。金額はその時に安村さんが決めてくれていいわ。相場からはあんまりかけ離れた金額じゃないことを祈ってる」
「朝一でギルマスがいてくれたら相談が早くて済むんだけどね」
「それはギルマスの勤勉さを祈るしかないわね」
結衣さん達を見送った後、次の箱で俺もエレベーターに向かう。エレベーターの中で仕分けをしていつも通りの感じにドロップ品をより分けると一層へのボタンをぽちり。
またしばらく暇な時間が出来てしまった。クロスワードの続きでもするか。
二つほどクロスワードを解いて一層に到着。やはり時間つぶしには中々適しているな。言葉も勉強になるしすこしだけ賢さも上がる。愛読書扱いとして今後一冊分保管庫の中の雑誌を増やしておくことにしよう。
一層に着いてリヤカーを引いて退ダン手続きからの査定。査定カウンターで結衣さん達と再会。流石に時間差があるとはいえ査定する時間の間で被ったか。
結衣さん達の隣のカウンターで査定をお願いする。やはり二ラインあるってのは楽でいいな。その分だけ小西ダンジョンが発展したということでもあるし、頑張った自分の成果だとも言える。俺の払ったギルド税で設備が豪華になったと考えると悪い気は全然しない。
しばらく待って査定結果、昨晩の稼ぎ、一億二千三百三万円。かなり良いほうだ。やはりドロップ品のほぼ全部を査定にかけることが出来るというのは大きい。
支払いカウンターで振り込みを依頼した後、ギルマスの所在を確認する。
「朝一でなんですが、ギルマスってもう来てます? 」
「いますよー、今日は早出勤の日なので朝からなにやら黙々と資料作りしてるはずだと思います」
居るには居るらしい。後は相談の内容によるか。ギルマスがうまいこと誤魔化してくれるか、取引をギルドを通しているから形式上はヨシとしてくれるかだな。
「解りました。ちょっとこれを見てほしいんですが、これをギルド取引にかけたいので」
バッグに出しっぱなしにしておいたスキルオーブを出す。結構ギリギリの時間に出してそのまま持ってきた感じは醸し出せているはずだ。
「スキルオーブの取引ですか。じゃあ確かにギルマス案件ですね。慣れていらっしゃるでしょうし直接ギルマスのほうに伺っていただくとよいと思います」
素直に自分で判断できる範疇ではないので上に丸投げする。その姿勢、グッドだね。結構金の絡む話だし、支払い嬢が席を外す訳にもいかないだろうし、適材適所を目で見ることになった。
結衣さんに事の流れを報告して、しばらく時間つぶししていることを伝えに行く。
「ギルマスのところまで行くことになったから準備できたら呼んで。それまで休憩室で涼んでるから」
「わかった。こっちの準備できたら呼びに行くわね」
最後の取引前にいつもの冷たい水を飲む。今日も一杯稼いだし更にスキルオーブの売却益も入ってくる。今日は今のところ合計すると過去一稼いだことになるな。後はインゴットや魔結晶の売却時にどれだけの金額になるかは解らないが、それまでの稼ぎ金額としてはしばらく俺の中の記録として掲げておこう。
冷たい水が胃袋で滞留しているのを感じ、そしてそれと同時に多少体が火照っているのを感じる。やはり夜勤はそれなりに体に堪えるんだな。出来るだけ夜勤をする時はスノーオウルの羽根を集める時ぐらいにしておくか。出来れば日勤でテンポを崩さないように努めるほうが体のリズムも狂わないだろうし体に無理をさせなくてすむ。
しばらくして結衣さん達が合流したのでまとめて二階へ上がる。通い慣れたギルマスルームへノック三回。
「安村です。新浜パーティーも一緒です。それなりに大事な用事が出来たので来ましたよ」
「どうぞ、入って。多少散らかってるけど」
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