1000:出るときは出る
1000話まできちゃったよ……1000話記念とかは何もないですがいつも通り見ていってやってください。それが二番目の心の栄養になります
自分の食事を終えて少し休憩。新浜パーティーが調理を完了して食事するのを横目にしながらコーヒーを飲みつつ優雅に広告を見る。その広告を横目で見ながら結衣さんの作った肉野菜ビーフンのようなものを口にする平田さんから質問が飛ぶ。
「なんぞ買い物でもしますのん? 」
「そろそろ得物を変えてもいいかもしれないな、と思ってね。何かこうピンとくるものがあればいいんだけど」
「得物ですか……そういえばこの拳もそろそろいい素材の作品が出てくるかもしれませんな。他のダンジョンでもワイバーン素材のドロップが増えてきてええ感じになりそうって話ですわ」
そこまで話が進んでいるならこっちも良い話を引けそうだな。今度ゆっくり考えてみるか。
「防具はこれで良いとして、やっぱり武器にはこだわりたいよね。長さとか重さとか、重心が変わるならそれに合わせて体の動きも変化させなきゃいけなくなるし、切れ味が良すぎてもかえって事故につながるかもしれないし。そういう意味では今の武器から変えたくないんだけど、この先同じ武器で通用するかどうかを考えると何処かのタイミングで変更しないといけないから困りもんだよね」
「そうですなあ。拳みたいに肌に密着するような武器だと、肌触りとか指の曲がり具合とか、細かいところまでチェック入れて、出来るならその辺をうまく加工してもらったりと丁寧にやってもらっとりますからな」
やはりそういう細かいところで違和感が出ると全体的に調子も狂うらしい。特に拳全体を扱う平田さんならなおさらのことだろう。
「もうすぐ価格改定が来ますし、その頃には五十三層から五十六層のドロップ品と、青い魔結晶の査定も始まるからそれでまた一資産築けそうですね。そっちの懐事情はどんな感じです? 」
「さすがに安村さんと比べるとこっちは人数が多い分すくのうはなりますが、立派に探索者として最前線にいる、と言えるだけの分は稼がせてもらってますわ。一流企業に就職することに比べても俄然稼いでますやろなあ」
細かい数字は言いっこなしだが、あっちもちゃんと稼げているようで何よりである。広告のオーダーメイドの金額もそれにつられてかそうではないかは解らないが、はっきりいくらからいくらまで、相談に応じます、と濁している広告も有り、それだけ品質や素材に自信があるのだろうというものを感じ取る。
「さて、そろそろ俺はいきますね。また何かあったらお互い連絡を、ということで」
「いってらっしゃい、ようお気をつけて」
食事後の休憩にと、荷物をエレベーターに乗せて一旦査定に出かけるようだ。ギリギリ時間にはなるが今日の分として細かく査定をしておくのは大事だろう。溜めこんでまとめて査定に、となると査定をする側もお願いする側も時間がかかって良いことはない。
俺も俺の仕事をちゃんとやろう。早速五十層に下りて本日の探索開始だ。早速現れるシャドウバイパーに雷撃を撃ちこみつつ、今日はどんなドロップが保管庫をにぎわせてくれるのか楽しみながらの探索に入る。
そう言えばノートを見てくるのを忘れたな。最近ではどんなスキルオーブがドロップしたのかを見逃した。もしかしたらこの階層ではドロップがもう終わっているかもしれないな。どうせ探索するならスキルオーブのドロップの可能性が高いところで探索を楽しみたいところだ。
ちょっと戻ってノートを確認してくるか。探索初めてすぐに気が付いてよかった。これが五十一層まで潜りこんだ後で実は五十一層では確認できていました、なんてことになっていたらちょっと損した気分になっていただろう。
早速四十九層に戻り、ノートを確認。ノートには……到着しました新浜パーティーの文字以外特に新しい書き込みは無かった。時系列や自分たちが【毒耐性】を拾い集めた時期を逆算し、今ならスキルオーブ拾い放題であることが確認できた。
よし、これで心のこりがなくなった。探索に集中できる。五十層ぐらいなら結衣さん達で回るだろうから、五十一層まで潜りこんで探索することにしよう。そのほうが密度も高いし夜間分の狩りをするにも良い感じの時間を過ごせるのではないか。
再び五十層。そのまま五十一層まで真っ直ぐ進みながらモンスターを狩り、シャドウスライムが単体で来た場合にはきっちりバニラバーの儀式を行っていく。こっちのスライムももう慣れたもんだな。
最初は何処を狙うか多少苦戦したものだが、モンスターの形で核の位置がだいたい決まっているので素早くバニラバーを与えて核のある場所を把握、一気に雷切を突き込むことで確実に倒す方法でドロップ品を得ることができた。
モンスター一匹八十万確定は非常に美味しいからな。ポーションが落ちるほうが遥かに美味しいのは確かだが、なぜかシャドウスライムは今のところポーションをくれるといった行為に及んでくれることはなかった。出すのはシャドウバイパーかシャドウバタフライのどちらかだ。
今となっては片手間で倒せるモンスターにまで降格したので苦戦することはないが、できるならシャドウスライムからも何かポーンと出てくれてもいいなあとは思っている。しかし、モンスター単価から考えれば八十万は充分美味しい部類に入る。
モンスター一体あたりの期待値で計算すると、五十七層以降のモンスターとシャドウスライムのバニラバー狩りが同じぐらいの価値を持ってくれているであろうということが解っている。
査定にかけられない現状としては、確実に全部金に換えることが出来るこの階層のモンスターから比べても三倍ほど単価が変わる。ポーションを落とす確率を計算に入れてもこの金額だ。バニラバーがいかに美味しいかわかるというものだろう。
五十層を歩き抜け五十一層へ。五十一層ならまだソロでもなんとかなる。五十二層のぬるぬるとした連続エンカウントに耐えうるかどうかはまだ行ったことがないので解らないが、とびぬけてモンスターとの遭遇率が高くてかなりの金額が変化する、というほどでもないので気軽に戦闘状態のオンオフができるこの階層のほうが現状戦いやすくはある。
さて、気持ちを新たにしてしっかり稼いで帰るぞ。時間はまだまだ半日以上ある。ここでは休憩を取りながら進むこともできるからダラダラと緩めの仕事をし続けても良いし、時間できっちり区切って戻ることも簡単だ。
とりあえずいつものシャドウバタフライの鱗粉の数を集めることを目標にしていこうかな。シャドウバイパーの牙も武器素材として利用されていくことを考えると大事だが、俺個人としては甘味のほうが気になるお年頃だ。
ダンジョン産甘味を使ったコーラなんかが出回るようになれば、お前のダンジョンのドロップでこんな飲み物ができるようになったぞとミルコに成果物を披露することもできる。少し先の話になるだろうし数量限定商品になる可能性は高いが、そうやって還流していくのも中々面白いだろう。
シャドウバタフライ三匹がフラフラと寄ってきたので極太雷撃数秒照射。あっという間に黒い粒子に還る。極太雷撃も常時使い続けるわけではないが、そこそこきつめの間隔で照射することになっても魔力のほうはあまり気にしなくても良くなってきた。
もしかしたら極太の更に上の技が使えるようになるかもしれないな。今度少し研究してみよう。イメージの力が大切だからな。ただ太くするだけでは芸がない、細くとも極太よりも密度の高い、より高温でより電力的に高負荷なものをイメージして撃つことが大事だろう。
次に来たモンスターに試してみるか。イメージ、イメージ……やっぱり雷なんだから頭の上から降って来るようなイメージだろうか。考えながら歩いているとシャドウスライムがバトルゴートの格好をしながら二匹うごめいているのが見えた。アレを標的にしてみるか。
二匹の頭上に向かって雷雲のイメージを作り出す。そして俺の手先から雷雲を発射させて、頭上から降り注がせるイメージを作り出す。……よし、いける。
雷雲が生み出され、それが素早くモンスターの上まで移動すると、上から容赦ない雷撃の雨を降らせる。当たったシャドウスライムがうごめき、そして黒い粒子に還っていく。
うーん、なんかいまいち火力が出ているのかどうかが解らないな。こいつをそれなりに遠距離にまで飛ばすことが出来れば使いようはあるかもしれないってところか。次に五十七層以降に潜る時に芽生さんの意見を聞いてみよう。もうちょっとマシな形の何かが生み出せるかもしれない。
それと、家に帰ったら放電現象について色々調べてみるか。何か解決の糸口というかイメージの作り方に便利なものが生み出されるかもしれない。メモっておこう。
シャドウスライムのドロップを拾って次へ。ここはどんどん歩くほどモンスターが湧きだしてくるので退屈しないのが何よりもいい。しばらくは稼ぎ場として機能しそうだ。
シャドウバタフライの鱗粉を浴びることで全身が甘くなってもウォッシュで自分を綺麗にすることが出来る。それに加えて【毒耐性】のおかげでほぼデメリット無しに潜り続けることが出来るのが更に輪をかけて大きい。一稼ぎしてしっかり今日の分として、昨日稼げなかった分も稼いで帰ることにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
三時間ほど連続して戦い続けた。今のところ体に不調はない。少し疲れを感じ始めそうな予感がしたので足を止めて水分とカロリーの補給をする。あまり大きく動くような場所ではなく、体力やカロリーより魔力のほうをメインで使ってはいるものの、お腹が空くときは空くんだ。お腹を空かせたままでは戦闘に集中できないしな。
手持ち最後のカロリーゼリーを胃袋に流し込むと、これで後二時間は確実に稼働できることを確認し、次のモンスターへ。シャドウバイパーが果敢にも襲ってきたので雷撃で返り討ちにする。すると、ぽろっとこぼれだした光る玉。
おや、久しぶりのスキルオーブドロップかな? と手にして何のスキルか確認をする。
「【毒耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
毒耐性を拾ってしまったらしい。流石に毒耐性を二重に覚える意味合いは今のところ薄い。シャドウバイパーの毒も効かなくなるという可能性はあるが、その為だけに貴重な【毒耐性】を消耗してしまうのももったいない気がしてきた。
これは、売りつけ先がちょうどあることだしそっちへ回してしまうのが世の中にとって効率がいいだろうな。前に出したスキルオーブは何だったかな。結衣さん達と四十五層で拾ったのを含めないなら久しぶりのスキルオーブドロップになる。とりあえず保管庫へ入れておいて、後で相談しよう。
とりあえずこれを急いで渡しにいってもいいが、その辺の金回りの話はきちんとしておいたほうがいい。取引をするにしてもギルドを通してやり取りをするのが確実だろう。
今日の成果はこのスキルオーブを出してしまっただけでも充分な価格になる。後は流して適当に探索するだけでも十分な利益になるだろう。一つ気が楽になったな。
楽になったからといって急いで戻る必要はない。本来の探索者なら売り渡したい相手との交渉時間は四十八時間以内と決まっているため、五十層や五十一層を急いで歩き回って探し、スキルオーブ出たから朝一で戻って取引して! と申し出る所だろうが、こちらには保管庫がある。
この保管庫のおかげで百日近くになり、取引制限時間をほぼ無視する形で取引が出来る。結衣さん達も夜間探索の最中だろうし、どうせ朝七時まではダンジョンの出入口は封鎖されている。その間ヤキモキさせるのも申し訳ないので、戻るか朝食のタイミングあたりで声をかけることにする。
そこで地上に戻ってスキルオーブの取引しましょうと持ち掛けることで最もスムーズかつお互い無駄のない探索が出来るだろう。時間は大事だ。その間に稼げる金も大事だ。彼らの今日の夜間探索の成果を全て俺が吸い上げる形になるかもしれないが、そこはそれ、みんなが安全にダンジョンに潜って探索を進めやすくするためにも必要な措置ということにしておこう。
そのまま三時間ほど五十一層で探索を続けた。今日の探索時間は移動を含めて八時間ほど行った計算になる。収入は、スキルオーブを含めたらいくらになるだろうか、ちょっと楽しみだな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。