100:八層で潮干狩りを
百話までたどり着けました。皆さんの応援のおかげで頑張れてます。
八層へ戻ると、黒かった。どうやら、八層側の階段にダーククロウが詰まっているらしい。どうやらモンスターは階層をまたいで移動できないらしい。いや、階層間を移動できないのか、もしくは自分の生息範囲からは脱することが出来ない、のどちらかだな。
「さっきの人のトレインですかね。しかしいっぱいひきつれたもんだ」
「トレインはノーマナー行為だったはずですけど」
「だからといってその場で追い回されて死ね、とは言えませんね」
「しかしこれはまた凄いことになってますね」
「ここが境目かな?層をまたいで攻撃ってできるんですかね」
「スライム大量駆除した時はほんの少しだけ安全圏が出来てましたね。試してみますか」
俺は熊手を持ち出すとダーククロウの中の一匹に向かって振り下ろす。空に居れば鬱陶しいものの、地上で詰まってしまえば耐久力がスライム並みのダーククロウは熊手で引っ掻いただけで黒い粒子に返還されて行った。
「やっぱり耐久力はほとんどないですね。これは……熊手の出番かな? 」
俄然やる気が出てきた。熊手を手に持つとなんだか勇気が湧いてくる。ダーククロウも仲間をやられてこっちに気づいたのか、しきりにギャーギャーわめき出した。俺は一歩前に踏み出すとダーククロウを相手に熊手を振り回し始める。
「ドロップの管理任せちゃってもいいですか? 多分百羽ぐらいいるんでひたすら倒そうと思います」
「任されたほうが早く脱出できそうですね。新浜さんが居たらテンション爆上がりでしょうね」
「それは可哀想なことをしたかなっと」
ダーククロウはダメージを与えるだけで黒い粒子に返還されるため、不要に動き回る理由がない。ただその場で立ち尽くして上半身だけの動きで相手をする。
その場に立ちはだかると俺は構えた熊手でひたすらに黒い塊を殴り続ける。
力強く振る必要はない。相手の耐久力はもう把握済みだ。胴体に一発入れるだけでダーククロウは倒れる。ならばこの勝負は俺のものだ。
ダーククロウの命を素早く刈り取りつつ、ちょっとずつ前へ。やがてダーククロウの攻撃範囲に入るが、攻撃してきたものから順番に潮干がる。同時に三体ぐらいならステータスブーストで十分対応できる範囲だ。
ゆっくりに見える世界でこちらにくちばしをつつき出してくる奴を順番に熊手で潮干がる。音ゲーみたいなものか。高校ぐらいの時に散々やったな。
十分もしないうちにダーククロウはみるみる数を減らしていった。と、同時に足元に集まっていく魔結晶と羽根。わざわざ取りに行かなくていいのがとてもうれしい。
だが、羽根が多すぎるとバッグに入りきらない恐れがあるな。出来るだけ魔結晶でドロップしてくれますように。しかし、そんな予想を裏切る様に舞い散り続ける羽根。
羽根が舞い散るって事はそれはドロップ品という事なので、羽根は結構出てしまっている。帰りの荷物が大変なことになるな。
十分たった。ダーククロウは残り二、三匹にまで減った。ここまで減らせばもう安心だろう。
「後は脱出するだけですね……どうしました? 」
「その動きの速さ、何かのスキルですか? 」
「いえ、特にそういうスキルは持ってないですが 」
「なんだか人類を超越した動きのように見えました。動画でも取っておけば良かったですね」
「その時は出演料を要求しますよ」
「新浜リーダーなら喜んで出しそうですね」
「違いないですね。さ、行きますか」
全滅させたダーククロウは魔結晶を三十個ほどと羽根を……いったいどれだけ落としたんだ?バッグがもう一杯に近いぞ。
「狩りすぎたかなぁ」
「こんな短時間で狩りする人は初めて見たなぁ。正直ちょっと引くぐらいで」
「早ければ早いほど消耗が少なくて済みますし、一方的な虐殺ですから楽なもんです。とりあえず羽根はこっちで預かりますよ。なんとかバッグに入りそうですし」
「魔結晶はこっちで預かりましょう。私のカバンには若干の余裕があるので」
「キャンプに戻ったら全部ぶちまけて相談しましょう」
「そうしましょう」
そういうことになった。
八層の階段付近のダーククロウを全部処分してしまったのか、木に止まってるダーククロウは見当たらなかった。リポップまでまだ時間があるはずだ。
「しかし、ダーククロウを潮干狩りするとは思わなかった。さすが安村さんだ」
「カラス相手でも潮干狩りって言うんですかねぇ」
「熊手使ったらなんでも潮干狩りでOKなのでは」
「そういう事にしておきましょう」
九層側から数えて三本の木に留まるダーククロウはほぼ居なかった。多分それだけの数が層の境界線に居たことになるな。さっきの行為は立派なトレイン行為だが、まぁそれ以上に美味しい思いをさせてもらったので黙っておくことにしよう。
八層はさっきの人が走り抜けた後だからか、木に止まっていたダーククロウも少ない。空を旋回しているダーククロウがその分増えている。
「通り抜けづらいなぁこれ。かといって走り抜けて追いかけられるのも困るし……うーん」
「しばらく留まってから進みます? それとも強行軍で七層まで戻ります? 」
「強行軍でもなんとかなりそうだけど、トレインになっちゃうと不味いからねぇ」
多村さんと二人、少し考えこむ。そして二人して同時に言い放つ。
「「ま、行けば解りますか」」
細かいことは気にしないことにした。来たら来たで対処。来ないなら来ないで放置。堂々と真ん中を歩いていく事にした。恐れて行動しないことも選択肢にはあったが、どうせ帰らなきゃいけない道だ。
だったら、来る奴を仕留めるだけだ。射程の都合でグラディウスを使うが、力を入れる必要はない。撫でてやるだけでKOだ。
上空から急降下してくるダーククロウが居る。軌道を読んでそこにグラディウスを置く。多村さんも同様に、軌道を読んで自らの武器を置きはじめた。
「自分から殴られに来るというのは新鮮なモンスターですね」
「なるほど、こういうのも中々オツなものですな」
「後は自動でドロップを拾ってくれればこの上ないですね」
「さすがにそこまでh……ワイルドボア二、三時方向」
パラパラとくるダーククロウと横から突っ込んでくるワイルドボアを往なす。ワイルドボアは九層のほうが戦いやすかったなぁ。突進してこない分後ろや上を取りやすくて楽だった。
やはり戦闘は面倒がなく楽なほうがいい。突進してくるワイルドボアを垂直方向に回避する。ジャイアントアントの噛みつきは同様の突進をしてくるが、奴はもうちょっと粘り強くこっちに迫ってきてたかな。体長が長い分そう見えたのかもしれない。
今見直してみれば、ワイルドボアの突進回避は結構余裕があるな。そして相手の上スレスレに避けた後、刃を突き立てる余裕もある。ジャイアントアントより柔らかいその滑らかなワイルドボアの背中は素直に刃を受け入れていく。
ワイルドボアは刃に沿って切り裂かれていく、無事黒い粒子に変わった。
「ワイルドボアに完全に慣れてますね」
「まぁ、数はそれなりに倒しましたからパターン化が上手くできてます」
実際の所、ワイルドボアと戦う際は上を飛び越えるか横に飛びのくか、真正面から受け止めるかの三種類しかない。真正面から受け止めるのは楽だが時々腰に来るので、疲れてなければ上か真横、どちらかに飛ぶのがいい。
突進してくるギリギリを躱す選択肢もあるっちゃあるが、牙が大きい雄の場合引っ掛ける可能性があるので、ワイルドボアと戦う時はよく注視するべきだ。オスかメスかを。
「上空からダーククロウ三」
「追加でフン二」
「畜生やられた! 」
多村さんはフンを食らったらしい。物理的ダメージは無いが精神的ダメージは結構でかい。なにせフンを綺麗にするにも水が必要だ。七層で補給するまでは我慢してもらおう。フンを投下した憎むべきダーククロウは旋回しながら我々をあざ笑い、そのまま逃げ去っていった。
「せめて止めをさしてやりたかったが逃げたんじゃそうもいきませんね」
「これはあれかな、さっきの仲間の恨みかな」
「そこまで仲間意識はなさそうですから単なるおふざけでしょう。カラスは賢いですから」
「義憤に駆られるより適当に遊んで帰るだけか。無駄に知能があるな」
「その分、耐久力が無い」
「さっさと七層へ戻りましょう。早く綺麗にしてしまいたい」
多村さんのストレスによるDOTダメージが増加し続けている。爆発する前に七層に退避だなこれは。我々は急ぎ足で帰路に就く。
その後も定期的にフンの投下があったが、その一発以外食らうことはなく無事に七層への階段へ達することが出来た。
「多村さんのおかげで九層の様子を大体つかめましたよ。ドロップもたんまり」
「それは何よりです。こっちも手伝った甲斐がありました」
八層に上がったところのボーナスタイムが無ければもっとドロップは少なかっただろう。その点はあの探索者に感謝かな。
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