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三話。

「あらあらまあまぁ……ちゃんとある」


 と、教室に付くなり私の場所に机と椅子があり私は少し驚いて目を見開く。しかもイジメの鉄板でもある花瓶や落書き等は一切ない綺麗な状態で。

 それでもまぁ、教室に入った途端に騒がしいクラスメイトの声が止んで代わりに視線が集まりましたが。


「……おや?」


 バッグから担任に渡す資料と残りの授業で使う教材を机の上に置き、バッグをロッカーに入れようとしたら何故か私の名前が書かれた磁石が真後ろのロッカーに張られていて元々のロッカーには別のクラスメイトの名前が貼ってあった。ちなみにロッカーの鍵は破壊されたままで落書きも中途半端に消されている状態。


「――ふむ」


 新しいロッカーにバッグを入れた後に鍵を閉め、代わりに前のロッカーの鍵を壊れた鍵穴に差しておく。本当は差す前に新しい持ち主に一言伝えて置きたかったのだが、当の女子生徒が凄い睨んでいたので鍵を見せつけるだけで止めておいた。決して遠くに居たので声を張るのが面倒だった訳ではない。


 ――? なんか見覚えがある女子生徒だったような? って、クラスメイトなんだから当たり前か。


「はーい! 授業を始まるから全員席に……つ……い、てぇ……」


「あ」


 授業開始1分前に担任が教室に現れたが私を見つけるなりあからさまに言葉が濁ったが、私は特に気にする事なく担任に渡す用の書類を持ってそれを渡す。


「……あらあらまあまぁ、ここに置いておきますね?」


 が、担任は固まったまま書類を受け取ろうとはせず、幽霊を前にする人の様な顔で私を見る。そして上げた腕が疲れる前に教卓に書類を置いた所で担任の口が開かれた。


「なっ、なんっで」


「?」


 ふむ。幽霊を見る様な目で見るって事は死んだと思ってたのかな? 確かに意識が無い時はいつ死んでもおかしくないってお父さんや四季先生が言ってたけども……。


「なんで……とはぁ?」


 考えても分からずとりあえず質問を質問で返す。そしたら――、


「ン”ッ――」


 担任は中腰になって片手を教卓に、もう片方を自身の口元に押し当てる。まるで今にも吐きそうなポーズに思わず酒豪の麻紗姉さんが初めてゲロゲロに酔っぱらって表れた日を思い出し、つい笑みが零れるとそれが合図となって担任は熱湯に放り込まれたカエルのように飛び上がって教室から出て行った。


「あらあらまあまぁ……先生も二日酔いだったのかな?」


 ホストクラブで飲んでいたと想定して飲まされ過ぎたのかな? 二流ホストはまず客を酔わせて肉体関係を持つのが仕事だって淳兄さん言ってましたし。


 ――ぬ? もしや二日酔いではなく悪阻か? と、席に戻る頃にはそんな憶測に内心盛り上がっていた。


「梨ッ――!!」


「ん? ……あぁ、あらあらまあまぁ」


 席に戻るなり担任が出て行った扉から大声が発せられる。なんだと振り返ってみればそこにはドラマでしか見た事がないヒステリー女みたいな表層の島之南帆が立っていた。


 島之南帆は一直線に私の元まで走ってきては走りのスピード感が活かされた平手打ちが私の頬に炸裂する。


「――」


 頬を伝う熱が籠った鈍い痛み。特に何も感じない軽い痛み――私は無言でゆっくりと彼女と向かい合う。


「アンタのせいでお兄ちゃんがっ、海お兄ちゃんがッ――!?」


 と、目に涙を溜めて訴える島之南帆。続きを言いたそうにしているが感情に飲まれ過ぎて言葉に詰まっているご様子に内心の盛り上がりが継続する。


「今すぐッ! 今すぐ警察に行ってお兄ちゃんの無実を証明してッ!!」


「……」


「そもそもなんでアンタが被害者なのよッ!? お兄ちゃんの目を抉り取った癖にッ! 倒れてるお兄ちゃんを踏みつけてた癖にッ!! その上で笑ってた癖にッ」


「……」


「全部ッ、全部全部全部ッ!? アンタのせいで……アンタなんかのせいでッ――」


「……」


「なんとか言えよ悪魔ァ! ――犯罪者、殺人鬼ッ!?」


「……」


 怒涛の暴言ラッシュに言葉を失った――訳ではない。素直に面倒くさかった。そもそも人を完全な悪だと思っている奴に何を言い聞かせても無駄。それにたった今思い出したがこの女とついでの姫島瑞乃もまた奈々氏景隆と同様に私の行動を制御してきた人間だ。正直あの転校生によって解放された身としてはもう関わりたくない。


 このまま無言でいたら飽きてくれるだろうか? 


「ッ、なんとか言えって――!?」


「そこまでだ」


 と、振り上げられた島之南帆の手が何者かに掴まれて静止。島之南帆と同様に視線を移すとそこには制服を纏っているのに些か同じ高校生には見えない顔つきと雰囲気を纏った大柄な男が立っていた。

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