四話。
「……」
「……」
無言。向かい合う形で座りはしたものの沈黙が続く。奈々氏と呼ばれた彼は私を知っている風だったが、生憎と私の記憶にはいない。感情の残滓すらもない。それなのに彼は私に対し、どこぞの地下室で尋問を受けていた氷結の巨人のように苛まれていらっしゃった。
「――……ひ、柊……どうして梨を……なん、でっ……」
長い沈黙に耐えかねようやく言葉を吐き出す。ただ今にも過呼吸を引き起こしそうな感じです。
「必要だと思ってね? それも一番に。この世の誰よりも」
「っ!? ……ぁ…………」
反射的に何かを訴えようと顔を上げたものの、視界に私が入ったのか喉まで来ていただろう言葉が引っ込み、その反動なのか咽るのを我慢するようにうなだれる。
あらあらまあまぁ、これ大丈夫? 急に四つん這いになって罪の告白とかしない??
「――っ、すまない! ごめん!? ごめんなさいッ!?」
「あらあらまあまぁ」
四つん這い――ホントにされちゃった。
運よく店内は店員さんを含めて4人のみ。んでもってその店員さんには予め柊元生徒会長が一報入れていて此方に来る様子はない。
「あっ、あの時の俺はどうかしてたっ。信じるって言ったのに結局は泣く南帆達の事を信じてお前を一方的に悪者だと決めつけてっ……あんな事を……取り返しのつかない事をしたッ。本当にすまないッ!?」
「?」
「でもこれだけは信じて欲しいッ……あの日、お前をあの空き教室に呼び出したのは霧島先輩指示で――た、確かに酷い目にあうだろうとは思った。でも殺すつもりだとは思わなかったんだよッ!!」
「??」
「俺はただ……ただっ……2人を……南帆を――」
「はいストップ。奈々氏君、無駄に熱く言い訳してるところ悪いんだけども……どうやら通じてないようだよ」
「え――?」
顔を上げる奈々氏君。当然、顔を上げた先に居るのは柊元生徒会長の言ったとおりの反応をしている私、六出梨がおります。
「れ、梨……?」
と、恐る恐る私の名前を呼ぶ彼に対し、私は片膝をついて出来るだけ彼との目線を合わせて極々当たり前の疑問を述べます。
「あらあらまあまぁ――……同級……せぇ……クラスメイトの方でしたっけ?」
「ェ――」
絶句――したように彼の顎から力が抜け、3度の呼吸をした後にゆっくりと視線が落ちる。完全に視線が下に落ち、上半身が小さく上下運動する事数回、彼からこんな質問が発せられました。
貴方に、親友か幼馴染と呼べる人はいましたか?
と。
過去形に多少引っ掛かりましたけども、私は「幼馴染はいない。過去形の親友も。――でも古馴染み以上幼馴染未満の親友ならいる」と答えます。
「――……そう、かぁ」
長い沈黙の末に目の前で項垂れる彼はそう言い、ゆっくりと身体を起こして座りなおす。今のやり取りの意図が分からないけども、随分と落ち着いた? ご様子だった。
「嗚呼……さっきの質問。一応、クラスメイトではある。ただ去年の秋頃から学校へは行けてない。それに教室での接点も……結局そんなにだ。だから忘れててもしょうがない。しょうが……なぃ――」
「? そ、そう?」
とりあえず私も座りなおします。なんか殺す云々の結構ヤバ目な事を言ってた気がしますが気にしない事とします。
だって記憶にございませんし、また這いつくばられても困る。それに何故か……うん、なんか気にしないどころか普通に気にならんとです。
「面白可笑しい珍劇場は済んだかい? じゃあ本題へ入ろう。――奈々氏君、例のブツが写った写真は持ってきたかい?」
「あぁ――これだ」
と、柊元生徒会長が用心深く周囲を見回した後、テーブルに電子タバコのような物体が写された写真が置かれた。
「へぇ……これが話にあった違法CBDの”シンフォニー”か」




