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四話。

続きで続きます。

「俺達兄妹は生まれつき心臓と肺に重大な欠陥を抱えていたんだ。例え毎日ちゃんと処方された薬を服用していても予断を許さない程に俺達の心臓と肺は脆く危かった」


「……」


「っ」


 梨の心臓と肺が元は淳さん達のであった事は梨から聞かされて知っていた。でもこうして元々の持ち主である淳さんから話を聞いて言葉を無くす。帯々に至っては俺以上に驚いて絶句していた。


 そんな俺達に四季先生が言う。


「それで梨が中学に上がる前の春休み中にこいつ等は父親の意向で心臓と肺を交換したんだよ。――まぁなんだ? タイミング……よか不運が重なったんだ」


「不運?」


「あぁ。梨が今当たり前に使ってる薬は当時では治験の段階。しかも治験は大詰めって所で新たな問題が発生。しかも死が追い込みをかけるように淳一郎の心臓手術が失敗した」


「!? そのせいで急遽臓器移植が必要になったと」


「そうゆう事。ちなみに肺はともかく心臓の臓器交換。これな? 法律に引っかかる……がまぁここだけの話無視したわな」


「! 無視したって……あの……本人同士の意向は? 勿論……当然……あった、んですよね?」


「……」


 沈黙。四季先生も何も言わない。ただただ淳さんから怒りだけが滲み出て、そんな姿を見た帯々は恐る恐る「無視……されたんですか?」と続けて聞く。


「無視された――なら尚良かった」


「ど、どうゆうことですか?」


「――っ」


 淳さんの口元がピクリと歪み、自身の胸元に当てていた手をより一層強く握り絞めた。


「知らされなかった。普通に臓器提供の順番が回ってきたと思ってたよ」


「!?」


 余りにも想像とかけ離れた話に息を飲む。それなりの覚悟で挑んだ筈なのに、聞かされた話のどれもが受け入れられる様な話ではなかった。


「心臓と肺が梨のだって知ったのは移植手術が終わった約2年半後。たまたま医学生時代の同級生が研修先の病院で通院している梨を見つけてな? 『在学中、お前に会いに来てた小学生が通院してる』って教えてくれたんだ」


「? 淳さんが通っていた大学にですか?」


「あぁ。実は失敗した心臓手術の一か月程前に俺達に会いに来てたんだ。なんでも学校の宿題で【凄い人】って題材の作文を書く為にな。で、『私の兄さんが貴方の事を凄いって絶賛していたので是非お話を聞かせて下さい!』って。麻紗緋の時も同様に」


「あぁ」


「?」


 疑問符を頭に浮かべる帯々と、その作文の事を思い出す俺。

 確かに当時の梨はこの宿題の作文に【医学生の凄い人】って題名の作文を書いて発表していた。今思えばあれは淳さんの事だったのか。


 でも何故? なんで題名が【医学生の凄い兄】じゃないんだ? 血が半分しか繋がっていない腹違いだから親に止められたのか? と、帯々と同じ疑問が生まれる。

 しかし親の話は、特に父親の話は淳さん達にとってNGワードだと前に梨が言っていた事を思い出す。

 だから帯々にも今ある疑問を口に出さずに飲み込ませて話の続きを聞く事にした。


「で、驚いた事にその事を麻紗緋にも話したら『私も丁度その時期にそんな事が逢ったって』言うんだ。人相も酷似していてどうも気になってな。麻紗緋も連れて会いに行った。丁度検査入院してるって言ってたから。――で、会ったら会ったで驚いたよ。本当に驚いた。初めて心臓が高鳴る感覚を知ったし、後から現れた”人でなし”をその子が”お父さん”と呼んだ事で全身の血の気が引くって感覚を初めて知り、目の前の子が腹違いの弟である事を知ったんだ」


「え? そこで?」


 遂に我慢できなかったのか、ポロっと帯々の口から疑問が零れ落ちる。


「あぁ。そこで知った。それまでは本当に知らなかったんだ。俺達に腹違いの弟がいるだなんて」


 この台詞を聞いて俺も遂に「父親は? 父親からはなにも教えられてなかったんですか?」と、梨から以前NGだと聞かされていた父親の事を聞いてしまう。


「――ねぇよ。あの男とは一緒に暮らしていた時から既に距離を置いてたし、危篤の母さんの最期の願いを電話一本で切り捨てた事で完全に親子の縁を切ったから」


「! あ、あの……ごめんなさい」


「俺もすみません」


 安易に聞き返した事を後悔する帯々と俺。そんな罪悪感に苛まれた俺達を見た淳さんは落した声のトーンを戻して「一旦、この話は此処でお終いにするか?」と気遣いからの質問をくれる。


 でも数秒の沈黙の末に、俺達は首を横に振って話の続きをお願いした。


「そう、か……あぁ――」

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