三十一話。
三十話の続きです。
「ん」
「!?」
気が付くと六出雪兎が三歩も後ろへ下がっていたので手招きする。そしたら何故か足ではなく腕が動き、小刻みに身体を震わせながら自身の口を両手で覆い隠してぐぐもった声が上がった。
「あらあらまあまぁ、見えなかったのかい? それとも昔みたく私なんかの言う事は聞きたくないと?」
少し待ってみたが一向に六出雪兎の足が動かない。ただただ兎の様に縮こまって震えるだけ。
「――チッ」
「! ……」
時間を無駄にされてる事が腹立たしくなり思わず舌打ち。しかしこれが効いたのか、震えるだけの足がようやく動いて元に場所へと戻った。
「じゃあ話の続きをしようか?」
と、二宮君と四季先生が集めてくれた情報を元に、今回の久遠少女へのイジメの答え合わせをします。
「六出雪兎君? 君は久遠少女のお父さんが蒸発した日から始まってしまった彼女へのちょっとした嫌がらせ行為をエスカレートさせてイジメに発展するように――と、姉である六出桜から指示を受けた。そして君達三人はそこの六出雪兎からお金を貰って嫌がらせを本格的なイジメにしてしまった。――そうだね?」
「「「「ッ――」」」」
身体が少し跳ねてそれぞれ視線を泳がせたり身じろいしたりする。しかし押し黙る六出雪兎と違って実行犯の三人の口から出たのは否定の言葉だった。
「あらそう? なら――」
スマホを取り出して四季先生に電話を掛ける。電話に出た四季先生に例の三人を集められたかどうかを確認し、確認を取れたのでこっちの設定をスピーカーにして三人の前に突き出した。
――すると、電話の向こうでスマホが置かれる音がしてその三秒後に女性一人の声が聞こえ出す。
『愚弟』
「!? ね、姉ちゃんっ……なんでっ?」
『『俺達もいる』』
「「!?」」
愚弟。そう呼ばれたボロボロの顔の男の子の顔が途端に青ざめる。残りの二人もその後に出た二人の声に同じように青ざめます。
――そう。今電話口に居るのはこの男の子の実の姉。そして残り二人の実の兄達である。皆、有難い事に私が通う学校の生徒。更にはこの三人よろしく友達であった。
『ねぇ愚弟? お姉ちゃんびっくりしちゃったなぁ。だって私の弟が9519円のシャーペンなんて持っているんだもの。3000円以上のシャーペンがアンタの筆入れの中に4、5本も入っているんだもの。一昨日の誕プレで貰ったこの真っ黒のシャーペンが6050円もしているんだもの』
「あっ……いやっ……あの……」
『お姉ちゃんさぁ? びっくりし過ぎて”アンタがクラスメイトの女の子から一方的に暴力を振られた~”って喚いてたお母さんを黙らせて聞いちゃった。愚弟のお小遣いアップしたの? それか買ってあげたの? 最近財布からお金が消えてない――? って。そしたら”してない”、”そんなシャーペン買ってあげてない”、”消えてもないふざけるな!”って言われて逆に怒られちゃった。お父さんからも”お前ふざけるなよ? 弟を信じろよお姉ちゃんなら”って怒れた』
「!? あァ……」
ボロボロの顔の男の子の声が裏返って燃やされる虫の断末魔の様な耳障りな声が上がる。でも電話先のお姉さんはそんなのお構いなしに語る声に怒りを乗せていく。
『それでね? アンタを信じたくて親戚の人達にも聞いちゃったよお姉ちゃんは。愚弟に9519円のシャーペンを買ってあげましたか? それともあげましたか? 諭吉を一枚あげましたか? ――ってさッ?』
「ハッ……ハァッ……ハァッ――」
声に乗った怒りが増す姉に比例するかの如く弟の呼吸が荒れていく。
そして、
『アンタ――……あのシャーペンどうやって手に入れたッ!!』
「ッ――ご、ごめんっ……な、さいっ」
遂に声を怒声へと代わり、姉の怒声を聞いた弟の身体が震えあがって謝罪の言葉が吐き出る。何度も吐き出てその度に目に涙が溜まっていく。
――しかし謝罪の言葉を言ってしまった事で姉の怒声は続いた。
『ざっけんなよテメェッ! アンタ自分が何をしでかしたのかわかってんのかッ? お金を貰って女の子をイジメるなんてどうかしてるッ!!』
「あ、いや……それは……あの――で、でもっ! 姉ちゃん喜んでた……じゃん? そのお金で買った誕プレ……を。『真っ黒の中のこの赤文字、滅茶苦茶良い!!』 って言って褒めてくれたじゃん?」
『――――……あ? テメェ今なんつった?』
「! あらあらまあまぁ」
地雷踏んだ。声に乗ってた圧が初めて二宮君を家に呼んだ日に私の姉である麻紗姉さんが言った『感覚、やっぱり無かったんだァ』と、同種の圧が込められていた。
『あぁわかった。アンタ今すぐ家に帰れ。そして私の部屋で待ってろ』
「え――? ま、待って……待ってよッ!」
当人も地雷を踏んだと気づいて血相を変えて私の手ごとスマホを掴んで縋り付く――。
が、しかしながら帰ってきた言葉は弟にではない。謝罪と明日直接会えるかどうかと言う私宛の言葉。そして私が明日会う事を承諾すると彼女の近くにいた二人の兄達もそれに便乗し、彼女と同じように弟達に帰宅して兄達の部屋で待っているようにと命令を出すと返答も言い訳も待たずに通話が切られた。
「あらあらまあまぁ! やっぱりヤンチャをした弟にお灸を据えるのは兄姉の務めなのね? ――さてと、ねぇ弟の雪兎君? 私は一体どうすれば良いと思う? 私も兄として務めを果たすかそれとも別の手段でお灸を据えるのかな?」
そう言って私は私を兄と呼んだ六出雪兎と向き合うと、彼は酷く怯えた様子で聞き返す。
「べ、別の手段? 別の手段って……?」
「ん? 普通に警察」
「警察!?」
「「「!?」」」
警察と聞いて六出雪兎は声に出して驚き、イジメ実行犯の三人もまた警察という単語に驚く。勿論、嬉し楽しい驚きではなく恐怖と後悔からくる驚きです。
「警察に話せば問答無用で両親に今回のイジメの話が行くだろうね? お金を払ってイジメを依頼した事、お金を貰ってイジメをしていた事、お金と自分達の愉しみの為にイジメをしていた事、その全部を両親に知られる。――あらあらまあまぁ、普通のイジメであれば良かったのにねぇ?」
「! 普通のイジメなら良かったって……?」
顔がボロボロの男の子は疑問文で復唱。他の子達も私の言った言葉の意味を理解できないご様子だったので説明してあげた。
「学校という年齢以外が不特定に入り組んだ組織にいる以上、人間関係のトラブルは絶対に無くならない。だからイジメだって無くならないし、遠い未来を見なければならない大人と違って私達学生は今を見られる分、人間関係のトラブルは増えてイジメという行為も増えてくる」
ここで彼等の目を見る。皆、理解は出来てるご様子だったので話を続けます。
「自分達と違うってだけでイジメは大なり小なりで発生する。こんな”良くある当たり前”なんて君達以上に君達のご両親は知ってる。だから警察同様に知ってからじゃないと行動出来ないし、だから警察沙汰にならないと見向きもしない。毎日が笑顔で過ごせる加害者の親なら尚更見ないし見られない。これが今日まで続く私達学生の”良くある当たり前”」
これは一応私自身の体験談。夏休みに入る前の話で、実際に私の両親は私が病院に運ばれてから私がイジメを受けていた事に気づけたらしい。
まぁ私の場合は不思議な解放感と充実感で満ち足りていたので気づけないのは当然と言えば当然なのですが、それでもイジメはイジメなのでね? 今の言葉を私が言っても違和感ないはずです。
続きを。
「でも、そこにお金はない。私が言った”よくある当たり前”の中にお金は組み込まれてはいない。お金という対価が確定で発生している以上、それはもはや仕事。お駄賃を貰った家事手伝いや趣味で稼ぐ副業、今はやりのパパ活と同じ仕事だよ。そして君達は仕事をした。自覚はないままお金を貰ってイジメを働いてしまったわけだ。――あらあらまあまぁ全く、感情のみのイジメなら”よくある当たり前”。若気の至りとして仕方がないと、君達の親はそう思ったかもしれなかったのに……まぁでも? アルバイトも出来ない年齢でそれなりのお金を貰って仕事出来たのは素直に誇って良いと思う。――ちなみにお幾ら万円?」
気になってた事を依頼者である六出雪兎に聞く。彼は声を震わせながら「二万円」と答えた。
「あらあらまあまぁ、それは凄い! 毎月二万円を稼ぐ小学生なんてまずいないからこれは本当に誇って良いと思う」
嫌味もへったくれも無い素直な賞賛を言い、最後に久遠少女のランドセルを持って目の前にいる顔以外もボロボロになってそうな表情を浮かべている男の子に売り言葉に買い言葉――の買い言葉を一つ教えてあげた。
「これで『説教は弟の俺より稼いでから言えよ?』って言い返せるね!」
と。
そして身内の恥と言っても過言ではない六出雪兎と向き合う。
「で、改めて聞くけどどうする? 君が兄と呼ぶ私はどうすれば良いと思う? 私としては出来る事なら警察に任せたい。そっちの方が筋肉痛に為らずに済むし」
「っ――ン”ン”ッ”」
何の気なしに右手で何かを握り絞めるジェスチャーを見せると、六出雪兎は顎まで下がっていた両手で再度口を覆い隠す。
そして覆った手の上に涙が通過させながら一歩、兄の私に近づいてみせた。
「チッ――じゃあ行こうか?」
心の底から面倒くさいと思いながら歩き出す。
すると、
「! あらあらまあまぁ、遅いご登場で」
私が廊下に出る前に見覚えがある先生が教室に入ってきた。名前を思い出せないがこの6-3の担任の先生だ。臨時ですけど。




