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三十話。

長編になったので3話に分けます。

「あらあらまあまぁ」


 お父さんの協力の元、遂にあの二人(帯々・九々)にとって一番厄介だった問題を無事に片付ける事に成功。若干の不満を抱いていた淳兄さん達にその後の対応を引き継いで貰い、一端二宮君達と合流するべく学校へ。


 そしたらその道中で久遠少女が全力疾走している場面を偶然見かけてしまいました。

 

 ――ふむぅ。遠くで顔は見えなかったけど、滅茶苦茶な走り方と外靴ではなく上履きという時点でマイナスの感情に満ちているのはわかった。

 

 私はスマホを取り出して二宮君宛に『悪いんだけどこれを見たら直ぐに待ち合わせ場所に向かって』と、メッセージを送信する。次に四季先生に先の件(残ってた問題)今の(上履のまま外を走る)(久遠九々)、そして小学校から久遠少年に連絡が来た時の対処とこれから私が行う事へのサポートを頼むメッセージを、


「――! もしもし」


 と、十秒と掛からずに二宮棗から電話が掛かってきた。


『何があった?』


「上履のまま外を全力疾走する久遠少女を見かけた。多分学校で何かあった筈だから今すぐ合流してあげて」


『! わかった。お前は?』


「これから務めを果たしに行く。――はぁ。出来る事なら二人が仲直りしてからが良かったなぁ」


『そう……か、わかった。なら九々の事は俺に任せろ。お前はお前の務めを果たしてこい』


 プツッ――と、向こうから電話が切られる。私は心の中で『頼んだよ』と祈り、スマホの画面を切り替えて四季先生へのメッセージの続きを書いて送信。最後にバックミラー越しにお父さんに行き先変更の事と、工具箱と家族写真の有無を聞いた。



 数十分後。

 久遠少女が通う小学校にて、私は五年生の教室に居た血の繋がりを全く感じない六出雪兎()を見下ろしていた。


「に、兄ちゃん……?」


「! ――チッ。あらあらまあまぁ」


 ミミズが高温のアスファルトの上で踊りながら焼け溶けていくのを見てしまった時と似た嫌悪感に心が奮える。

 

 全くもって最悪だ。この私を兄と呼んだ事で、この人間の兄として兄で在るが為の選択しを与えねばならなくなった。


「なら一緒に来て? 私を”兄”と呼んだのなら」


 そう言って私は六出雪兎の返答の有無を待たずに久遠少女の教室へ一人先に向かう。


「こんにちは……って、あらあらまあまぁ、こっちにもいない」


 目的の教室に入るなり視線が集まったが、集まった視線の中に担任の先生の姿は無い。近くに座っていた生徒に担任の先生の行方を聞いてみると一言「職員室です」と教えてくれた。


「ありがとう。じゃあ私は久遠少女の荷物を纏めるからその間に例の男子三人を集めて」


 と、お礼を言ってから後から来た六出雪兎に指示を出す。例の男子三人とは二宮君が前に言っていたイジメの実行犯の事だ。

 

 六出雪兎が血相を変えてその実行犯達を集めている間に、久遠少女の席に赴いて彼女の代わりに帰り支度を済ませる。


「んだよ?」


「? その顔どうしたんだい?」


 六出雪兎によって私の元に集められた三人の内、何故かその一人の顔がボロボロの面白い顔になっていた。理由を聞いてみたけど男の子は何も言わない。その代わり机の上に置かれた久遠少女のランドセルを恨めしそうに睨みつけた事で納得する。


 要は久遠少女に喧嘩で負けた。しかもこの様子だと一方的に。ただそのせいで無抵抗の相手を殴りまくったって事で、色々と担任の先生やこの三人から色々と酷い事を言われてしまい着の身着のまま逃げ出してしまった。

 ――と、言う訳かな? 多分。


「こんにちは」


「「「……」」」


 ちゃんとした会話をする為に挨拶を試みたけれど、男子三人は何も言ってはくれない。寧ろ不満たらたらな表情に磨きが掛かる。どうやらお呼びではないようです。


 でも私にはある。しかも務めもある。


「お呼びでは無い……と。でも私にはあるんだよ。お金を貰ってイジメをする実行犯の君達三人と、それを依頼をした六出雪兎にね?」


「「「「!?」」」」


 四人の顔がギョッとなる。しかも私の弟にあたる六出雪兎は一歩後ずさり、私の話を聞けた周囲の子達もざわつき始めた。


「な、なんの事だ?」


 真っ先にボロボロの顔の子が視線を外してしらばっくれる。他の三人も同じように私から視線を外して「そんなの知らない」とか「俺も知らねぇ」と、それぞれしらばっくれる。


 ただ一人――私の事を知っている六出雪兎を除いて。

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