二十六話。
生き甲斐大事。社会人3年目にして一番に学べた事がこれです。
月日は流れて12月中旬。初めて久遠九々を家に招いた11月末付近と違って学校、スーパー、街並み、ありとあらゆる場所がクリスマス仕様のデコレーションで飾られている今日この頃です。
そんなクリスマス仕様の世界で我々は何をしているかというと、
「九々の九! 九回目九ッ!! yous――あなた方は今どこで何をしていますか? この空の続く場所にいますか? 開催ッ!!」
「「マジで届きそうで届かなーい!?」」
パーン×3。と、帰宅コースから少し離れた所にある夕暮れの夕陽に照らされて輝く河川敷という青春の匂いがする場所にて恒例の報告会開催を知らせるパーティークラッカーを3つ鳴らしてます。
今回の参加者は私、二宮君、そして久遠少女がお送りいたしますで候。
あ、ご安心下され。全てのクラッカーは河川敷に置かれたゴミ箱の中に向けて発射致した。
「先輩! 今日はなんだ? オレもう腹ペコだ!!」
「おや? あらあらまあまぁ、食いしん坊さんめっ! 今日は……デンデデンッ!! 名も無いシェフによる三種の揚げ物と海苔弁ご飯。汁物は~具沢山の豚汁! の、三品になりま~す。はいどーぞ」
カバンからステンレス製三段構造の弁当箱と山形県の郷土料理”だし”が入った小瓶を取り出して、それをお腹を空かせた子犬の様に待ちわびている久遠少女に手渡す。勿論、弁当箱の中身は久遠帯々の手作りである。心なしか荒ぶる尻尾が見えますわい。
久遠少女は川を正面に適当な場所に腰を下ろしては、受け取った弁当箱をまるでクリスマスプレゼントを開ける時の様なワクワク感を全身から溢れ出させながら分離、全ての蓋を開けていった。
「おぉ! 今日も滅茶苦茶旨そう!! いただきますっ」
お行儀良く手を合わせながら言い、白い湯気が立っている汁物をから手を付ける。「あったけぇ……うめぇ……」と、そんな作った人が見たら絶対に喜ぶだろうなと思える感想を感極まって言っている久遠少女の横一列に私達は立つ。立って、先ほどいつものスーパーの屋台で買ったコロッケをそれぞれ頬張った。
「やっぱり良いもんだな。夕暮れ時の河川敷、夕陽に照らされた川を見ながら何かを飲み食いするってのは」
「あらあらまあまぁ、確かに! コロッケの他に焼き芋や肉まんとか……あぁ。なんでも旨かろうて美味しかろうて」
「そうだな。夏場ならアイス食ったり冷たい飲み物飲んだり」
「川に飛び込んだりッ!」
「「風邪ひくから止めなさい」」
「アハァ――ズズ」
どこぞのつよつよV〇uberの様な笑い声を上げて豚汁を啜る久遠少女。眼前の川に飛び込む姿でも想像したのかすごく楽しそうにしていらっしゃる。
本当に、とても楽しそうにしていらっしゃる。
「……」
「ん? なんだ梨先輩。お弁当なら……な、なにが渡せる……?」
「あらあらまあまぁ、別に何となく見ただけよ。ゆっくり全部お食べ」
コロッケを完食した私はそう言って視線を逸らして眼前の川を眺める。眺めて今日までの事を思う。
事態は良い方向へ――行っているとは言い難いね、残念ながら。
こうして久遠少女の心の拠り所に為れたのは素直に嬉しい。でもそれは”癒しの場”ではなく”逃げ場”としての拠り所なのです。
実際に久遠少女は家に連れ帰った日以降、辛い事しかない学校を休みがちになっている。
この状況は結構不味い――。
淳兄さんもこの状況を危惧してこんな言葉を残している。『生きていくのを頑張る為の娯楽なのか、娯楽の為に生きていくのを頑張るのか。
前者はただの自殺の先延ばし。後者は生き甲斐の為の寿命の前借。要は後ろ向きな理由の前者と、前向きな理由の後者。今回のを当てはめていくと、前者が逃げ場で、後者が癒しの場に当てはまる。
このままだとあの子はいずれ限界を迎えて死に逃げるぞ?』 ――との事です。
ただ二宮君が言うにはこれは悪くない傾向なのだと言う。『元々、一人で居る事に慣れている子、一人の時間が好きな子なら孤独への耐性、その下地が出来ているから問題ないけどあの子は違う。家でも学校でも築いてきた人間関係で居場所がちゃんとあった。あったから一人になる事に不安を覚える。そして全てが台無しとなった今、不安は恐怖となって現れた。だから……だから独りぼっちは怖いから無理して学校に行くんだ。家に居場所を感じられないから自分の席が必ずある学校に、どんなに劣悪になっても自分の存在を認めてくれる教室に居場所を求めてしまう。――で、孤独に慣れるまでチキンレース。イジメで泣くか孤独に押し潰されるかのチキンレースが始まるんだ。だから第三の選択肢として俺達が要るのは良い事だ。なんらかの原因でブレーキを壊されなければ、いざって時にブレーキ踏んで、降りて――俺達の元で擦り減った色んなモノを癒せる筈だから』――との事です。
要は逃げ道は無いよりあった方が良いって話で、これに納得してしまったが為に安易に動けなくなってしまった。
そして問題はもう一点。どうしても蒸発した親二人が見つからない。
淳兄さんが全ての親兄弟、親戚、友達、職場にかつての職場で親しかった人達に、挙句の果てには学校のクラスメイトや部活動まで調べたのにそれでも二人は見つからない。足取りは掴めても二人の居場所を掴めないでいた。
「はぁ」
もしも産婦人科から発見の連絡を受け取ったらどうしよう? と、思わず溜息が出る。
「どうしたの?」
「! ――あとニ十分くらいでこの綺麗な景色も終わりだな~って、思っちゃってね?」
溜息の言い訳を探す様に空を見上げると、遥か遠くの空はオレンジから藍色の暗がりが見えていた。どうやら長い時間、一人で思い耽っていたみたいです。
「ご馳走様でした!」
「お粗末様でした。――今日も名もないシェフにちゃんと感想を書いたかい?」
「! う、うん……」
この問いに久遠少女はやや恥ずかしそうに頷く。
どうゆうことか? は、こうして久遠少女にお弁当を渡す様になってから必ず久遠少女からこのお弁当の作り手である久遠少年に手紙を出させているのです。
勿論少年の名前は久遠少女の気持ちを考慮して伏せてある。だから名も無いシェフってわけ。
まぁ! もう普通に気づかれているんだけどね!! それでも名も無いシェフで通すのはその方が気持ちを伝えやすいから。
それにしても最初は簡単な感想だけだったのに今じゃこうして次回の要望まで書くまでになった。こっちはとても良い方へ行っていると思う。
「ん。じゃあ第九回目の報告会はこれにて終了。そろそろ帰ろうか?」
「うん!」
「そうだな。暗くなる前に帰ろう」
と、受け取った手紙の入った弁当箱をカバンに入れ直して私達は明日以降の話をしながら帰る。
クリスマスが近い。出来る事なら久遠帯々と久遠九々、二人揃って皆でクリスマスを過ごしたいと思う。本当に。心の底からそう想ってしまいます――。




