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十九話。

「「「なっ! アルコールランプをご存じでない!? 初等理科の教えはどうなってんだ教えは!」」」


「「「すいませんすいません」」」


 憩いの場(保健室)から同じ高等部校舎内にある理科室へ移動し、そこで白衣を羽織った我々学生組は”ありえない”と言った驚愕な表情を浮かべる大人組に頭を下げる。

 事の発端は以下の会話である――。


『へぇ……今ってガスバーナーじゃなくてガスコンロなんだな』


『みたいだねェ少し残念。ここに来るまでェガスバーナーの上下どっちのネジが空気調節でガス調節だっけェ? ってェ思い出してたのになァ』


『お前もか。確か下のネジがガスだったか?』


『そうそう! 私あれ苦手だったなァ、なんせ着火にライターじゃなくてマッチを使わされてェ時間との勝負だったからァ。あれ苦手になったのぜってェマッチのせいだよなァ……マジ指先が段々と熱くなって本気で焦る』


『あー確かにな。でも仕方ないんじゃないか? 低学年の理科で使ったアルコールランプもマッチだったろ? 時代だよ時代。あの頃は伝統伝統とうるさいお頭のお固いジジババが上に居たせいで生徒の安全より古き良き伝統なんぞを優先してた時だっただろ?』


『だからってあんなボロボロのマッチ箱でェ――て、どうしたの? 三人ともキョトンとした顔をして』


『! あれじゃないか? 授業でマッチを使ってたのに驚いてるんじゃないか?』


『それか淳達の生徒の安全より伝統を重んじられてた時代に驚いたか』


『『『――アルコールランプってなに?』』』


 以上、冒頭までの流れでした。

 これが所謂ジェネレーションギャップってヤツですかな?


「な、なんでしょうアルコールランプって? お酒の商品名とかなんですかね?」


「小学校で!? 酒飲みながら授業するとですか!?」


「流石にそんな馬鹿な事――……あ! これがゆとり世代の闇ってやつ――? あっ……」


 混乱中の失言。しかも地雷級を踏み抜いてしまう二宮君。


「ブホッ!? ――ひひっ! い、言われてんぞ平成初期」


「「あ? 黙れロスジェネ。バブルの散りぞこないが……あ、ごめんなさい散ったのは就職先と転職先でしたっけ? 夜な夜なディスコで踊ってっからパチパチパラパラと崩壊すんだよ竹の子族!!」」


「はぁ!? 言いやがったな円周率! 3ッ!!」


「「ッ――!? ざけんなッそれは俺達・私達のせいじゃねぇ!!」」


「「「……」」」


 踏み抜いてたのは地雷ではなく核弾頭でした。もうこうなったら仕方がないので仲良く喧嘩して貰って、私達学生組は用意した3つのガスコンロに火を点けます。


 あ、どうして家庭科室じゃなくて理科室なのかを説明しますと、私達のクラスが普通に授業で家庭科室を使用中です。


「――ヨシ。3つとも点火確認よろし。じゃあ始めようか? 仲直りのタルタルソース作りを!」


「いや待て。その前に説明をしなさい」


「あ、そっか」


 忘れてた。説明せずにつれてきてたんだった。


「さっきの保健室での報告会でさ? 久遠(くどう)君とは三週間くらい前に偶然会って、今じゃ会えば普通に雑談するし、スーパーで会えば必ずコロッケを買って一緒に食べてるって言ったでしょう?」


「言ってました。――あ! もしかして毎回タルタルソースを掛けてます?」


「お! あらあらまあまぁ、正解。流石幼馴染わかってるじゃない」


 そう。久遠帯々の言った通り、今じゃ買ったコロッケやコロッケボールには必ずタルタルソースを掛けて食べてる。しかも彼女のタルタルソースへの愛は少々異常でランドセルの中に常備してしまっているレベル。まぁ私達も何度か借りちゃいましたが……。


「確かに九々は揚げ物類には必ずタルタルソースを付けて食べてましたけど……え? じゃあ……んえ? 胃袋に訴えかけると言いますか……? 好物で釣ると言いますか……?」


「んー少し違うかな? ――はいこれ」


「? タルタル?」


 と、首を傾げる久遠少年に、先ほど憩いの場で見せたタルタルソースを手渡す。


「昨日の買い物で久遠少女からその子を進められてだね? 何となく『昔から使ってるのかい?』 って聞いてみたら首を横に振られて『これが一番ママが作ったタルタルソースの味に近いから買ってるだけ』って返答がきたのよ。で、ちょっぴり悲しそうにするあの子を見てこの案を思いついたってわけ」


「……」


 無言で戸惑いと不安が入り混じった表情を浮かべる久遠少年。確かに当事者である久遠少年には浅はかで少々ふざけた提案かもしれないね?

 

 でも、我が家のキッチンを預かってる私はそう思わない。料理で苦しんだ過去がある私だからこそ料理の力を知っている。何より久遠少女と同じく家庭料理が食べられなくなった二宮君が『良いんじゃないか? あの歳の俺だったら間違いなく食べながら泣くか、食べた後に一人で泣いてると思う』と、重々しい事をあっさりめに言って賛同してくれた。


「そんな事で――って顔をしてるね? でもやれば一歩でも前に進める。それに仲直りのキッカケのキッカケにはなるんじゃないかな?」


「! キッカケのキッカケですか?」


「そうよ~。許されないと思い込みつつ、それでも許されたいとベットの中で泣きながら謝るくらいなら無駄になっても良いからまずは行動しようそうしよう! って話。これはその”まずは”の為、行動する為のキッカケのキッカケなのだよ」


 行動を起こす為のキッカケ。重い腰を立たせる為のキッカケ。本番前のリハーサル前の準備運動であり、その準備運動として彼女の舌が恋しがっている母の味を再現をする。


「大丈夫。忘れちゃったかも知れないけどあの子の根は優しすぎる。優しすぎて貧乏くじを引きやすいあの子だからこそ、これで仲直り出来なくても悪い方向には絶対に転ばないよ」


「! ――ぁ……あ……あっ……あっ、の――……よろしくお願いします」


「うん! 梨兄さんにまっかせなさい。夢見た光景を叶える為にひと肌でもふた肌でも喜んで脱がせて頂きますよって」


「夢?」


「そう夢。今以上に賑やかになった食卓を作るのが今の私の夢なのさ。――だから頼んだよ? お兄ちゃん」


 と、いずれ訪れる――訪れて欲しい久遠少女を含めた計7人での食卓の光景を思い浮かべるのだった。



「これだから頭の緩いゆとりは!」


「「これだから頭のお固いロスジェネは!」」


 ――4人でも良いかな? うん。

マッチを擦って点けた時の匂いが好き。特に薬品臭がする理科室でその匂いを嗅ぐのが好きじゃった。

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