十六話。
「第四回目代ッ! yous――あなた方は今どこで何をしていますか? この空の続く場所にいますか? 開催ッ!!」
「「「「マジで届きそうで届かなーい!?」」」」
「もうすでに三回も……」
と、恒例となった報告会開催を知らせるパーティークラッカーを私の合図で鳴らし、今回から初参戦する事になった久遠少年が宙を舞うクラッカーの中身を見上げながら困ったような呆れた笑みを浮かべております。
実に楽しい。
「あの先輩? いつからこんな事を?」
憩いの場の主様たる四季先生号令の元、床に散ったクラッカーの中身を清掃中に久遠帯々が私に質問する。
「ん? 確か……3週間前からだったかな?」
「そんな前から!?」
「そんな前から。最初の参加者は私と二宮君と四季先生の三人で、二回目から淳兄さん、三回目で麻紗姉さんが参加」
「こちらのクラッカーは?」
「今回からです」
良くぞ聞いてくれた! と、私はドヤ顔で親指を立てながら塵取りに回収したクラッカーの中身をゴミ箱へ。
「このためだけに買ったんですか?」
「「や? 良く行くスーパーでやってた福引で当てた」」
私、二宮君、そして心の中で久遠九々を思いながら言う。
いやぁ結構な数が入った奴だったから第十回目代ッ! の、開催も余裕余裕、余裕のよっちゃんよ。
ちなみに当てたのは久遠少女なのですが、数回遊んだ後、持って帰っても仕方がないという事で私が貰いました。
「おしこれで最後っと。――じゃ! 掃除も終わって各自に温かい飲み物も行き届いた事だし再開といきますか。まずは四季先生から。一応久遠少年には事前に最低限の情報は伝えてあります」
掃除が終わって各自が椅子やベットに腰を掛け、私が皆に暖かい飲み物を配り終わったタイミングで四季先生に話を振る。
「了解。開幕早々悪いんだが病院ルートからは最悪な報告が一つ。遂に産婦人科の知り合い以外の全員から”見つからなかった”と、返答が来た」
「「「「あらあらまあまぁ」」」」
「……」
初っ端、四季先生の最悪な情報に声を揃える部外者の私達と、無言で顔に影を落とす関係者の一人であり被害者でもある久遠帯々。少年は顔に影を落としたまま口を開いた。
「先生。お願いがあります。もしも……もしも最後の最後で見つけてしまったら僕だけに教えて頂けないでしょうか? お願いします」
「「「「それはダメ」」」」
と、少年のお願いを私以外の4人が即拒絶する。
「もしもそうなってしまったら先生からじゃなくて梨から伝えて貰う。元よりその予定だよ」
「What?」
何故私? と、首を傾げて四季先生を見る。
「一度救ったんだ。二度目も救え」
「? そんなの当たり前でしょうよ。それよりも何故私から?」
どうゆう理由であれ、どんな状況であれ、私は私の意思で落ちそうになった少年を助けた。そして助けた事に後悔なんてない――ならあくるまで助けるのさ。それよりも何故私から? それに少年本人が自分だけにって希望してるんだからそれを尊重してあげるべきではなかろうか?
「……」
「?」
と、そのように私がそう思っていると四季先生はまるで鈍感主人公がお相手の恋愛マンガに登場する親友ポジションの様な顔で私を見てくる。
要するに大いに呆れておられます――あらあらまあまぁ、何故に?
「それはだなぁ……弱い所を見せた相手になら行き場の無い感情をぶつけやすいだろ? そうゆう事」
「あ~……んっ?」
「!? いいですっ……今は、いいですぅ……」
四季先生の説明にほんのりと頬が赤くなっていた少年。そんな愛くるしい姿に面白半分で両腕を広げてウェルカムポーズを取ると、頬どころか耳までほんのりと赤くなっていて微笑ましかったです。
「梨君? 出来立てホヤホヤなァ末っ子をイジメるのは後にしましょうねェ?」
「あ、ごめんなさい」
麻紗姉さんの注意に謝罪をし、そのまま麻紗姉さんに報告をお願いをする。ちなみに前回から麻紗姉さんには親族知人経由での捜索を止めてもらい、法学部出身の麻紗姉さんにはちょっとそっち方面で動いてもらっています。
「ん~こっちはねェ? 前に話した大学時代の先輩に頼んで現在交渉中なんだけどォ、予想通りの理由で難航してるね」
「あらあらまあまぁ」
血の繋がりってヤツは厄介だねぇ――と、予想通りの理由で難航してると聞いて初めてそう思った。
私自身、今の素晴らしい生活は淳兄さんと麻紗姉さんとの血の繋がり合っての有難い事だと思ってるし、それを省いても素直にこの二人と血の繋がりがある事が嬉しく、両親に対しても多少の不満を抱いた事はあれど邪魔だと思った事はなかったから。
「歳、越しそうですか?」
「それはァ先生と兄さん次第。――どう? そっちはぁ」
麻紗姉さんは私の代わりに淳兄さんに話を振る。
「こっちは少し進展があった。どうやら7月までは幼馴染の父親の、その昔に勤めていた会社の女性先輩の家に転がり込んでたみたいだ」
「先輩……しかも女性って……」
「そうだな。その反応で正解だ」
女性の先輩と聞いてしかめっ面を浮かべる二宮棗に正解を出す淳兄さん。二人の反応を察するに健全な理由で転がり込んだ訳では無さそう?
「そうさなぁ……帯々君」
「えっ! あ、はい……なんでしょうか?」
「君から見て幼馴染の父親はどんな父親だった?」
「どんな……ですか? えーと――……ふ、普通? だったと思います。僕のお父さんが仕事第一だったのに対して、九々のお父さんは家族第一の人だったと……ごめんなさい。分からなくなっちゃいました……」
「――そうか。なら俺からは以上だ」
これ以上は酷な話になる。そんなニュアンスと表情で話を一方的に終わらせた淳兄さん。とりあえず進展と足取りが掴めて良かったです。
――あ、ちなみに私が個人的に頼んでた人からは応答がありません。以上。
「じゃあ最後は私達かぁ……二宮君?」
どうする? なにから話す? と、表情で語り掛けると「ちょっと空気が重いから軽めの話からいこう」と、言葉にして返答する。
ふむ軽め……軽めの話かぁ……この重い空気が軽くなる話……つまり笑える話? ――うん! なら最初はこれでしょう!
「夏休み明けからかな? 久遠少年の姉様が所属しているハーレムで、ご主人様である八條君に新しい女を貢ぐのが流行ってるみたい」
「「「「「……」」」」」
「……」
「「「「「……」」」」」
「……?」
「「梨」」
「あ、はい。なんでしょうか? 淳兄さんと麻紗姉さん」
「「転校しよっか?」」
「あらあらまあまぁ……え? 何故に??」
と、満面の笑みを浮かべての軽めの報告の筈が真逆の結果を引き起こす。それはもういつかの『難しい手術ではないので安心して待っていて下さい』と、担当医の言葉を信じて大切な人と共に手術室へ送り出した筈なのに、手術中のランプが消えた後で手術室から出てきたのは担当医のみ――みたいな空気だった。




