十三話。
「――フッ。また寝る為だけの登校になってしまった」
耳に残るチャイムの音を不快に思いながら見覚えしかない憩いの場のベットの上で炊き立てホヤホヤならぬ起き立てヨボヨボと、重たく固くなった上半身を起こしてスマホの時計を見る。
時刻は午後13時40分。一限目が始まるチャイムを聞いた覚えはありません。そんでもって今はバリバリの5時限目中です♡ ――終わってんねぇ!
「――んっ? あぁ、起きたか……ふぁっ……ぁ」
「! あらあらまあまぁ二宮君。おはようごぜぇます」
「ん、おはようごぜぇます」
「……」
「……」
「「お休みなさい」」
睡魔に成すすべ無く敗北した私達は一度は上げた顔を下げます。すると仕切りのカーテンが勢いよく開かれそこからこの憩いの場の主である四季先生が紙コップ片手に現れた。
「いや、起きなさいよ」
「「――……あらあらまあまぁ?」」
「!? おいおい怖えって! 無表情のままのそのそゾンビみたいに起き上がって顔を上げたと思えば急に猟奇殺人犯みてぇな笑みを浮かべんな。マジで背筋がゾクっとしちゃったよ……」
「――現役服役中殺人犯の息子ですが?」
「――事件後一年未満のピチピチ殺人未遂犯らしいのですが?」
「……」
「……」
「……」
「――そっちの土俵に上がってやろうか?」
「「あっ……ごめんなさい起きます」」
哀愁とほのかに混じった死臭が私と二宮棗の脳を刺激して完全に覚醒させる。数多の命が事尽きる瞬間を見届けてきた四季先生には勝てませんよって。
「宜しい。寝起きには丁度良いぬるま湯が残ってるから何か飲むかい?」
「「ぬるま湯を」」
「わかった。ミルクティーと梅昆布茶な」
そう言って四季先生はほんのり湯だった紙コップを私と二宮棗にそれぞれ手渡し、熱くもないのに受け取ったそれをチビチビ飲んでいる私達の近くまで椅子を持ってきて座る。
「5時限目が始まったばっかだが二人共今日はもう授業は出る気ないだろ? 丁度良いし報告会をしようか。梨君が久遠少年を連れ帰って1週間以上経ったわけだし」
「お! 賛成」
四季先生の提案に賛成の声を上げる。
実は本人に黙って四季先生、淳兄さん、麻紗姉さんの三人と、そこに私が直接頼んだ助っ人様にGW最終日に蒸発した久遠少年の母親と幼馴染ちゃんの父親の行方を捜して貰っている。四季先生が知り合いの医師を使って病院の来客履歴を、淳兄さん達が夜の伝手を使って蒸発した二人の親族知人を調べる事になっています。
ちなみに私と二宮君は別――久遠少年と幼馴染ちゃん、そして成神瑠々を調べております。
「じゃあ先ずは先生から。GW最終日に蒸発した久遠少年の母親と久遠少女の父親の行方なんだが、とりあえず先生が連絡可能な知人医師達に病院の来客履歴を調べて貰ってる。特に産婦人科医の知り合いにはそっちの情報網も使ってくれと頼んだ」
「産婦人科……まぁ不倫した末の蒸発したならそうなるか」
と、二宮棗が産婦人科医と聞いてしかめっ面を浮かべる。確かにその産婦人科医からの発見の連絡=妊娠の可能性大と言う事。しかめっ面になるのも頷けます。それと新しい命への祝福を言う立場の先生もお気の毒に。
「次に淳達からだが、二人の予想通り親族知人に身を寄せてないとの事。明日から親族知人から聞き出せた二人が行きそうな場所を探すとさ」
「あらあらまあまぁとんだ無駄足を……あぁ、二人の行き先を知ってそうな幼馴染ちゃんのお母様にお話を聞けたらなぁ」
予想してくれてたのにそれでも淳兄さん達に無駄足を踏ませてしまった事に罪悪感を感じてついボヤいてしまった。
「梨君それはねぇ――」
「えぇわかってますよって。心を壊して入院中なんでしょう? しかも旦那の名前を聞くだけで過呼吸になって取り乱すレベルで心が壊れてしまっている」
調べ初めてからすぐに分かった事だが幼馴染のお母様は現在入院中だった。運良く入院している病院に四季先生の学友が働いていたので事情を説明し、その上学友のよしみで四季先生が幼馴染ちゃんのお母様に会ってきたとの事。
――が、しかし話がそもそも出来る状態でなかったそうで、そんな状態で四季先生が旦那さんの名前を出してしまったせいでベットの上で横たわっていたお母様は身体を振るわせた末に過呼吸になったり自傷を始めたりとで大変な目にあったとか。
実際に自傷を止めさせようと身柄を押さえようとした四季先生の腕には複数の引っ搔き傷と爪痕がありましたね。
「そうだから無理。それに梨君が思っている以上に重症よ? なんせ実の娘でさえ、5回に1回の頻度で娘の顔を見ただけで取り乱すんだから」
「あらあらまあまぁ……あ、なら一回私が入れられてた隔離病棟に入れてみましょうよ! 出た過ぎて正気に戻りますよきっと」
「却下。余計精神崩壊するわ。――ちなみに梨君が入れられてた隔離病棟な? 退院後に自殺者が増加したせいで警察が調査に入って精神科部長を含めた職員が数名逮捕。今は大分ホワイトになったそうだぞ?」
「へぇホワイトに。――フッ、白くあるべき病院の一部がホワイトになったとはこれ如何に? まぁ隔離病棟は目が痛くなるほど白かったけども」
四季先生の言葉に笑みを零しながら昔の思い出を慈しむ。今となっては味覚障害になるために欠かせない体験であり思い出です。
自然な会話、自然な回想の入り方がいまいち分からない。精進します。




