五話。
「どうして! どうしてっ!!」
「あらあらまあまぁ、揺らすでない揺らすでないっ」
正直者であるが故の性による告発で再度取り乱してしまった久遠尾々に身体を揺らされている私。ちなみに椅子ごと倒れないように二宮棗が私の椅子を支えてくれています。
――あの、少年を止めてくれないのは今の少年の気持ちを汲んでいるからかな?
「ど、どの道! 自殺の決定打はお姉さんなんだからバレるってばよ」
「っ! でも!! それでもッ!?」
「守りたい秘密があるんだぁぁ……と?」
「そうですよッ! もう過去形になっちゃいましたけどねッ!!」
と、久遠尾々は更に私の身体を激しく揺らすと、ようやっと私の身を案じてくれたのか傍観に徹していた御三方からストップが出て解放された。
「……ん? なんでしょう淳兄さん」
ふと視線を感じたのでその方向を見ると、淳兄さんが何やら考え事をするポーズで私を見ている。その理由を聞いてみると、淳兄さんは何やら意味深な笑みを浮かべて「ぃんや? なんでもない。話を戻そう」と返答をし、話を再開させた。
「それにしてもDVか。しかもされたでもしたでもない――して欲しいときた。身内による精神的ショックが原因でDVをするのは良くあるパターンだが、DVを求められるなんて話はあんまり聞かないな。麻紗緋はどうだ?」
「私ィ? ――うん有難い事に無いねェ。身内から家庭内暴力を受けたってェ話は普通に聞くけど、して貰ってたってェ話は聞いた事がない。棗はどうゥ?」
「流石に自分も無いですよ。――そう言えばお姉さんの名前は? うちの高校の生徒なんだろ?」
淳兄さん達が議論中にそう私に聞いてきた二宮棗だったが、残念ながら姉の名前までは聞いてなかった。なので姉の紹介はこの場にいる弟にお願いする。
「姉さんの名前は成神瑠々です」
「! あぁなるほど。確かに六出の言った通り、八條のハ―レムに直近で加わった4組の女子か。……ん? 苗字が違う?」
「それは父が亡くなったので母の姓に。僕は……なんとなくです。なんとなく変えませんでした」
久遠尾々は苦笑いを浮かべる。明らかに変えなかった理由がなんとなくではないねこれは。まぁでも今は二宮棗が気になる。
「詳しいね二宮君? 寝取られかい!」
「違ぇよ!! いや詳しいってか今結構有名人だぞ? 4組の成神瑠々」
「あらあらまあまぁ……え? 知らない聞いた事ない」
一応、有名人だと言う成神瑠々たる人物を思い浮かべてみたけど全くもって該当なし。初めて聞く名前ですと公言すると二宮君は呆れながらも納得――と、言わんばかりの表情を浮かべた。
「だろうな。梨のここ最近の学校生活のほとんどは料理本を読んでるかV〇uberの過去配信見てるか寝てるかだもんな」
「oui。腫物扱い万歳! って奴ですわい。授業中であろうと誰からも咎められないってのはマジ最高」
「いやそんな腫物扱いを降って湧いた恩恵みたいに言うんじゃないよ」
「あらあらまあまぁ、でも私は悪くありません。寧ろ手を挙げても露骨に迷惑そうな顔して無視する教師陣に問題があると思います」
恐らく私が学校という教育機関を舐め腐っている大本の原因はこれなのだろう。授業に出ても教師側が私を無視する。私だけが手を挙げても私を指名しない。現国と英語である音読では私を飛ばす。リレー式で解いていく問題でも私を飛ばす。提出物の返却は基本は四季先生経由で私か、机の上に黙って置くかの2パターン。
まぁでも? 迷惑に感じてるのは確かなんだけれど悪意はないっぽいのよね。授業中に違う事をしていても黙認されているのがその証拠。
「話を戻そう。その成神瑠々って女子生徒はハーレム入りしたから有名になったのかい?」
「それもあるが、どっちかって言うとそれは入口だな」
「あらあらまあまぁ、じゃあ他にも色々あると?」
「――……あった、だな」
「?」
何やら過去形で言われて首を傾げる私。淳兄さん達も私と同じように首を傾げていた。
「DVだよ。成神瑠々は弟から日常的にDVを受けていた可哀そうな被害者だって噂が立ってる」
「! あらあらまあまぁそれって――」
「あぁ。あの女は弟にDVをさせといて被害者面してやがる。多分、八條本人か周囲の連中に身体のどっかしらにある痣を見られたでもしたんじゃないか? それで弟にDVをせがんでるなんてそんな頭のおかしい欲求を隠すために、弟にDVを――じゃなくて、弟からDVを――と、最もらしい言い訳を使った……と、今の俺ならそう見て取れれるね」
「確かに! どう?」
私はこの場でただ一人、正解を知っているであろう久遠尾々にアンサーを求める。ちなみに私は自殺の原因が姉である事しか知りませんので。
「そうですね――半分正解です。ただもう半分は控えさせて下さい。その……まだまだ今日の姉さんの話を飲み込めてないので」
見ているこっちが気持ち辛い。そんな無理矢理な笑みを浮かべた12歳の少年。無理矢理浮かべたその笑みは、どちらかと言うと私達に向けられたものではなく自分に向けているように思えた。
そのせいなのか、そのせいのなかしら――?
「オラッ! お飯にしますわよ!!」
と、少年――久遠尾々が浮かべた無理矢理な笑顔を本物の笑顔に変えるべく、心にお嬢様を宿して高らかに食事の宣言を致しましたの。
ふと、とあるVの卒業配信の切り抜きを見てしまった。そのVの動画は一切見た事なかったのに泣きそうになった。
私、推しの卒業配信をちゃんと泣かずに見れるだろうか? ちゃんと笑顔で送り出せるだろうか・・・




